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3-9:対峙編

初公開:2020/09/26


思いがけない¢の言葉に、両手をあげたままの加古川は鼻で笑った。

加古川「“忠告”?おいおい、図書館での一幕は完全に脅しだったろう」

¢「あれは、ぼくたちからのある種の優しさでもあったんですよ。
貴方は知りすぎてしまった。そして闇の深くまで追いすぎてしまった。
わざわざ【大戦】を欠席してまで此処に居るのが、何よりの証だ」

¢は銃口を向けたまま背後の二人に目で合図を送った。
彼の視線にフード姿の二人はすぐに加古川の背後に周り、身体をまさぐり始めた。

加古川「おいおい、歳もいったおじさんにベタベタと触らないでもらえるか。気色悪い」

顔をしかめる加古川に構わずコートの上から身体検査を進めていると、兵士の一人がコートのポケットから彼の私物を発見した。

「ありましたッ!武器と思われる、メガホンと応援用のミニバットです。ミニバットは紐で繋がっている二本セットのものです」

加古川「あまり汚い手でさわるなッ。それは家族から貰った大事な物でなッ!」

両手を上げたまま加古川は悪態を吐いたが、二人は気にも留めず彼の私物を預かった。
さらに一通り検査を終えた二人は、再び¢の背後に戻った。

加古川「このままだと私は秘密を知った罪で消されるのか、¢さん?」

この期に及んで少しでも情報を聞き出せないか、加古川は意地悪く訊いてみた。
¢はフードの中で深緋(こきあげ)の目を光らせながらも、一切表情を変えることはなかった。

¢「それには答えられないけど、概ね加古川さんの想像通りとだけ言っておくんよ」

加古川は“やれやれ”と、分かりやすく嘆息した。

加古川「それは残念だな。
なら、せめて死ぬ前に最後のシガレットをもう一本だけ食べさせてくれないか。
胸ポケットに入っている。¢さんも好きだから分かるだろう?
最期の一服ってやつだよ。まあ私は嫌煙家だが」

そこで¢は初めてローブの中から胡散臭そうに彼を睨んだが、脇で直立していた兵士に顎を付きだし、胸ポケットを探るよう命じた。
兵士の一人は再び背後から彼の胸ポケットを探ると、“オレンジシガレット”と書かれた小箱の駄菓子が出てきた。

兵士が手にとった小箱を眺めていると、加古川はニヤリとした。

加古川「残念。今日はココア味が切れてしまっていた。
死の間際に好きな味で逝けないのは大変残念だが。
この際駄々をこねることはしないから安心してほしい」

「…いいんですか?」

兵士の視線は小箱と背後の¢の顔を行ったり来たりしていた。自分の行動が正しいのか自信がない様子だ。

¢「御老体の最期の楽しみだ。一本ぐらい吸わせてやるんよ」

¢の吐き捨てるような言葉に後押しされた兵士は箱の口を開けた。
そして、煙草の形をしたラムネの棒を一本取り出すと、口を空けながら待ち構えている加古川に対し、躊躇いがちに口元まで運んだ。

目の前で差し出された一本を勢いよくぱくりと咥えた加古川は、すぐに離れた兵士に構わず、口に広がるオレンジの風味を暫し堪能するために眼を閉じた。

加古川「これだよ、これ。口に含んだ瞬間にたまらない」

両手を上げたままの格好で、加古川は口元でラムネを器用に転がしつつ口内に広がる甘さを堪能した。
この瞬間だけは目の前の窮地から思考を切り離すことができた。
世の中から煙草を無くし全て駄菓子のシガレットに変えれば、世界は幾分か平和になるに違いない。

再び眼を開き、黙って見守っている¢たちのほうを一瞥した。

加古川「ありがたいねえ」

口の端にラムネを移動させながら、加古川は器用に喋った。

加古川「本当に、ココア味じゃないことだけが残念だが。
冥土の土産としては上等だ。

貴方達はただの外道だと思っていたが良いところもあるじゃないか。
本当に――」

加古川は喋りの途中で、徐(おもむろ)に前歯を閉じた。
いきなりの衝撃に耐えられるわけもなく、シガレットはいとも簡単にポキンという音をたてて二つに砕けた。


砕けたラムネの一部が、加古川の口を離れ自由落下を始める。

一見、何の変哲もない行動。



そのラムネの棒が地面に落ちるまでの軌跡を、加古川は片時も目を離さず凝視していた。



2秒。



1秒。



地面に落ちるその瞬間に、ラムネ棒が閃光花火のように真っ赤に光る様子を見て、¢は初めて異変に気がついた。


¢「まずいッ!下がッ――」


加古川「――阿呆で助かるよッ!」


魔法でオレンジシガレットに擬態された火薬玉は、地面に触れるとともに起爆し、鮮やかな赤色の光とともに勢いよく爆ぜた。

加古川はすぐにその身を引くと同時に爆風が起こり、¢たちの眼前は途端に大量の爆風と巻き上げられた土煙に包まれ視界を封じられた。

「ぐあッ!¢様ッ!」

咄嗟に顔を覆う二人に対し、中心にいた¢は爆風に構わずすぐさま辺りに気を払った。

加古川は土煙に紛れ姿を消したが、シガレットの大きさから爆薬は限定的な規模のものでしかない。

彼らの背後にある城門には人影が変わらずない。
土煙にまみれて加古川が脱出するとすれば、城壁を伝いあたりに広がる森林地帯から市街に抜け抜け出す手段しか残されていない。

¢「畜生ッ!あの人は一流の魔法使いでもあることを忘れていたッ!

グリコーゲンさんと鉛の新兵さんはすぐに城壁沿いを追えッ!

この間の壊れていた壁沿いの箇所だッ!あの人はこの間もあそこから侵入したッ!
逃げられては困るんよッ!」

二人はすぐに頷き爆風でできたすり傷をさすりつつ、未だ巻き起こっている土煙を避けすぐに走り去っていった。

一人残った¢は悪態をついた。
密会を敢えて見せつけ、加古川をこの場で始末しようと考えていたが、これではとんだ誤算だ。

クルトン「¢様。この騒ぎはいったいッ!?」

聞き慣れた声に¢が顔を背後に向けると、城門から現れた教団員のクルトンは目を丸くして駆け寄ってきた。

¢「これは、クルトンさん。

ちょっと今、“鼠”を捕まえようとしている最中なんよ。
それよりも、取引の方は順調ですか?」

クルトン「はい。問題ありません。順調に進んでおります。

それで、その“鼠退治”の件ですが。

先程、“指令”を受けまして。
これを¢様にお渡しするように、と…」

¢はクルトンの差し出した指示書を受け取った。
それは指示書というよりもメモ書きだった。ページの切れ端を千切った程の大きさの紙切れに、走り書きで数行書かれた文章に¢はすぐに目を通すと。
目を細め、指令書を静かに握りつぶした。

クルトン「せ、¢様ッ!?」

¢「作戦変更なんよ…ぼくもあの二人の後を追う。
この場はクルトンさんに任せたんよ。
それと、すぐに本部内に応援人員を呼んで加古川さんがこの場に留まってないかを確認させるんだ。また塔の中に隠れられると厄介だからなッ」

言い終わらないうちに、¢は姿を消した。
あまりの慌ただしさに、居なくなってから慌ててクルトンは頭を下げたが、すでに後の祭りだった。



【きのこたけのこ会議所 ケーキ教団本部近く森林地帯】

崩れた城壁から外に広がる鬱蒼とした森林地帯に足を踏み入れた追跡組の二人は、すぐに足元の暗さとぬかるみに四苦八苦することとなった。

鉛の新兵「このぬかるみなら、向こうもまだこの林は抜けていないはずッ。本部内は味方に任せ我々は追跡を続けましょうッ!」

グリコーゲン「若者はずいぶんと威勢がいいなッ。こちとらここまで足を取られると、腰にくるんだッ」

ハツラツとした様子で語るたけのこ軍 鉛(なまり)の新兵に対し、古参のたけのこ軍 グリコーゲンは悪態をつきながら走った。

グリコーゲン「ええい、木々がジャマで鬱陶しい。もう我慢ならんッ!燃やして消し去ってやるゥ!」

グリコーゲンは立ち止まり、勢いよくローブを脱ぎ去った。
教団員に似つかわしくない黄の戦闘服を来た彼は、ずっと背中に背負っていた小型燃料タンクから噴射ノズルを取り出すと、ノブを引き勢いよく炎を噴射し始めた。

見る見るうちに目の前の林は燃え盛り、木々の悲鳴にも似たパキパキという音とともに、枝や幹が連なるように折れ始めた。

鉛の新兵「や、やりすぎでは…それに、これ消せるんですか」

グリコーゲン「安心せいッ!僕の水魔法でどうとでもなるッ!それにもし前に奴がいたとしたら、今頃はカリカリのベーグルのようにこんがりと焼けているだろうよォ!」

密集した林には、次から次へと火が伝搬していく。
彼らの眼前はあっという間に炎で支配された。

鉛の新兵「す、すごいッ。でも、どうなっても知りませんよ」

グリコーゲン「ハハハッ!この炎がケーキを焼くのに最適なんですよォッ!」

炎の色を見て気分が高揚しているのか、グリコーゲンは唇の端を吊り上げて笑い始めた。
鉛の新兵はその凄みに少しぎょっとした。

鉛の新兵「も、もうこのあたりでいいのでは。私は後ろにも気を配りますね」

相棒の狂気から目を背けるように、彼は背後を振り返った。



それが、悪手だった。


加古川「ふむ。鉛さんの言うとおりだ。見晴らしがよくなっても、それは相手に自分の居場所を知らせているのと同じだ。違うかな?」

グリコーゲン「なッ!」

いつの間にかグリコーゲンと鉛の新兵の間に立っていた加古川は、間髪入れずに掌底をグリコーゲンの顎に喰らわせた。

グリコーゲン「ッ!!」

声も上げられず、グリコーゲンはその場に倒れ伏した。

倒れた衝撃で彼がポケットに入れていた加古川のメガホンとミニバットが地面にぽとりとこぼれた。
すぐさま身を屈め回収する。

加古川「お前だな。私のバットとメガホンを持っていたのは。返してもらおうか、これは子どもたちから貰った大事なプレゼントなんでね」

鉛の新兵「くそッ!」

加古川の奇襲に遅れること数秒。
グリコーゲンの背後で警戒にあたっていた鉛の新兵は、遅れた反応を取り戻すように振り返り際すぐに、手に持った鉛玉を瞬時に投げ込んだ。

加古川「きかないなッ!」

放たれた鉛玉は魔法で初速から大幅に加速して加古川に向かっていった。
その一瞬の時間の中で、加古川は先程取り返した木製のミニバットを自身の身体の前に突き出した。
腕一本分程度の長さしか無い大きさだったが、鉛玉はバットの芯に丁度あたり弾かれた。

鉛の新兵「ばかなッ!魔法で超加速させた鉛玉を、どうしてそんなヘナチョコバットで弾けるんだッ!」

加古川「これが愛の力、というやつではないかな?」

鉛の新兵「へらず口をッ!」

さらにポケットから取り出した二個の鉛玉を握り。
加古川から敢えて少し距離を取り、鉛の新兵は振りかぶり鉛玉を投げ込んだ。

加古川との距離はせいぜいが数mだが、サイドハンドから放たれた二つの鉛玉は途中からそれぞれが別の軌道を描き始めた。
これこそが鉛の新兵が敵との距離を離した最大の理由だ。

片方の鉛玉はブーメランのように弧を描き、もう片方は回転方向とは逆の弧を描きながら向かう。
加古川の左右方向から二つの鉛玉が同時に横腹を狙う構図となった。
片方を防御しても、反対の鉛玉が彼の横腹を貫く。

同時の回避は不可能。
これこそが魔法で鉛玉の軌道を変える策で、“鉛の投法”と恐れられる彼の戦闘スタイルだった。

加古川「考えたな。だが、あいにくと――」

しなやかに腰を折り次の瞬間、加古川は上半身を大きくのけぞらせた。

鉛の新兵「なッ!?」

地面と水平に近くなるまで上半身を逸らせ、加古川の左右から向かっていた鉛玉は、先程までそこに立っていたはずの敵の姿を捉えられず空振りする形になった。
同じく反対方向でも同様の現象を起こした互いの鉛玉はそのまま弧の軌道を描き続け、次の瞬間加古川の心臓の位置の上部で勢いよく互いを衝突させ弾け飛んだ。

加古川「――デスクワーク続きで、目は鍛えられているものでね」

鉛の新兵「ば、化け物だッ…」

燃え上がる業火を背にゆらりと半身を起こす加古川に、鉛の新兵は恐怖で顔を青ざめた。


彼は先輩教団員から、ある【大戦】で起きた伝承を聞かされたことがあった。

“かつて、黎明期の【大戦】には多くの精鋭のたけのこ軍兵士がいた。

そのうちの一人は、敵のきのこ軍陣地の中でひとり潜入し味方も知らぬ間に敵を殲滅した。
味方が駆けつけた時には既に敵陣は激しく燃え上がり、敵陣の中心には一人の男がタバコのようなものを咥え、余裕綽々の表情で味方を待ち構えていた。

燃え上がる敵陣地を背に、余裕の表情で構えている彼の姿は印象的で、味方は畏怖をこめてこう呼んだ…”



鉛の新兵「“赤の、兵<つわもの>”ッ!…」



加古川「時間がないんだ。そこを退いてもらおうか」




前進しながら威圧感を含む彼の物言いに、鉛の新兵は恐れから一瞬躊躇を見せた。
だが、すぐに自分を奮起するために自らの頬を一度叩いた。

鉛の新兵「ふざけるなッ!貴様はここで仕留めてやるッ!くらえッ!」

ローブを脱ぎ捨て、たけのこ軍の軍服を顕にした鉛の新兵は、両手の指の間に大量に仕込んでいた鉛玉を再度投げ込んだ。
十個近くの鉛玉は一斉に加古川に向かい、一様に空中で超加速を始めた。

加古川「これじゃあただのパチンコ、だなッ!!」

加古川は二本のミニバットを繋いでいた紐を引きちぎり両手にそれぞれ持つと、まるでテニスのように手首を返し全ての弾を払い除けた。
打ち返した鉛玉の何個かは地面に当たりその勢いで反跳し、鉛の新兵の方に玉が跳ね返ってきた。

鉛の新兵「まさか、跳弾ッ!?狙ってなんて、そんなッ!」

防ぐ術もなく、加古川の狙った跳弾は、全て鉛の新兵の鳩尾に食い込んだ。

鉛の新兵「バカなッ…そのバットじゃあ鉛など、打ち返せないはずッ…」

鉛の新兵は悶え、苦しみからその場に倒れ伏した。

加古川は相手が倒れたことを確認すると、首をコキコキと鳴らし落ちていた鉛玉を拾った。

加古川「いやあ。こんな木製のミニバットでも強化魔法で硬度を増せば、鉛などゴムボールより弾むのさ。
よい勉強になっただろう?」

城門へ続く林の道は燃やされてしまったので来た道を戻ろうと、足を動かした次の瞬間。





  バアン。


炸裂音とともに、目の前の林から銃弾が飛んできた。
加古川は瞬間の反応で身体を仰け反らせ避けた。
直後、眼前にローブを被った¢が林の中からぬっと姿を現した。

¢「本当に、貴方には困らせられるんよ」

銃のリボルバーに新しい弾を込め始めながら、¢は溜息をついた。

加古川「歴戦のエース¢(せんと)。
貴方が、ケーキ教団を隠れ蓑とした大規模な隠蔽工作に加担していたとは。
正直、ショックだ」

¢「でも、ぼくが関わっているのは知っていたんですよね?」

加古川「まあ図書館で【大戦】の参加名簿を見た時に、綺麗に貴方を始めとした数名が順繰りに【大戦】を欠席している内容を見れば、誰だって疑うさ。

貴方のことは最後まで疑いたくはなかったが。
一緒に昼飯をともにした後にその相手に銃を突きつけるなんて凄い根性だよ」

¢「それはすまなかったと思ってるんよ」

¢は素直に頭を下げた。

加古川「貴方を始めとしたケーキ教団の幹部は交代で戦いを欠席して、人目のつかない【大戦】にあわせて教団本部から武器を密輸をしていたわけだ。

これが、“きのたけのダイダラボッチが現れたら【大戦】がどちらかの圧勝に終わる”と噂されているカラクリだ。

貴方のいないきのこ軍が、楽に勝てるわけがないんだッ」

¢「きのこ軍の人材難には今も昔も困りっぱなしですよ」

¢はふっと自嘲気味に笑った。
ローブの中の顔はほんの一瞬、自軍を憂い悩むエースの表情を見せていたが、すぐに笑みを消し暗殺者としてのそれに戻った。

¢「貴方がここまで調べ上げるとは思っていませんでした。存外、好奇心旺盛な方だったんですね」

加古川「幼少期に立ち返って素直な気持ちになってみたのさ。
おかげでこの数ヶ月、実にイキイキとさせてもらったよ。

でも、参加者名簿を捏造していなかったのは正直、悪手でしたよ」

¢「後で直しておくんよ。貴方をこの場で倒してね」

加古川の背後でグリコーゲンの燃やした炎の熱が迫ってくるのを肌で感じた。
背後に逃げ場はなく、目の前の¢を倒さないと活路は開けない。

加古川は再度、覚悟を決めた。
手に持つミニバットにもいつも以上に力が入った。



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