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4-3:武器商人編

初公開:2020/11/02


【カキシード公国 宮廷 魔術師の間】

someoneとの邂逅を終えガラスドームの部屋に戻ると、部屋の中心にぽつんと置かれていた執務机の上には彼女の好きなお茶菓子が並べられていた。

No.11「おかえりなさいませ、791様」

791「わあ。今日はネギせんべいかあ。さすがはNo.11、私の好みを把握しているねッ」

No.11「恐縮です」

No.11は主人の言葉に恭しく頭を下げた。その振る舞いはいつも通り一切の無駄はないが、心なしか発せられた声は少し弾んでいる。

791「かけなよ。お茶会にしよう」

手にしていた杖をトンと叩くと、No.11が座るための魔法のテーブルと椅子が地からヌルリと表れた。木目調のアンティークテーブルは術者である791の趣味だろう。
No.11は微笑を浮かべながら席に着いた。
同じく席に着いた791は並べられたお茶菓子の端に、並々と注がれたメロンソーダのグラスが置かれていることに気がついた。
さらにそのグラスの横にはメモが差し込まれており、“先程はメロンソーダ、間に合わなくてすみませんでしたッ!”と書かれている。

No.11「あの子が、お詫びにと」

791「そんなあ。別にいいのに、律儀でいい子じゃない。No.11の弟子だっけ?」

791の視線に気がついたのか、No.11も目尻を下げた。

時折、彼女はこうした顔を見せる。
魔術師である自身よりも一回りは年下のはずだが、時々弟子たちに見せる彼女の慈愛の目は、既に未来の希望を見守る教育者としての意味合いを含んでいるように見える。
沈着冷静な腹心がたまに見せるこうした一面は弟子の純粋な成長を実感でき、791自身も嬉しくなる。

No.11「あの子はまだまだです。私がもっと鍛えないと」

791「ふふふ。No.11の指導は厳しいで有名だからなあ。やり過ぎちゃダメだよ?」

そこで791は身体を一度ぶるりと震わせた。先程の地下室での寒さを身体がいまさら思い出したらしい。

No.11「お身体が冷えますか?暖かいお茶でもご用意しますか」

791「いやあ、そこまでは大丈夫。でも相変わらず地下室は寒かったからか思い出しちゃったのかもね」

No.11「そうですか。彼は元気にしていましたか?」

791「今日も元気に私に反抗してたよ。弟子の成長を見るのは嬉しいけど、じゃじゃ馬なのは困っちゃうなあ」

No.11「全くですね」

目の前に座るNo.11からは既に先程までの和やかな雰囲気は消え失せ、いまは冷徹な表情の仮面を被った仕事人の顔に戻っていた。
その冷徹さといえば、一度こちらが“貴族を懲らしめろ”と命ずれば疑問を抱かず、また自らの立場も顧みずに実行に移すことだろう。
ひたすら日夜研いで切っ先を鋭利にしたナイフのように、鋭くて危うい気が彼女には備わっている。
この気は鍛えて身につけられるものでもない、生まれ持ったものだろう。

791はふと、自ら教鞭をとっていた時代を思い返した。
思えば、幼少期から彼女は何事も寄せ付けない気を放っていたかもしれない。

ただ、本人は気づいていないかもしれないが、someoneの話をすると彼女は無条件でこのように心を閉ざしてしまう。

無理もない話だ。それだけの“理由”がある。


791「まあでもオレオ王国への工作は終わっているし、こちらの準備はほぼ整っている。
あの子の力がなくても最終的には問題ないよ」

No.11「仰るとおりです」

メロンソーダをストローで吸い上げた。

791「そういえば、“例のブツ”が届かなくなってどのくらいだっけ?」

話を変えながら、続いて目線を目の前のネギせんべいに向ける。
煎餅から発せられる焼けたネギの香ばしい匂いに思わず少しクラクラしてしまう。

身体の強くないこの身に、ネギは自らを支える原動力だ。
ネギが失った魔力を補充するという説を耳にしたことはないが、あながち嘘ではないはずだ。

なぜ、【会議所】にいる滝本が嫌いなのか想像がつかない。
そういえば、滝本の前の議長だった集計班も大のネギ嫌いだった。
二人には不思議な共通点があるな、と今さらながら791は思い至った。

No.11「先月、先方より唐突に打ち切りの通告を受けましたので、もう一ヶ月になりますね」

791「本当に¢さんも考えたものだね。
ケーキ教団を隠れ蓑にして武器を密造して、あまつさえ【大戦】の日に、定期的に船便で武器を送ってきてくれるなんてさ」

No.11「はっきり言って、常軌を逸しています」


791は最初に¢から提案があった日のことを思い出してみた。

彼はなんの前触れもなく単身、公国に乗り込んできた。
勿論、彼は“宮廷魔術師”791が既に公国を裏で支配しているとは、夢にも思わなかっただろう。

彼がおどおどとした様子で宮廷を訪れ、不審に思った受付係が尋ねるや否や、開口一番に告げた『国の最高権力者とお話したい』という無茶なお鉢は、すぐに“宮廷魔術師”の元に回ってきた。
何か良からぬ気を察知した791は代理でNo.11を出すことにした。そして彼女は彼をこの部屋に通し応対したのだ。

No.11「あの日のことを今でも覚えています。
あの人は到着早々、こちらがお出ししたネギティーに目もくれずに話を切り出したのです」






―― 『武器をご入用ではないですか?』








公国を訪れた¢は正に“武器商人”だった。
会議所自治区域で開かれている【大戦】で使用している公式の武器とは別に、独自に開発した武器を公国へ売り込みにきたのだ。

本来であれば鼻で笑い、突き返す話だろう。
しかし、突拍子もない話を無下にできない理由が公国側にも存在した。

その時点での公国は魔法文明の中興の祖であるという誇りと奢りが邪魔をし、オレオ王国が発端となったチョコ革命に乗り遅れ、産業移行が遅れていた。

気がつけば生活には魔法が必需となり、軍には魔法戦士が溢れ、他国が量産している防衛装備品の配備は遅々として進んでいなかったのである。
魔法戦士部隊は非常に強力ではあるが個々の育成に時間がかかることや、一度術者の魔法力が枯渇してしまえば途端に力を失い、銃器を持つ他軍からの驚異に晒されてしまう。

公国内では既に軍部改革が求められていたが、公国側が銃器を買い漁ることで周辺国から“カキシード公国は魔法を捨て野蛮な火器に頼った”という評価とともに、その支配力が低下することを何よりも恐れていたのだ。
結果として¢をすぐに追い返すという選択肢を、No.11は咄嗟に取れなかった。

とはいえ幾ら【会議所】の重鎮といえども、話を鵜呑みにすることは出来ない。
彼の語る話だけ聞いて今日のところは引き取ってもらおう。

何よりボロボロのローブを着込んだままの彼の姿は酷くみすぼらしい。
これでは何処かの童話に出てくるボロボロの魔女をあしらう傲慢な貴族、といった構図だが致し方ない。

そう思っていたNo.11だが。

―― 『ぼくたちは【大戦】での新兵器開発のために秘密裏に武器の開発を始めたけど、その過程で溢れた銃火器の処分に困っているんよ。
処分しようにもお金がかかる。輸出しようにも武器を始めとした防衛部品の正式取引は国家間でしか行うことができない。
だから、ぼくたちは秘密裏に買い取ってくれるところを探しているんよ』

当初話半分にきいていたNo.11も、目の前の武器商人の語る話に徐々に考えを改め始めた。
確かに、¢のいる会議所自治区域は、国ではなくあくまで独立自治区域だ。国家間の決めた枠組みの外にいるせいで、常に得も損もする。

――『この話は貴国に話したのが最初なんよ。
もしダメだったら信頼してくれるところに掛け合うしかない。
密輸の話が公になれば【会議所】は罰せられてしまう。だから限られたところにしかお話できないんよ』

彼の話には筋が通っているようにNo.11には感じられた。
何より語っているときの彼の姿は自信に満ち溢れ聞く者を錯覚させる力がある。

最初に彼を部屋に招いた時は、見慣れない場所におどおどとしながら、顔のフードを取ろうともしない。
そのような弱さが見えていた。

だが、席に着いた瞬間から彼は見違えるように生き生きとし始めた。
この交渉の席が彼にとっての戦場だと理解したのだろう。

戦闘狂。きのこ軍の大エース。【大戦】開発者。
No.11の目の前に座る彼にはさまざまな呼び名がある。
そのどれもが嘘ではない。

¢は間違いなく【会議所】を代表とする兵士の一人だ。
【大戦】で¢と相対したたけのこ軍兵士が受けるだろうものと同じ圧を、いまNo.11は肌で感じている。

ここにきて、No.11はこの話を前向きに考え始めた。
師の利に繋がると判断できれば、独自に判断して動けるところも791が彼女を重宝する理由だ。


唯一、不思議に思う部分があるとすれば、なぜ¢が公国を選んだか、だ。

彼らにとって公国は忌むべき存在ではないが、公国からの【大戦】の参加者は決して多くなく、さほど重要な国でもなかった筈である。

そう問うと、ローブにすっぽりと顔を包んでいた¢は、唯一フードから見えていた口元をニヤリとさせ笑ってみせた。

―― 『あなたは存外賢いんよ。
確かに、ぼくたちからするとカキシード公国との関係性はそこまで深いものではない。先程の言葉はおべっかだと思ってくれて構わないんよ』

その上で、公国を選んだのには二つ理由があると続けた。

―― 『一つは、791さんの存在。
あの人が【会議所】に加入されてから、非公式に自治区域と公国間で交流が生まれるようになったんよ。
あの人のひととなりの素晴らしさも知っているから、ぼくたちは公国に対して他国ほど遠慮する感情が薄らいでいる』

たとえ同席していなくても、他人からの師の評価は素直に嬉しい。
表面上は冷静を装いながら、No.11の心は仄かに暖かくなった。

―― 『二つ目は、公国自体の特性。
失礼ながら、貴国はいまもなお歴史の隠匿を続けている隠蔽体質主義だ。
他国は糾弾するかもしれないけど、それはぼくたちにとって“都合がいい”』

つまり、この問題を話しても公国側から外部に漏らす可能性は極力低いと踏んだのだろう。
どちらも理に適っている。


武器の調達経路や秘密裏に製造する手段、それに取引の見返りについて問い質すと、¢は再度ニヤリと笑い次のように答えた。

―― 『ここ半月以内に自治区域内に新たな信仰教団が設立されるんよ。



名前はケーキ教団。

明かしてしまえば、それは仮初の教団。

その本部内にぼくたちの新兵器製造拠点を造る。


調達経路は、そうだな。
チョ湖を使用するんよ。
夜半に船を行き来させ取引を行うんよ。ぼくたちは定期的に武器を開発しているから毎月、交易船でちょっとずつ武器を送るんよ。

見返り?
うーん、少量の金額で構わないんよ。
ぼくたちにとっては溢れた武器が捌ければそれでいいんよ。

ああ、でも少しの魔術書は貰いたいんよ。
うちの図書館長が蔵書に欲しがっている。


それを木箱の中に、角砂糖をカモフラージュとして送ってくれればそれでいい。
角砂糖であればケーキ教団がケーキの材料として欲しがっていると思わせられる。

是非、貴国のカメ=ライス公爵にこの話を伝え、前向きに検討してほしいんよ』







No.11「まさか交易日を、向こうの【大戦】日に指定してくるとは思いませんでしたけど」

煎餅を食べ終えた口元を拭きながら、No.11は当時の思い出を述懐した。

791「あの人はよく考えているね。
我々は【大戦】にあまり協力的ではないから動きやすいし、向こうは大多数の人間が【大戦】に目を向けられているから、自由に行動ができる」

ガラス越しに外を覗く。
庭園では魔法学校で授業の終わった何人かの子どもたちが、外に出てきていた。

No.11「喋り口は特有の訛りもあり、最初は何処の田舎モノかと思いましたが。
話はとても論理的でしたね」

791「¢さんは今の【大戦】のモデルを創り上げた人だからね。
集計班さん無き今、彼と参謀が会議所設立の根幹に関わっている人間だしね」

【会議所】には“きのこ三古参”と呼ばれる賢者がいた。

広報部門を取り仕切る参謀B’Z、運営を取り仕切る集計班、そして設計開発を取り仕切る¢の三人だ。
その内、二人はまだ存命だが集計班という人間はもうこの世にいない。
集計班の後釜に収まったのが滝本スヅンショタンなのだ。

No.11「やはり、この提案は“会議所の意志”と見て間違いないのでしょうか?」

791「そうだろうね。私は¢さんのことをよく知っている。
あの人は素晴らしい技術力を持っているけど、とても出不精なんだよ。
誰かにけしかけられない限り、こんな形で表舞台に出てくることはない」

三枚目のせんべいを頬張りながら再度考えた。

オレオ王国から見れば不幸にもこの提案が“宮廷魔術師” 791に、王国侵攻という予て秘めていた計画を進めさせる引き金にもなった。

個々に戦闘力が高い魔法戦士に銃火器が備われば、公国軍に隙はない。
元より抗戦力を持たないオレオ王国を制圧することは容易いが、戦後処理の際に他国から横槍を入れられるのが厄介なのだ。
その憂いも消すことができる。

こちらから見れば渡りに船だが、俯瞰して考えて見れば、こうした事態は【会議所】に踊らされているという見方もできる。

“武器商人”¢の裏には間違いなく【会議所】中枢の意志がある。
当時トップだった集計班はいなくなったが、その意志は確実に残っていると見ていい。

¢の語った武器の売り捌きという話も嘘ではないかもしれない。
だが、あまりの突拍子の無さとタイミングの良さが、791の猜疑心をより濃くさせた。

あれから【会議所】が新兵器を【大戦】に投入したという話は聞いていないし見てもいない。
しかし数年経った今でも、先月まで変わらず密造武器の供給は続けられていた。
何故だ。

No.11「与えた銃火器で我々はオレオ王国に侵攻しようとし、
それでいてナビス国王からの頼みには快諾し両国の仲介に入ろうとする…恐ろしい伏魔殿ですね、【会議所】は」

791「本当だねえ」

他人事のように返事をしたものの、不気味な動きをする【会議所】の脅威は拭えない。
だからsomeoneも動かしていたのだ。


791「先月から¢さんの武器供給は突如終わったよね。No.11はこの動きをどう見る?」

No.11「はい。いよいよ“その時”が来たかと」

791「恐らく、¢さんは公国がこの武器を王国侵攻に使うことを予期していた。
だから私たちが王国に“難癖”を付けるよりも前に、王国のことを思い武器供給を打ち切ったという見方もできる」

だが、その考えはとても甘い。
食後に出てくるモンブランのタルトより甘ちょろい。

791「だけど私はそう見ない。

恐らく、これは向こうからの“サイン”。

両国の緊張感が徐々に高まってきたいま武器供給を打ち切ることで、“いよいよ攻め込まなくてはいけない”という意識をこちらに根付かせるための言葉なき伝達。
非常にうまいやり方だ」

事実、公国は既に本日のオレオ王国との協議を打ち切り、武力行使の準備を終えている。
この推測が正しいとすれば、協議の失敗を何よりも望んでいたのは、実は他ならぬ【会議所】ではないのだろうか。
その理由はなぜか。


791「まあここまで来たからには考えても仕方がないか。五日後を楽しみにしておこうかな」

せんべいを食べ終えた791がぱちんと指を鳴らすと、自ら座る椅子はキャスターも付いていないのに、一人でに地面を這うように移動を始めた。
No.11もすぐに立ち上がった。

No.11「もうお休みですか?」

791「うん。少し動きすぎたからね。何かあれば起こしてくれていいよ」

その言葉にNo.11は頷くも、そう言いながら過去に一度も起こしに来たことはない。
小間使いよりも弁えている弟子の姿勢に涙が出そうになるも、堪えるように791はニコリと笑いかけその場を後にした。


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