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6-8:悪魔の集う場所編

初公開:2021/05/07

【きのこたけのこ会議所自治区域 会議所本部 someoneの自室 2ヶ月前】

someone『はぁ…』

自室に戻ったsomeoneは深く嘆息し、手に持ったメモの束を器用に机の上に放り投げると、すかさずベッドへ飛び込んだ。

初めて陸戦兵器<サッカロイド>を目にしてからある程度の日数が経過した後に、someoneは再びメイジ武器庫を訪れていた。
表向きは彼の巨人たちを魔法学的に紐解き意見するという名目だが、真の理由は違う。
先程、魔法道具で散乱している机に放り投げたメモ用紙の山の回収こそが本来の目的だった。

一見すると何の変哲もないこの紙束には、彼によりとある魔法が施されていた。

その名は“リフレQ(きゅー)ト”。
一昔前に発明された魔法を元に、someoneなりにアレンジし創作した盗聴魔法である。

大元の魔法の名は“ひもQ(きゅー)”。悪名高い判別魔法だ。
魔法学校時代に一人で書物を読み漁っていた中でたまたま目にした魔法だ。だが、見つけた本を含めどの本にも術の原理までは記されておらず、最終的には791に教えてもらい、基礎を理解した覚えがある。

なぜ、“ひもQ”が禁止魔法なのか、その背景も含めて。





“ひもQ”は、召喚式の基本魔法を応用したものである。
対象者は色のついたひも型のゴムを召喚し、ひもゴムに“吸収”させるための単語を、術者が声に出し覚え込ませる。インコのオウム返しと同じで、ひもゴムが自律的に単語をインプットするのだ。
そして、もし術者以外の誰かがひもゴムの前でその単語を口にすれば、ゴムは色彩を帯びるとともに伸長し、蛇のように余らせているその身をさらに弛ませる。
ただそれだけの魔法だ。

召喚魔法の礎として本来、後世まで語り継がれるべきこの魔法は、現在“禁止魔法”に分類されどの魔法教科書にも姿を見せない。
その理由は、創作した術者で魔法名の元にもなったひもQという人物が、乱世で悪逆非道を尽くした奸悪(かんあく)な賊であるということが多分に大きい。


彼はこの魔法を専ら拷問時に好んで用いた。

地方の豪族として根城を構えていた当時、特に無実の村民を捕まえては自らの城に誘拐した。
そして、召喚したひもゴムを彼らの首元にきつく巻きつけ、決まって耳元でそっとこう囁いた。

『さあ。殺されたくなければ“私は無実だ”と言え』

“無実”という言葉が、ひもゴムに覚え込ませた単語だった。

何も知らない善良の民は当然のことながら、大声で自らは無実だと叫ぶ。
助けてもらいたくて、この場から逃れたく、必死に金切り声を上げて繰り返し叫ぶ。

その度に、彼らの首元にスカーフのように巻かれているひもゴムは、彼らから発せられる無実という言葉を検知し、まるで毒素を含んだきのこのように、艶やかに変色を繰り返しながら自らの身体を伸ばした。
そして伸びた分の身体は植物の蔦のようにさらに首元に絡みついては、彼らの首を絞めあげていった。

その異常さに気づいた彼らは、自らの発した言葉とひもゴムの関連性など気づく暇もなく、必死にひもQに向かい、自分は無実だと繰り返し連呼する。
彼は口元で嗤いながら“分かっている”となだめ返す。
その様子を見て、さらに彼らは半狂乱になりながら繰り返し泣き叫ぶ。

そして、遂に際限なく伸び切ったひもゴムは何重にも巻かれた首元をさらにきつく巻きつけ、失意の中で彼らは絶命する。

善良な民の持つ生命の輝きが絶える。


ひもQにとって極上の“遊び”だった。
生命の火の燃え尽きる瞬間を眺めることが、快楽殺人者にとっては他のどの娯楽よりも愉悦だったのだ。

こうして魔法界の本流に残ることなく時代の終焉とともに、術者と同じ名前で悪しき時代を想起させるというただそれだけの理由でこの魔法は虐げられ、現代まで封印されてきた。

内容を紐解けば、“ひもQ”は言霊(ことだま)の魔法だ。

古来より人が発した言葉には霊魂が宿ると信じられてきた。
これはその言い伝えから着想を得た魔法で、指定の単語を霊魂と捉え無理やり実体化する術なのだ。

someoneの創作した“リフレQト”は、その言霊を実体化し記憶する魔法だ。
一見すると何の変哲もない紙は召喚された魔法紙で、近くの会話の言葉を“吸収”し、文字に実体化し転写する能力がある。

ただし、全ての言葉を吸収しようとすれば書き留める紙は何枚あっても足りないし、そもそも運用するだけの魔法力が足らない。
someoneは一考した結果、会話の中で繰り返し使われた言葉や、イントネーションや声量から強調性が強いと思われる単語を中心に紙に残すようにした。
こうすれば、全ての会話を残すことはできなくても、単語単位で会話の内容を推測することができ、かつ自立魔法としての消費も最低限で済むため他の術者に気づかれる可能性も低くなる。

離れた場所での他人の会話を魔法で盗み聞く方法は限られる。
一番手っ取り早いのは使い魔を使うことだが、膨大な魔法力が必要だしかつ大掛かりだ。
次に考えるのは、糸電話のように離れた場所と術者とを強制的に繋ぎ、物理的に盗み聞きする方法だが、これも魔法力の関係から他者に分かりやすく現実的ではない。

その点、この“リフレQト”は、一般人から見ればただのメモ用紙であり、魔道士でも気付ける人間は少ないほどに、隠密性が高い。
学生の頃に密かにこの魔法を創作してから、この魔法の完成度の高さには密かに満足していた。
初めての披露の場がまさかこのような場面になるとは想像もしていなかったが。





先程とは違い少し緊張した面持ちでsomeoneは再度嘆息した。
そして、気が変わらないうちに勢いよく半身を起こすと、念動魔法で机の上の魔法紙を自らの元に手繰り寄せた。

先日の滝本との会話の際に覚えた違和感。言葉の端々に表れた驕り、昂り。言うなれば、それは既視感だった。
魔術師791に似た底の知れない残虐性と策謀性をsomeoneは感じ取った。まだ自分に話していない大きな隠し事があるのではないか。そう感じたのだ。

だから後日に武器庫を訪れた際に、someoneはリフレQトをあらゆる場所に“仕掛けた”。
巨人を管理する幾つかの計器近くの棚の中に、通路に立てかけられた絵画の裏に、トイレに、そして会議室の机の中に。
とにかく相手が気を抜いて本音を語るであろう場所には全て術を展開した。

一度疑念を抱いてしまえば、白黒を付けるまで相手を信用することはできない。
自ら近づき相手から信用を得ても、寝首を掻こうとする彼のこの姿勢は、時代が時代であれば稀代の裏切り者として断罪されたことだろう。
彼自身も後ろめたさは感じている。だからこそ、先程から少し気が重いのだ。

昔からsomeoneは慎重だった。
その余計すぎる慎重さが自らの生命を永らえさせ、同時に他者との出会いを切り離してきたのだ。

手にとった白紙の紙には、束ごとに右上にそれぞれ変わった折り目が付けられ、事前に仕込んだ場所を判別する目印としていた。


someoneはベッドの上に紙の束をトランプのように敷き並べると、咥えていたパイプに慣れた所作で火を付けた。そして肺に紫煙を流すことなくパイプを口元から離すと、息を紙群にふっと吹きかけた。
それが封魔文書の解呪手段であり、白紙だった紙の上には次々と文字が浮かび上がってきた。

“起動”  “確率”  “陸戦兵器<サッカロイド>”

文字たちは紙面上でゆらゆらと揺れている。
無造作に紙面のあちこちで揺れるその様子は、まるで雨の日の湖面上に広がる波紋のようだ。
someoneはパイプを再び咥え直すと、ペラペラと手のひらサイズの紙をめくり始めた。

“徹夜”  “交代”  “休み”
“夕飯”  “眠い”  “仮眠”

通路や作業場付近に仕掛けた紙束にはどれも似たような文言が表れている。研究員たちの業務内容に関する内容がほとんどを占めていると見て取れた。
内容から推察するにかなり激務のようだ。元々、化学班を始め少人数であれ程の規模の武器庫を管理しているのだから休む暇もないのだろう。
何枚もめくっていくもどれも同じ内容の言葉が並ぶ。彼らのことを思うと、someoneは少々同情的な気持ちになった。

someone『なんだ、これは…?』

最後の紙束に手をかけたsomeoneは、そこでハタと手を止めた。
会議室に仕掛けていた紙群には、これまでにはなかった不思議な文字が、煌々と浮かび上がっていた。


“国家推進計画”


聞き慣れない言葉に、なぜか胸が騒いだ。
この言葉の周りには他に“計画”、“国家”といった重々しい響きの言葉が仕切りに紙面上を漂っている。
文字同士の近さは単語同士の相関性の高さを表す。つまり、一連の言葉は同じ会話の中で話された可能性が高いということだ。

someone『“国家推進計画”…?そんな話、聞いたことないぞ』

滝本や参謀から受けた話に、そのような計画の話は無かった。
慌てて次の紙をめくると、これまで影を潜めていた不穏な単語が次々と紙面上に踊り始めた。

“会議所”  “悲願”  “達成” 
“最終段階”  “カカオ産地”  “投入”

メイジ武器庫内の会議室を使うのは基本的に重鎮以上の人間だけだ。したがって、必然的に会話の主は滝本や¢たちということになる。
someoneはあくまで単語同士を結び合わせ、当時の会話を推測するしかない。

しかし、彼の頭の中にはある恐ろしい“筋書き”が出来上がろうとしていた。

“オレオ”  “壊滅”  “併合”  “事後承諾”
“公国”  “牽制”

someone『まさか…いや、だからこそ加古川さんは“消された”と考えれば…』

ブツブツと呟きながら、ジグソーパズルを組み立てる要領でsomeoneはバラバラの単語からある一つの物語を創り出した。
それは、オレオ王国に、カキシード公国にしても、さらには彼にとっても最も望まない結末を迎える最悪のシナリオだった。

someone『これはあくまで仮説でしかない。明日、滝本さんに確かめないといけないな…』

早鐘を打つ心臓を抑えるために目の前の紙群を魔法で消そうとした瞬間。
先程まで見ていた紙面の端に、見慣れた小さな文字が浮かんでいることに今更ながら気がついた。

“someone” 

思わずビクリと身体が跳ねた。
よもや、自分の名が会話に出てきているとは思っていなかった。

自分の名前の横にはふわふわと、さらに小さな文字でこう続いていた。


“もう十分” “用済み”


someoneは無言で魔法紙を消し去り、その後に思わずくしゃりと顔を歪ませた。
そして、いつか大嫌いな師が【会議所】について語っていた際にふと吐いた言葉を思い出した。

someone『…791先生、確かにこの【会議所】はとんだ“伏魔殿”ですね』



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