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2-1:仕事の流儀編

初公開:2020/05/30




・Keyword

マイスター:
1 名人。職人。
2 専門分野のエキスパート。一癖も二癖もある巧みな技術者。












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きのたけカスケード 〜裁きの霊虎<ゴーストタイガー>〜
Episode. “マイスター”

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【オレオ王国 カカオ産地 避暑地】

カカオ産地からチョ湖寄りに進んだところに広がる別荘地帯。
白を基調とした漆喰で塗られたロッジ群の中のとあるコテージに、会議所の“若き技術者”は居た。

明け方頃。少しだけ開けていた窓からそよ風が流れてくる。
その風に流れてカカオの好ましい香りが窓際で眠っている主の鼻孔をくすぐった。
暫くは布団にくるまり惰眠を貪り続けていたが、断続的に風に流れてくるその甘美な匂いに抗うことができず。


きのこ軍兵士Tejas(てはす)は静かに目を覚ました。


暫くは覚醒状態にいたがベッド上で何度か瞬きをすると、それが合図となったかのように、Tejasは弾んだバネのように身体を起き上がらせすぐにベッドから降りた。

そして動きが決まったメイドのように淀みない足取りでキッチンまで赴き、水を入れたコーヒーサイフォンにランプで火を付け、湯を沸かし始めた。

湯が沸騰するまでの間に彼は洗面所へと移動し、きっちりと決まった回数だけ顔を洗うとタオルで顔の水滴を拭い再びキッチンへ戻った。
計ったように丁度沸騰したフラスコを見ながら、今度は決まった分量のコーヒー粉をロートに振りかけフラスコの上にセットした。

そして美味しいコーヒーが出来上がるまでの一分の間に用を足し、再びキッチンへ戻る。
ここまで身体を止めること無く、且つ時間配分にも無駄がなく動き続ける彼は、演台の上で懸命に指揮棒を振る指揮者のように洗練された所作をしていた。

熱々のフラスコからマグカップにコーヒーを注ぎ、仕上げとばかりに自身の好物のチョコをひとかけら入れマドラーでかき混ぜれば、あっという間にホットチョコの完成だ。

栄養の源たる特製コーヒーに口をつけながら窓際に向かった。
そして空気の入れ替えのため窓を開け放ち、同時に外の景色を眺めた。

初夏を迎えた湖畔の街は肌寒さを感じさせず心地よい風が吹きかけてきていた。
内陸沿いに広がる広大なカカオ畑を見ているだけで食欲がそそられる。
Tejasは、近くに置いてあった椅子を窓の傍に引き寄せるとともに腰掛け、暫しその風景を堪能した。
起きてから忙しなかった“マイスター”の初めての休憩だ。

【きのこたけのこ会議所】に属するきのこ軍兵士 Tejasは先日、議長の滝本から許可を取った上で長期休暇を取得し、オレオ王国内のカカオ産地を訪れていた。

カカオ産地はその名の通り、広大なカカオ畑とチョコ精錬所を抱える世界一のチョコ精製地帯である。
だが同時に、会議所地域とオレオ王国を跨ぐように広がるチョ湖のほとりには、ヴィラを含む避暑地もあり、カカオ産地は世界有数のリゾート地としてもその名を馳せていた。

今回、Tejasが羽根を伸ばすために選んだ場所は、チョ湖からほど近い別荘地区だ。
暑過ぎもせず、かといって冷え込むこともなく、適度に風当たりの良い好みの土地だった。

コーヒーを飲み終えると余韻に浸る暇もなくTejasは立ち上がり、扉の前のポストをあさり別荘宅に投函されたチラシ類を確認し始めた。
“マイスター”はあらゆる時間を無駄にはしない。
全ての所作が時間通りで且つ流暢だ。

Tejas「さて、と。今日はどんな便りが来ているかな。
なになに?『オレオ王国とカキシード公国の関係、さらなる悪化』…ああ、これは新聞か」

新聞は読まない。情報は全て自分の目と足で確かめる主義だ。
内容を確認しないまま、Tejasは不要な新聞をあっさりと暖炉に放り込んだ。

Tejas「そろそろ休暇も終わりか?前の別荘もなかなか良かったけど、ここも住心地だけなら三本の指に入るな」

胸ポケットに入っている手帳を取り出し、残りの日程を確認する。
まだ休暇の終わりまで一週間あるが、会議所への帰還を考えると数日以内にはこの別荘を後にしなくてはいけない。
楽しい休日も終わりか、と一人嘆息した。

この休暇中、Tejasは数々の観光地を転々とした。一つの拠点に滞在せず、気ままに赴く場所を決めた。
自由人でありながら一方で凝り性であることは自覚しているので、部屋を選ぶ際には必ずベッドの傍に窓が付いている角部屋にする。

選んだ宿には何泊かし、ある日思い立ったら旅立つ。その繰り返しだ。
そのため決まった日数は泊まらない。ただ、宿泊時にまとまった金を店主に渡すため、店主から見れば、こちらは若者ながら気前のいい上客に違いなかった。

Tejas「そろそろ“仕事”の準備をするか」

左手で封を開けた板チョコを手に持ちながら、Tejasはベッドの下に置いていた工具箱を引きずり出し、器用にも片手で必要な工具だけを取り出し、自らのポーチに詰め込んだ。
ここ数日でこの街の“傾向”はある程度掴んだ。用意しておく工具はそれ程無く、今回も楽な“仕事”となりそうだ。

Tejas「それでは行ってくる」

誰に言うわけでもない。家から出る際の挨拶は“仕事”に出かける際の流儀だ。
“マイスター”はこうした何気ない所作にも無駄がない。



【オレオ王国 カカオ産地 避暑地 中心街】

白の外壁で彩られたモダンな邸宅街は、見る者に開放感と心を広々とさせてくれる。
湖へ続く中心街を歩きながら、Tejasは道の左右にそびえ立っている邸宅に次から次へと目を向けていた。
“仕事”のための物件選びだ。

―― あの家はダメだ。豪邸なので大層な裕福な実業家あたりが住んでいるだろうから期待できるが、如何せん開放的すぎる。
きっと家主が自由奔放と大雑把をいっしょくたにした人間だろうから、粗がある作りだろう。楽しめない。

とりわけ大きい屋敷を素通りしながら、Tejasはキビキビと歩く。

それにしても今日は出歩く人が特に少ない。日が経つに連れ、外出する人が減っているのはどうしたことだろうか。
同じ時間帯でも、昨日までならもう少し人は多かったはずなのに。
カツカツと歩く自らの靴音がこころなしかよく響く気がした。

―― あの商店の倉庫もダメだな。大通りに面しすぎている。こんなに分かりやすい場所に置いているということは隠しものなんてないし期待できない。

左手でチョコをかじり、景気の良さそうな土産店も素通りしながら歩を進める。


ただ、別に人が少なかろうと多かろうと、Tejasにとって些細な問題ではない。
“仕事”をする上で人目は真っ先に気にしなければいけない問題ではあるが、その事象に気を取られすぎては本来ある“宝物”も取り逃してしまう。
リスクはある程度許容しなくてはいけないのだ。

ただ、ここまで人通りが少ないと“仕事”とは関係なく少し心配になった。
まるで、目の前の光景が、何か“厄災”が迫っていてそれに呼応するように姿を消すネズミと被る不気味さがある。

大通り沿いの建物は一通り物色し終わり、TejasはT字の交差点の外れから一本伸びている裏路地を見つけた。
ただでさえ人通りの少ない大通りから外れたその裏路地は、朽ちた倉庫の一角が路地全体に広がっているように陽にも当たらず、カビが自生できる程の湿っぽさだった。

観光客であればまず踏み入れることはないし、道の狭さから、地元民でも目に映らず知らずのうちに通り過ぎている者が大半だろう。
心の中で舌なめずりをしながらTejasは足を踏み入れ、そして予想通り、すぐに丁度いい“物件”を見つけた。

裏路地に入ってすぐ左手にある二階建ての建屋だ。
この建屋だけ路地から地下に階段が続いており、恐らく地下室への扉がある。
さしずめ表通りに面していれば肉屋かチョコ屋か、いずれかの商店の地下倉庫だろう。

自分の中でのレコードタイムの更新だ。
小躍りしたくなる気持ちをぐっと抑えたが口元のニヤつきは抑えられなかった。



いつもは“物件”の選定に時間がかかる。

それは、Tejasという人間が向上心の塊であるからに他ならない。

Tejasは同じ条件の“仕事”を二度と行わない。

そのため、次々と趣向を変え自分に条件を課し“仕事”の難易度を上げていくのだ。
運が悪い時には町中を一日中歩き回り、そのまま宿に引き上げる時もある。

彼の強い拘りが彼自身を縛り上げていく中で、こんなにも早く“仕事”にありつけるとは、きっと日頃の行いが良いからに違いない。
Tejasはひとりでに何度か頷き自らの善行を顧みた。


Tejasが目の前の物件に惹かれた理由は二つある。

一つはやけに地下扉の錠が頑丈だということだ。
通常、こうした建屋では鍵をかけても錠前は一つか、多くても二つだ。しかし、この建屋の錠前はなんと三つも付いている。そ
れに扉に付いている鍵穴も合わせると計四つのプロテクトがかかっている。明らかに異常だ。
余程、中にお宝でもしまい込んでいるか、“外に出してはいけない物でもあるか”。そのどちらかでしかない。

二つ目の理由としては、この建物だけ周りの建屋よりもみすぼらしく“浮いた”外見だったということだ。

ここ数日の物色の成果だが、この付近の商人の羽振りは大層良い。
会議所地域にも観光地帯は点在しているが、どれも此処と同じように小洒落てはいない。良く言えば風情があり、悪くいえば田舎臭い風光明媚の良い地域ばかりだ。
“チョコ革命”により資源としてのチョコの価値が高まった今、カカオ産地自体の価値も他の地域とは一線を画す。当然、工業地域だけではなくその傍にある観光地域も潤う。当然の摂理だ。

人々の懐が暖まれば生活は豊かになる。
その次に、人は何を考えるか?
Tejasは少ない経験則ながら知っている。

豊かになった人間は次第に、周りに対し見栄を張り始めるのだ。
特に周りも同じ水準で優雅な暮らしを始めれば、自分はより贅沢であると虚勢を張りたくなる。
それがこの路地裏にも如実に表れている。

Tejasはしげしげと人通りが皆無な路地裏を見渡した。

この路地は、あまりにキレイすぎるのだ。
ゴミも食べかけのガムも特に落ちていないし、野良猫も蜘蛛もいなければ、飲んだくれの親父も瓶を抱きながら辺りで寝転げてはいない。

表通りで見栄を張った人々は、次は路地裏にも気を使い始めたのだ。
路地裏にもたっぷりとペンキを塗りたくり、地面にこびりついたガムを引っ剥がし清掃し、不潔な生物が自分の家に背をもたれかけて寝ていないか目を光らせる。
誰も気にしていないというのに、自身の虚栄心がそうさせるのだ。

その中で、目の前の物件だけはみすぼらしい建屋を“維持している”。
店主は路地裏に気を回すほどの富裕層ではないか、さもなくか相当なケチらしい。
どちらにせよ、Tejasはこうした汚らしい建物のほうが周りの建物より余程好きだった。

Tejas「始めますかね。今日は記録が狙えそうだ」

さっと辺りを見渡すと、Tejasは躊躇いもなくその建屋の階段を降り半段下がった位置にある地下扉の前に立った。

扉に取り付けられギュウギュウ詰めになった錠前たちを手に取り眺める。
最新の型式のものが一つ、残りは古い型式のメーカー違いのもので固められている。

やはり店主はどケチなだけだな、とTejasは一人クツクツと笑った。



ポーチから必要な工具を取り出した。
“仕事”の開始だ。

同時にTejasは鼻歌で“イン・ザ・マッチャー”を歌い始めた。
最近、会議所に居た時に作り終えたばかりの吹奏楽曲で、初演奏をする前に外に出てきてしまったが、これまで作った曲よりも完成度は高い。
たけのこ軍兵士抹茶の名を曲名に入れて入るが、これは曲名に困ったから入れただけで特に意味はない。

Tejas「今回は楽しませてくれよ?」

ただ鍵を開けるだけでは何の面白みもない。
自ら研鑽しレベルアップを図るため、Tejasはいつも“仕事”に条件を課す。

最近であれば片手で鍵の解錠作業を、もう片手でエアトランペットを吹き、時間内に“仕事”を終えるというものだ。
時間内に終わらなければたとえ作業の途中でもあっても潔く諦める。
こうして緊迫感のある状況を自ら演出し、手先の器用さを磨いてくのだ。


―― ウォーキングベース(歩くような速さで)。


“イン・ザ・マッチャー”はアップテンポの小気味いい曲で、演奏時間は3分にも満たない。

錠前が3つもあるため比較的難易度は高めだ。
腕が鳴るとばかりに、目の前の錠前の鍵穴に、Tejasは左手で細く尖った工具を勢いよく刺した。


―― クレッシェンド(だんだん強く)。


鍵穴の中の工具を慎重に、そして高速で回していく。
同時に、右手はトランペットのピストンを抑えるように指をこまめに動かす。
最初の30秒でカチリという音とともに、新しい錠前はあっという間に外れた。


――フォルティシモ(とても強く)。


曲調にあわせて、Tejasの両手の動きは苛烈さを増していく。
古い錠前には目もくれず左手で工具を差し込むと、素早い所作で錠前を外していく。
右手の動きも絶好調だ。


Tejasは“仕事”中に、自らの手先の感覚を大事にしたい鍵の方を見ることを決してしない。

この“仕事”は【きのこたけのこ大戦】以上にゲーム性が高い。

【大戦】はきのこ軍勝利のために個を殺した団体戦となる場合も往々にして多いが、いま取り掛かっている“仕事”は完全な個人技だ。

自らを信用し信頼しない限り勝利はあり得ない。
また、誰かに見つけられるだけでも終わりだ。常に敗北のリスクは隣り合わせの状況にいる。

Tejasは常に自らの感覚を研ぎ澄ませるこの“仕事”を、【大戦】と同じくらい愛していた。


―― モデラート(中くらいの速さで)。


2分30秒。

全ての錠前を外し終わり扉の鍵穴を突破するまでに思いの外時間はかからなかった。
しかし曲も終盤に差し掛かっていたため、敢えてTejasは扉を開けず、“イン・ザ・マッチャー”を最後まで“奏で終えた”。


―― ダカーポ(始めに戻る)。


演奏後の余韻に浸りながら、左手でさっと工具を仕舞い。
そして演奏後の聴衆の拍手に応えるように、Tejasはエアトランペットで吹き終えた右手を静かに下げた。






きのこ軍兵士Tejas。




彼は自らの研鑽を理由に、ピッキングを趣味としている、困った“マイスター”だった。





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