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2-3:開戦編

初公開:2020/07/04


【オレオ王国 カカオ産地 Tejasの別荘】

オリバー「いやあ。雨だねえ」

Tejas「心なしか嬉しそうだな?」

オリバー「こんな天気を見るのは初めてでな」

オリバーは窓の縁に足をかけ頭だけを出し外を眺めていた。
白を基調とした美しい町並みは朝靄(もや)に隠れ、地面に叩きつけられる雨音を聴かなければ雨模様だとわからないほどに幻想的な雰囲気を演出していた。

眼前にまで迫る靄の匂いを嗅ごうとオリバーはしきりに鼻をひくつかせたが、彼の鼻腔には地面から上がってくる雨特有のスレた臭いと微かに漂う土煙の粒しか届かなかった。
オリバーは途端に靄に漂う雨空が嫌いになった。

対してTejasは、雨が好きだ。
“仕事”を行う上では人数がめっきり減る雨模様の方が気持ちとしては楽だし人数も減るので物件の吟味には絶好の機会となるからだ。
雨の臭いも嫌いではない。雨が降ることで地面に吸着している油分が蒸発してくることで発生するペトリコールというこの臭いを嗅ぐことで、寝起きのぼんやりとした意識が鮮明になり、
早朝の一杯のコーヒーよりもTejasにとっては意識覚醒のための起爆剤となるのだ。
案の定、今朝のTejasの気分は爽快そのものだった。


昨日は二人とも眠りこけてしまい、お互いに自然と目を覚ました時には、外は墨のように黒々としていた。
ベッドからムクリと身を起こしたオリバーを何処かへ旅立つのかと思ったTejasだったが、彼は寝ぼけ眼をこすると開口一番『腹が減っては旅も出来ぬ』と言葉を発し、図々しくも夕飯を要求してきた。

仕方なく夕飯を作り食事をともにすれば、満腹になった腹をさすり『もう遅いから帰るのは明日にする』と言い出し、結局奇妙な珍客を泊めるハメになったのだった。
一瞬、Tejasはたちの悪い浮浪者を泊めたバツの悪い気分になった。

しかし、話をしている内に二人はすぐに意気投合し、時間を忘れ夜遅くまで語り合った。
Tejasは幼少期の思い出や自らの趣味にしている機械弄りに対して熱い思いを語り、オリバーはオリバーでTejasの話に耳を傾けつつも、ここ最近で旅をしたオレオ王国内の様子を話した。

互いに自らの出自については話さなかったし深く聞きもしなかった。
オリバーは自らの出自を明かせない理由がありTejasに話を振れば必ず自分にもその質問が返ってくることを恐れた。
対してTejasはオリバーがこの手の話題を避けていることを機敏に感じ取り敢えて聞き出すことをせず、少しもどかしく感じた。
ただ、ここまで相手と話し込んだのは子供の時に悪友たちと戯れていた以来久々の出来事であり、
一匹狼のきらいがあったTejasは窓の縁に足をかけ尻尾を振るオリバーを見ながら、静かに口元をほころばせたのだった。

Tejas「今日の旅立たない理由は『雨が降れば旅も出来ぬ』か?」

オリバー「惜しいな。正しくは『足元が滑って転ぶのも嫌だから旅は明日』だぜ」

Tejasのつくったホットケーキの匂いにつられ、自らの足元で尻尾を振るオリバーを見ると、本当にその辺りにいる小動物と変わらない。

ホットケーキを載せた皿をオリバーに渡すと、Tejasは別荘宅に投函されたチラシを確認し始めた。
“マイスター”はあらゆる時間を無駄にはしない。全ての所作が時間通りで且つ流暢だ。


Tejas「『会談から五日経過。両国悪化の事態、未だに打開せず。』なんだ、これは新聞か…」

新聞を暖炉に投げ捨てる。
情報は自らの足と耳で稼ぐスタイルだ。

途端に、背後で勢いよく椅子が倒れる音がした。

口に咥えていたホットケーキを落とし、オリバーはTejasの言葉に唖然とした面持ちだった。

オリバー「なんてことだ、おれとしたことが…もうあの日から五日経っていたのかッ!」

Tejasは眉をひそめた。

Tejas「何の話をしている?」

オリバー「ばかッ!話は後だッ!とりあえず逃げるぞッ!すぐにここを出ないと、大変なことに――」




ドカンッ。



心臓が跳ねるほどに爆音が響き、オリバーの言葉はたちまちかき消された。
音の大きさから比較的近くで炸裂したに違いない。
一度の爆発音だけなら程遠くないチョコ精練工場の火災と考えることもできるが、最初の爆発音の後に何度も続く爆発音に風を切る砲弾の落下音。

これらの状況は【きのこたけのこ大戦】で嫌というほど覚えがある。
この音は重火器の弾着音だ。いま、カカオ産地は何者かに攻撃されていることをTejasの脳が警告していた。


Tejas「伏せろッ!」

咄嗟に軍人としての本分の出たTejasはオリバーの首根っこを掴み、急ぎ壁際に身を寄せた。
オリバーを抱えTejasは身を縮こませ次の砲撃に備えていた。
思えば【大戦】でも、Tejasが前線兵として参加するといつもたけのこ軍からは土砂降りのような集中砲火を食らっていた。
それに比べれば先程の爆撃は散発的だが、非武装地帯に火の手が上がったことへの衝撃は図り知れない。

いつの間にか爆撃が止んでいたのか、辺りは先ほどと同じように途端に静寂に包まれた。
窓から外の様子を眺めたい気持ちをぐっとこらえ、Tejasたちはひたすら耐えていた。

硝煙の匂いが窓から伝わってきた頃、外から大勢の足音が近づいてきた。
大勢の人間の走る音は所狭しと並んでいる建物間で反響しあい異常な焦燥感を演出していた。

Tejas「随分と響く足音だな。これは軍靴か?おいおい、今日は軍事訓練の日だったか?」

ポツリと呟いた言葉に、オリバーが顔をしかめた。

オリバー「冗談を言うんじゃねえ、これはカキシード公国軍だよ。戦争が始まったんだッ。全くツイてねえ」

Tejas「戦争?ああ、前に滝さんがチラッと言っていた王国と公国の小競り合いってヤツか。すっかり忘れてたッ」

今回の休暇を取得する際に、滝本から『最近は王国と公国の関係が悪化しているので、何かあった際には自分で自分の身を守ってくださいね』とお節介事を言われたことを今頃になって思い出した。

直後にまたも爆発音が響き渡ったため、オリバーは隣りの若者に向けて怒号に近い程の声を張り上げなくてはいけなかった。

オリバー「滝…もしかして、滝本スヅンショタンかッ!?あんた、会議所出身だったのかッ!?」

Tejas「ああ、そうだよ。言ってなかったっけ?きのこ軍兵だと」

キョトンとした顔のTejasに、今度こそ正真正銘オリバーは怒った。

オリバー「それだけじゃあ会議所兵だとはわからねえよッ!世界にきのこ軍兵なんてごまんといるんだッ!
畜生、なんてこったッ!色々と奇跡が起きてらあ。というか、会議所兵でいてこの騒乱を知らないとかモグリか!?ッ」

爆発音は止み散発的な銃声が響くようになった。
外の様子は分からず、威嚇発泡か精密射撃のどちらなのかはわからない。

Tejas「丁度、長期休暇に入ったからな。それに、新聞は読まない主義なんだ」

頃合いだな。そう呟くと、抱いていた手を離しオリバーを地面に置き、Tejasはベッドの下をゴソゴソと探ると、“仕事”に使う工具箱から最低限の物とポーチを取り出した。

Tejas「俺は逃げる。掴まるのは面倒だし御免だからな。オリバー、お前はどうする?」

オリバーは少し迷いの表情を見せたが、すぐにキッとした目でTejasを睨んだ。

オリバー「…おれもいまここで捕まり顔を知られるのは得策じゃない。あんたと同行させてもらう。会議所へ帰るんだろう?」

Tejasはその言葉に一度だけ頷くと、オリバーに向かいポーチの口を指差した。中に入れという指示に、オリバーは急ぎポーチの中に収まった。
収まったといっても、流石に身体は全て入り切らなかったため胸から上は顔を出したままだ。

Tejas「さて、では…いきますかッ!」

宿代を先払いにしておいてよかった。
場違いな感想を抱くと、Tejasはすぐさま立ち上がり出口まで駆けた。



【オレオ王国 カカオ産地 別荘地域】

Tejasが邸宅の扉を開け放ったとき、タイミングが悪いことに階下の通りにいた二人組の公国兵と鉢合わせしてしまった。

「手を上げろッ!動くと容赦なく撃つぞッ!」

オリバーは敵に姿を見られまいとすぐに顔をポーチの中に隠したが、すぐにそろりと顔だけを出し改めて状況を確認した。

二人組のうち一人は公国のトレードマークでもある漆黒の鎧を纏い、手にしているチョコマシンガンの銃口をこちらに向けている。
背後の気弱そうなもう一人の兵士は、これもまた公国のトレードマークでもある白い魔法ローブを身にまとい、ブカブカの袖の中に構える杖を僅かにこちらに覗かせている。

これまでの公国兵には彼のような魔法使いしかいなかった。公国はその土地柄、魔法使いの数こそ非常に多かったが工業化が遅れていたのだ。
しかし、近年では公国内で急速に銃火器の配備が進み、近接戦闘にも長けた前線兵を多く配備できるようになった事実は、意外と他国には知られていない。
オリバーはその一端を垣間見た気になった。

対してTejasは銃口を向けられても怖気ず、かえって涼しい顔を浮かべ扉の前に寄りかかった。

「聞こえなかったのか!手を上げろと言ったんだッ!」

「最終通告だッ!次は撃つッ!」

二人組の兵は怒鳴り、銃口と杖先を改めてこちらに向けた。

ポーチの中のオリバーはふと横から伸びるTejasの右手を見た。
オリバーと同じ目線の高さに構えられたその右手には、いつ手にしたのかくすんだ色のロープを手にしていた。

オリバーはそのロープに見覚えがあった。昨日、捕えられていた地下室に無造作に転がっていた物品で、彼いわく“戦利品”だ。

Tejas「手荒なマネになるが、許してくれよなッ!」

Tejasは勢いよく右手を振り上げた。手にしていたロープが連動して宙に舞い、蛇のように一人の兵士に巻き付いた。

二人組の兵士は途端に激昂した。

もう駄目だ。顔を引っ込め銃撃を避けようとした瞬間――

「ふざけるなッ!撃て…ああああああああッ!」


途端にオリバーの目の前で不思議な光景が起こった。

ロープに軽く巻きつけられた鎧の兵士は、きつく縛られたわけでもないのに、途端に頭を抑え悶絶し始め、暫くすると泡を吹いて倒れてしまった。

唖然としたオリバーとローブの兵士だったが、我に返ったのは敵のほうが僅かばかし早かった。

「き、貴様ァ!くらえ――あああああああああッ!」

すかさずTejasの右手はしなやかに動き、残りの兵士にもロープを巻きつけた。すると、先程と同じように兵士は叫び声を上げた後に、白目を向いて倒れてしまった。

Tejas「よし、裏に回れば移動手段がある。急ぐぞッ!」

パンパンと手を叩くと、何事も無かったとばかりにTejasはオリバーに声をかけた。

オリバー「待て待て待てッ!いまなにが起こったんだッ!なんで兵士たちが倒れたんだッ!」

オリバーの問いに、Tejasは悪戯っ子のようにニヤリと笑った。


Tejas「あれ、言わなかったか?俺は“特異”な人間なんだ」




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