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3-1:男たちの日常編

初公開:2020/08/12




・Keyword

兵(つわもの):
1 武器をとって戦う人。兵士。軍人。
2 真相を究明する探究家。想像を超える真理に立ち向かう勇士。











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きのたけカスケード 〜裁きの霊虎<ゴーストタイガー>〜
Episode. “赤の兵(つわもの)”

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【きのこたけのこ会議所 BAR “TABOO<タブー>”】

きのこたけのこ会議所自治区域の中心部に存在する【会議所】本部から程近い繁華街の一角に、“TABOO<タブー>”というバーは存在する。

きのこたけのこ会議所自治区域内には多くの住民が点在し暮らしているが、地図上で中心にある会議所本部の存在する場所が、名実ともに自治区域の中心街だ。
中央政府機関となっている会議所本部前の大通りは朝から多くのビジネスマンの往来で混み合う。

その人々の往来を支える中心通りから一本外れた脇道を歩いていくと、程なくして自治区域内随一の狭さと濃さが反比例する歓楽街・【ポン酢町】に到着する。
ポン酢町は昼間こそ閑散としているが、夜になるとどの店もネオンをギラつかせ、疲れ切ったビジネスマンたちを飲み込む欲望と遊楽の町へと早変わりする。

“TABOO<タブー>”は、所狭しと軒を連ねるそのポン酢町の中でもさらに裏道に入った奥地に存在する。
特に看板や案内板を出すことなく、馴染みの客の手引がなければ初見の客はまずたどり着けない隠れた存在だ。

ようやくたどり着けたとしても、掃除もされずくすんだ窓ガラスやこぢんまりとした入り口の様子を見て、初見の客からは廃墟か、さもなければ古ぼけた理髪店かと間違えられる程に、
人々の欲望を吸収する筈のその店には覇気の欠片もなかった。
しかし知る人ぞ知るこの老舗の店内は、夕闇が落ちた頃にはいつも熱気であふれかえっていた。

たけのこ軍兵士 加古川かつめしも“TABOO<タブー>”の常連の一人だった。
【大戦】が近くなるといつも残業が多くなる。
今日も疲れきった心と身体を癒やすため、他の流行っている飲み屋には目もくれず、加古川は店選びをしている通りの客を避けるようにいつものように細道に入り、いつものように店の扉を開けた。

カランカランと小気味よいドアベルの音とともに、一気に店の中の熱気が押し寄せてきた。まだ底冷えする外気とのギャップになぜか思わず身震いしてしまう。
みすぼらしい外観とは裏腹に店内は広々としており清潔さも保たれていた。
今夜も既に夜更けに近い時間帯だというのにも関わらず店内はほぼ満席に近く、客同士の話し声が心地よい賑やかさとして耳に届き、加古川の冷えた心を温めた。

「いらっしゃい旦那。“いつもの”でいいかい?」

店のマスターで元・きのこ軍兵士 軍隊蟻はコップを磨いていた手を止め加古川に声をかけると、目の前の空いているカウンター席を目で案内した。
加古川は一度だけ頷くと、入り口のハンガーラックに羽織っていたコートと中折れ帽を掛け、指定されたカウンター席にするりと腰掛けた。
途端に、店主はシャカシャカと小気味よい音でシェイカーをシェイクさせ始めた。加古川はこのシェイク音を聞くと一日の仕事の疲れを忘れ、穏やかな気持ちになる。

軍隊蟻「はい。“カルーアミルク リキュール抜き”お待ち」

首元のネクタイを緩めていると、早速カウンター上でカクテルグラスがスライドされ放たれた。加古川は自然に受け取り、静かに口に付けた。
ほのかな香りに続いて口の中に一斉に広がる甘みに思わずクラクラする。
至福の一時だ。


「美味しそうなカクテルですね。僕も同じものを貰おうかな?」

加古川が一息ついたタイミングを見計らい横の客が気さくに彼に声をかけてきた。
聞き慣れた声に加古川が顔を横に向けると、隣の席では同じ会議所兵士のたけのこ軍兵士 埼玉が微笑みながら挨拶をしてきた。

加古川「やあやあ。埼玉さんもこんな遅くまで居るということは残業かい?」

埼玉「部署が変わってばかりでして。仕事も慣れてない上にここにきて大変なんですよ。ほら、今は【大戦】強化月間じゃないですか。
先日【大戦】を終えたばかりなのに、近く他の国からお偉いさんが来る【特別大戦】もやるものだから、終わった後の交通規制やら宿泊先の手配やら色々な問題がありまして」

埼玉は会議所本部の【大戦業務課】という部署で働いている青年兵士だ。
定期的に会議所本部主催で全世界から人を呼び戦いあう【きのこたけのこ大戦】の裏方業務を一手に担っている。
【大戦】が近づけば準備の手間も増え、帰る時間は遅くなる激務を要求される部署だ。

加古川「それは苦労するな。おいマスター。埼玉さんにも私と同じものを一杯つけてやってくれ。支払いはこちらでいいよ」

マスターの軍隊蟻はチラリと加古川を見やると一度だけ頷いた。店主の寡黙で落ち着いた雰囲気が、この店の隠れた人気の秘訣だ。

埼玉「いいんですか?お気遣いありがとうございますッ!」

ニカッとした人懐っこい笑みを浮かべた埼玉を見て、先輩受けの良い後輩だと加古川は感じた。
きっと部署内でもかわいがられているに違いない。

埼玉「加古川さんは【市民課】ですよね?最近忙しいと聞きますけど、大丈夫ですか?」

加古川「その通り、こちらも最近忙しくてな。【大戦】の影響か、特に最近は若い人の流入が多くてな。対応にひっきりなしさ」

加古川は【市民課】という受付部署で、会議所内の住民登録や証明書の交付、両軍の軍籍の交付など、会議所自治区域に関する行政業務を行っている。
市民課も時期によっては非常に混み合うため、激務と噂される部署の一つだ。

軍隊蟻「“カルーアミルク リキュール抜き”お待ち」

カクテルグラスを受け取った埼玉は加古川とグラスを軽く合わせ、日々の多忙を互いに労った。



その後は互いに杯を重ねながら仕事の他愛もない話を交わしていたが、二人で何杯目かのカクテルを飲んでいた時、“そういえば”と埼玉がある話を切り出した。

埼玉「おもしろい話がありましてね、加古川さん。

最近巷で話題になっている“きのたけのダイダラボッチ”という伝説、ご存知ですか?」

聞き慣れない言葉に、思わず加古川は眉を潜めた。

加古川「“ダイダラボッチ”というと、あの伝承に出てくる巨人のことか?いや、知らないな」

そう答えながら、マスターの好意で出されたビターチョコをかじる。
甘いカクテルには少しぐらい苦いビターフレーバーの方がより味を引き立てる。マスターはよくカクテルというものを理解しているなと、改めてこの店を再評価した。

埼玉「そうです。その“ダイダラボッチ”です。それがチョ湖のほとりにも現れるというんですッ」

チョ湖とは、加古川たちが今いる会議所本部からは少し離れ、北東に幾ばくか進んだ先にある、オレオ王国とカキシード公国に面す国境代わりの広大な湖だ。

加古川「その湖に現れる巨人が“きのたけのダイダラボッチ”なのか。
誰かの魔法が暴走して犬か猫が巨大に化けたとかではなくか?」

今でこそ“チョコ革命”で動力物の熱源はチョコに置き換わりつつあるが、加古川の若い頃は魔法が全ての根源であり動力源だった。
街には無人の魔法の馬車が走ったり寒いときには爪先から火を灯し寒さを凌いだりと、いま以上に魔法は人々にとって身近なものだった。

同時に、魔法の詠唱失敗によるトラブルは日常茶飯事だった。
当時、加古川の隣家で誤って自分のペットを巨大化させてしまい自らの家を木っ端微塵にさせてしまった兵士もいて、ちょっとした騒ぎになったこともあった。
今となっては古き良き時代だ。

その時の若かりしたけのこ軍 社長の青ざめた顔を思い出し、今になって加古川は思い出し笑いをしてしまった。

埼玉「そうだったら笑い話ですが。目撃者も多いらしく、決まってみんなが夜中に見るというんですタマッ!」

先程までの疲れ切った顔とは打って変わり鼻息を荒くして語る埼玉を見て、加古川は彼がゴシップ好きの若者なのだと悟った。

加古川「別に悪さはしていないんだろう?」

埼玉「そうです。ただ湖の上に突っ立っているかその場を歩き回るだけみたいで。
さらに面白いことに、みんな口を揃えて『明け方になると日光に溶けるようにスゥーッと透明になり姿を消してしまう』というんですタマッ!」

相当酔いが回ったのか、埼玉は次第に語気を強め熱心に語り始めていた。
彼の強い語尾の訛りは、確か大陸の最西部近くにあるネギ首長国由来だったはずだ。
彼が会議所区域から遠く離れた首長国出身だということを、加古川は今になり初めて気がついた。

加古川「不思議な話じゃないか」

加古川は静かにグラスを傾けた。

埼玉「嘘か本当か、ダイダラボッチが見えた後の【大戦】はきのこ軍かたけのこ軍、どちらかが大勝するらしいタマッ!
周りからは、嘘か本当か“戦の神”と呼ばれ崇められているんですって」

加古川「ほう、それはおもしろい。真理は、想像を超えると言ったところか」

埼玉は楽しそうに話を終え、つられて加古川もニヤリと笑った。

噂はあくまで噂だ。
それに、【会議所】本部で仕事をする二人にとってチョ湖周辺に行く機会などほとんどない。
休日にふらりと行くか、それこそ不測の事態でも起きて現地に仕事で行くでもしない限りこの噂の真偽を確かめる術はない。
それを承知の上で埼玉は語り加古川も承知の上で聴いているのだ。
要するに、盛り上がる話のネタで二人は酒の肴にしているに過ぎなかった。



グラスの中の氷が溶けカランと氷の跳ねた音が響いた時、魔法が解けたように加古川は意識を戻し時計を見た。
もう日付けはとうの昔に跨いでいる。普段ならもう寝ている時間だ。

加古川「まだ飲んでいくのかい?」

埼玉「明日はたまたま非番でして。まだいらっしゃるのでしたらお付き合いしますよ?」

加古川「悩ましいお誘いだが今日はやめておくよ。酔いも覚まさないといけないしな」

店主に埼玉分の代金も払い終え、加古川は席を立った。

埼玉「すみません。払ってもらっちゃって」

加古川「気にするな。ユニークな話をきいた駄賃さ」

おやすみなさいという埼玉の声に、手にもった黒の中折れ帽を上げ応えながら、加古川は店を後にした。

彼が出ていった扉を見つめながら、ふと疑問が湧いたのか、埼玉は手元のグラスを眺めポツリとつぶやいた。

埼玉「そういえば、酔い覚ましと言っていたけど。

カルーアミルクのリキュール抜きって、それはもうただのカフェオレでは…?」


静かに夜は更けていく。



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