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2-2:相棒の出会い編

初公開:2020/06/13


Tejas「さて、どんなお宝が眠っているのかな」

鍵を解除しても“仕事”はまだ終わらない。
厳重に管理された部屋の中に眠る“お宝”を確認するこの瞬間が至福のひと時だ。
逸る気持ちを抑え、革手袋をはめた手でゆっくりと鉄扉を開けた。

室内は路地裏よりも一層暗い空間が広がっていた。
室内は広さがあるのか、外の光が差し込んでも奥にまで光が通らず、室内を見渡すことができない。

一歩、足を踏み入れてすぐに顔には蜘蛛の巣が付いた。幸先が悪い。

Tejas「これは大層な歓迎だな…」

顔を歪めたTejasはハンカチで急ぎ顔を拭った。
蜘蛛の巣を顔につけたことよりも予定外の行動が発生したことに苛立ちを感じた。

光が差し込んでいる室内には、目に見えて埃が舞っている。
下唇にもじとりした湿り気を感じることから、湿度も不自然に高い。
どうやら長年手入れがされていない部屋のようだ。

Tejas「しかし、なんでこんな部屋に頑丈に鍵をかけたんだ?」

すると、部屋の奥からガタンという物音がきこえてきた。
音の大きさと鈍さから、木箱に何か物が落ちた時のような音だ。
続いて、ズリズリと地面を這うような微かな雑音もきこえてくる。生物の存在を予感させた。

Tejas「おいおい。ドブネズミがお宝でした、なんてことはないよな?」

歩みを進めながら、手慣れた動作でポーチから小型のランタンを取り出すと、目線の高さまでかざし火を付けた。

Tejas「…なんだ?」

灯りは部屋の壁際までほのかに照らし、地面に横たわる“とある”動物を捉えた
最初は布袋かと思ったが、規則的に上下する様子を見て生命の息吹なのだとTejasは確信した。

Tejas「…犬?」

灯りに照らされた動物はビクリと身体を震わせ、身体に埋めていた顔をこちらに向けた。

動物の正体は小型犬よりもうひと回り小型の犬だった。
元は白くふさふさとした毛並みだったのだろう。
外見は薄黒く汚れ、大きく垂れた両耳は疲れからか、さらに垂れ下がっているように見える。

小型のテリアは壁際の棚にロープで縛られており、その様子から少なくともこの地下室で飼われているわけではないことだけは確認できた。

「誰だお前は。こそ泥か?」

Tejas「うおッ、喋ったッ!?」

白い犬はキャンキャン吠えることなく、ドスのきいた声で問いかけた。
Tejasが声の主を目の前のテリアと疑わなかったのは、彼が犬にしては不自然なまで落ち着きを払っており、かつ冷静な視線でTejasの目を射抜いていたからである。

「質問に答えろッ」

催促するようにテリアは再度尋ねた。面食らっていたTejasは途端に意識を戻し、その弾みでランタンを持った手を下げた。
目の前にかざされた眩い光に小型犬は思わず顔をしかめた。

Tejas「ああ、明るすぎたなッ。すまんすまん。
あー、質問の答えだが。俺は泥棒ではない。“仕事”で此処に来た」

「仕事?…もしかしてお前、【教団】の人間か?」

Tejas「教…団?なんのことだ」

聞き慣れない言葉にTejasは思わず聞き返した。



キョトンとした顔のTejasを見て、犬は暫く黙り込んでいたが、しばらくするとおもむろに口を開いた。

「丁度いい。おれも“仕事”の途中だったんだ。ここから出してくれないか、礼はするぜ」

後ろ足を縛られ地面にうつ伏せになっている姿とは思えない程の尊大な態度だな、とTejasは半ば感心した。

Tejas「それはいいが、俺は君のことを何も知らない。連れ出すにしても互いに自己紹介ぐらいはしないか?俺の名はTejas、きのこ軍兵士だ」

Tejasは屈み、静かに右手を犬の前に差し出した。犬はまたも暫く考え込み、眉をひそめながらもぶっきらぼうに答えた。

「おれの名はオリバーだ。よろしくな、こそ泥さん」

オリバーは右の前足で差し出された手のひらをポンと軽く叩いた。

Tejas「それで、此処から出てもアテはあるのか?」

オリバー「…あんた、おれのことを何も聞かないんだな」

Tejas「人は誰しも秘密を持っている。この俺にだって秘密はある。
ああ、お前は人じゃあなかったか?まあ、でもみんな同じさ。
話したい時に話せばいい」

Tejasは言葉を切り、部屋を見渡した。彼の“仕事”はまだ終わっていない。
地下室内は殺風景で、棚が幾つも置かれて入るもののまともな物は無かった。
金目の物があろうがなかろうが彼には一切関知しないことではあるが、侵入した部屋はいつも一通り見回すのが“仕事”の流儀だ。

Tejas「まあこれでいいか」

壁際の棚に置かれていた1m程度のロープを手に取ると、Tejasはポーチの口を開けしまい込んだ。
室内に侵入したら部屋にあるガラクタを一つだけ貰うのが“仕事”の決まりだ。
戦利品は価値がなければないほど良い。誰も気が付かずに済むからだ。

オリバー「変わったこそ泥だな、あんた」

目の前で“こそ泥”の行動を眺めていたオリバーは呆れたとばかりに嘆息した。

Tejas「さっきも言ったが、こそ泥じゃない。その縄を解いてやらないぜ?」

オリバーは途端につぶらな瞳で助けてとばかりに上目遣いで見つめた。
調子のいい犬だ、と今度はTejasの呆れる番だった。

まあいいか、とつぶやいたTejasはポーチから小型ナイフを取り出した。
そして左手に持ちかえ器用に縄を解いていく様を、オリバーはじっと観察するように見つめていた。

Tejas「よっと。これで縄は解けたぜ」

オリバーは両足と首を回し自由を噛み締めた。
飛び跳ねもせずに喜びも表さないその態度は下手な人間よりも人間らしい。

オリバー「ありがとうな。それで、恩人様にこんな聞き方は失礼かもしれないが。あんたは一体何者なんだ?」

不躾な質問にTejasは思わず吹き出してしまった。

Tejas「それを答えるには場所を変えないか?ここは湿気が高すぎる」

それもそうだ、とばかりにオリバーは両耳をぺたんと身体に付け、目の前の恩人の意見に同調した。



【オレオ王国 カカオ産地 Tejasの別荘】

シャワー室から姿を現したオリバーは、見違えるように毛並みがよくなった。
彼は、彼のために地面に敷かれたタオルケットに身を投げるとゴロゴロと転がり身体についた水滴を拭いた。
そしてそれが終わると、タオルの隣に置かれていた牛乳瓶を左の前足で掴むと、もう片方の前足で器用に瓶の蓋を開けミルクを飲み始めた。

その様子はさながら風呂上がりの一服といったところだ。
犬ながらその行動は人間臭い。

オリバー「助けてもらっただけじゃなく、シャワーまで提供してくれるなんてありがたい限りだぜ」

Tejas「気にするなよ。一人よりも二人のほうが楽しいからな」

床の上でカチャカチャと一人で機械をいじるTejasを尻目に、オリバーはフカフカのベッドにダイブし、眼前の羽毛布団の柔らかさを堪能した。

オリバー「機械いじりが趣味なのか?」

Tejas「昔から好きなんだ。手先を動かしてないと我慢できない性質でさ」

オリバー「なるほど。だから日常的に街に繰り出しては空き巣業に勤しむと。そういうわけだな?」

Tejasは手を止め、漂白された布団から興味深そうに顔をのぞかせている純白のオリバーと目を合わせた。

Tejas「決して泥棒が本分じゃない。侵入する前の鍵が大事なんだ。分かるか?」

オリバーは肩をすくめるように両耳を上げ、“さっぱりだ”と返答した。

Tejas「鍵がかかっている宝箱は誰だって開けたくなるだろう?俺は目の前の課題に全力で取り組む性質<たち>でさ。
昔は目の前の機械いじりだけだった。だけど、子供の頃、興味本位でとある事件に首を突っ込んで大事故を貰ったことがあってさ。
それで気がついたんだ。“人間はやはりスリルと隣合わせでないと真価を発揮できない”ってな」

オリバー「あんた、イカれてるな」

二人は笑いあった。

Tejas「こうして休みを貰っては、機械弄りと“仕事”を趣味にしている。
人生はゲームのようなものだよ。
一戦一戦を大事に、真剣に“遊ぶ”。
そこで今日選んだ家が、たまたまオリバーのいた地下室だったということさ」

オリバー「そういうことか。ちなみに、これまでに今日みたいに特大の“宝物”を見つけた経験は?」

今度はTejasが肩をすくめる番だった。オリバーは再び笑った。

オリバー「そんな大事な話を突然出会った犬ころに話してもいいのかよ?」

Tejas「構わないさ。まずお前はただの“犬ころ”だから、周りに話したところで俄には信じてもらえない。
それに、お前自身は“何らかの理由”があって捕えられているぐらいだから容易に外は出歩けないだろう?」

存外に洞察力の鋭い若者だとオリバーは感じた。

オリバー「俺は甘いものが大好きでな。数日前もチョコの匂いにつられてこの街に来たのさ」

Tejas「理由を話してくれるのか?」

オリバー「あんた一人だけが話すのはフェアじゃないからな。貰った恩はなるべく早くチャラにしたい主義なのさ、おれは」

オリバーの意志の籠もった目を見て、Tejasは手にしていた機械を放り投げ、近くの家具にもたれかかった。

オリバー「おれもこの国でとある“仕事”をやっていてな。ある程度の目処がついたから帰ろうとしていたんだ。そうしたら、その途中にちょいと小腹が空いてさ」

わかるだろ?とでも言いたげなオリバーの顔を見て、Tejasは呆れたとばかりに溜息を付いた。
そして、やはり今日選定した家主の親父はケチだったという結論も同時に得た。
空き巣に食い逃げ。これではまともなパーティではない。


Tejas「それでチョコを盗み食いしていたら親父にバレて地下室にぶち込まれていたと。良かったな、保健所に引き渡される前で」

オリバー「おれは犬じゃない。もっと崇高な存在だ。あんまり舐めると恩人のあんたにも噛み付くぜ」

崇高な存在は盗み食いなんてしないだろう、とTejasは心の中でツッコミを入れた。

Tejas「そんなに腹が減っていたのか?そもそも金が無かったのか」

オリバー「両方だな。何日も飯を食っていなかったし、資金は“仕事”で使っちまってさ」

Tejas「仕事ってのはまさか賭け事じゃあないよな?」

先程と同じく、オリバーは肩をすくめるように両耳を上げた。
Tejasには目の前の犬が近所で管を巻く親父とそっくりに見えてきた。
とんでもない珍客を招いてしまったのかもしれない。

Tejas「まあいいや。それで、もう戻るのか?」

オリバー「そうしたいところだが、風呂にも入り腹も膨れたし少し休んでいくことにする。
久々に羽毛布団の感触も味わっていたいしな。ありがとうな、恩人様よ」

Tejasの返事も待たず、小憎たらしい珍客はそのまま布団の上で身体を丸め、スヤスヤと寝始めた。
神経の図太さだけは今までに会ったどの人間よりも太いなと感心しつつ、自らも軽い眠気に襲われたTejasはオリバーの隣に向かいその身を投げた。

ありえないことに順応している自分も十分神経が太いのかもしれない。
そう思い至った頃には、Tejasもすでに夢の中に居たのだった。


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