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6-6:正義の火編

初公開:2021/04/11


【きのこたけのこ会議所自治区域 会議所本部 2ヶ月前】

斑虎『おい、somone?』

斑虎からの心配そうな声で、someoneは暗く拘泥とした思いから意識を戻した。
気がつけば自分の身体はいつもの芝生の上で三角座りをしており、その隣には半身だけを起こした彼が心配そうにこちらの顔を覗き込んでいる。

最近は深く考え込むせいか、こうしていつの間にか意識をかすませてしまうことがある。それでも、身体だけは過去の記憶を頼りに動けているのは不思議なものだと、変なところでsomeoneは人体の反射行動に感心した。
そういえば以前に読んだ本で、犬を使い同様の実験を行った話があったことをふと思い出した。

斑虎『どうした、そんなに暗い顔して。なにかあったか?』

本心を探りあてられたようで、内心でドキリとした。

someoneは自身のことを無口で希薄な存在だとばかり思っていたので、周りから心配されるはずがないと決めつけていた。だが、唯一隣りにいる斑虎だけはこちらの変化に気づいていたようだ。
彼に理由を聞けば、“数年来の付き合いだから親友の様子はわかって当然だ”と、自信ありげに鼻の下でも擦りながら語るだろう。
そんなちょっとした指摘にも内心嬉しくなり、珍しくsomeoneは口元を緩めた。

someone『大丈夫だよ。なんでもない』

斑虎『そうか?ならいいんだが』

彼は肩をすくめると、しなやかな足を伸ばすとともに、再びその身を芝の上に投げた。
過度に問い詰めてこず適度な距離感を保とうとするのも、彼の良いところだ。


果たして、自分はどうしたいのか。

この一月、someoneは自分自身へのその問いに答えを出せず、ずっと悩み続けていた。
師に屈するのか。否、彼女の暴挙は許せない、だがたった一人の“親”への裏切りになる。
そもそも、師への報告を怠ったとして自分なんかに彼女を止めるほどの力があるのか。

ある思いが浮かんではすぐにそれを打ち消す否定が飛び出し、それを否定すれば別の観点から疑問が生まれる。
いくら考えても堂々巡りで、胸が押しつぶされるように苦しくなるばかりだった。

ただ、心の中で自問自答を続けるうちに一つだけはっきりと自覚したことがある。


それは、この平和で忙しい【会議所】の風景を、someoneは存外に愛しているということだった。


いま、からりとした空模様だった晩冬が過ぎ、季節は花の春へと移り、中庭の周りは甘い新緑の匂いに包まれ始めていた。
蕾を持つ花々は待ち焦がれていたようにいっせいに花を開き、そよ風に花弁が吹かれ花吹雪を散らし、人々はその中をかき分けながら忙しそうに行き交いしている。

祖国にも同じ風景が無かったのかというと決してそんなことはない。
向こうでも同じように新緑は芽吹いているだろうし、木漏れ日の中で穏やかな日を過ごせる場所はここ以外に幾つもあることをsomeoneは知っている。

だが、この【会議所】という場所はまるで万華鏡のようで、知れば知るほど妙で、呆れるほど色々なトラブルに巻き込まれながらも、決して飽きることがないのだ。
壮大な規模の【大戦】に、呆れるほどくだらない議題を取り上げる定例会議に、そして隣りにいる親友を始めとした想像を超えた情熱を宿す人間たち。
いい意味でここは雑多なのだ。

祖国愛も無ければ帰心が募ることもない。
いまのsomeoneにとって、この会議所自治区域こそが故郷だ。

この平和な風景を、日常を守りたい。
師の脅威を改めて実感する中で、自問自答を深める中で、かえってその思いは強くなっていた。


胸に秘める熱い思いを感じ、自分らしくもないと嗤う別の自分もいる。
かつてのsomeoneは冷静に極めて冷めた目線で、周りから一歩引いて全体を見回していた。
ただ、このような心境の変化に達したのも、今は考えすぎで少し感傷的な気分になっているのかもしれないし、そもそもの原因は隣りにいる情熱を体現したような男の気にあてられているからだとも思った。

さらに今までこの季節に特段特別な感情を抱いたことはなかったが、春は心機一転し一年の始まりの時期といわれる通り、ここにきて彼には先の心境に加え、もう一つ大きな意識の変化が芽生えようとしていた。


それは、他者への信頼と相談。


過去、決して彼が採ろうとしなかった選択肢で、一番不得手としてきた手段でもある。
これまで自らの行いを正当化するために何の意味も無いと断じ逃げてきた。

だが、彼はいま八方塞がりで、正直に言えば、誰かからの救いを求めていた。

今まで全ての取捨選択を自分で決め、顧みることなく進んできた。
それは今後も変わらないだろう。

だが、鬱蒼とし出口の見えない藪の中を突き進む不安気な自身の背中を、そっと押してくれるような。
あるいは導きの光を横で灯してくれるような、そんな相棒が隣りにいてほしい。

someoneはいま強くそう願っていた。

そして、その先導役を務められるのは、横で大欠伸(あくび)をかきながら惰眠を貪る彼しかいないという確信もあった。
果たして、この感情が今までの自身と比較し弱気からくるものかどうかは、今のsomeoneには分からない。確かにそうなのかもしれない。
だが、当時には選べなかった選択肢を、今は選ぶことができる。ただ、それを強みにしようとした。

意を決し、someoneは声を上げた。

someone『一つ、頼みたいことがあるんだけど』

斑虎はすぐに上半身を起こしsomeoneを凝視した。
目を丸くし正に驚愕、といった表情だ。

斑虎『どうした。何かあったか?』

someone『そんな大したことじゃないよ。単に斑虎ならどう考えるかを聞いてみたいんだ』

斑虎『そうか。お前からの頼みなんて、これまで一度もなかったからな。びっくりした』

ホッと息をつき、だがなおも半信半疑な彼の顔を見て、彼を落ち着かせるためにsomeoneは敢えて口元を緩めてみせた。
心のなかで一拍おき、あらためてこれから話す内容を組み立てる。
恐らくこの内容で齟齬はないはずだ。

someone『たとえば。

たとえば、自身の過去にずっと縛られている男がいたとする。

男は育ての親にずっと恩義を感じていたが、ある日、彼はその親に心無い言葉をかけられ傷つき、裏切られたと感じて以来、誰も信じられなくなってしまった。
心の奥底では報いたくないと思っている。
でも彼は面と向かっては反論できず言いなりになるしかなかった』

自分でも不思議なほどに、言葉は流暢に口から出た。

someone『ある時、離れた土地で暮らす親は高齢になり、老後の面倒を見てほしいと言い出した。親に報いる最大の好機が巡ってきた。

だが、男には今いる地で果たしたい夢があった。

男はどうすればいいか悩んでいる。大嫌いな親を見捨て自分の夢を優先すべきか、たとえ忌み嫌っているとしても、育ててくれたという恩に報いるべきか。
でも、もし前者を選んだら、親とは二度と顔を合わせることもできないだろう。
大嫌いな親のはずなのに、男は踏ん切りをつけずにひたすら悩んでいる。

…という小説を、いま読んでいて。ちょっと感情移入してたんだ。
斑虎ならどう考えるかなと思って』

最後に無理やり取り繕ったが、斑虎は疑いもせずに真剣な顔でうんうんと唸り、“なるほど”と一言呟いてから、さらりと言葉を発した。

斑虎『なんだ。そんなことで悩んでいるのか、その男は?
それなら、答えはとてもシンプルだろ』

someone『そうなの?』

驚き半分、期待半分で聞き返す。
芝生の上で腕を組みながら、彼は特に考える素振りも見せず語った。

斑虎『ああ。その男の、育ての親への気持ちは何だと言った?』

someone『気持ち…?育ての親には裏切られて以来、心の奥底では嫌っているという気持ちのこと?』

斑虎『ほらな?』

斑虎は嵐が去った後の空のようにニカリと笑った。

斑虎『それが“答え”だ。
育ての親など気にせず、自分の心で感じていることを、行動すればいい』

今度はsomeoneが目を丸くする番だった。

someone『確かにそうだけど…でも、男は幼少期から育ててもらった恩義を、少なからず感じている。
一方では縁を切りたい、でももう一方では血縁が無くとも親子関係があるから躊躇している。この相反する気持ちにずっと悩まされているんだ』

斑虎『育ての恩を考慮することは、たしかに大事だ。美徳だとも思う。
だが、本当に大事なことをその男は見失っている。

生きていくのはその男自身だ。
いちばん大事なのは、今の“自分の気持ち”なんじゃないのか?』

someoneは一瞬、言葉を失った。

斑虎『過去に縛られる必要はない。

昔はどうあれ、今の自分が何をしたいか。
心で考えていることをいの一番に優先しなくちゃいけない。

追加でひとつ聞くが、その男の果たしたい夢というのは、別に世間一般的にみれば悪い行いではないんだよな?』

慌ててsomeoneは頷いた。満足気に斑虎は何度も頷いた。


斑虎『なら、なおさらだ。

いいか、someone。俺も昔ばあちゃんに言われたことだが。


程度こそあれ、誰しも心の奥底には、“正義”の火というものを宿しているんだ。

この火っていうのは人によって大きさは様々だ。
義憤に駆られ燃え盛る者もいれば、不正ばかりをはたらき中にはもう火種が消えてしまっている人間だっている。

でもな。心の中の正義の火が消えていない限り、自分が正しいと思う考えや行動は…
言葉遊びになってしまうが。



本当に、全て正しいのさ。



第三者から見れば、それは育ての親を裏切る背信なのかもしれない。
でも、考え抜いた末に裏切るという行為が、自分を含め他者に正しい選択なのだと思うのならば。






それは、間違いなく“正義”になる』




脳天を金槌で殴られたような衝撃があった。

正義。

自分に最も程遠いものだと感じていた言葉を、目の前の親友は繰り返し使った。

正義という言葉は、実のところ苦手だった。
これまでのsomeoneの人生といえば、魔術師791に敷かれたレールの上を進む旅客列車のようなものだった。学校生活を与えられ、卒業後は働き口を提供され今に至る。
細かな地点での選択では自らの意志が介在するものの、俯瞰すれば少しカーブを曲がりながら遠回りしているだけで、結局は彼女の意志に沿いながら目的地へと向かっているに過ぎない。

彼女は公国の統一のため、魔法学校を起ち上げ単身で【会議所】に乗り込み、宮廷魔術師にまで成り上がった。過程や思想はどうあれ、全て自らの“正義”に基づき行動しているのだ。
対して、自分は結局彼女の言うところの手駒として日々を過ごしている。
そこに意思はなく、ここに決定的な彼女との差があった。
これまで悩んできた原因も、親への不義理という道徳的感情以外に、彼女との絶対的な思考の差を心では実感していたことによる卑下にもあった。

あらためて認めなければいけない。過去の自分は、目標に向かい邁進していた791に憧れていたと。

民衆を率い、国を起ち上げる彼らの掲げる正義の根本は、自らが正しいと信じ行動を起こす原動力だ。心から信じるものがあるからこそ、人は命がけで戦えるのである。
逆の面から言えば、信じるものがないのに戦えるはずがない。いわんや、自分自身を信じられず、他者と対峙することなどできる筈もない。


someoneは勘違いをしていた。

正義とは、絶対的な結論を導く概念ではない。
人の数だけ正義が存在するのだ。

当たり前で普遍の真理に、何一つ気づけていなかった。
彼女が自分の掲げた正義の下でオレオ王国に侵攻しようとするのであれば、自らにもその暴挙を止め【会議所】を守るという正義を振りかざしても良い。
いわば、これは正義同士の対峙なのだ。

初めて、someoneは強大な存在と化す師と対等に対決するという実感を持ち、同時に麗らかな日の下だというのに、身体は不自然にも小刻みに震え始めた。
いくら口では強がっても深層心理では不安と恐怖で屈しそうになる。
彼は目を閉じ、心臓の中、深層心理の奥底に灯っているであろう “正義の火”のことをさっそく考えた。
小さな、だが暖かな火種を想像すると、彼の思いに呼応するようにその火は大きさを増し、すぐに身体の中心からじんわりと温かな熱が身体中に流れるようにポカポカとし始めた。
真冬の日に焚き火に手をかざした時の感覚と似ていた。

斑虎『まあ、ざっとこんなところだな。

別にいいんじゃないか?裏切ったって。
後ですべて終わったら“ごめんなさい”って謝ればいいんだよ。物分りのいい親は大抵許してくれるさ。

まあそれでも許されないこともあるが、そのときは…まあその時だな』

力強い論調から一転し最後の煮え切らない言葉に、思わずsomeoneはふっと吹き出してしまった。

someone『なんだよ、それ。でも、斑虎らしいな』

斑虎『そうだろう?でもおもしろい話だな。なんて小説だ?今度貸してくれよ』

someone『読み終わったらね。でも…ありがとう、斑虎』

心を縛り付ける太くて重い鎖が、静かに溶けていく実感を持った。


魔術師791との訣別と対峙。
それは並大抵の努力では生き残ることはできないだろう。

さらに、someoneの掲げる“正義”には、彼女の暴挙を食い止める以外に別の条件も付記されている。
それは“【会議所】を今のまま公明正大に、平和を維持させる”こと。

彼(か)の魔王の歯牙から、この自治区域を守りたい。
平和なこの風景で、隣で斑虎と笑いあっていたい。

カキシード公国のsomeoneとしてではなく、きのこ軍兵士someoneとしてそう強く感じた。


自らの抱く“正義”の体現のため、someoneは覚悟を決めた。

独りの力ではどうしても限界がある。だが、斑虎をこの問題に巻き込むには流石にリスクが大きく躊躇われた。

そして彼はすぐに、魔王と対峙する際に味方になれば強力な人物が近くにいることに気がついた。
とてつもない危険が付きまとうことは理解している。信頼に足る人物かも不透明だ。だが、試す価値はある。


“いつだって、世界を変えるのはド阿呆の振る舞いからである”。かつてどこかで読んだ本に書かれていた一文をふと思い出す。
敷かれたレールの上から独り離れたsomeoneはもう止まらない。今だけは、目的のために手段を選ばない師の考えを少し理解できた。

大人になったということなのかもしれない。
強大な魔術師に対峙するという突拍子もない行動は冷静に考えれば無謀だ。

生まれてからあらゆる事に無頓着に生きてきた彼は今、初めて熱き心でその情動を突き動かしていた。
幼少期にそのような経験をしてこなかった分、彼の振る舞いは、他の大人たちの目には青臭くさぞ不格好に映ることだろう。寧ろそれでいい。

彼はずっと子どものままでいたいと思った。

想像もつかない突拍子のない行動で、大人たちを翻弄させられるというのならば、いっそ成りきってみようと思ったのだ。



とてつもないド阿呆に。





【きのこたけのこ会議所自治区域 議案チャットサロン 2ヶ月前】

滝本『それではこれにて会議を終了とします。お疲れさまでした』

室内に滝本の抑揚のない声が響き、静寂に包まれていた議場は途端に喧騒を取り戻した。
いつもの会議の風景だ。人々は熱心に会議に参加こそするが、難しい議題になると途端に閉口する。

困り果てた議長の滝本やその他の幹部級の兵士たちが案を出し合い、それを見て参加者は何食わぬ顔で議論を吟味する“振り”をして、最後には可決する。
公国で行われていた791の独断よりかは幾らか民主的ではあるが、些か偏ったものであると言わざるをえない。
この点、【会議所】はまだまだ不完全だった。

昼食のため足早に会議室を後にする兵士たちを尻目に、末席のsomeoneは席を立たずただじっと待ち続けた。
そのうち、数分も経たずに室内には滝本とsomeoneだけが残り、書類をまとめ終わった彼はようやくこちらに気づき、不思議そうな面持ちで近づいてきた。

滝本『おや、someoneさん。今日はお疲れさまでした。
そういえば、この間の【制圧制】ルールの【大戦】も好評でしたね。
貴方には¢(せんと)さん以来のルールクリエイターとして、これからも大いに期待していますよ』

someone『…』

滝本は、顔を俯向け黙ったままのsomeoneを不審に思い、顔を曇らせた。

滝本『どうかしましたか?』

someone『…僕は、【会議所】の“秘密”を知っています』

滝本『秘密、とは?』

彼は特に動揺も見せず、いつもの穏やかな口調で言葉を返した。見事なまでの平静さだと舌を巻く。普通の人間であれば面食らうか押し黙るが、会話の呼吸に乱れは一切ない。
しかし、普段の口調の奥には他者を探るような鋭さが垣間見える。この手の気は791でも同じだったから慣れている。
こちらの緊張感が彼にも伝わっているからかもしれない。someoneは慎重に言葉を選びながら話した。

someone『ケーキ教団。“きのたけのダイダラボッチ”。密造武器。
…この単語を言えば十分ですよね?』

滝本『…』

さすがの彼も何の返事もせず、暫く押し黙ったままでいた。
数分は経っただろうか、実際は数十秒程度だったのかもしれない。
焦れたsomeoneが、伏せていた目を上げると。

滝本『どこで、それを?』

カッと目を見開いた滝本が、いつの間にか翡翠(ひすい)から紅蓮に染まりきった瞳でこちらを見下ろしていた。
羽織っているアオザイの深紫(ふかむらさき)にボサボサであちこちに跳ねた青髪とあわせると、まるで神話に出てくる半獣のような禍々しさを放っている。

滝本『聞かせてください、someoneさん』

有無を言わさず無表情で凄む滝本に、someoneは怖気づくことなく言葉を返した。

someone『…私はなにも秘密を明かそうとしているわけではありません。寧ろ、その逆です』

滝本は初めて眉を潜めた。秘めていた言葉を、someoneはここで初めて明かした。

someone『僕も滝本さんたちの“仲間”に入れてほしいんです』



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