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3-5:警告編

初公開:2020/09/06


【きのこたけのこ会議所自治区域 会議所本部 会議場:議案チャットサロン】

滝本「それでは只今の議題について確認を取ります。
会議所自治区域内の人口増加に伴う新たな大戦場の増設について、反対はないですか?…はい、反対の方がいないということで本議題は可決されました。
すぐに空いている荒れ地を整備し、新たな大戦場を整備するという方向で調整いたします」

静まり返った会議室に、お経のように抑揚のない滝本の声が響き渡る。

議題が進むほど兵士たちの沈黙は濃くなっていく。
各人ともやる気がないわけではないのだが、ある程度の答えや方針が既に示されている議題については、“何も自分が発言しなくてもいいだろう”という遠慮に似た理性のブレーキが働くのだ。

加古川もそのようなことを考える一人だった。
【会議】が始まってそろそろ二時間程となる。当初は加古川も積極的に発言していたが、今では滝本が一人で喋るのみだ。

会議室には長い円卓テーブルを挟んで両側にはきのこ軍、たけのこ軍に分かれ何十人もの出席者がいたが滝本以外に誰も口を開く者はいなかった。
地方の法事にでも参加している気分だ。
だが、これが会議所本部で開かれる【会議】という伝統行事の日常風景だった。

滝本「おや、もうこんな時間ですね。参謀、他にもう議題はないですよね?」

滝本はチラリと掛け時計を見ると、きのこ軍側の上座に座る参謀B’Z(ぼーず)に声をかけた。

参謀「そうやな」

手元の書類に目を落とした参謀は一度だけ頷いた。参謀の答えに、親しい者にしかわからない程度の変化で、滝本は微笑を浮かべた。

滝本「それでは今日の【会議】を閉会とします。皆さんお疲れさまでした」

ペコリと頭を下げ、滝本は【会議】の終了を宣言とした。



加古川「ふう。ずっと座ったままでは腰が痛くなるな」

滝本の宣言とともに途端に喧騒を取り戻した会議室で、周りに遅れて加古川も椅子から立ち上がって軽く伸びをした。

抹茶「お疲れさまです、加古川さん。これからお昼でもどうですか?最近、近くに新しい定食屋ができましてご一緒できれば」

加古川が立ち上がるのを見越してか、たけのこ軍兵士 抹茶(まっちゃ)が声をかけてきた。

彼は加古川よりも二周り程度年下の若者だが、その歳で大戦企画部の責任者にまで上り詰めている実力者だ。
会議所への加入は寧ろ加古川のほうが遅めのため抹茶は【会議所】では先輩にあたるが、年齢から見れば二人は子と父ぐらい離れている二人は気兼ねなく話せる仲だった。

加古川「おお、それはいい。ただ、あまり濃い味付けじゃないところがいいなあ。またカミさんに怒られるから」

抹茶「その点はご安心ください。味の美味しさは保証しますよ」

緑髪の髪が愉快そうに揺れる。画して、二人は昼食のために外出することになった。



【きのこたけのこ会議所自治区域 会議所本部近く 小料理“葱亭”】

会議所本部とは、自治区域内の実質的な政府機構を持つ【会議所】を含む庁舎群の総称である。
一帯は周りと区別するために塀で仕切られてはいるものの、中心にそびえ立つ巨大な本部棟以外に部署毎にそれぞれ庁舎が分けられており、そこでは数え切れないほど多くの自治区域民が汗水を垂らし働いている。
さらには、本部内にはポン酢町を始めとした飲食街や公共施設、さらに多様なショッピングモールなどが存在し、会議所本部自体が一つの都市としても他国の大都市と遜色ない程の充実さを有していた。

抹茶が勧める小料理“葱亭”は、本部棟から歩いて数分も経たない庁舎内の一角でひっそりと暖簾を出している小料理屋だった。

抹茶「ここが穴場でして。加古川さんが異動した直後あたりに出来たんですよ。特にこのネギのお吸い物が絶品ですよ」

出された膳の吸い物に口を付けながら、抹茶は笑顔で舌鼓をうった。

加古川「たしかに薄口でしっかりとした味付けだな。ただ、滝本さんはこの店には来られないだろうな」

一番人気の定食は葱御膳でネギハンバーグ、ネギの煮物、ネギの吸い物と全ての料理にネギが使われている。
大のネギ嫌いで通っている滝本は絶対にこの店には寄り付かないだろう。

抹茶「ははは。一回、騙してこの店に行かせようと思ったことがあるんですけどね。失敗しちゃいました」

抹茶は屈託なく笑った。抹茶と滝本は仲が良く、ふたりで個別に議題検討会を開き【会議】について話し合うこともあるらしい。
滝本の年齢はわからないが、案外抹茶と年が近く気が合うのかもしれない。

加古川「ネギと言えば、前議長の集計班さんも大のネギ嫌いだったな。ウチの議長はネギ嫌いじゃないとなれない決まりでもあるのかね?」

抹茶「そう言われてみたらそうですね…ん?あれは?おーい、¢さんッ」

向かいの抹茶が手を振るので、加古川も振り返り視線を入り口に向けた。
すると、濃緑のきのこ軍の軍服を着た、くたびれた顔のきのこ軍 ¢(せんと)が立っていた。

¢「んあ?抹茶さんに加古川さんなんよ」

舌足らずの方言で彼は目を丸くした。

抹茶「混んでますよ。相席でよければ隣空いてます」

¢「ではお言葉に甘えるんよ」

¢は加古川たちのテーブルに座った。

こうして¢とともに食事をするなんて珍しい。
彼は正に会議所自治区域の誇る“頭脳”だ。
今日までに至る【大戦】のルールをほぼ一人で作りあげた英傑として、会議所でその名を知らない者はいない。
今も【大戦】統括責任者として自治区域を支えており、議長の滝本、副議長の参謀に続く【会議所】の三番手に位置する人間と目されている。

その英傑はしかし孤独を好むのか、あまり表立って外に出てくることはせず専ら引きこもっていた。
特段人付き合いが悪いというわけではないのだが、出不精なのか誘われない限りはあまり外に出てこないのだ。

彼は外出よりも庁舎に籠もり新たなルールの研究を進めるほうが性に合っている研究家肌の人物のように加古川には見えた。
【会議所】発足時から一貫してこの態度は崩さない。
敢えて孤独を好むその姿勢は、加古川もある種共感できるところはあるので否定はしない。

抹茶「外出なんて珍しいですね。どうしたんですか?」

¢「ぼくだって外に出て食事することぐらいはあるんよ…」

呆れた口調で¢は言葉を返し、出された茶を啜った。
加古川の持つ¢という兵士のイメージ像は初期と今とで大きく異なる。

十年前、加古川が会議所本部にたどり着いた時、¢(せんと)はきのこ軍の確固たるエースとして君臨していた。
彼自身も今とは違い自信に満ち溢れた喋り方と物言いで、当時はその端正な顔立ちもあわさり、きのこ軍の“顔”として圧倒的な人気を誇っていた。

しかし前議長の集計班が亡くなった五年前ぐらいからだろうか。
彼はめっきり老け込んでしまった。
それに相関するように自信満々な物言いも影を潜めていき、次第に舌足らずな方言が口をついて度々出るようになった。
老人のようにか弱いその口調からも、今では自信の無い弱々しさだけが前面に出るようになってしまった。

いま目の前に座る彼は、当時と違い金髪はだらしなく垂れ下がり、頬はたるみ顔には皺が深く刻まれている。
彼は今も【大戦】の仕組みを一手に担う重責を負っている。いつの間にか顔に刻まれた多くの皺は、時々自身よりも老けて見えるのではないかと驚かされることがある。
それゆえ激務で、同時に会議所自治区域は大きく発展したということでもあるのだ。

¢が食事を待っている間、三人は軽く雑談を進めていたがほんの少しの沈黙の最中、近くの話し声が耳に届いた。

「数日前の【大戦】、お前はどれだけ撃破したよ?」

「俺はたったの5撃破。ほとんど何もさせてもらえなかったよ」

何気ない世間話も聞き耳を立ててしまうのは悪い癖なのかもしれない。
加古川から見て右に座っていた二人の男はその格好からきのこ軍、たけのこ軍兵士のようだった。

「お前、きのこ軍だもんなあ。手酷くやられたんだろう?どの大戦地でも壊滅的だったときくぜ」

「うるせえ、きのこ軍をバカにするな。でも軍全体に勢いが無かったな。どうも軍を動かす人が出てこれなくてボロ負けした感じがしてさ」

二人はそこで言葉を切った。出てきた食事を食べ始めたようだ。
加古川は二人の発言になにか引っかかるものを感じた。だが、何かまではわからない。

丁度いいとばかりに、手持ち無沙汰にしている¢に向け、吸い物を飲みきった抹茶は二人の話に関連して話題を振った。

抹茶「そういえば¢さんはこの間の【大戦】どうでした?やはりエースですから二桁撃破ぐらいはいきましたか?」

何の変哲もない話だが、なぜか¢はピクリと肩を震わせた。

¢「ぼくは…全然活躍できなかったんよ」

歯切れ悪く¢は答えた。
小さな違和感を覚えた。

加古川「¢さんはどの大戦場にいたんです?私と抹茶さんは第5大戦場でしたが」

今や膨大な参加者を抱える【大戦】では、大戦場を何箇所にも分けて同時多発的に戦いを行っている。
個々の戦場の結果を統合して最終的にその戦いの勝者を決める仕組みに少し前から移行したのだ。

¢「…第7…いや、第8戦場だったかな。すぐにたけのこ軍に撃たれて戦線離脱したからか、あんまり覚えていないんよ」

目を泳がせる¢だったが、そのとき丁度彼の前にネギ御膳のお盆が置かれた。
香ばしいネギの薫りが、隣りにいる加古川たちにもただよってきた。

¢「美味しそうだけど、滝本さんにはこの店は紹介できないんよ」

苦笑しながら、小さくなった背中を丸め目の前の食事に手をのばすかつてのエースの姿は改めて印象的で、同時に加古川にある決心を思い至らせた。



【きのこたけのこ会議所自治区域 会議所本部 wiki図書館】

抹茶と¢との食事を終えた加古川は、余った時間を利用し本部一帯の外れに位置する図書館を訪れた。

参謀「おお、加古川さんや。此処に来る加古川さんを見るのは久々やな」

司書と図書館長を兼ねる参謀B’Zは受付の前で加古川を見つけると、“さっきの会議ぶりやな”と手を上げて歓迎の意を示した。

加古川「そういえば此処に来るのは久しぶりだ。資料室に入ってもいいかい?」

参謀「どうぞご自由に。許可なんていらんよ。俺の職場は生きた人よりも無機物な書物たちと向き合っている時間の方が多いからな」

互いに苦笑し、加古川は書物棚の奥にある資料室へ歩みを進めた。

wiki(ウィキ)図書館は【会議所】設立時から存在する歴史ある図書館だ。
数十万点以上の書物が保管されており、図書館長の参謀B’Zの指示の下、全ての書物は棚に整理整頓してあり利用者には大層評判がいい。
ただ、最近では客足が遠のいているようで、昼過ぎだというのに見渡す限り訪問客は加古川しかいない。
参謀が嘆くのも無理はない。

書棚が並んでいる大広間の奥には通路を隔てて幾つかの書物部屋に分かれており、その内の一室が資料室だ。
大戦に関する歴史がまとめられている部屋で、大戦の歴史や戦評などの詳細資料がまとめられている。
加古川も【会議所】に入りたての頃はこの部屋によく足を運んでいたものだ。

加古川「綺麗に並べられているな…」

あまり人が足を踏み入れてないのだろう。
資料室の中は他のフロアと比べると少し湿っぽく埃臭かった。
それでも書棚を見れば直近の大戦の資料を並べられている辺り、参謀B’Zという人間の几帳面さが伺える。

加古川は部屋の中央棚の一角のラベルに書かれた『大戦参加者名簿』という列のファイリングを手に取った。
部屋の灯りを付け、テーブルに資料を広げ過去の大戦の両軍の参加者を確認し始める。

昨日の筍魂の資料を宿泊先でも読み返し、加古川は改めて“きのたけのダイダラボッチ”に関して不思議な点があることに気がついた。
そして先程の定食屋での話も相まって、いてもたってもいられなくなり【大戦】の歴史を漁り始めた。

―― 加古川「全て、【大戦】の一週間後なのか…」

―― 「うるせえ、きのこ軍をバカにするな。でも軍全体に勢いが無かったな。どうも軍を動かす人が出てこれなくてボロ負けした感じがしてさ」

―― ¢「…第7…いや、第8戦場だったかな。すぐにたけのこ軍に撃たれて戦線離脱したからか、あんまり覚えていないんよ」

昨日からの色々な人間の会話が、頭の中で何度も反芻される。

ケーキ教団。
 角砂糖の高騰。
  きのたけのダイダラボッチ。
    そして【きのこたけのこ大戦】。

一見、何の繋がりも見られない要素たちは、いま、加古川の調査により一つの“線”で繋がろうとしていた。

加古川「やはりッ!この大戦にも“いない”。その前の大戦は…やはりいない。そうかッ」

加古川がめくる資料自体は何の変哲もないただの参加者名簿に過ぎない。
しかし、脳内には昨日の筍魂の調査内容とあわせて、不完全ながら一つの仮説が出来上がりつつあった。

加古川「そうすると、教団は一体何の目的でこんなことをッ――」


自らの考えをまとめようとしていた最中。


突如、パリンという小気味よい音とともに頭上の灯りが全て消えた。
資料室は途端に暗闇に包まれた。

加古川「なんだ、停電かッ――」








ガチャリ。








酷く冷酷な金属の重厚な音が室内に響き渡った。
心臓をキュッと掴まれたように加古川は言葉をつぐみ、無言で手を上げた。



軍人の彼はすぐに理解した。


加古川の腰に、銃が突きつけられていた。



「警告だ。これ以上、首を突っ込むようなら容赦はしない」

しゃがれた声で銃の主は、背後から加古川の耳元で囁いた。
端的な言葉は驚くほど明快な殺意と威圧を放っていた。

聞き慣れない声だが、きっと何らかの道具で声を変えているのだろう。
喋り口調から声の主を聞いたことがあるかもしれないし、ないかもしれない。
そこまで気を回す余裕はなかった。

加古川「どこの誰かは知らないが、ありがたい忠告をどうも」

加古川は腹から絞り出した自分の声が存外に震えてないことを確認した。
ハッタリは元々得意分野だ。

加古川「でも人違いじゃあないかい?私はただ大戦の歴史を調べるのが好きなだけなんだ」

とりわけ明るい声で応対するが、背後に突きつけられた腰の銃が下がることはない。

「即刻手を引き、平和で多忙な日常に戻るといい」

加古川「もちろんさ。仕事の合間でこうして趣味に没頭することが平和じゃなく何という?」

「…警告はした。次はないぞ」

途端に腰の辺りから銃の違和感がなくなり、背後の気配も同時に消え失せたことを瞬時に察知した。
すぐに振り返るもそこには誰の姿もなく、資料室の外の通路は先程と同じ様に煌々と灯りが灯っていた。

ファイリングをパタリと閉じると、加古川はたらりと垂れた額の汗を静かに拭った。

加古川「真理は、想像を遥かに超えるな…」

しかし同時にこの忠告で、加古川は自分の推理は間違っていないという確証を得た。

何か得体のしれない闇に飲まれているのではないかと不安に思っていたが、何ということはない。


“すでに飲まれていた”のだ。


加古川「これぞ正に反証の理、というやつだな…」

自嘲気味に笑おうとするも、歴戦の兵士も流石に今回の出来事に顔はひきつり気味だった。
一度深く息を吐き出し、資料を元に戻した加古川は電球が割られた室内には目もくれず再び歩き始めた。

参謀「おう、お帰り。ってどうしたんや、すごい汗だぞ」

加古川「いや、資料室内は熱気がすごくてね。そういえば、私の後に誰か客は来たかい?」

参謀「いや、今日はまだ加古川さん以外に誰も此処には来ていないが…」

参謀の言葉に加古川は作り笑いで一度だけ頷いた。
今度はひきつらずちゃんと演技できている。

加古川「それは苦労するね。そういえば、資料室の灯りだけど古いからか全部割れてしまっていたよ。後で交換しておいてくれ」

そう言い残し、加古川は図書館を出た。
一刻も早く外の空気を吸い、自らがまだ生きている実感を得たかった。


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