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6-14:裁きの遂行編

初公開:2021/07/04



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【きのこたけのこ会議所自治区域 ケーキ教団地下 メイジ武器庫 5日前】

Tejasが暗闇の中で奇妙な同行者オリバーに協力を誓った後、彼は自身の真の名を霊歌だと明かした上で、someone経由で聞いた【会議所】の目論見、そして自分たちが今どこにいるかをかいつまんで説明した。

霊歌『…というわけで。ここはケーキ教団を隠れ蓑にした【会議所】一部連中の保有する、“メイジ武器庫”という名の格納庫のわけさ』

全ての説明を終えた満足感からか、霊歌は両の前足を胸の前に組みさらに反り返った。
二人を照らしていた魔法の火の玉も、嬉しそうに彼の周りを飛び回っている。

一方で、Tejasは神妙な表情ながら困ったように何度か首元を掻き、目の前の友人から説明された突拍子もない内容を理解するために内心必死な様子だった。
こういう時に慌てふためないのは若者ながらさすがだ、と霊歌は思った。自らの主人のsomeoneと同じ冷静さが備わっている。

Tejas『あー。長々と説明ご苦労。いきなりの話に頭がついていけていないが、つまりここは滝本さんたち【会議所】中心メンバーの秘密基地で、こいつらは秘密兵器・陸戦兵器<サッカロイド>。
これを使って、【会議所】はこの戦争にタダ乗りしてオレオ王国を奪っちまおうと。そういうことだな?オリバー』

霊歌『さすがは“マイスター”だな。概ねその通りだ。ただ、オレの名前はオリバーじゃなくて霊歌さ、Tejas』

Tejas『ああ、そうだったな…ええい、偽名なんてものを使うからこんがらがるんだ…それで、俺はどうすればいい?』

霊歌はピクリと動きを止めた。

霊歌『オレの話を…疑わないんだな』

“はぁ?”とTejasは素っ頓狂な声を上げた。

Tejas『最初に言っただろう?俺はお前を信じるよ、霊歌』

複雑さの中に霊歌はいて、この発言はどれほど彼を安心させただろうか。体の中心部にぽっと暖かいものが流れ、うるおっていくようだった。

【使い魔】である霊歌の存在理由は、主人であるsomeoneの生命を少しでも永らえるため。その一点に尽きた。
あくまで魔法使いsomeoneの利用価値の高さを791に説くための材料であり、その目的が終わりさえすれば、後はできるだけ従順なふりをして彼女らの警戒を解き、いつか訪れる“儀術”での脱出準備を整える。
当初の宣言通り、霊歌は王国内でクーデターを煽動したものの、その任務を終えるや否や霊歌は王国内の何処かに身を潜めていようと考えていたのだ。

それは何も自発的な案ではなく、あくまで消極的な妥協案だった。
主人を牢獄から逃がす際に少しでも宮殿から離れていたほうがいいだろうという、成り行き上の話だ。

だが、カカオ産地でたまたまTejasに窮地を救われ、自分たちを取り巻く状況はガラリと変わった。そして、目の前の“マイスター”は自分のことを手放しで信じると言う。

あの夜に二人が儀術のための追加契約を交わした際に運命の賽は投げられた。
そしてその賽の目は最高の形となり霊歌の前に表れた。自分たちはまだ戦える。その運と覚悟がある。
霊歌はようやくのことで唾を飲み込み、事態の重要性を理解できた。

霊歌『分かった。あんたの好意に感謝する。
でも、まず作戦会議をしたい。一度、ご主人と話してもいいか?』

Tejas『それはいいが…その“ご主人”とやらは何処にいるんだ?』

きょろきょろと暗闇を見回すTejasに、霊歌はニヤリと笑いながら前足で自らの頭をトントンと叩いた。

霊歌『ご主人は遠く離れたカキシード公国の牢屋の中にいる。会話は、頭の中でするのさ』

今度こそ、Tejasは霊歌の言葉を疑った。

霊歌『ご主人…聞こえるか』

訝しげな彼の目線など気にせず、霊歌は頭の中でsomeoneを思い浮かべ呼びかけた。

―― 霊歌…か。今まで、いったい何処にいたんだ。

返事はすぐに帰ってきた。
頭の中に響く彼の声は、以前会話した時よりも弱々しくなっているように感じる。この様子では、監禁による疲労と自分への魔力供給があわさり相当堪えているようだ。

霊歌『すまねえな。王国での煽動任務は済ませたんだが、帰りに“ちょいと”野暮用に引っかかちまってな。今はカカオ産地にいる』

―― …カカオだってッ?なんて危ない場所にいるんだッ。すぐに避難を――

霊歌『もう遅えよ。戦争に巻き込まれ、おれたちはいま閉じ込められてる』

―― そんな…ん?おれ“たち”?

その言葉に、霊歌はまたもニヤリと笑った。事態を飲み込めていないTejasは彼のことを諦めたのか、再び陸戦兵器<サッカロイド>の透明な巨体を見物している。

霊歌『聞いて驚くなよ、ご主人。おれはいま、あんたが言っていた“鍵”とともに、メイジ武器庫にいる。この意味がわかるか?』

脳内越しに息を呑んだ声が聞こえ、数秒の沈黙の後に彼の震えたような声が返ってきた。

―― まさか…そんな“奇跡”が起こるなんて。

霊歌『ご主人はここ最近、不幸続きだっただろう?
たまにはこんな幸運あってもいいんじゃないか?まあ享受しているのはおれなんだが』

Tejas『そろそろ話はついたかい、霊歌?』

Tejasは目の前の冷えた飴細工に考古学者のような熱視線を送りつつ、背後の同行者に声をかけた。
霊歌はそこで一度主人との会話を切り、器用に彼の肩の上に跳び乗った。

霊歌『ああ、実にスッキリとしたいい案が浮かんだ。
なあTejas。あんたは、その右腕で触れた生命体に精神上で繋がることができるし、無理やり洗脳するなんてこともできる。そうだよな?』

Tejas『ああ、そうだ。本格的に試したことはないが、できるはずだ』

火の玉の照らす彼の横顔には、少しの戸惑いの色が見え隠れしていた。どうやらこの能力を他人のために使用することには少し迷いもあるようだ。
年齢のわりに大人びて見えていたが、霊歌は初めて年相応の彼の姿を垣間見た気がした。

霊歌の頭の中である案が浮かんでいた。どうしても彼の力を借りないといけないのだ。
単純明快でいながら、これまで一度も考えてこなかった案だ。絶体絶命の危機にありながら、興奮でかえって彼の頭は冴えていた。

霊歌『きけ、ご主人。この事態を打開できるたった一つの名案をこれから伝える』

―― 聞くよ。

一言で返したsomeoneの言葉に、霊歌はこれから彼のあっと驚く反応を見られると思うと、にやついた笑みを抑えられなかった。

霊歌『Tejasに陸戦兵器<サッカロイド>の魂へ干渉してもらい、“自爆”するよう洗脳する』

―― ッ!

someoneとTejasの二人の息を呑む声が、霊歌には同時に聞こえてきた。

霊歌『あんたとおれの目的は、魔術師791の野望を砕き、【会議所】のいけ好かない連中もギャフンといわせることだ。
前者の目的はこのままだと達成されるが、陸戦兵器<サッカロイド>が投入されれば王国は蹂躙され、立ち向かう手段はない。

それでは意味がない、だろう?
つまり、この図体のでかい巨人どもが歩き回っている限り、おれたちに未来はないということだ』

―― そうだ…僕はそれで一度、滝本さんたちに敗北して公国に戻され捕まった。

霊歌『いまが千載一遇の好機だ。
おれからしても、主人の仇を討つ絶好のチャンスというわけだ』

次第に事情を飲み込めてきたのか、Tejasは鼻まで垂れている前髪を何度か触りつつ、思案気に自らの考えを口にした。

Tejas『元々、奴らは俺を使って英霊たちの魂を完璧にこの陸戦兵器<サッカロイド>の器に締め付けようと計画してたんだろう?
でも、俺がいなくても動いているってことは、それはもう不完全ながら完成したってことだよな?』

―― …なるほど。“完成している”ということは、一般的に見れば、魂と器は既に定着していると考えられる。

Tejasの言葉になにか気づいたのか、someoneは感心したように意見を口にした。

霊歌『そうだ、つまり陸戦兵器<サッカロイド>は、既に完全な生命を持った“生物”になったということだよ』

Tejasも気づいたのか、思わず“あっ”と声を漏らした。
それに被せるように、脳内に珍しく興奮気なsomeoneの声が聞こえてきた。

―― つまり、Tejasさんの呪いの力は、陸戦兵器<サッカロイド>の器越しにも通じるということかッ!

Tejasの右腕の呪いは、指定した有機物に対してコミュニケーションを取る儀術“キュンキュア”の成れの果てだ。
相手の知られざる声を聞くだけでなく、自らの意志や考えを伝え植え付ける方法も可能であることは、既に彼自身が過去に実証済みである。

陸戦兵器<サッカロイド>の器だけであれば生命を持たない無機物なので伝達の能力は使えないが、そこに英霊の魂が組み込まれれば眼前の兵器は命を持った有機物となる。

Tejas『確かに。こんな馬鹿でかい箱物だが、生命を持っているな。英霊とやらの声が聞こえてくるぜ』

ひんやりとした飴細工の身体に手を当てると愉快そうにTejasは笑った。

霊歌『へぇ。過去の偉人さんたちは、なにを仰られているんで?』

Tejas『なに。他愛もないことさ。“早く戦場に出してくれ、血とチョコに飢えている”だとよ』

霊歌はTejasの肩の上で、徐(おもむろ)にしかめ面をつくった。

霊歌『血気盛んな兵士たちなことだ。
初期の【大戦】には野蛮な戦いが多かったときくが、よもやここまでとはな』

脳内に期待と焦りの入り混じった主人の声が響く。

―― 僕にも見えたよ。霊歌の考えで、戦争を終結させる方法がッ。

霊歌『すごいな。おれはこの方法までは思いついたが、最終的に公国軍をどうやって抑え込めるのかまでは想像もできない。すべてご主人に任せるぜ』

霊歌にsomeoneの考えまでは分からない。
だが、主人の言葉にこれまで間違いはなかった。信じないという道はない。

―― わかった。まずは、Tejasさんに、今から伝える内容で陸戦兵器<サッカロイド>に“自爆”を仕込めるかどうか確認してほしい。

霊歌『いいぜ。恐らく、ご主人とおれの考えている企みは同じだ。
もしこの手段が可能であれば、残り11体の陸戦兵器<サッカロイド>全てに同じ手法で“仕掛けられる”』

Tejas『それで、俺はこの偉大なる先人方に何を伝えればいいかね?』

冷気を発する身体に手を当て続けながら、Tejasも意地が悪そうににやりと笑った。

―― こう伝えてくれ。戦場で互いの陸戦兵器<サッカロイド>を見つけたら――


霊歌はsomeoneの指令を一通り聞き、その“性質の悪さ”にニヤリと笑った。

霊歌『ありがとうな、ご主人。たしかにTejasに伝えるよ。
ところで、あんた性格悪いと言われないかい?』

―― 霊歌、鏡でも見たのかい?

霊歌はそこで主人と通信を切り、若き“マイスター”に目を向けた。
彼は既に陸戦兵器<サッカロイド>の身体に手を当てたままこちらに顔を向け、待ち構えている様子だった。

霊歌『待たせたな』

Tejas『いいぜ。準備はできている』

破れた右腕のジャケットからちらりと見えている腕の紋章は既に強く発光し、その青白い光線は透明な飴細工の中を綺麗に透過していた。

霊歌『じゃあ、今から言うことを英霊殿に伝えてくれ。
戦場で、互いの陸戦兵器<サッカロイド>を見つけたら――』

―― 戦場で互いの陸戦兵器<サッカロイド>を見つけたら、味方ではなく敵だと思え。
―― 奴らは戦場においては一切味方ではない。
―― かつての同胞の振りをした、まやかしの兵士である。

―― 貴殿は騙されてこの隊へ入隊した。
―― 誉れ高きその魂を護るために取るべき手段は只一つ。一体でも多く殲滅することである。
―― 最後の一体になるまで殲滅しあうのだ。

―― 奴らの身体から魂を奪い、空に解放しろ。
―― 魂をあるべき場所に戻せ。貴殿の戦う場所は地上に非ず、天にあり。

―― そして自分が戦場に立つ最後の一体となったら。

―― 同じように、自らの力で、自分の魂を空に解き放て。
―― これこそが、お前たち“感情無き”英霊が救われる唯一の道である。


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【オレオ王国 王都】

Tejas「メイジ武器庫から戦場に出た陸戦兵器<サッカロイド>たちは最初こそ軍兵を襲うが、互いを戦場で視認した瞬間、俺の命じた“言葉”を思い出す。
そして、滝さんたちの話した内容などほっぽり出して、闇雲に殺し合うのさ。こんな風にな」

Tejasは一連の説明を終えた。最初からメイジ武器庫内で争わせず、公国軍と王国軍のいる戦場内で争わせることにも意味があった。
両軍兵は慌てふため戦争などしている場合ではなくなるからだ。

滝本「私たちは出し抜かれたというわけですか…」

陸戦兵器<サッカロイド>たちは捕まった滝本の姿には目もくれず、まるで宿敵を見つけ怒りに駆られた少年のように、互いに取っ組み合っては身体を地面に叩きつけあっている。
勢いよく巻き込んだ民家や建物など、子供のおもちゃの一部のように気にもとめず、目の前の“敵”を屠ることに一心不乱になっている。

地面に突っ伏したままの滝本は呆然と、まるで表情の変わらない仏像のような面持ちで、目の前の“暴乱”をただ眺めていることしかできなかった。

斑虎「滝さん。貴方はもう終わりだ。おとなしく投降してくれ」

そこで滝本は、目の前の光景から目をそらすように静かに頭を振った。

滝本「それはできない相談ですね。そうしたら、誰が【会議所】を国家にするのです?」

横から覗き込んでいた斑虎の目には、普段蒼い滝本の眼が仄かに赤く光ったように見えて、彼は一瞬疑うように彼の顔を見直した。

そのため、斑虎は周りへの気を一瞬解いてしまった。


それがよくなかった。


someone「…ッ」

バタリ。

背後から鳴った軽い音に斑虎が振り返ると、そこにはsomeoneの力なく倒れた姿があった。

斑虎「someoneッ!!」

我を忘れ彼の元へ駆け寄り腕で抱き抱えると、彼は虚ろな目で上空を見つめ、息も絶え絶えといった様子だった。きっと、これまでの疲労がここにきて顕在化したのだろう。
投獄による憔悴、儀術を用いた脱出劇、Ωとの戦闘での再度の儀術の行使。考えてみれば、常人の消費する魔法力は遥かに超えていた。

なぜ、親友の異変に気づいてあげられなかったのか。寧ろ、危険な目に合わせたのはこちらの責任じゃないか。
斑虎がそう反省しかけたのも束の間――

滝本を簀巻きにしていた紐はsomeoneの気絶とともに制御を失い、跡形もなく溶けた。

次の瞬間。
まるでこの時を待っていたかのような瞬発力で、滝本はすぐに跳ね起き自分の身に治癒魔法をかけた。
そして回復も待たず、脇目も振らず陸戦兵器<サッカロイド>の方へ、その先の戦場に向かい、一意専心の思いで駆け出し始めた。

斑虎「『フランセーバー』ッ!!」

咄嗟に滝本へ剣を投げつけるも、まるでその動きすら読んでいるかのように彼は身体をしならせ、時には身を翻し不格好な姿勢ながら、巧みに斑虎の攻撃を避け続けた。
まるで鼠が外敵から逃げるときの様子とよく似ていた。

滝本はあっという間に巨人たちの足元まで走ると、争っている彼らに目もくれず、速度を緩めることなく彼らの股の下を通り過ぎ加速した。
直後に巨人たち同士の攻撃で舞い上がった砂埃も相まって、斑虎たちはすぐに彼の姿を見失ったのだった。


斑虎「あの野郎ッ!!ネズミのようにちょこまかと逃げやがってッ!」

someone「斑虎…頼む…」

斑虎は怒りを抑え、すぐに腕の中で弱っているsomeoneへ目を下ろした。

いまの彼は、顔中に汗が吹き出しいつもはふわりとした赤髪も汗でべたりと顔に貼り付いている。
【大戦】でもあまり汗を流すことのない姿をいつも見てきただけに、彼のここまで弱った姿は衝撃的だった。

斑虎「ずっと魔力を使っていたんだよな。そりゃあ、倒れるのもあたりまえだろうッ。
あいつのことはいい。今はお前の無事が――」

someone「――それでは駄目なんだッ」

斑虎の言葉を遮り、someoneは荒い息を吐きながらも強い口調で制止した。
ヘーゼルカラーの瞳を潤ませながら、その内に“正義の火”を宿した親友の眼は、こちらだけをただ一心に見つめていた。

someone「ここで滝本さんを逃せば…これまでの努力が全て水の泡だ。
陸戦兵器<サッカロイド>は封じた。
あの人を捕まえれば、791先生の野望を抑える手立てもある。

斑虎、お願いだ。彼と彼女を止めてほしい」

斑虎「someone…」

斑虎の心配をよそに腕の中でsomeoneは静かに、力強く言葉を続けた。

someone「さっき斑虎が口にした言葉だけど…違う。
誰かが裁くのを待つんじゃないよ、斑虎。


“僕たち”さ。


“僕たち”が、



                        裁きの鉄槌を下すんだ、斑虎」


ガツンと殴られたような衝撃が斑虎にはあった。

目の前の親友はいつの間にこれ程強くなったのだろうか。諦めかけていた自分を叱咤激励できる存在になったのだろうか。

someone「僕なら…大丈夫。気にしないで」

そこでsomeoneはいつものように取り繕うように、儚げに微笑んだ。
そして、こちらに差し出されたsomeoneの握り拳に、斑虎は何も言わずに自分の握り拳を一度だけ触れ合わせた。

二人には、それだけで十分だった。

斑虎「…わかった。
お前の意志を継いで必ず【会議所】の野望を、791さんの野望を打ち砕くと約束しよう。

Tejasさん、悪いけどsomeoneの介抱を頼む」

Tejas「わかった。斑虎さん、お気をつけて」

横に控えていたTejasにsomeoneの身体をそっと移すと、頭に巻いたカーキ色のバンダナをきつく締め直し、斑虎も走り出した。


後ろの二人を振り返ること無く駆ける。
前方で揉みくちゃになっている陸戦兵器<サッカロイド>たちの横を通り、速度を緩めず駆け抜ける。

巻き上がった砂煙に包まれ、硝煙と粉塵で灰色に閉ざされた視界が、いまの斑虎にはただ心地よい。

この灰色の世界を抜けた先には、残酷な現実が待っている。
だが、同時にsomeoneと望んだ平穏な日常のための一歩を踏み出せるのだ。


“彼ら”の野望を止めるため。

               彼の意志を継ぐため。
    
                            “正義”の火を燃やしながら。


裁きの代行者たる斑虎は走る。走る。ただ走り続けた。





【オレオ王国 王都周辺 ルヴァン平野】

滝本「ハァハァ…これは。¢さんと参謀に合わす顔がないな」

燃え盛る王都を辛くも抜け出し、戦場までをつなぐ小高い丘に辿り着いた滝本の眼には、目の前の光景は想像を絶する悲惨なものだった。

彼の想像通り、数km程度離れた前方の戦場には立ち込める爆炎の中に、透明な飴細工の巨躯が何体も浮かび上がっていた。
本来、それは全ての人間に未知なる恐怖を与える光景だった。

だが、彼らは本来の目的である足元の兵士を蹴散らすことなどせず、本来同胞だったはずの味方同士で血生臭い乱戦を繰り広げている最中だった。
路上で格闘家同士が出くわしたかのように、彼らは互いに一定の間合いを取り牽制していたかと思うと、次の瞬間に重みのある一撃を浴びせ始める。
まるで荒くれ者の喧嘩のように、無茶苦茶で気品も誇りもない。
そこにあるのは濁った“殺意”だけだった。

巨人が倒れるたびに激しい地鳴りが巻き上がり、数秒遅れて滝本の足にも揺れが伝わってきた。揺れが伝わってくる度に彼の心はひどく冷え込み、血の気の引いていく感覚が実感できた。

¢を始めとした陸戦兵器<サッカロイド>の開発者たちは、口を揃えて彼らを“最強”と表現した。
だが、それはあくまで彼らが人間と戦う時の話で、巨人同士の戦闘となると話は全く別だ。

巨人たちは自分の持つ“弱点”を理解している。即ち、器に込められた“魂”を剥ぎ取られることだ。
強固な飴細工の器に魂だけを埋め込まれたことを理解している英霊たちは、同胞の心臓部から魂を剥ぎ取れば、相手の身体はただの人形に戻ることを理解しているのだ。
そして、通常の人間であればこじ開けられない心臓部に取り付けられたハッチを、同じ陸戦兵器<サッカロイド>の腕力であれば壊し剥ぎ取ることが出来る。

だから、彼らは武器を手に取らず泥臭く素手で戦い、相手の心臓を抜き取ろうと躍起になっているのだ。
全てはTejasの命じた意思のまま、同胞の魂を天に返すことが正しいと信じ込んだままでいる。

滝本が目を凝らすと、戦っている彼らの足元には、既に横たわったままピクリとも動かない透明な“器が”何体か転がっていた。
それは陸戦兵器<サッカロイド>“だった”抜け殻だった。

滝本「ベニマダラサンショウタケさん、ゴダンさん。アルカリさんまで…逝ってしまったか。
すみません、私の力が足りないばかりに…」

既に空に放たれた英霊たちの名を呟き、滝本は独り肩を落とした。
彼の落ち込んだ気持ちを増幅させるように、その間も振動は絶え間なく伝わってきていた。

しかし、彼は顔を上げるとすぐに辺りを見回した。

生への執着。

これこそが今の滝本に課せられた使命で、窮地の中で彼を生かし続けている強さの源でもあった。

いま滝本の足元、即ち丘のふもと部には巨人たちの狂宴から逃れた両軍兵士が続々と終結しつつ合った。
当初兵士たちは、突如として戦場に現れた巨人たちに驚き恐怖したことだろう。きっと両軍の垣根を超えて応戦しようとしたに違いない。
だが、そのうち突如として同族の殺し合いを始めた巨人たちに戸惑い、今は両軍兵士とも武器を捨てもみくちゃになりながらも王都付近まで退避してきていた。

軍属が違えども遅れている兵士には互いに手を取り叱咤激励しあい、今だけはいがみ合うことを忘れ、互いに手を取り合い危機に立ち向かっているようだった。

滝本は冷静に、この状況を逆に好機だと捉えた。
ここから丘を下り兵士たちの集団に混ざれば、追手から逃れることができる。

自らの役目は【国家推進計画】の火を絶やさないことだ。
生きて【会議所】に戻り、自分の背中を押してくれた二人に状況を伝えることだ。

―― なにをしているんだい?はやくその足を動かしなよ。

心の中に“声”が響く。分かっている、分かっているのだ。いまやろうとしたところだ。

そうして、苛立ち気に足を動かそうとした丁度その時――


「滝本スヅンショタンッ!!」


背後から投げかけられた声に、苦々しい表情で滝本は振り返った。


そこには息を上げながらも、手に携えた双剣で退路を塞いでいた斑虎が立っていた。

斑虎「全て事情はきいたッ!お前の悪事はここで終わりだ。
俺が、いや“俺たち”がお前を此処で裁くッ!」

滝本「これだから直情型の人間は困る」

滝本は背中に手を回すと、透明になっていた魔法の弓の握(にぎり)の部分を掴み、静かに取り出した。

斑虎も鋭い目を細め、まるで獲物を狩る獰猛な肉食獣のように双剣を構えた。

張り詰める緊張感。
数秒ほど、無機質で互いに心の通っていない時間が流れた。


その失った時間を取り戻すように、煤だらけになった滝本のアオザイから出る風に流れるハタハタとした音が、二人の緊張感を最大にした後に一気に破裂させた。

滝本「私の、いや“私たち”の野望はこんなところでは終わらないッ!終わらせないッ!

『マルチブルランチャー』!!」

先に動いたのは滝本の方だった。

顎を上げ上空に素早く弦を引くと、放たれた一本の光の弓矢は上空で花火のように数十にも四散し、その全てが炸裂弾となり斑虎に向かい急速に落下してきた。

斑虎「『マッシュラッシュ』ッ!」

すぐに反応した斑虎は上空の砲撃など目に止めず、自らに移動加速の魔法をかけ、その場を駆けた。

滝本の放った砲弾は追撃型で地面に落ちる寸前で向きを変え、次々と斑虎に向かっていったが、ある弾は加速した斑虎を捉えきれず爆発し、ある弾は斑虎に斬り伏せられた。
そうしながら、十数mはあった二人の距離はあっという間に縮められた。

滝本「くッ!」

身に迫った斑虎の斬撃に対し、滝本は咄嗟に弦を身体の前に出し、彼の斬撃を一度は防いだ。
しかし、彼の軟弱な身体は斑虎の放った一撃に耐えられず、その身は数m先まで吹っ飛ばされた。

それでも倒れることを奇跡的に堪えた彼は、なおもこちらに向かってくる斑虎に対し、砂地内に密かに展開していた魔法を解き放つべく、すぐに詠唱の準備に入った。

滝本「『わたパ地雷』ッ!」

途端に斑虎の足元一帯に、仕掛けられていた赤色光の魔法陣が次々と顕になった。

斑虎「ッ!」

滝本「起動せよッ!!」


一瞬の間もなく、斑虎のいた一帯は轟音とともに途端に大爆発を起こした。

巻き起こる粉塵、砂煙に滝本はすぐに顔を背けた。
実践感覚の遅れから火力の調整を忘れ最大出力で魔法を放ったのは悪手だった。
次の動作に遅れを来す。だが、当たれば敵の身体は跡形もなく消し飛ぶから一長一短でもある。正真正銘、これが滝本にとっての必殺技だった。

あまりの爆音に前方の陸戦兵器<サッカロイド>たちを見つめていた兵士たちの一部も、驚いた表情で滝本たちのいる丘から吹き出た爆炎に目を向けていた。
それでもなおも炎上する王都の火災の一部と捉えたのか、こちらに向かってくる兵士がいないのは彼にとって幸運だった。


それでも、丘の上の滝本は満身創痍だった。
既に魔法力の大半を自身の治癒魔法と先程の攻撃魔法に充てており、魔力は枯渇しかかっている。

先程まで斑虎の立っていた場所は、巻き上がった土煙と硝煙でその姿は眼に映らない。


死んだのだろうか。いや、死んでいてくれないと困る。
確認する手間を惜しみ、滝本はすぐにその場から駆け出そうと踵を返し――


斑虎「駄目だねえ。戦いの最中に背を向けちゃあ」

――煤にまみれた斑虎と相対した。

滝本「これは驚いた。まさか亡霊じゃないですよね?」

思わず足の止まった滝本に、黒まみれの“虎豹”はギラギラとした目を向けた。

斑虎「咄嗟に地面に突いた剣を踏み台にして跳んだから離脱できたのさ。
愛剣を一本失ったが、火力のおかげで残っていた追従弾も全部消失したし、俺にとっては良いことずくめさ」

ジリジリと後ずさる滝本に、斑虎は残った一本の剣で構えると冷たい眼差しで言い放った。

斑虎「来いよ。あんたも兵士だろ?」

その瞬間。

妙な意識に滝本は全身を支配された。

毛穴という毛穴が総毛立ち、手足の先から頭の頂点に向かい急速に血が湧き上がっていくような感覚。
頭の中が赤一色のペンキで上から塗りたくられ何も見えなくなり、考えられなくなるような先入観。

なぜだろう、なぜここまで全身が震えるのだろうか。
このような異常な感覚に出会ったことも、また制御する術も彼はまだ身につけていなかった。



それは“闘志”という感情だった。


滝本は反射的に手に持った弓を投げ捨て腰の鞘から脇差(わきさし)を抜くと、がむしゃらに斑虎に突進した。

滝本「このッ、たけのこ風情がァ!!」

斑虎は、片手で持った剣の刃先で彼の一撃をすりあげると簡単に横へ払った。
相手を斬るためではなく、勢いを殺すための応じ技だ。

怒りに身を任せた突進は脇に逸らされ、滝本はそのまま無様にも丘から転げ落ちた。


転げ落ちる中で、滝本は些か冷静になっていた。


逃げなければならない。

卑怯者と罵られようとも彼との対決から逃げて【会議所】に戻り、¢と参謀の二人に計画が失敗したことを伝え、何処かに逃げ延びて再起を図るための準備をしなければならない。
此処で彼と退治しても百害あって一利もない。

そうして兵士たちのひしめき合う丘のふもとまで転げ落ちた滝本は、周りの目など気にせず、ただ手元に転がってきた脇差をじっと見つめた。


きっといま耳をすませば、心の奥底で“彼”がいつものように冷たい悪態をついていることだろう。

この行いは間違いだと。全てを無駄にする気かと。
何のために今日まで準備をしてきたのか、何が最善かを考えろと。


だから、その“雑音”を打ち消すため。




滝本は、腹の奥底からただひたすらに叫んだ。


滝本「ああああああッ!!」

すぐに起き上がり脇差を手に取ると、歩いて下ってきている斑虎に向かい再び突進した。


本能が言うことを聞かなかった。
初めて理性に反抗した。もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。

この行いが正しいとは露ほども思えない。だが、内にある兵士としての矜持を、誇りを、滝本は捨てきれなかった。

それは人間ならば誰しもが通る道だった。
ただ、心の幼い彼にはこの感情が一体何であるのか、なぜこれ程までに抗えず尊いものであるかを最後まで気づくことはできなかった。


斑虎は、今度は攻撃を払わず剣身で彼の一撃を受け止めた。
そして無言で、かくも武人然とした振る舞いで、ただ剣越しに向かい合う必死の形相の滝本に対し、冷たい瞳で剣を振るった。

滝本も必死に応戦した。
相手の攻撃を見て必死に受け止める。そして相手の動きが止まったところですかさず反撃をする。

一進一退の攻防だと感じた。

確かに斑虎は強い、いつもの自分ならば到底敵わないだろう。
だが、この必死の戦いの中で急速に成長している実感が滝本の心を支配していた。

今もまた斑虎の剣を払い反撃する。
惜しくも彼に避けられたが、数刻前までは考えられなかった進歩だ。

いつかの抹茶との会話の中で、個の存在が消えることは悲しみであるという話に疑問を持ったことがある。
その時は、現世への執着など一切なかった。ただ自分自身を心に埋め込まれた“遺志”のために動く代行者だと思っていた。

だが今は違う。

生きたい、生き続けたい。
“遺志”のために湧き上がった感情ではなく、自らの“意志”でそう感じているのだ。
この危機の中で芽生えた彼の決意は爆発的に全身に広がり、彼自身を急速に突き動かしていた。

滝本の眼の中には、明らかに今まで見えなかった希望の色が動いていた。
まだ戦える。予想外の善戦だ。
これは決して勝つことも夢ではないのではないか。そう思った。




だが、それは周りの兵士の眼からすると善戦などではなく。
二人の戦いは剣術の基礎を教えている教師と覚えの悪い下手な生徒、というような構図に過ぎなかった。





滝本「ハァハァ…」

ほんの数分の戦闘だったが滝本にとっては恐ろしく長い時間の中で、斑虎に何十度目かの攻撃を払われ先に跪いた。彼の闘志よりも先に身体が限界を迎えていた。

斑虎「もう終わりかい?会議続きですっかり身体がなまっているんじゃないか、滝さん?」

汗だくの滝本に容赦ない言葉が投げかけられる。
元々、彼に戦闘の素質はない。魔法力も凡庸の域を出ず、会議所議長という役職でなければただの並以下の一般兵士だ。

しかし、それでも滝本には諦められない。
【会議所】を国家にするという夢を。“彼ら”を泣かせた世界への復讐を、“彼”の夢見た野望を諦めることができない。

顔中から大量の汗が吹き出し、地面にこぼれ落ちる。
疲労から目がかすれ、ふと意識を手放してしまえばその場で倒れてしまいそうだ。
今だって、戦いの最中だというのに知らずのうちに顔は地面に下がってしまっている。

そのような中で、彼はふと地面に落ちていた小汚い本と目が合った。
砂まみれになりながらも表紙に描かれていた絵には見覚えがあった。

『牢獄の正義』だ。
参謀に返し損ねて持ってきていたが、いつの間にか懐から滑り落ちてしまっていたらしい。


―― 滝本。何かあれば、俺達は三人一緒や。

そこで、滝本は急速に思い出し始めた。五日前に暗闇の通路内で三人と交わしたやり取りを。

“記憶”だ。
今の自分の中を駆け巡る熱い情動は、全て自分が生まれ変わってからの“記憶”の結果だ。

【大戦】を愛し、【会議所】を存続させ、そして¢と参謀の元に戻る。
この目的だけが今の自分を突き動かしている。

斑虎「聞いたところによると、滝さん。あんたは、ただ任務を遂行するための機械だ。
つまり意志を持たない人形だ。遠くで暴れている巨人たちと同じ、な」

少し遠巻きに周りの兵士たちが見つめている中で、斑虎は敢えてきつい言葉をかけた。
その言葉に、うなだれていた滝本はカッと目を見開くと、勢いよく顔を振り上げた。

滝本「人形だとッ!?
私はッ、私はッ!!私の意志でッ【会議所】を発展させるために努力してきたッ!
“あの人”の遺志は関係ないッ!!」

斑虎が初めて見る、理性で制御された滝本の激昂した姿だった。

滝本「ふざけるなッ!二人に約束したんだッ、また戻るとッ!

私の身体なぞどうなってもいいと思っていたッ!ただ、【会議所】を残せればそれでいいと思っていたッ!!

だが、それでは駄目なんだッ!生きて戻りこの手で【会議所】を導くッ!!

それこそが、私の“意志”だッ!!」

その時、滝本から少し離れた背後で、一体の陸戦兵器<サッカロイド>が勢いよく倒れ、その振動が大きな地鳴りとして伝わってきた。

斑虎は気を取られ、そこに一瞬の隙ができた。

本来、戦闘の素質のない滝本なら気づかないような一瞬の隙。
しかし、今の彼は不思議と戦いの間を理解できていた。


頭で動く前に、身体が動き始めた。


滝本「あああああああああああああッ!!!」

突然の奇声に斑虎が意識を戻すと、眼前には死にものぐるいの形相で滝本が襲いかかってきたところだった。


滝本の渾身の一撃は流石の斑虎も防ぐことができず、脇差は彼の腹を勢いよく貫通した。

驚愕の顔で彼は倒れ、滝本は馬乗りになり彼の腹に脇差を何度も突き刺して刺して、刺して刺して刺して――













そうは、ならなかった。



鋭い眼光で、闇雲に走ってくる彼の動きを視界に捉えた斑虎は、咄嗟に身を低くし、片手剣を左脇に構えまるで刀剣のように抜刀の構えを取った。
心技一体で古くから伝わる伝承技を放つための動作に入ったのだ。


はるか昔、大陸には鬼が存在すると言われた。
常人よりも遥かに強力で人の手には負えず、彼らは暴虐の限りを尽くした。魔法も槍もきかず、彼らの横暴に人々は泣き寝入りをし少しでも自分に火の粉が降りかからないように祈るしかなかった。

そんな跳梁跋扈した鬼たちを退治したのは、鬼退治を生業とした名もなき討伐団だったという。

彼らはみな一様に奇妙な刀を帯刀していた。
見てくれはなまくらの剣で、通常は人を斬れないほどに錆びついたものだが、一度鬼と退治した際にはまるで生き血を吸った吸血鬼のように錆が消え切れ味が蘇り、彼らの首を軽快に刎ねる名刀と化した。

人々は討伐団を崇め奉った。
全ての鬼退治を終えた帰りの道中、好奇心のある童子が飛び出してきて、最後尾を歩く一人の剣士にこう尋ねた。“どうやったらその剣で斬れるようになるの?”と。

剣士は笑ってこう答えた。

“何も特別なことをしているわけではない。『鬼』と名の付いたものしか斬らないだけだ。
また各地で鬼が出ればこの剣で斬るし、たとえ人の形をしていた鬼だとしても斬る。
もし人の心に鬼が巣食えば、その心に居座る鬼だけを断ち斬る。

この剣はあくまで人の心の写し鏡なのだ”と。


斑虎「『鬼斬閃冥<おにぎりせんめい>』ッ」


短い言葉とともに腰から抜刀した剣先は、丁度眼前に迫った滝本の懐の前から肩口に向かい綺麗な弧を描いた。

剣を介し向かい合う二人の間から微かな光が漏れ出た。
果たして彼の身体から漏れたのか、剣先から発せられたものかどうかはわからない。ただ、血は一滴も吹き出なかった。


斑虎は決して彼を斬ったわけではない。


彼の心に巣食う“鬼”だけを斬ったのだ。

前任者の“遺志”という“鬼”を抱える滝本に向け、斑虎は容赦ない一撃で斬り伏せた。


何が起きたかもわからず、哀れな青髪の兵士は、力なくその場で倒れ込んだ。

斑虎は剣先を下げると、ボロボロに刃こぼれしてしまった愛剣をまじまじと眺めた。
成功したかは分からない。元々は古い書物を見て学んだ技だ。

だが、確かに手応えはあった。

斑虎「ここで気絶できたのはまだ良かったな、滝さん。貴方にとってこの先は辛いだろう」

ざわつく周りを尻目に、斑虎は倒れた滝本を仰向けに寝かすと、静かに立ち上がり戦場に目を向けた。
丁度、陸戦兵器<サッカロイドたち>も戦いが終わったようで、激戦を勝ち抜いた最後の一体がその巨体を空に伸ばさんと立ち上がったところだった。

一瞬、斑虎は、その巨人と目を合わせた気がした。

あの器の中に誰の魂が入っているのかはわからない。
だが、斑虎とその巨人は距離こそ離れながらも、互いに一歩も動こうとしなかった。

二人の間には、歴戦の兵士同士にしかわかりえない奇妙な間があった。
互いの戦いを称え合うような、そのような時間だった。

一瞬の沈黙の後、陸戦兵器<サッカロイド>は顔を天に上げると、自分の心臓部に手を当て、間髪を入れずに心臓部に繋がるハッチを引きちぎった。

そして、心臓部内にあった英霊の魂を自らの手で掴み出すと、空に蝶々を解き放つように、そっと大事に解き放った。
赤色の靄(もや)状の魂はふわふわと上空へ向かうも、数秒するとすぐに霧散した。

同時に意識を失った陸戦兵器<サッカロイド>は、ゼンマイの切れたブリキ人形のように力なくその場に崩れ落ちた。

最後の地響きが、王都にまで響き渡った。

壮絶な光景だった。




こうして戦いは、終わった。


6-15. 裁きの遂行編へ。
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