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6-12:戦いへの誇り編

初公開:2021/06/20


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【きのこたけのこ会議所区域 someoneの自室 1ヶ月前】

霊歌『ご主人もとんだ博打打ちだな。あんたの構想する儀術は単純だが強力だ。
だが、使い所を誤れば、二度同じことはできないと思ったほうがいい。それほど、追加契約の魔力消費は激しい』

someone『わかってる』

儀術“エクスチェンジ”。

指定した二人の位置を入れ替えるという、シンプルな魔術だ。対象となる相手の足元に仕掛けた転移の魔法陣で瞬時に互いの位置を入れ替えるもので、公国の宮廷内に張り巡らせている転移ポータルと元々の原理は同じだ。

ただし、この原理のままでは術者は視界の範囲内でなければ足元へ正確に魔法陣を配置することは出来ない。
距離の問題を解決したければ予め魔法陣を展開しておき、そこに足を踏み入れた人間を転送するという、落とし穴のような方法もあるが、実戦ではそう簡単に事が運ぶとも思えない。
単純な魔法ゆえ戦闘で使おうとすれば入念な準備が必要のため、転移魔法を攻撃戦法に使う手段は、あまり“流行らない”考えだった。

念動系の魔法を得意とするsomeoneは、魔法学校時代からこの転移魔法をなんとか実戦で使用できないか考えていた。
そして、魔法学校を卒業する間際に、遂に【使い魔】を用いた秘策を思いついたのだ。

以来、仕事に忙殺され構想段階での研究は遅々として進まなかったが、皮肉にも【会議所】に来てから時間に余裕ができ、先日になりようやくこの術式を完成させたのだった。



791 :Episode:“トロイの木馬” someone 戦いへの誇り編その2 [sage] :2021/06/20(日) 16:55:13 ID:FWXiv.zYo (3/34) [.715]
霊歌『今後、おれとご主人の精神は根っこでほぼ同一化する。
それがご主人の望んだ“契約”だ。

互いに望めば、精神世界を通じテレパシーのように言語を発さずに会話することも可能になるだろうな。
ただ、その分日常的にご主人の魔法を消費して同一化を維持し続けることになるから、相当辛くなる。それでもいいか?』

someone『うん。日常的な魔法の消耗は学校時代から訓練されているから大丈夫』

使い魔と術者の精神を深く共有化させることで、離れていてもsomeoneは霊歌の位置を正確に把握できるようになる。
互いが遠地にいても、精神を伝い、霊歌の持つ魔力を手がかりに彼を含む周囲の対象者に魔法陣を仕掛け、転移魔法を可能とする。
二人の意識が繋がっている限り、転移距離は理論上無限となるのだ。

この奇襲戦法をより確かなものとするため、someoneは同時に転移魔法の研究を極めた。
今では他の誰よりも正確に、かつ高速に対象者の足元に転移魔法陣を仕掛ける術を習得した。

この一連の合算を、someoneは儀術“エクスチェンジ”と名付けたのだった。

霊歌『この儀術を使う時は、ご主人が公国から出なくちゃいけなくなった時だ。
それはつまり、かなり追い詰められた状況ということになる』

someone『わかっている…現状、僕は滝本さんに出し抜かれた。
陸戦兵器<サッカロイド>に対して打つ手もない。でも、それでも窮地から抜け出すための奥の手として持っておきたいんだ』

儀術“エクスチェンジ”は奇襲的な技ゆえに、基本的に二度目は通用しない。
術者か【使い魔】のどちらかが倒れればその時点で技の行使は不可能となるからだ。この大技を使う時は、自分や他者を窮地から救うためだけに限定しないといけない、とsomeoneは予め考えていた。

霊歌『悲壮感たっぷりな顔つきだな』

呆れたように半目を向けこれみよがしに溜め息を吐いた霊歌だったが、すぐに顔を上げた。

霊歌『安心しな。ご主人は底抜けに暗いかもしれないが、おれはその真逆だ』

その顔は、悪戯っ子のように茶目っ気に満ちていた。
どこまでも楽天的で、それでいて危機を乗り越えられそうな“変な”自信に満ちている。
明日、自分と同じ立場でオレオ王国に旅立つ親友にそっくりだ。

真に求めていたものが、いまsomeoneには分かった気がした。
そして、彼の言葉に応えるように、一度だけ力強く頷き返したのだった。


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【オレオ王国 王都】

まるで脳を素手で直接握られ、激しく揺らされているような唾棄すべき感覚。

先程まで暗い室内にいた眼球は、目の前の眩い明るさに一瞬硬直し、遅れてすぐに視界がぼやけた。
左右方向だけでなく、まるで目の焦点が奥に引っ込みまた戻るような、そんな言葉にし難い目眩がひたすらsomeoneを襲った。

倒れたくなる気持ちをぐっと堪え、吐き気に耐えながら重い頭をやっとの思いで上げると、まるで綿あめがパンと弾けたようにそこらかしこで激しい光の点滅が視界中を覆った。

一生分の苦しみを味わったような気分を経て、ようやく彼の身体に正しい情報が集まり始めた。

蒸すような気温の高さ、焦げ付いた硝煙の臭い。久しぶりの晴れ間を覗けるはずが、地上から湧き上がった煤煙のせいで空は黒く隠れ、辺り一帯は薄暗い。
人の悲鳴は聞こえないが、代わりに悲鳴のように木が爆ぜ、自重に耐えきれず建物が崩れ落ちる音。





someoneはいま、確かに燃え盛る王都の中に居た。

儀術“エクスチェンジ”は完璧に成功していた。


霊歌を事前に791の前で見せたのは、自ら生き残るためだけではない。いまこの時のような窮地に儀術を活用するためにあった。
someoneは彼女の性格を理解していた。仮に自らが捕らえられたとしても、彼女はきっと【使い魔】の動きまで封じることはしないだろうと。
そして、その読みは正しかった。

Tejas「斑虎さん、あぶないッ!!」

そこで初めてsomeoneは、自身のすぐ横にきのこ軍兵士 Tejas(てはす)が立っていることに気づいた。
彼はずたずたに破れた黒のレザージャケットを羽織っており、破れた右腕付近からちらりと呪いの紋章が見えた。すぐに意識を戻し、驚いた様子の彼の視線をすぐに辿っていくと。


爆炎の中心には、見慣れた“親友”が呆然と突っ立っていた。


口を開けた彼の顔の見上げる先には、巨大な陸戦兵器<サッカロイド>の腕先から伸びる小型銃の真っ黒な銃口が見えた。

その異質な存在に一瞬呆気にとられている彼と、表情もなくのっぺりとした透明体の怪物から放たれるギラギラとした殺気。
動物の捕食の瞬間を見たことはないが、きっと生命のやり取りとはこのように一瞬の間を経て行われるに違いないと思った。

今のsomeoneは頭に血がのぼりすぎ、かえって自らを酷く冷静にしていた。【大戦】で、たけのこ軍兵士を屠るために戦場で大立ち回りをする時の感覚によく似ている。
心と身体が分離する、あの感覚だ。
だから、彼を救おうと思った瞬間には、すでに身体が動いていた。

陸戦兵器<サッカロイド>が銃弾を発射する直前に、既にsomeoneは詠唱を終えていた。

someone「『ファイアジュール』ッ!!」

斑虎「ッ!?」

突き出した手のひらから放たれた火炎の渦は、綺麗な弧を描きながら巨人の足元で赤色の光を発したと同時に弾け、器用に軸足周りの地面だけを溶かしきった。

発射体制に入っていた巨人は、軸足の支えを失い前のめりになると同時に腕に装着した銃を発射し、その極太い銃弾は斑虎の立っていた数m手前で炸裂し爆破した。
当たっていれば斑虎だけでなく後方にあった建物も巻き込んで消し炭になっていたことだろう。

someone「斑虎ッ!」

斑虎「お、おうッ!」

目の前の事態に目を白黒させていた斑虎だが、聞き慣れた親友の呼びかけにすぐに意識を戻し、反射的にその場で高く跳び上がった。

someone「『ヘビージャンボスノー』ッ!」

跳んだ彼の足元で一度空気の抜けたような音が鳴ると、次の瞬間、彼の身体はトランポリンに乗った時のようにたちまちさらに上空に跳ね上がった。

はるか上空から巨人を見下ろすと、敵はすでに銃器を持ち直し体制を立て直しているところだった。
体躯に見合わない素早い身のこなしに、斑虎は、敵が歴戦の勇士であることを確信した。

斑虎「『スコーンエッジ』ッ!」

空中から二刀の剣を勢いよく投げ下ろすと、地上に向かう剣と外気との間にすぐに空気の膜が作り出された。そのまま巨人の足元付近の地面に突き刺さると、双剣は勢いよく地面に潜った。
そして、カップに入ったアイスを掬うスプーンのように二刀は地面の中を器用に潜りきり、巨人の足元の地面を綺麗に抉り(えぐり)取った。

途端に足元の地面が崩れた衝撃で、巨人は今度こそ轟音とともにその場で前のめりに倒れ伏した。
数十mを超える巨体が倒れた衝撃で、地上のsomeoneたちには地鳴りのような衝撃音と大量の砂埃が巻き上がった。

巨人はそのままピタリと動きを止めた。


someone「斑虎ッ!こっちだッ!」

地上に舞い降りた斑虎は、改めて親友の姿を目にすると驚愕した。
先程から彼の驚いた姿しか見てない気がする、とsomeoneは変に冷静になった。

斑虎「someoneッ、どうしてここにッ!?公国で捕まったんじゃないのかッ!」

someone「【使い魔】の霊歌と位置を入れ替えたんだ、僕の儀術でね。公国の牢屋から抜け出してきた」

Tejas「オリバー…もとい、霊歌の秘策っていうのはこのことか。
まさかあいつの代わりにsomeoneさんが出てくるなんてビックリしたが」

二人は分かったように頷いているが、斑虎からすればさっぱりだ。
考え込んでも仕方がない。分からないことは他にもある。
続いて、彼は広場の中央で横たわる巨人を指差した。

斑虎「それに、あの化物はなんなんだいったいッ!」

someone「あれは陸戦兵器<サッカロイド>。
簡単に言うと、滝本さんたち【会議所】の重鎮メンバーが、秘密裏にオレオ王国を不当占拠するために作り出した悪の兵器だよ」

斑虎「なにッ?なんだとッ?」

斑虎は自分の耳を疑った。

目の前の親友は【会議所】の作り出した兵器と言ったのか。
なんと馬鹿げた話だ。昔から彼は冗談の下手な男だったが、今の話はことさらセンスの欠片もない。

だが、彼の言葉を肯定するように、隣に立っていたTejasも真面目な顔で頷いてみせた。

Tejas「斑虎さんは騙されていたってことさ、一部の【会議所】メンバーにね」

someone「驚かないで聞いてほしい。端的に言うと、最初からこの戦争は滝本さん…そして“魔術師”791に仕組まれていた。
公国は裏で791さんが支配しオレオ王国を滅ぼそうとしていた。
同時に、【会議所】は滝本さん、¢さん、参謀の三人が首謀者となり王国に攻め込んだ公国軍ごと、陸戦兵器<サッカロイド>で壊滅させ、不当に王国を占拠しようとした。

立場の異なる策謀家たちが、王国を食い物にしようとしているんだ」

あまりにも急な話に斑虎は思わず絶句した。

もし彼の話が真実なら。一体、自分は何のために戦ってきたというのだろうか。

斑虎「【会議所】は、最初からオレオ王国のことを裏切ろうとしていたのか?
手をこまねいて助けを求めてくる王国を、手ぐすね引いて待っていたというのかッ!」

激昂した斑虎の言葉に、気まずそうにsomeoneは一度だけ頷いた。
煤(すす)まみれのTejasはそれを見かねてか、取り繕うに肩をすくめた。

Tejas「無理もない。俺はカカオ産地でたまたまsomeoneさんの【使い魔】の霊歌という奴と出会ってな。それで事の次第を教えてもらったのさ」

someone「信じられないかもしれない…でも、全て本当のことなんだ、斑虎」

肩を落とす斑虎に、someoneはおずおずと声をかけた。だが、彼は静かに頭を振った。

斑虎「信じないことなんてないさ。寧ろ、その逆だ。
お前が言ったことなら“全て信じられる”。
だからこそ、愕然としているんだ。滝本さんたちの起こした暴挙にな」

自分をオレオ王国の使者にしたあの日の会議から、既に騙されていたのだ。

目的は不明だが、オレオ王国を破滅させ非合法的に占領しようとした滝本たちの悪行を断じて見逃すことはできない。
オレオ王国内を必死にまとめ上げ協議まで漕ぎ着けたこちらの姿を、滝本はどう感じたのだろうか。

きっと裏で嘲笑っていたに違いない。

全て無駄な行動であると。カキシード公国と【会議所】の望み通り協議は破談に終わり、戦争に突入するのだから無意味に終わると。

斑虎の拳はいつの間にか強く、そしてきつく握られていた。
この拳の意味するところは一つしかない。

怒りだ。
罪なき王国の民を危険に晒し、私利私欲のために戦乱を撒き散らそうとした彼らの振る舞いを断じて許すことはできない。
彼の正義の火の勢いは、いま最高潮に達しようとしていた。





ナビス国王「君たちッ!無事かねッ!?」

「王様ッ!危険ですッ!」

斑虎たちが王宮側を振り返ると、白馬に跨ったナビス国王が燃え盛る広場に出てきたところだった。
王宮からは遅れて数名の部下が走って向かってきていることから、どうやら部下の静止を振り切って来たようだった。

ナビス国王「これは、いったいッ…やはり報告の通り、公国軍の侵入を許したわけではなかったのか」

斑虎は目の前の賢王に真実を伝えてよいものかどうか逡巡した。
だが、唇の奥を一度噛むと、義憤に駆られた彼は王の前に歩み出た。

斑虎「王様、お下がりください。目の前に横たわる巨大な結晶体は我が【会議所】の新兵器です。
一部の重鎮が謀り、この場に集まった両軍を屠るために投入された巨人型の兵器です。
我々の“敵”ですッ!」

ナビス国王「なんと…信じられない。まさか、あの【会議所】が…」

国王の嘆きに呼応するように、瓦礫の崩れる音とあわせ、動きを止めていた陸戦兵器<サッカロイド>はゆったりと起き上がった。

起き上がった巨人の透明な身体越しに、これまで彼が破壊してきたであろう市街地の赤く燃え盛る様子がまじまじと見え、それだけで剣を握る斑虎の力はより強くなった。

顔と思わしき部分には目鼻や口すらもなく、角張っていないすらりとした身体では、巨人がいまどちらを向いているのかも見失うほどだ。
胴体からはすらりとした手足が伸び、彼の間合いに入ってしまえばたちまち接近戦では勝負にならないだろう。

陸戦兵器<サッカロイド>は足元で相対する人々を前に首を左右に傾けたり、両の拳を何度か握り直している。準備運動のつもりなのだろう。

someone「敵の目標は王宮だッ。食い止めないとッ!」

ナビス国王「騎馬隊、構えッ!撃てッ!」

国王の命令に追いついた数名の兵士たちはライフル銃を構え、巨人の胴体に向け間髪入れずに発泡した。
放たれた銃弾は狂いなく胴体に当たり、そして身体に傷一つ付けることなくその場で弾は砕け散った。

斑虎「なんだあの硬さはッ!?」

someone「陸戦兵器<サッカロイド>は特殊な錬成の過程でダイヤモンドよりも硬くなった飴細工の巨人なんだ…銃剣どころか魔法でも容易に傷つけることはできない」

斑虎「おいおい。それは無敵ってことか?」

someone「少なくとも…今の僕たちに倒す方法はない」

斑虎は悔しそうに歯ぎしりした。
爆炎の中で陸戦兵器<サッカロイド>の周りだけが、冷気を放っているように空気がゆらめいていた。

斑虎「…王様。我々が時間を稼ぎます。すぐに王宮に戻り、ここから脱出の準備を」

ナビス国王「斑虎くん。言葉を返すようだが、私も一国の主として最後まで此処で――」

斑虎「――それでは駄目なのですッ!いま此処で貴方を失えばそれこそ敵の思うツボだッ!苦しいでしょうが、今はお逃げなさいッ!いつかきっと再起の目がでるッ!」

ナビス国王はなおも反論しようと口を開きかけたが、斑虎たちの決意に満ちた顔を見て思い直したのか神妙そうに眉を寄せ、そして強く頷いた。

ナビス国王「…恩に着る。斑虎くん、必ず生きて戻ってこい。皆の衆、戻るぞッ!」

国王の指示に、兵士たちはすぐに踵を返し王宮に引き返していった。





ぐるぐると腕まで回し終えた陸戦兵器<サッカロイド>は準備運動も終わったのか、片足を上げ王宮に向かい近寄り始めた。

someone「斑虎…」

斑虎は困ったように眉を下げた。

斑虎「カッコつけた手前、戦わないわけにはいかなくなったな。悪いな、付き合わせちまってッ」

someoneは首を横に振った。
ところどころ破れたローブの中の彼の顔は、不思議と微笑んでいるようだった。

someone「いいよ。それが斑虎の“正義”だってことは、前から知っていたから」

Tejas「お二人さん、陸戦兵器<サッカロイド>が前進し始めたぞッ!」

ズシンと響いた揺れは、数十m離れた先で巨人の足が地に付いたことによる揺れだった。
今度の彼はこちらのことなど気にしていないのか、ただ三人の背後にそびえる王宮に向かい歩みを進めている。

斑虎「someone、援護を頼むッ!」

斑虎はそう言い残すとその場を跳び、近くの商家の屋根に移った。さらに間髪入れずに跳ぶと、彼は瞬く間に陸戦兵器<サッカロイド>に接近した。

someone「『ガルボルガノン』ッ!」

斑虎「おらあッ!その首とるぞッ!!」

someoneの唱えた魔法は、斑虎の持つ双剣の刃に渦巻くように炎の渦を作り出した。さながら炎の剣という出で立ちだ。
跳んだままの彼は巨人の首元に急接近すると、首の頸動脈部、つまり人間でいうところの急所部分に両の刃を振り下ろした。

斑虎「とったッ!」

炎を纏った剣の切っ先が巨人の首元に触れる。実感はあった。
だが――


パキン。

呆気ない音を立てて、斑虎の持った双剣は巨人の硬度に耐えられず根本から折れてしまった。

斑虎「ちくしょうッ!もう一度だッ!」

巨人の肩に一瞬足を触れすぐに離れると先程の商家の屋根に戻った斑虎は、背中に背負っていた鞘からもう二本の剣を抜いた。
そして、呼吸を整えるために一度だけ軽く息を吐いた。



その一瞬の隙を、敵は見逃さなかった。

Tejas「斑虎さんッ、くるぞッ!」

Tejasの洞察力がなければ、斑虎の生命はそこで散っていたかもしれない。

耳に届いた微かな風切り音とともに、彼の言葉を受け、咄嗟に刃を前に交差させた斑虎は、巨人から放たれた斬撃を既のところで受け止めた。
だが、その一撃はあまりにも重く、衝撃を吸収してもなお彼は数m程後方の民家に吹き飛ばされた。


斑虎「なんて威力だッ…」

すぐに立ち上がった斑虎は、二つの事実に気がついた。
一つは、先程まで自分が立っていた商家は先程の攻撃で粉々に砕け散っていたこと。


そしてもう一つは、斬撃だと感じていた敵の攻撃は、実は蹴りによる風圧から生じる“真空波”だったことだ。

巨人は前進のための歩みを止め、片足をゆらりと上げた姿勢でこちらの方を見つめているようだった。顔こそないものの、相対する“気”のようなものを感じ取ることができた。
その戦闘手法には見覚えがあった。

斑虎「この構えはッ!?」

someone「気をつけて、斑虎。陸戦兵器<サッカロイド>には、かつて【大戦】で活躍した【会議所】の英雄の魂が宿っている。戦闘力もきっと当時のままだッ!」

―― 肉体は極めれば、トンファーよりも早い斬撃を繰り出せるようになる。

思い出すのは、【会議所】の鍛錬場での晴天の空模様。
そこで斑虎は、いつも教官である“彼”に鍛錬をつけてもらっていた。

斑虎「そういうことかッ。あんたなんだな、“Ω(おめが)さん”ッ!!」

自らをトンファー使いと語りながら、手に持ったトンファーを一切使わず脚のみで敵を蹴散らしていたたけのこ軍 Ω(おめが)は全たけのこ軍兵士の憧れの的だった。

七年前、王国を飛び出し単身で【会議所】に飛び込んだ彼を待ち受けていたものは、鬼教官による容赦ない蹴りの応酬だった。
【大戦】黎明期に活躍したΩはその頃既に引退状態にあり、後進の指導に当たっていた。

戦いのいろはも知らない兵士たちはそこで彼の下で鍛錬を積み、両軍問わず立派な“兵士”として巣立っていくしきたりになっていた。
顔中に皺を深く刻みながらも、Ωはどの新兵よりも快活に動き、檄を飛ばしていた。

接近戦において、彼は現役兵士と混ざっても無類の強さを誇った。
片足を上げまるで武術の型のようにピタリとも動かず敵を待つ彼の姿は獲物を狙う鷹のようで、恐ろしくもあり憧れでもあった。

鍛錬では新米兵士全員で彼に向かっても彼の蹴りの前に容赦なく吹き飛ばされ、いつも全員は晴れ晴れとした空を見上げるしかなかった。
その度に、彼はそんな全員の傍に寄るといつも叱りつけ、そして最後には少し優しい声色で次のように語っていた。

―― 接近戦において。銃は抜き、構え、狙い、引き金を引くまでに四動作。
ナイフでも構え、切るの二動作。
それに引き換え、足は蹴るのみ。一動作だけで終わる。
お前たちにそのハンデを克服できない限り、一人前の兵士とは言えないな。


ヒュッという風切り音とともに、巨体を靭やかに揺らしながら陸戦兵器<サッカロイド>は高速の蹴りを繰り出した。
今度こそ反応した斑虎は、瞬時に屋根から飛び降り彼の斬撃を交わした。

地面に飛び降りた後の彼は、巨人のことなど脇目も振らず燃え盛る家々の間を器用に進んだ。
背後から怒号のような殺戮音が聞こえてくる。恐らく、家々の中に隠れた小さな弟子を屠るために脇目も振らずに蹴りを繰り出しているのだろう。

思い出せ。【会議所】に来るまでの思い出を手繰り寄せろ。
子供の頃、親とはぐれ人混みの中で必死に人をかき分けながら、広場を歩き回ったあの時を。学校の授業をさぼり、広場の路地という路地を走り回っていたあの時のことを。

斑虎は長くない数秒間の中で自分にそう檄を飛ばし、必死に過去の記憶を頼りに、多少の火傷とも気にせず、器用に裏路地を進み続けた。

Ωの語るとおり、接近戦では手数の差で彼の蹴りの前に剣は意味をなさない。
だが、同時に斑虎は彼の唯一の弱点を知っていた。

斑虎「七年の時間は俺を強くしたッ!あの頃の俺と思うなッ!」

それは、彼の蹴りの届かない死角に回り込むことだ。

民家を利用し身を隠した斑虎は、彼の背後まで到達できる裏道を使い素早く移動していたのだ。
再び広場に出ると、巨人ののっぺりした全形が見えた。だが“気”は感じられないことから、いま相対している面が“背中”に違いないだろう。
出し抜いたという、かつての師を一瞬でも超えたという実感が、斑虎の内よりこみ上げる力をより確かなものに押し上げた。

斑虎「『ジャガーライク』ッ!!」

今度はうなじの部分に向かい突撃をしようと跳んだ、その瞬間――



ガチャリ。


生命を刈り取る鈍い音が、斑虎の鼓膜の奥にまで響いた。

someone「『エアリアーリアル』ッ!!」

いつの間にか斑虎の方を向いていた巨人の腕の銃から放たれた銃弾は、someoneの咄嗟の機転で、斑虎を魔法の閃風で吹き飛ばすことで直撃を避けた。


先ほどと反対方向の広場に叩き落とされた斑虎は、打ちどころの悪い箇所をさすりながらも自嘲気味に笑みをこぼした。

斑虎「すまない、someone。本当に死ぬところだった…」

肩で息をする斑虎の脳内に、数秒前の光景がフラッシュバックした。

巨人は彼の背後からの攻撃を予め見越していたのだろう。
そのうえで腕を上げて装着されている銃の射線を確保し、彼が現れるまで敢えて待っていた。
あの時の、間近で撃鉄を引く音が耳にこびりつくように何度も反芻され、途端に斑虎の背中からはどっと汗が吹き出した。


someoneとTejasの二人は、うつ伏せに倒れ伏している斑虎の下にすぐに走って駆け寄った。
Tejasは彼を抱き抱えると、珍しく必死の形相をつくりだした。

Tejas「斑虎さんッ!いまはあいつから逃げるしかないッ!
俺たちでは倒せないッ。だが、時間がくれば奴を止める手立てがある。それまでの辛抱なんだッ!」

斑虎「…いま逃げたとして、いったい誰が王宮を守るんだ?」

血の溜まった唾を吐き捨て、斑虎は遥か頭上の陸戦兵器<サッカロイド>を睨みつけた。
顔を持たない巨人は“涼しい”横顔で、既に斑虎たちのことなど興味を失ったように、歩みを再開しようとしている。

斑虎「くそッ。これじゃあ、まともな兵士の攻撃なんて通らないじゃないかッ。本当に、打つ手はないのかッ!」

悔しげな表情を露(あらわ)にし、やり場のない怒りを吐き出す情熱的な男を前にして、この男だけはいつもの“冷静さ”を以て言葉を発した。

someone「斑虎。僕に一つ、策がある」

二人はすぐに彼に顔を向けた。
彼は群青色だったボロボロのフードを脱ぎ取り、決意の目を斑虎に送っていた。その眼には、同じ果てなき“情熱”を宿しながら。

斑虎「いったいなんだッ!?」


someone「僕は、もう一度だけ、“儀術”を撃てる」

彼の最初の説明はいつだって言葉足らずだ。
それは、彼が口下手である以上に、こちらを遥かに上回る聡明であるが云えに、端的な説明だけで相手も理解できるだろうという過ぎた認識を持っているからだろうと、斑虎はそう分析している。

だから、自分のような学もなく頭の動きも良くない人間は、何度も聞き返さないといけない。
恐らくその過程で煩わしさを感じた凡庸の人間は彼から去っていくのだろう。

だから彼に友達は殆どいない、自分一人を除いては。
凡庸で無知であることを自覚している分、彼と接することは百の利があっても一の害とはならなかったのだ。

そんな斑虎自身でも、珍しく今回の話は一度で理解できた。同時に、あまりの突拍子もない話に思わず笑みがこぼれた。
Tejasだけは分かっていないのか、横で不思議そうに首をかしげている。

斑虎「そういうことか。コンマ何秒かのタイミングの話になるぞ?任せていいのか?」

someone「【大戦】で競いあって、どっちが多く勝ったっけ?」

滅多に無い彼の勝ち気な言葉に、思わず斑虎は今の状況を忘れいよいよ声を出して笑ってしまった。

斑虎「良いだろう。俺の生命、お前に預けるぜ」

Tejas「よくわからないが、どうやら俺もそうせざるを得ないようだな…急がないとあいつが王宮をめちゃくちゃにするぞッ!」

Tejasの言葉に頷き、彼の腕を借りて立ち上がった斑虎は、戦勝気分のようにゆったりと歩く陸戦兵器<サッカロイド>に向かい大声を張り上げた。

斑虎「“Ωさん”、聞いているかッ!
さっきから、そんなちまちました攻撃であんたらしくもない。そんな弱っちい攻撃で俺たちから勝ちを奪えるとでも思っているのかッ?!」

陸戦兵器<サッカロイド>は止まらない。
宮殿に続く正門前の広場をゆっくりと闊歩している。

斑虎「戦いたいという野郎を無視するなんて、あんたも随分と腰抜けになったなあッ!
“鬼たけのこ”の異名が聞いてあきれるぜッ!!」

ぴたり、と。
片足を上げたまま、巨人は確かに静止した。

斑虎「現役の頃のあんたは、そんな小技で敵をいたぶるような卑劣な兵士ではなかったはずだ。一撃で全てを葬る強さこそが強者の誇りであり掟だと。
そう俺たちに教えたのは他ならぬあんただッ!

俺たち新兵の憧れの象徴だった。

まだこの声は届いているんだろう?
来いよ、全てを決める一撃でッ。

俺たちを全力で消しにこいよッ!」

上げた足をその場で静かに降ろし、巨人はまるで暫し何かを考え込むように、頭を憂い気に少し下げた。


すると。
まるでバレエのようにその場でくるりと方向転換をした巨人は、その胴体の正面を斑虎たちに勢いよく向けた。

そして、間髪入れずに自身の背中に長い手を伸ばし、擬態の術で透明になっていた特大の銃器を取り出すと、そこで初めて黒光りした大筒の姿が顕になった。
全長は斑虎たちの身長をゆうに超える大きさで、砲口の大きさといえば広場に出ている露店を二つか三つまるごと飲み込めるほどの大きさだ。
巨人が武器の側面に取り付いているコッキングレバーを勢いよく引くと、その鳴り響いた撃鉄の音は、先ほどとはまるで違う、まるで戦艦の艦砲射撃音のような地鳴りとなり、三人の鼓膜の奥まで響き渡った。

Tejas「鼓膜が破れるッ!」

斑虎「いいぞ、Ωさん。かかってこいよッ!俺たちと勝負だッ!」

巨人の両手で構える大筒の砲口に急速に光の集まっている様子が、正面にいる斑虎たちにはまじまじと見えた。
側面部に搭載されている魔力タンクから供給された魔力が光に変換されているのだ。
魔力が最大まで溜まりきったその時に、砲口に溜まった光は魔法光線として放出され、目の前の斑虎たちだけではなく、背後にある民家ごと瞬時に燃やし尽くすのだろう。

数秒後に自分たちの存在ごと消し炭にするだろう敵の準備を待っているというのは、someoneにはどこか不思議な感じがした。

だが、ここにきて小刻みに身体が震え始めた。
隣の二人に悟られたくないが、恐れからか、それとも責任の重大さからくる自信のなさに怯えたからか、震えは収まるどころか加速していた。

死は怖くない。だが、自分の無謀ともいえる提案で、これから放つ技のタイミングを誤った瞬間に隣にいる二人を死においやってしまうかもしれないと考えると、
途方も無い広大な空間に自分が一人放り込まれたように、恐怖で足が竦みそうになった。

今までは一人で生きてきたから平気だった。
それがいま、二人の生命を預かるという重大さを心がようやく実感した。

たまらなく恐ろしい、逃げ出したい。心臓が警告を打つように何度も早鐘を打った。
こわい。こわい。こわい。目を閉じたい。







斑虎「大丈夫だ」


思いがけない言葉に、そこでsomeoneは隣に立っている親友の顔を見た。
彼はこちらの肩に手を置くと、静かに微笑んだ。

斑虎「お前なら、大丈夫だ」


震えが、確かに止まった。


Tejas「くるぞッ!」

大筒は発射段階に入ると、一瞬その光を砲口内のある一点に凝縮させた。
その発射の過程は三人にもよく見えた。

無風。
その瞬間、全ての音が一瞬消え。


すぐさま、大筒から発せられた直後の轟音にかき消された。

砲口から目の前を覆うほどの輝く光が発せられたのを、確かに三人は見ていた。

斑虎「いま――」

斑虎の言葉は最後まで続かなかった。
なぜなら言い切っているうちに放たれた光線は三人を瞬時に捉え、消し炭すら残さずに粉々にしてしまうからだ。

そして、斑虎が叫ぶよりもほんの数コンマ秒早く。







someoneは“儀術”を放っていた。


someone「“エクスチェンジ”ッ!!!」


その瞬間は一度きり。

失敗すれば当然のように全員がビームに貫かれ死ぬ。
仮に成功したとしてもその確率は、糸を針の穴に一度で通すぐらい低いものだ。

だが、それでもsomeoneは試した。

初めて、彼は他者を救うために、自分自身の力を信じた。
“親友”の後押しをえて。


放たれたビームを見て、someoneは残った魔力を振り絞り再び儀術“エクスチェンジ”を放ち、自分たちの足元に展開された転移魔法陣といつの間にか陸戦兵器<サッカロイド>の足元に展開していた魔法陣の位置とを入れ替えた。
someoneたちは巨人の立っていた場所に移動し、先程まで自分たちがいた窮地の立場を、目の前の巨人に押し付けた。

すると、何が起こるか。


轟音。


    爆音。


          大爆音。


自分の放った必殺の光線を全て喰らった陸戦兵器<サッカロイド>は、何が起きたか把握する間もなく、耳をつんざく爆裂音を立てながらその身をひたすらに吹き飛ばした。
彼の巨体は背後の市街地をただただ巻き込み、ひしゃげて粉々にしながら、ゆうに数百メートルは吹き飛び、その動きを静止させた。

彼の転げた跡は民家や火災の後すら残らないむき出しの地面が露となった荒地となり、特大の嵐に襲われても同じことにはならないだろうという程に凄惨なものになっていた。
その更地の遥かかなたで、火災の赤い光を僅かに反射させた光で、そこに巨体が仰向けで寝ていることが三人にははっきりと判った。
あれ程の攻撃を喰らっても、その原型を保っているのは正直なところ恐怖でしかない。

だが、動きは止まっている。起き上がり、こちらに向かってこない。





someone「ハァハァ…」

限界を超えた魔力消費。
初めての本格的な死に近づいた体験を思い出し、いまさらsomeoneの額は大量の汗で溢れかえった。

斑虎「な?だから言っただろ?」

広場の中心で、なぜか斑虎だけは得意げに踏ん反り返った。

同じように顔に大量に汗を流していたTejasは、顔にへばり付いた長い前髪を払うことも忘れ、彼の姿を見て呆れたようにため息を吐いた。

Tejas「これは全てsomeoneさんの力によるものでは?」

斑虎「そうだ。そして、someoneを信じた俺たち全員の勝利でもあるッ!」

Tejasは言い返そうと口を開いたがすぐに止めた。
底なしの彼の言葉に少し元気が出たのも事実だった。

斑虎「よくやったな、someone」

斑虎の手を借り、someoneは起き上がった。まだ激しい動悸が収まらないのか、言葉を発すことができず肩で息をしている。
この場を和ませるように、Tejasは肩をすくめ軽口を叩いてみせた。

Tejas「いや。あれはさすがの俺でも吃驚だ。三回は死んだ気分さ」






「それじゃあ。ここで四回目の死を迎えてもらいましょうか?」


斑虎「ッ!?」

突如背後から投げかけられた言葉とともに、頭上に大量の光の矢が放物線を描きながらこちらに向かってきていることが、頭上に目を向けた斑虎にははっきりと見えた。
その数は数百本程度。逃げ場がないほどに矢は密だった。

斑虎「『エアロソード』ッ!!」

斑虎は咄嗟に二人を傍に引き寄せると、手に持った双剣を頭上にクロスさせ上空に真空波を放った。
彼らの頭上の矢は次々に真空波に払われるとともに、彼らの周りの地面には次々と矢が刺さり、結果的に彼らは四方を大量の矢に囲まれ身動きが取れなくなってしまった。



その矢を放った張本人は、いつもの能面のような表情を顔に貼り付け、斑虎たちを遥か高い頭上から見下ろしていた。

滝本「これはこれは、皆さん。おこんばんは」

会議所自治区域の議長・滝本スヅンショタンは、“別の”陸戦兵器<サッカロイド>の肩に乗りながらその姿を現した。

斑虎「た、滝本さんッ!?ってことは、やはりあんたが…」

滝本「いやいや。先程までの戦い、遠くから拝見してましたよ。実にすばらしい。
きのたけ兵士らしい、思考を凝らした戦いだ。
弱兵が大敵に挑む。これこそが【大戦】の醍醐味。

思い出すなあ、【大戦】が始まって間もなく。
最強だったたけのこ軍に弱小のきのこ軍が襲いかかった“あの時”をねえ」

弓の弦を静かに下ろし巨人の肩に腰掛けていた滝本は、まるで会議所にいたときとは別人のように、芝居がかった口調で答えた。
数十m下にいる見知った兵士たちを見ても表情を変えず、口調だけは楽しげだ。

斑虎「まるで、見てきたかのような言い方じゃないか」

睨みをきかせながら、斑虎は吐き捨てるように言葉を返した。

先程の行動で、斑虎の中では全てが“解決”した。
あらためて、滝本は自分たちにとっての敵であると認識した。

滝本「私が【大戦】に参加し始めたのはほんの数年前だと?
まあ確かにそうだ。だが、そんな“些細な問題”はどうだっていいんですよ。

やはり¢さんの反対を押し切ってでも現場に来てよかった。
予想外の出来事には幾ら歴戦の兵士たちの魂とはいえ、対処できないですからね」

そこで彼は、斑虎の隣にいるsomeoneに視線を向けた。

滝本「おかしいですね。貴方は“魔術師”791の任務を果たせずその怒りを買い、消されるか幽閉される。
そういう手筈でしたが、なぜここに居るのです?」

someone「種は明かせないですよ…教えたらおもしろくないでしょう?」

彼の答えに“それもそうか”と、滝本はそこで初めて余裕気にニヤついた。笑っても彼の顔が能面に見えるのは、きっと一つ一つの表情の変化が極端すぎて人間らしくないためだ、といまさらながらsomeoneは分析した。
続いて、彼の隣で場違いな私服で立っている兵士にも、チラリと目を向けた。

滝本「Tejasさん。貴方も私にとっては想定外だ。あれ程、カカオ産地に行くのはやめろと忠告したのに。てっきり戦いの最中で野垂れ死んだのかと思っていましたよ」

Tejas「生憎と、生まれつき悪運は強い方でね」

怒りに肩を震わせながら、斑虎は我慢ならないとばかりに一歩前へ出た。

斑虎「どういうことだ、滝さんッ!説明してもらうぞッ!
どうしてあんたが、【会議所】がオレオ王国を襲うッ!百歩譲って公国軍を蹴散らすだけならまだ分かるッ!
なのに、あんたは今、先程の“Ωさん”と同じように王宮を襲おうとしているッ!その理由を言えッ!」

彼の激昂を意にも介さず、滝本は冷たい笑みを浮かべた。

滝本「お隣にいる親友さんが全て知っていますよ。
全て“計画通り”です。最初から欲に目がくらんだ公国が王国を襲うことも、王国が我々に泣きついてくることも。

そして、我々が公国軍ごと王国を壊滅させ、その領土を全て手中に収めることまでもね」

斑虎「あんたは…最低の人間だなッ!!」

滝本「分からないのですか?これも全て会議所自治区域の発展のため。
【会議所】を国家にするための策。ひいては、貴方たちの生活を豊かにするための苦肉の計なのですよ。これは貴方たちのためでもあるのです」

Tejas「とんだ詭弁だな。こんな強硬策で世界だけでなく自治区域内からでも支持されるわけがないだろう」

滝本は退屈気に陸戦兵器<サッカロイド>の上で、足をぷらぷらさせた。
彼の乗る巨人はまるで巨大な彫刻体のようにピタリとその場で静止しており、却って三人には底知れない恐怖と怒りを加速させた。

滝本「どうでしょうか。この戦いが終わり真相を知る人なんて残るでしょうかね?」

someone「だとしても、こんな強引なやり方は間違っています。無意味に人を戦禍に巻き込む、間違った手段です」

滝本はその言葉を、鼻先で笑った。

滝本「貴方がよく言えたものだ。“宮廷魔術師”の手足に成り下がった人形風情が」

someone「違うッ!僕の“正義”は、あの人のために働くことじゃないッ!」

確かに、最初は王国を解放するという滝本の考えに賛同し、公国軍を牽制するために投入されるという陸戦兵器<サッカロイド>計画も支持した。
だが、それも全て彼女の横暴を止めるため。そして、平和な【会議所】を守るため。

someone「僕を受け入れてくれた“公明正大”な【会議所】を正しく導くことだッ!

貴方のような歪んだ考えを持った【会議所】ではない、正しい【会議所】をねッ!」

滝本「ひどい言われようだ。これまでの“私たち”の功績を全て否定するのですか」

悲しそうな顔をつくり、滝本は残念そうに何度も首を振った。

すると、遠くで怒号と爆音が響きわたった。
王都の外だろう。遅れて数多くの悲鳴が届いた。方角として、両軍がまさに今戦闘している戦場の方からだった。

斑虎「まさかッ!」

滝本「どうやら後続の陸戦兵器<サッカロイド>部隊も到着したようだ。両軍の殲滅を始めたところです」

斑虎「くッ!」

思わず矢を掻き分け駆け出そうとする斑虎を、巨躯から伸びた手が静かに制した。
戦場へ向かう道を、滝本率いる陸戦兵器<サッカロイド>は完全に塞いでいた。

滝本「さて。Ωさんを止めたのは大きな想定外でした。
あらためて、【会議所】議長として惜しみない賛辞を贈りたい。

ありがとう。

貴方たちのような猛者が【大戦】を盛り上げ、【会議所】を大きくしてくれたのです」

まるで幕の降りた劇に惜しみない賛辞を送るように、肩の上で立ち上がった滝本は三人に向かいパチパチと拍手を贈った。

滝本「だが、貴方たちは二つ、大きな思い違いをしている」

三人の背後、つまり先程彼らが立っていた場所から、瓦礫の崩れる音とズシリと響く足音が繰り返し、確かに三人の耳に届いていた。

斑虎「まさかッ…」

振り返った斑虎が、先程まで倒れていたはずの“Ω”の陸戦兵器<サッカロイド>の姿を再び目にした時、一瞬彼は夢の中にいるのではないかと勘違いをした。
なぜなら先程あれ程の攻撃を与えたはずなのに、歩いて戻ってきた巨人の身には傷一つついていなかったからだ。

滝本「一つ。英雄たちの魂の入った陸戦兵器<サッカロイド>はあくまで無敵だということ。それに――」


ガチャリ。


滝本を肩に乗せた陸戦兵器<サッカロイド>は、腕の装着銃を斑虎たちに向けた。


滝本「――二つ。どうあがいても、貴方たちはこの場で死んでしまうということ」



6-13. 英雄の敗北編へ。
Episode : “トロイの木馬”someoneへ戻る。

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