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6-15:正義の対峙編

初公開:2021/07/16


斑虎の眼に映る戦場は、一見すると先程までと何も変わらないように見えたが、よく目を凝らしてみれば透き通った陸戦兵器<サッカロイド>の残骸で散らばっていた。
英霊の魂無きいまとなってみれば、いよいよ判別がつきにくい。

戦場に巨人は折り重なるように無残に斃れ、その巨人たちを率いていた滝本も斬り伏せたことで、遂に【会議所】の一連の襲撃は終りを迎えた。

ただ、そう理解できているのは斑虎だけで、大多数の兵士たちには未だ何が起きているか分かっていないように呆然と立ち尽くしていた。
それは自分たちを襲ったかと思えばすぐに同胞たちで殺し合った透明体の巨人が斃れ伏し、戦場に静寂が訪れたいまもなお同じだった。

彼らの顔には一様に不安気と戸惑いの色が張り付いたままだった。
この異常な事態に終わりが来ることで先程の戦闘にまた戻らないといけないのかどうか個人では判断できず、敢えて目の前の非日常の状況を受け入れているようにも斑虎には見えた。

その凡庸な輪から外れた一部の勇敢な兵士たちは既に王都の消火活動を始めていた。
彼らは目の前の真実を受け入れ、自分がいま為すべきことを理解したのだろう。そして不思議なことに、その作業には公国軍兵士も多く参加していた。

斑虎も他の兵士を消火に向かわせようと声を出そうとした直前に、彼の背後からよく知る者の声が聞こえてきた。

Tejas「斑虎さんッ!」

その声に勢いよく斑虎が振り返ると、煤まみれのTejasと彼の肩に抱えられながらぐったりとしたsomeoneの二人が丘を丁度下りきったところだった。

斑虎「someoneッ!大丈夫なのかッ!」

someoneは静かに顔を上げると、気丈な様子で頭を振った。

someone「ただの魔力切れに、ここ最近の心労が重なっただけだから」

“それよりも”と未だ顔を青ざめながら、眼前の親友は言葉を切り、真剣な眼差しでこちらの言葉を待っているようだった。
斑虎は足元で気絶している滝本二人に目で示すと、白い歯を見せ親指を突き立てた。

斑虎「“約束”は守ったぜッ」

そこで安心したようにsomeoneは口元を緩めた。
Tejasも隣で“おお”と感嘆の声を上げた。

Tejas「まったく、あんたたちは大した“英雄”さまだ」

someone「Tejasさんもね…でも、こんなの【大戦】でたけのこ軍に囲まれた時と同じくらい楽ちんさ」

斑虎とTejasは一瞬きょとんとし、すぐに笑い出した。

斑虎「言葉と態度がまるで合ってないなッ」

その言葉に、someoneも可笑しくなったのか表情を崩すと、三人は声を出して笑いあった。
先程まで繰り広げられた死闘は嘘のように、そこにはまるで【大戦】終わりの両軍兵士が陽気に話し合うような、高揚として愉快な雰囲気があった。

周りの兵士たちは、そんな三人の愉しげな様子をただ遠巻きに眺めていた。
事情こそ飲み込めないものの、いまの彼らはまるで大仕事をやり遂げたようなやり遂げた兵士の顔をしており、中心にいる彼らから発せられる空気は他の者の眼からは桃源郷のように映った。
肩を震わせている彼らを見た全員は、まるで最初から戦争など無かったかのような錯覚に陥りまでした。

今すぐにでもその輪に加わり武器を投げ捨て隣人と手を取り、肩を組み、思いっきり叫びたいという思いは各人に芽生えていた。
だが、ある種神聖な空間に不完全な自分たちが混ざると失礼ではないか、足を踏み入れることで空気が壊れてしまわないか。
そう善良な兵士たちは憚(はばか)ったのだ。

きっと、あの場に“土足”で入り込めるのは空気の読めない無遠慮な人間か、明確な悪意を持った兵士か。

もしくは、故意の意識すらない“純粋な悪意”を纏(まと)った兵士だけだろうと、周りの兵士たちは感じた。


そう遠慮する彼らを横目に、一人の兵士が遠慮なく“土足”でその場に入り込んだ。




「いやあ。見事、見事だったねえッ!」


突如、素っ頓狂な程に明るい声が響き渡り、三人を含む一同はギョッとした。
三人を囲んでいた群衆の中から、すぐに一人の兵士がぬっと現れ出た。

彼は全身を銀甲冑で纏った公国軍兵士だった。

辺りの騒然とした空気を物ともせず、ガントレットに覆われた両の手から乾いた拍手音を繰り返し響かせながら、彼は斑虎たちの前に近づいてきた。

「一部始終を見ていたよ。今まで見たどの劇よりもおもしろかったし、すごい迫力だったよ」

斑虎たちの前で止まると、彼は勿体ぶった役者のように静かに手を下ろした。
上背のある体つきのようだが、なにしろ全身が甲冑なので首から下の体躯は窺い知れない。
また、砂埃に塗れたのか、少し光沢を失ったヘルメットで覆われた頭部は、目元のスリット越しにも彼の顔を捉えられない。

不思議と斑虎にはこの兵士の声に覚えがあった。
鈴の音のように柔らかく響く高い声、恐らく女性だろう。
何処で聴いたのか、彼は咄嗟に思い出せず思案気に眉をひそめた。この高身長の人間と声による朧気な記憶とが適合しないのだ。

someone「Tejasさん、もう大丈夫です。自分で歩けます」

うんうんと悩む斑虎の横で、件の兵士を睨んだままsomeoneは静かに立ち上がった。
先程までの和やかな気は消え失せ、今の彼には先程の王都で陸戦兵器<サッカロイド>や滝本と対決した時のような、“鋭利”な気を身にまとわせていた。
そして先程までは打って変わり、強い口調で彼は語りかけた。

someone「見ていただけたのなら分かったでしょう?
戦いは決しました。



791先生。

いえ…“宮廷魔術師”791」

斑虎を含めた周りの兵士たちは再度意表を突かれたように目を丸くし、睨み合ったままの二人を凝視した。

斑虎「791さんだってッ!?
someoneッ、あの人はいま公国にいるんじゃないのかよッ!」

「バレちゃあ、しかたないなあ」

甲冑の兵士は、斑虎の焦った声から比べると呆れるほどに呑気な声を出すと、顔を覆う面甲の部分をあっさりと上部にスライドさせた。

顔の現るはずの部分には、“何もなかった”。

本来顔のある部分は空っぽで、三人の目にはヘルメットの背面内の生々しい鉛色が映っていた。
顔だけではなく全身も同じく透明人間のように空っぽなのだろう。甲冑の中身は、恐ろしいほど暗い空洞だった。

斑虎はすぐに合点がいったように目をパチクリさせた。

斑虎「なるほど、これが、【使い魔】というやつか…」

Tejas「なにを驚いているんだ。さっき霊歌を見ただろう?あ、そうか。斑虎さんは見てないのか」

突然の彼女の登場に、周りの兵士たちの中でも特に公国軍兵たちは、にわかにざわつき始めていた。
そのどよめきに、斑虎は何か嫌な気配を感じ取った。まるで、おとなしかった肉食獣がふとした拍子で興奮し再び暴れ出す直前のような、そのような荒々しく不気味な空気だ。

「“戦いは決した”?おもしろいことを言うね、someone」

【使い魔】は首を僅かに横に傾けると、文字通り表情こそ無いものの声で嘲笑った。
それは“何を寝ぼけたことを言っているのか”とでも言いたげな嘲笑の成分を含んだものだった。

「戦いは“中断”されていただけだよ、someone。

何も決してはいない。
突然、【会議所】が大きな玩具<おもちゃ>を持ってきて暴れたから水を差されちゃったけど、すぐに戦いを再開しないといけない。

それが、公国軍の使命なんだ」

空っぽの甲冑の中で反響し外に発信される彼女の朗らかな声は、周りの兵士たちの耳に不思議とよく響いた。

兵士たちのざわめきの声は大きくなった。
彼らの声の中には不安だけではなく、怒号のような成分も含まれていた。一部の兵士は、まるで感情を取り戻し自分たちの本来の目的を思い出したかのように声を荒げ、彼女の言葉に賛同するように鼻息を荒くしている。

場が混沌に支配されつつある中、someoneは怯むことなく、甲冑の空洞の中にある一点だけをただ睨み続けていた。

someone「それはできません。
貴方もこの光景を見ているでしょう。

窮地に際し、オレオ王国兵とカキシード公国軍兵は手を取り合い助け合いました。
兵士間で争いの感情はもう残っていません。

戦いは、無意味です」

彼の言葉に、いよいよ両軍兵士たちは最大級の喧騒に包まれた。
困惑し嘆く者もいれば怒り散らす者もいる。
だが、大多数の人間は勇気を振り絞り、彼に同調の叫びを上げていた。
再び訪れるかもしれない戦場での悲惨な未来を防ぎたく、その行く末を公国の“影の支配者”と対峙する彼に全て任せたのだ。
暫くすると統率の取れていなかったざわめきは一様に、ボロボロのローブを身にまとった小さな魔法使いを後押しする声援に変わっていた。

そんな彼らを尻目に【使い魔】は一歩足を進めると、そっとsomeoneたち三人だけに聞こえるように囁いた。

「そんなことは、どうとでもなるんだよねえ。

たとえば、いまここで私が王国兵を一人刺すとする。


どうなると思う?

この淀んでふわふわとした不安定な空気はすぐに破裂して、争いと憎しみの怨嗟が再び蔓延する。

王国兵は斃れた仲間のために立ち上がり、公国軍兵も当初の目的を思い出したかのように武器を手に取る。

こうしてすぐに戦いは再開される。そうだよね?」

斑虎は、そこで初めて791の本性を垣間見た気がした。

悪意に満ちた声ではない。小鳥が囀るように穏やかな声。
その声色は、普段喋っている彼女のものと特段変わりはない。

それこそが、彼女の底しれぬ悪意を如実に表していた。
純粋な悪意。悪意だと思わないことが既に完璧な悪なのだ。

彼女の言葉からは、ひしひしとその気を感じる。
斑虎にとってこれまで対峙してきた敵とは一線を画す、明らかに異質な存在だった。

驚愕した彼とTejasに対し、someoneは今更怖じ気づくこともなく、近づいてきた【使い魔】に対し、寧ろさらに眉を吊り上げた。

someone「貴方の目論見は完全に崩れ去りました。
【会議所】の企みを貴方は想定できていなかった。貴方は負けたんです。
即刻、王国から手をひいてください」

【使い魔】は甲冑をキシキシと揺らしながら、くすくすと笑い声をあげた。

「私が負けたのは【会議所】にじゃない。


君にだよ、someone。
君の暴走を制御できなかった私の見込みの甘さが敗因だ」

“でもね”と、彼女は続けた。

「君の優先順位の中で、私が一番でないということはわかったよ。

でも、君の行動はお世辞にも褒められたものではないよね。

恩師に従うフリをしながら裏では【会議所】勢とも通じ、こちらに戻ったら戻ったで恩師を裏切り、結果として【会議所】をも裏切る。
裏切りに次ぐ裏切りだ。


こんな不義理な英雄を、世界が許していいものかね?」

someoneの顔がサッと険しくなったことを見逃さず、791は間違いを咎める教師のように彼を執拗に責め立てた。

「授業でも言ったよね?
“裏切りとは甘い蜜だが奈落の底への始まりだ”とね。

君はそんな堕落した自分に、胸を張ることができるのかな?」

斑虎「お言葉ですが791さんッ!彼は――」

someoneは無言のまま、斑虎を手で制した。

こちらに顔を向けた驚いた彼と目が合い、someoneは咄嗟に微笑んだ。


“大丈夫だ”と。

いわば、これは過去との訣別。

これからの未来を歩む上で、決して避けては通れない儀礼。
ここで彼女から逃げてしまっては真の終戦とは言えないのだと、彼の本能が理解していた。

そんな彼の心情を理解したのか、斑虎は後押しするように口元に一度微笑をつくると、一歩だけ後ろに下がった。

“ありがとう”と心の中で呟くと、someoneは改めて【使い魔】越しに791と対峙した。

someone「許される行いではないと思っています。
まずは弟子“であった”身として、先生を裏切ってしまい本当に申し訳ありませんでした」

そうして、someoneは一度だけ頭を下げた。
思えば、彼女の前で本心を口にしたのは久々かもしれない。

someone「ですが。僕は貴方の考えを受け入れられませんでした。
No.11のように、許容できる器量の広さも無かった。

何より、自分を変えてくれた仲間たちを、まるで蟻を踏み潰すかのようにぞんざいに扱う貴方の振る舞いを、決して赦すことができなかった」

いつしか、あれ程ざわついていた周囲はしんと静まり返っていた。
someoneは気にすることなく、胸中に満ちる思いの丈を懸命に言葉に変える。

someone「加古川さんからの手紙で真実を知ったとき。何日も悩みました。真実を貴方に打ち明けるべきか否か。

悩み続けた結果、斑虎が“答え”を教えてくれたんです。

“何も気にせず、自分の心で感じたままを行動に移せばいい”と。

それこそが“正義”だと」

喋り続けていた中で、someoneの脳内にはあの日の光景が思い浮かんでいた。
彼が自分を救い出してくれた運命の日を、“正義の火”を自覚し敷かれたレールから外れ覚悟を持って進み始めたあの日のことが昨日のように思い出された。

someoneの胸が途端に激しく鼓動して、同時に口の中が突然カラカラに乾いていくのを感じた。ここまで啖呵を切るのは初めてだから慣れていないのかもしれない。
続いて目眩も起きる。
体調は完全に戻ったわけではない。正直に言えば、気を抜いてしまえばその場で倒れてしまうほどに疲弊している。

それでも“正義の火”を心で燃やし続けながら、彼は既のところで意識を保ち、目の前に立ちはだかる強大な“敵”と向かい合っていた。

逃げてはいけない。決して背を向けてもいけない。

自覚しなければいけない。彼女は暗闇の中で自分を導いてくれた“恩師”であり、同時に自らの理想を阻む“大敵”であると。

someone「だから、僕は決意したんです。


僕を変えてくれた“公明正大”な【会議所】のために動くと。
公国のsomeoneではなく。【会議所】のsomeoneとして。

貴方の野望を砕き、滝本さんの横暴を阻止すると。


そう誓ったんです。



僕にとっての正義とは。こういうことです。


791先生」



長い沈黙だった。

誰も一切の言葉を発さなかった。
少し離れた場所からは燃え盛る王都を鎮火させようと、懸命に努力する兵士たちの声だけがただ全員の耳にこだまのように響いていた。

斑虎とTejas、そして二人のやりとりを全く把握できない周りの聴衆たちまでもが並々ならない空気を感じ取り、固唾を飲んで二人を見守っていた。


【使い魔】はずっと顎に手を当て何か考える素振りを見せていたが、暫くすると再びsomeoneに顔を向けた。

「私がいまどんなことを考えているか分かるかい、someone?」

someone「きっと…怒っていると思います」

【使い魔】は人差し指を立て、その指をくるくると回し始めた。

「半分は正解。

確かに、為政者の目としてから見ると、君は私の計画をめちゃくちゃにした大戦犯だ。
正直、いま目の前に君がいたらめちゃくちゃにしちゃうぐらいは怒ってる。

まあ、でも多分、私よりも隣にいるNo.11の方が怒っているけどね」

まだ見たこともない公国宮殿の修羅場を想像し、斑虎は内心冷や汗をかいた。

「でもね。小さい頃からの君を見ていた私からすると、素直に“嬉しい”んだよ。

ここまで強い意思を見せるようになった君は、随分と眩しい存在になった。


素晴らしい、素晴らしいよsomeone。
私の目に狂いはなかった。

それだけに君を手放さくちゃいけないのが、とても惜しい」

“最後に一つ訊くね”と、【使い魔】は淡々と言葉を続けた。

「もし、それでも私が公国軍を指揮して、王国を攻めようとしたら。
君はどうする?someone」


―― 君はどうする?someone。


幼い頃から何度も聞いてきたフレーズにsomeoneの脳内にはかつての風景が一瞬だけ思い出され、彼は目を大きく見開いた。
しかしすぐに深く大きな息を吐き出すと、次の瞬間鋭い目つきで再び彼女と向き合った。

それは先程までの睨みとは違い、まるで先生からの質問に答えるような“真剣”な眼差しの色を瞳に宿していた。

someone「簡単なことです。


ありとあらゆる世界中に。
貴方の秘密。貴方が公爵に仕掛けた一連の謀略を、嘘偽りなく話すだけです」

「強くなったね、someone…君はもう立派な【魔術師】だ」

【使い魔】は人差し指をゆっくりと手のひらの中にたたむと、はらりと手を下ろした。
なぜだか、その時someoneの胸が一瞬だけ痛んだ。まち針でほんの瞬間的に爪先を刺されたような感覚。だが、彼は生涯この痛みを忘れないだろうと思った。


次の瞬間、【使い魔】は勢いよく振り返った。
そして、事情を飲み込めずにぽかんとした顔のままでいる群衆に向かい、勢いよく諸手を振り挙げた。

「皆の衆ッ!特に公国軍兵よ、聞くがいいッ!
私はカキシード公国の791であるッ!諸君らに【使い魔】の姿を通じ語りかけているッ!」

魔法の拡声器で戦場中に響き渡った彼女の声は、全ての兵士の動きを静止させた。

「諸君らの働き、祖国の未来を案じてのことだと思い、真に胸が張り裂ける思いであるッ!
全てカメ=ライス公爵の指示の下で国に命を預けた英雄だ。

だが、聞けッ!英雄たちよ!
その公爵本人は民を抑圧し、一連の不条理な戦いを仕掛けたことで大きな不興を買い、ついにその怒りが国中で爆発した。


そして、つい先刻のことだッ!


既に民の力により、賢主の座を降ろされたッ!


公爵は、追放されたッ!」

全員の息を呑む声が聞こえてきた。
791は構わずに捲し立てた。

「此処に、“新・元首”791が命ずッ!


即刻、“道理”の無いこの戦いを、放棄せよッ!
公爵の私利私欲のまま王国へ侵攻したこの戦いに、道理などないッ!




全軍、直ちに引き上げだッ!!」


一瞬の沈黙の後、すぐに両軍兵士は歓喜の雄叫びを上げた。

皆は手にもった銃と剣をその場に投げ捨て、敵同士ということを忘れ互いの甲冑を激しく擦りながら抱擁し、ひたすらに叫んだ。
先程までの巨人の地鳴りに負けないような歓喜のうねりが大地を包みこみ、彼らに喜びと生の実感を染み込ませたのだった。

somoneたち三人は、最初その光景を遠巻きにただ眺めていた。
だが、焚き火にあたるように、心の奥底からじんわりと温かみが広がっていくように次第に顔をほころばせ自分たちが成し遂げた事の重大さをようやく理解したのだった。

Tejasと斑虎はすぐに小さな英雄の下に駆けつけた。彼は未だ放心しているのか顔を少し強張らせたままで、その様子がおかしくて二人は笑いあった。
すぐに兵士たちは英雄を讃えるべく三人の下に集ってきた。その熱量にあてられ、ようやくsomoneも意識を戻し徐々に頬を紅潮させていったのだった。

「じゃあね、someone」


何度目かの握手を求められたとき、歓喜の渦の中でポツリと耳に届いた声に、someoneは思わずハッとし辺りを見回した。
しかし、先程まで立っていた場所に、もう彼女の姿は何処にも無かった。

どこか儚く寂しい風が、吹き抜けた。





その後、両軍兵士が協力し負傷兵の手当てや看病を行い、また夜半まで協力して燃え盛る王都を鎮火させた一連の出来事は、この“チョコ戦争”を語る上でとても重要な顛末である。

公国軍兵はいの一番に甲冑を脱ぎ捨て、次いで王国軍兵も慣れない鎧をやっとのことで取り払い、身軽になった彼らはそこで初めて互いに顔合わせをして驚きすぐに笑顔になった。
なんということはない、彼らは同じ人間だったのだ。
互いの国籍やいがみ合い、憎しみをすぐに取り払い、国家間で和平に向けた話し合いが行われる前に、既に戦場にいる兵士たちは平和へ向けた歩みを真っ先に表したのだった。


白馬に跨り遅れて三人の下に馳せ参じたナビス国王も、先程までの791の話を聞いていたのか、斑虎たちに歩み寄ると深々と頭を下げた。

ナビス国王「斑虎くん。本当にありがとう。みんな、ありがとう…ありがとう」

斑虎「私ではありません。someoneとTejasさんを褒めてやってください。
彼らは、間違いなく今回の“英雄”ですよ」

深々と頭を下げたままの国王の前で斑虎は困ったように肩をすくめると、横で同じく苦笑しているsomeoneとTejasに向かい、“そうだよな?”と含みのある視線を送った。

Tejas「【大戦】できのこ軍が勝った時よりも気持ちの良いものだな。存外悪くない」

Tejasはその場で座り込み、目の前で続いている歓喜の様子を嬉しそうに眺めているようだった。


疲れから、同じくぺたりと座り込んだsomeoneもぼうとその光景を眺めていたが、暫くするとおもむろにローブの中のポケットをまさぐった。

すぐにツルツルとした感覚が手に返ってきた。
投獄されてもずっと奪われずに潜ませていた甲斐があった。
彼には少し大人びたグレイン柄のパイプをsomeoneはすぐに取り出した。パイプは一連の動乱を経ても傷一つなく艶が保たれていた。

久々に口に咥え、火もつけていないのに口にパイプの“馴染む”感覚を暫し堪能する。

一ヶ月ぶりだというのに大分昔のように感じる。
ひとしきり時間をかけた後、someoneはいつもの癖で火を点けようと爪先に意識を集中させた。
だが、一向に火は灯らない。
どうやら正真正銘、魔力が尽きてしまったようだった。


困った顔の彼の目の前に、上からすっと蛍火が下りてきた。


ふと顔を上げると、そこには爪先に火を灯す“親友”の姿があった。

斑虎「しょうがねえな、特別だぞ?」

someoneは嬉しそうに頷くとパイプを咥えなおした。

そして、彼から貰った火でパイプの中をゆっくりと、ゆっくりと時間をかけて蒸(ふか)し始めた。




黒煙で覆われていた上空の空は、いつの間にか綺麗に晴れ渡っていた。



そこに一本だけ薄い煙が立ち込めてきた。

陽射しを受けキラキラと反射しながら、煙は澄みきった空に向かいただ伸びていった。







Epilogueへ。
Episode : “トロイの木馬”someoneへ戻る。

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