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4-8. 魔術師の条件編

初公開:2020/12/04



【カキシード公国 宮廷 魔術師の間 現代】

早朝。
自室で目覚めた791が転移ポータルで魔術師の間に入ると、早い時間だというのに数人の又弟子たちが笑顔でペコリと頭を下げて挨拶をしてきた。
その様子を見て彼女は、今日という一日が最高の日になることを確信した。


杖を突きながら数分をかけて、大ホールの中心にある自分の椅子まで歩いていく。

もう慣れてしまったから気にしていなかったが、よく考えればこの部屋は先日の講演ホールよりも遥かに広い。それに、形も歪で一面がガラスで覆われている。
そんな透明の球体状の部屋の中心で、独りだけポツンと仕事をする彼女の姿は、傍から見ればさぞ奇妙に映るだろう。

恐らく一部の貴族からは、“自らの力を顕示したいから広大な空間を魔術師791が選んだのだろう”と、やっかみを持たれていると思うに違いない。
だが事実はなんてことない。
カメ=ライス公爵が自分に“宮廷魔術師”の職を与える時に、わざわざ中心から離れた植物園を改装した部屋を執務室に選んだのは、
この部屋が他のどの部屋よりも一番外の景色を眺めることができたからだ。


大人になってから仕事や【会議所】に行く用事で外出することも増えた。
その度に、ふと気づけば立ち止まりその場の風景をゆっくりと眺める時間が増えたように思う。
幼少期に比べると体調は良くなってきているとはいえ、未だに“外”への憧れは捨てきれないのだろう。

全面がガラスで覆われているこの部屋は、まるで外にいるような錯覚を与えてくれる。
たまに陽の光が入り込んできて鬱陶しいと感じることもなくはないが、そう感じられるだけ贅沢な悩みというものだろう。
最近は本格的な夏が近づいてきたので、そろそろ薄手のローブを用意しようとは思ったが。


いつもよりも早く辿り着いた791は自分の椅子に腰掛けた。
すると、タイミングよく待ち構えていたNo.11が頭を下げ、朝食用の脇机を魔法で出しその上に朝食を並べはじめた。
鼻孔をくすぐるこの良い香りは、ホットミルクとカステラだ。

昨日の夜はあまり食が進まなかったのを見越したのか、カステラはやや大きめだ。
自らの補佐として横に立つ彼女は、専属の栄養士よりも791の身を案じているのがよく分かる。

“いただきます”の掛け声とともに791がフォークを手に取り食べ始めると。
彼女の前に立っていたNo.11が、また計ったように頭を下げた。

No.11「報告します。本日、公国軍がカカオ産地へ侵攻を開始しました」

791「ふーん。

あッ。それよりも、今日のカステラ美味しいね。
ミルクがよく合うよッ」

No.11「自信作ですので」

主人からの賛辞の言葉に、No.11は恭しく頭を下げた。
目の前のカステラの頭をフォークでツツきながら、791は鼻歌を歌い始めた。

791「今日はあいにくの雨模様だね。壮大な目論見の最終盤なんだから、晴れて出陣を迎えたかったけどね」

No.11「雨はお嫌いですか?」

791「ふふ、知ってるでしょ?個人的に雨は好きだよ。
晴れたらっていうのは、あくまで願掛けとしての意味合いでさ」

マグカップをテーブルに置き上空に目を向ける。
ガラス越しの空は薄黒い雲で覆われ、明るく照らされた室内と対比すると、その距離は存外近く感じられた。
耳を澄ませると、ポツポツと雨粒の天井に落ちてきた音が断続的に聞こえてきた。

事実、雨は嫌いではない。
あくまで個人の感想ではあるが、雨の中で使う魔法の調子は良い。丁度よい湿気、抑えられた気温などの軽微な変化が、自らの体調に良い影響を及ぼしているのかもしれない。
低気圧による自律神経の悪化で頭痛や肩こりを訴える人が多いと聞くが、791はまるでその逆だ。
おかげで今朝目覚めた際の僅かな湿気の変化で空が雨模様だと分かると、思わずにんまりと笑顔を浮かべてしまったほどである。


本来、当代随一の魔力を持つ791にとって、体調の好不調で有象無象の魔道士から遅れを取るような軟弱さは持ち合わせていない。
彼女の放つ魔法は鮮やかで、かつ熾烈で見る者をいつも圧倒した。

しかし彼女の身体は自身の魔力に耐えうるほど強靭ではない。
一発の強大な魔法により常人よりも遥かに魔力を消耗してしまうのだ。過去の経験がそれを証明している。


当時、初めて国を出て【会議所】に辿り着き、【きのこたけのこ大戦】でたけのこ軍として鮮烈な戦線デビューを果たした彼女を前に、ただ人々は恐れ慄いた。
華奢な体の中に秘められた強大で破壊的な魔力で具現化した魔法光弾は、瞬く間にきのこ軍陣地を火の海にした。
自らの魔法をようやく披露する場を得た791にとってこれ程愉悦なことはなく、子どものように最大限の火力を使い、戦場を楽しげに走り回ったのだった。

しかし、その代償は計り知れなかった。
魔力を消耗した後は週単位で寝込み、回復をしても満足に身体を動かすことも難しくなる程痛む日もあった。
力を抑えて戦わなければ自分の生命の火はすぐに燃え尽きてしまうことを、この時に初めて悟った。

それゆえ、791は考える時間が増えた。
大戦では力を抑えながら活躍を続ける一方で、【会議所】の会議にも積極的に参加していった。
彼女の慧眼、好奇心、見識はこれまでの参加者にはない程卓越したものがあり、それ故彼女の発言権は瞬く間に高まっていった。

結果として、彼女が椅子の上から盤面の大局を見極め、的確に駒を動かすがごとく策謀家に変身を遂げたのは、偏に自身の体調に寄り添う形で仕方なく選択したものだったが。
天性の才能からか、彼女は戦闘力だけでなく頭脳的役務の才能も著しい程に高かったのだ。

周りに推される形で瞬く間に階段を上り、祖国ですっかりと公務という名のデスクワークに慣れてしまっていた彼女だが、たまに昔のように目一杯魔力を開放したいという気分に駆られることもある。
そんな時、窓の外に広がる一面の空が雨模様だと、791は少し胸が詰まる。
自らの活力が増す実感を得るとともに、心の中にある微かな感情に火が灯るのだ。


“ああ。今日のような天気なら。
初めての大戦のときみたいに、魔法で十分楽しめるのになあ”、と。



791「ごちそうさま。さて、と。“あの子”に会ってくる」

No.11「…いってらっしゃいませ」

791の言葉に、少々ぎこちなくNo.11は頭を下げた。
彼女が彼に嫉妬にも似た複雑な感情を持ち合わせていることには前から気づいている。

【魔術師】とは平時から泰然自若でないといけない。
彼女は外見こそ無表情で眉一つ動かさず仕事をこなす精密機械のような魔法使いだが。
その実は年頃の女子らしく、様々な気持ちが渦巻き、時折こうして表に出てくることがある。

感情の起伏さは常に一定でないと雑念を生み、自らの魔法に影響を及ぼす。
その点で、【魔法使い】No.11は未熟だ。
それだけが、残念でならない。


しかし、同時にそんな彼女を愛おしくも思う。

征服者としてではなく一教育者として見れば、子どもの頃から感情を表に出すことが苦手だった彼女は、someoneという同年代のライバルを得て、ほんの少しだけ人間らしくなった。
教育者としてこれ程嬉しいことはない。

人間とは常に悩み、葛藤に苛まれ選択を迫られる存在である、と人生の折返しも来ていない791は既に達観している。
目の前の愛弟子も、これから幾度も悩み立ち止まる機会がくるだろう。
ぜひ考え抜き悔いのない選択をして、乗り越えてほしいと思う。
791は彼女の肩に手を置き何度かポンポンと叩くと、口笛を吹きながらしっかりとした足取りで歩き始めた。





【カキシード公国 宮廷 地下室】

地下室の檻の中には、先日よりも衰弱しきった様子のsomeoneが力なく横たわっていた。

彼女が訪れても顔を向けず一切反応しないことから、一見すると生きているのか死んでいるのか分からない。
その場でしゃがみ込み、爪先に点した魔法の火を彼に近づけても反応はない。
が、一瞬だけ身体がピクリと動いたのを彼女は見逃さなかった。

彼はまだ生きている。

続いて檻の中に目を向けると、以前、791が魔法で創り出した泡のソファクッションは檻内の端に追いやられており、彼の決意の固さと彼女への反抗心が見て取れた。

791「おはようsomeone。
ちゃんと食事は取ってる?
No.11には食事の量を増やすように私から言っておくよ」

恩師の喋りにも、someoneは地面に伏した顔を上げずにいた。
気にせず791は近況を話し続けた。

791「今日ね、公国軍がカカオ産地に攻め込んだんだ。“君たち”の活躍で王国全土はすぐに制圧できると思うよ」

そこで初めてsomeoneに反応があった。
明確にピクリと身体を震わせ、そして機械仕掛けの人形のように汚れた顔を懸命に彼女の方へ向けた。

someone「…王国には斑虎がいます。そう安々とうまくはいかない」

791は彼の睨みには一切動じなかったが、決意の篭もったヘーゼルカラーの瞳の色に惚れ惚れとした。
吸い込まれそうなほどに美しく脆いと思った。

791「君は私よりも彼のことを買っているね。いいよ、ならば君の忠告を受けよう」

パチンと指を一度鳴らすと、途端に791の足元に巨大な魔法陣が展開された。
暗闇の中に光る魔法陣は彼女を煌々と照らし続けたが、数秒も経たない内に陣は消え去った。

次の瞬間、彼女の横には、甲冑姿の一人の兵士が無言で立っていた。

791「これは私が事前に呼んでおいた【使い魔】だよ。
これを軍隊の中に紛れ込ませて、私のかわりに目となって動いてもらおうかな。
使い魔の召喚は魔力を多く消費するからあまり好きじゃないけど、弟子からの忠告じゃしょうがないね」

彼女の意を受けた使い魔は一度だけ無言で頷くと、踵を返しすぐに地下室を出ていった。

791「ねえsomeone。私はすごく君に期待しているんだよ。
君なら私の跡を継ぐ優秀な【魔術師】になれる。

だからさ、教えてほしいんだ――」





―― 【会議所】は一体私に何を隠しているの?





someoneは目の前の“大敵”を前に、目を瞑り下唇を噛み恐怖に耐えた。
そして、青ざめた顔で静かに首を横に振った。

檻の傍にあった椅子を引き寄せると自然と腰掛けた791は、困ったように頬杖をついた。

791「時間をかけて、君を縛る制約の呪文は解除してあげたよ?
それでもダメなの?

そもそもさ。私がどうして君に洗脳魔法をかけずに、君から話してくれるのを待っているか分かるかい?


someone、君は私の家族なんだ。


大切な家族にひどい仕打ちをするわけがないでしょう?」


791の言葉に嘘偽りはない。

だが、どうして彼女の言葉はここまで猜疑心を煽るのだろうか。

someoneは恐怖を通り越して目の前の“魔王”にただ憎しみを覚えることで、自らの反論のための原動力にした。

someone「貴方は自分以外の人命を軽視しすぎているッ。
だから、幾ら僕が貴方の弟子だからといって、【会議所】の秘密を明かすことはできませんッ!」

791「自分と自分の守りたいものを優先してなにが悪いの?
そういう君だって初めての親友になった斑虎の身を何よりも案じているよね?
哀れなオレオ王国の民のことは気にかけなくていいの?」

someone「もちろん僕にも一番果たしたい目的はあるし守りたい人だっている。
…ですが、だからといってッ、目的のために他のものを蔑ろにし、挙句の果てには他者を“壊れてもいい玩具”扱いにするような、貴方の考え方は絶対におかしいッ!!」

“おやおや、随分な言われようだねえ。”

笑みを崩さずに、791は指を一度鳴らした。
暗闇から宙に浮いたハンカチが表れたと思うと、ふわふわと目の前の熱(いき)り立った愛弟子まで移動し、涙を伝っていた彼の頬をそっと拭った。

someoneは歯を食いしばり、下を向いた。

この人には何を言っても通じない。
表面上は家族のように接しながらも、自分の言葉は決して彼女の本心には響かない。弟子の戯言だとしか感じていない。
彼女の根底には絶対的な自信があるのだ。

someone「恥と無礼を承知の上で、言います…」

再度、ほんの一瞬、目を瞑った。
両の目から涙が溢れ頬を伝っていく。



someone「【魔術師】791ッ…あなたはッ、狂っているッ!!」



弟子からの熾烈な言葉に、寧ろ791は満面の笑みを浮かべた。

791「【魔術師】にとって、“狂気”とはただの褒め言葉にしかならないよ?someone」

檻越しに791は彼の頭をそっと撫でる素振りをした。
someoneはもう避ける気にもならなかった。

791「優しいんだね。小さい頃からいつもそうだった。

君はいじめられ泣いている子を見るといつも助けていたね。
いじめの標的が君自身に移っても何一つ言わずに耐えていた。

困っている子がいると覚えたての魔法を使って、その子が笑うまで無言でずっと魔法を披露していたね。



君は優しい心を持った子だ。

偏に優しすぎた。



someone、君はね。





目標とする【魔術師】にしては“正常すぎる”。




でも、それこそが【魔術師】からすると“異常”であり。
君は既に類まれなる素質を得ているという裏返しにもなる。



私が保証する。
君はとても良い【魔術師】になるよ」

がっくりと項垂れるsomeoneを尻目に、791は立ち上がった。

791「君からの話を待っていたけど、もう時間が来ちゃった。

だからもう話さなくていいよ。
予定通り、カカオ産地は制圧され直にオレオ王国は滅亡しカキシード公国に飲み込まれる。
そんな強硬策を強いたカメ=ライス公爵は民衆の力を借りた宮廷魔術師791によって遂に駆逐され、平民から成り上がった者によりこの国は統一される。

私が玉座に就いた暁には君の手を借りなくてはいけない。
だから、今回のことは特別に不問にしてあげるよ。
でももうちょっとだけここにはいてもらおうかな」

“魔術師”791は狂っている。
だが、その狂気は純粋無垢な清純さゆえ来るもので、本人に悪意は無かった。


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