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2-6:相棒編

初公開:2020/07/25


扉の奥は先程までの洞窟内と同じく漆黒の闇が続いていたが、その趣は少々異なっていた。
一歩足を踏み入れた瞬間に、Tejasの耳にはヒューという風切り音とともに背後から外気の流れ込みを肌で感じ取った。
外は蒸し暑い初夏だというのに、軽く鳥肌が立つほどに中の空気は冷えきっていた。

Tejasは試しに足元にあった石ころを蹴飛ばしてみると、石はカン、カンと大きな反響音を鳴らしながら闇の中に消えていった。
地面に鉄板が敷かれていることもあってか音はよく響き、反響具合からもこの“室内”は相当広大なスペースであることは容易に想像できた。
まるで巨大な冷蔵庫に迷い込んだのではないかと一瞬勘違いしたほどだ。

後から続いてきたオリバーを追い越すように、火の玉は慌てたようにTejasの周りをぐるぐると浮遊し辺りを照らした。
すると、先程の土の壁はすっかりと鳴りを潜め、二人の眼前には規則正しく何本も並ぶ鋼鉄の柱が現れた。

Tejas「なんだここは…?倉庫か何かか?」

正確には保冷機能付きの巨大倉庫ではないかと突拍子のない想像をしたが、口にするのは流石に憚られた。

オリバー「…武器庫だよ」

Tejas「武器庫?」

さらに突拍子のない返事に眉を潜めTejasは振り返った。オリバーは顎をクイと突き出しつつ、口を真一文字に結びながら答えようとはしなかった。
どうやら“先に進め”ということらしい。

Tejas「これで“お宝”が大したことなかったら俺は泣くぞ」

火の玉に先導をしてもらいながら、鋼鉄の壁伝いにTejasたちは歩き始めたがその旅路はすぐに終わりを迎えることになった。
歩いて暫くすると鋼鉄の壁が唐突に消え恐らくは開けた広間に出た。
その直後、一行の目の前を“見えない壁”が立ち阻んだためである。



Tejas「これは、ガラスか?」

行く手を遮る、壁と思しき物は目を奪うほどの透明さで透き通っており、火の玉の明かりを難なく透過し壁の向こう側へ光を届けていた。その透明度は今まで見たどのガラスよりも澄んで見えた。
事実、Tejasは壁に間近まで近づき、ようやく僅かな明かりの反射でその存在に気づける程だった。先を進んでいた火の玉が後続の二人に合図を送っていなければ、間違いなく壁に気づかず激突していただろう。

壁に近づいたことで、Tejasはさらに一つの新事実を発見した。
眼前の壁が冷気を発していたのである。僅かに冷気を放つ程度ではなく、水滴が凍った白煙がモクモクと湧き出る程に、透明な壁はこの広大な部屋を冷やしきっていた。

Tejas「なんだこれはッ…!?」

試しにTejasは指の関節でコンコンと壁を叩いてみた。
鈍い音すら響かない。想像以上に質量を持った物体であることが想像できた。

さらに火の玉がTejasの頭上を浮遊すると壁の正体が少しずつ見えてきた。
Tejasの首が傾けなくなるまで高さを保ったそれは、最上部近くになると綺麗に保っていた平面から少し角張り始め、最上部では鋭利な突起部を見せ、
それを境に数m程度進んだ反対の奥行き部と対称になっているようだった。

それならば、と今度は火の玉は左方向へ捜索を始めたがこれが容易ではなかった。
数十m程度火の玉が移動しても終わりが見えてこないのである。右方向も同様で、終いには火の玉も捜索を諦め再びTejasたちの下に戻ってきてしまった。
ただ、左右方向はいまTejasたちが見ている形状からは大分異なり、複雑な立体構造がちらりと垣間見えた。

眼前の壁は、数十m以上の左右に伸びた巨大な透明な結晶という表現が近かった。
冷気を発しているのであれば、巨大な氷菓アイスとでも言うべきか。

Tejas「おい、オリバー。見てみろよ、これは――」

Tejasは言葉を切った。否、口を噤まざるをえなかった。
不思議に思うべきだった。ここまで奇天烈な出来事があるのに、背後にいたオリバーから物音一つ発せられていなかったのだ。
目の前の神秘に気を取られていたTejas自身の落ち度だが、反省する時間は与えられなかった。





―― ガチャリ。



背筋を凍らせるには十分な無機質な撃鉄を起こす音が背後で鳴った。
Tejasがすぐさま振り返ると、宙に浮いたオリバーが前足で握った小銃の銃口をTejasの眉間に定めていた。
彼の周りには同じように複数の小銃が浮かびそのどれもが一様に同じ狙いを定めていることから、魔法によるものだろう。

Tejas「どういうことだ、これは?」

Tejasは静かに両手を上げオリバーと相対した。

オリバー「わるい。巻き込むつもりは無かった。でも事情が変わったんだ」

オリバーは淡々と、だが自身の言葉を脳内に反芻させるかのようにゆっくりと言葉を口にした。
彼の様子に加え、彼自身が召喚した筈の火の玉が目の前の事態にオロオロと彷徨っている様子からも、Tejasには彼の言葉が嘘ではないと判った。

Tejas「これがお前の“仕事”か?オリバー」

オリバー「いや、本来これはおれの“仕事”の範疇ではない。それに…それに、おれの真の名前はオリバーですらない。黙っていてわるかった」

オリバーは一度言い淀んだが、目線を外し俯きながら自身の名が偽名であることを告げた。
別にいいよ、とTejasは心のなかで彼を許した。

Tejas「別に生かすも殺すもお前次第だが、冥土の土産に少しでも教えてくれ。此処はどこだ?」

オリバー「此処は会議所領内だ。既にな」

Tejas「本当か?こんな広大な地下施設、俺は知らないぞ」

オリバー「隠された場所だからな。限られた者しか知らないのさ。

実は、おれには“主人”たる人間がいてな。
本当に、本当に、たまたまなんだがかつてお前の様な“特異”な人間についてその主人が語ったことがある。
曰く、もしその人間を見つけたら決して会議所に戻してはいけない、と。

おれはあいつにはこれまで歯向かってばかりでな。だから、奴のために人肌脱ごうかなと思ってよ」

Tejas「へぇ、それは素晴らしい考えだ」

一緒に話を聞いていた火の玉がTejasを離れオリバーの近くに向かい、改めて彼の顔を明るく照らした。
軽い口調とは裏腹に、眉間にシワを寄せその顔は覚悟に満ちていた。
【大戦】で、敵軍の本陣に総攻撃をしかけんとする突撃兵の表情によく似ていた。

―― ここまでか。

Tejasも覚悟を決め、今日一日で溜め込んだ体内の空気を一息で吐き出した。
事情はよく分からないが、オリバーは自らの主人に恩を立てるためここでTejasを始末する気だろう。
自身の能力は会議所内では極一部の人間にしか話していなかったが、信頼したオリバーに話したことは仕方がないことだ。

思えば、自身の右腕に呪いがかけられた際に一命を取り留めただけでも運が良かったのだ。今日まで生きながらえたのはひとえに運の良さでしかない。
それが、一日という短い時間ながらともに過ごした信頼する相手の手にかけられるのならば寧ろ行幸だ。
公国兵に討ち取られるよりも余程良い。

若い“マイスター”は持っている技術力は超一流だが、考え方も独特で会議所内でも変人というレッテルを貼られていた。
死生観についても、生を受けている実感を持ち死についても潔さを併せ持つ、若者にはない渋さと思慮深さがあった。

Tejasはオリバーをチラリと見た。覚悟を決めたはずのオリバーの顔は先ほどと違い少し曇り始めていた。

―― どうした、早く決断しろ。

逆にTejasがオリバーの決断を急かすように目を細め訴えかけた。
意志を汲み取ったのか、考え込んでいたオリバーは重々しい様子で口を開いた。

オリバー「本来、ここまで来られたからにはお前を生きては帰せない。

おれもつい先ほどまでそのつもりだった。

だけど、同時におれの頭の中には一つの“バカげた”プランが浮かんじまってな。

実行するためには助けがいる。
おれの“仕事”には、お前が必要不可欠なんだ――」

―― だから、慎重に言葉を選べ。

銃を握り直したオリバーを見ながら、“生命を握られている状況で直ぐに冷静な判断ができるものか”とTejasは半ば諦め気味で見つめ返した。

オリバー「おれと協力して―― “このバカげた戦争”を終わらせてくれるか?」

随分と大事になったものだ。
Tejasは彼の途方も無い提案を、頭の中で反芻してみた。


武器庫?此処が会議所?戦争?

一体なんだ。どういうことだ。

Tejasにはさっぱりと事情が分からない。
分からない、が結論は出さなければいけない。

そろそろ上げている両手が痺れてきたところだし早めに片を付けるとしよう。
吹っ切れてしまえば、恐れることは何も無い。銃口を見せられているはずのTejasはむしろ微笑を見せた。



Tejas「いまの話に答える前に、改めて俺の決意をきいてくれないか」

オリバーは頷き先を促した。

Tejas「俺はな。“マイスター”と自称はしているが、会議所きっての変人として名を馳せている異分子だ。
周りからは扱いづらいと思われているだろうし、事実そうだと思う」

オリバーは容易に彼の会議所内での振る舞い、立ち位置が想像できた。

Tejas「俺は何においても拘りが強い。だからこそ他人は俺に付き合いきれないし、俺もまた半端な人間とは相容れない」

オリバーは再度頷いた。

Tejas「だが、もし“俺が信頼したる”相手を見つけたとしたら俺はそいつに従うし、力になりたいと思う。

俺が信頼した相手からの頼みには、文字通り、“生命を賭けて”それに応えよう。それが、俺の決意だ」

目の前の“マイスター”の物騒な言葉に眉をひそめたオリバーは、少し考え込んだ後に、唖然とし慌てて口を開いた。

オリバー「おい、待てッ!お前の言ってた【制約】ってもしかして――」

Tejas「―― 二つ提案がある」

Tejasは上げたままの左手を突き出し、オリバーの言葉を遮った。


Tejas「まず一つ。お前の話は受けよう。だが、俺には事情がさっぱり分からないから、真相を教えてくれ」

オリバーは神妙に頷いた。Tejasは満足そうに頷いた。

オリバー「二つ目は?」

Tejasは鋭い目をさらに細めた。ゴクリとオリバーは固唾を飲んで彼の言葉を待った。

Tejas「俺の目の前にいる“友達”の、本当の名前を教えてくれないか?」

オリバーはキョトンとした顔の後に、彼の突拍子もない提案に笑った。
Tejasも笑った。
真剣な空気は緩和され、笑い合う二人を見ながら火の玉も楽しそうにゆらゆらと揺れていた。

いまこの時は、昨夜夜中まで喋ったように屈託なく笑いあったのだった。
張り詰めた緊張感が解けたからか、いつもより多めに笑ったせいで目に浮かんだ涙を拭い取りながら、オリバーは彼の提案を受けることにした。

オリバー「ああ、いいぜ。真相はこれから話す。その前に、まず二つ目の提案から片付けよう。
おれの本当の名は――」




これより一人と一匹は、カキシード公国とオレオ王国間で勃発した戦乱を終結させるという大事を為すことになる。










                            To be continued...



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