2-5:DB捜索編〜スリッパ発見まで

初公開:2014/08/31

【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

前回の緊急会議招集から数日経った後、
各部隊の定例報告を目的に再び会議所兵士たちは編纂室に集結した。

きのこ軍 集計班「では…会議を始めましょう」

掠れた声で集計班がそう宣言し、会議は始まった。
既にオニロと集計班はここ数日で少なくとも5回は歴史改変による脳シェイクを味わっている。

きのこ軍 参謀「DBとスクリプトは依然行方不明や。両軍の人里でも密かに捜索を続けたが、DBたちが現れた形跡がない」

きのこ軍 アイム「つまり、DBたちは『未開の地』に逃げ込んだ可能性が高いってことか」

たけのこ軍 791「でも、もし『未開の地』に逃げ込んだとしたら、すごく厄介なことになるよね」

きのこたけのこ大戦世界では、会議所を中心とした時、西部方面にはきのこの山が、東部方面にはたけのこの里が広がり、
そこにそれぞれの軍の兵士の一大集落を構え生活している。
会議所から見て、北方方面は険しい山々が構える山岳地帯であり、辺り一帯は樹海が広がっている。
北方方面一帯は『未開の地』とされ、大戦が続けられる中でいわば「タブー」とされてきた土地である。

未開の地に逃げ込んでいるという可能性は、多くの兵士が懸念している事態ではあったが、
その事実が明るみになったことで、兵士たちの焦りの色はより一層濃くなった。
しかし、ただ一人、オニロだけはその話を聞き、興奮げに事態を打開する一言を述べた。

たけのこ軍 オニロ「DBたちの居所がわかったかもしれません!」

きのこ軍 参謀「ほんまかいな」

DB討伐隊長の参謀は目を丸くして続きを促した。
オニロは円卓テーブル上に、すっと一冊の本を置いた。
『きのたけ見聞録』と書かれた古びた本である。

たけのこ軍 オニロ「少しでも手がかりはないかと思って、編纂室の書物を読み漁ったんです」

たけのこ軍 抹茶「内容は…冒険書ですか?」

きのたけ見聞録。
KNC暦初期に書かれたこの本は、きのこたけのこ大戦世界上の各地を一人の冒険者が見聞したものが編纂された旅行記である。
きのこの山、たけのこの里、会議所は勿論のこと、当時未踏の地であった極寒のシベリア地方(両軍の兵士を罰するために送られていた流刑地 現在は観光地)や、
いま兵士たちが情報を欲している未開の地に関してまでもが詳細に記されている。

たけのこ軍 抹茶「すごい本じゃないですか…でもそんな本の名前、聞いたこともなかった」

きのこ軍 集計班「誰も地図上の歴史に興味を示さなかったために本の存在価値が薄れてしまっていたことが一つ。
なにより、当時の識者たちがこの本を丸っきりの出鱈目が書かれた書物だとして、端から評価の対象にしていなかった」

きのこ軍 きのきの「え、どうして?」

きのこ軍 集計班「…単純な歴史書物とは評価し難い『重大な欠陥」があったからですよ」

きのこ軍 アイム「欠陥?落丁とかか?」

オニロは静かに首を振り、ボロボロになった本のページを大事そうにめくる。

冒険書の保存状況は酷いものだった。四隅についている銀の留め具は原型を留めないほどに溶けて形を変え
本にこびりつき、金で刻印されていただろう表紙の文字・ロゴはススや埃ですっかりと隠れてしまっている。

きのこ軍 アイム「なんでそんな汚えんだよ…」

たけのこ軍 加古川「留め具や金箔が溶けているしススばかりだし、
過去に火災にでも見舞われた本なのかね?」

たけのこ軍 オニロ「ありました。このページです」

多くの兵士がオニロの下に集まり、冒険書を覗きこむ。
ヨレヨレになったページには、「未開の地」というタイトルの下に、鉛筆で簡単な風景画が描かれていた。
生い茂っている森に、明らかに人工と思わしき鳥居が森の奥まで列をなして立ち並んでいるという、自然の中に人工物が混ざり合う奇妙な風景画だ。

きのこ軍 ¢「鳥居…?」

たけのこ軍 オニロ「該当部分の記述を読み上げますね。」

『「未開の地」に関して興味深い話を耳にした。
とんがり帽子のような山々が連なる群峰の麓に広大な樹海が広がっていることは既に前項で述べたが、
その一角に【彷徨いの森】と近隣住民が呼んでいる森林地帯がある。森の内部には無数の道が存在し、
ある道を進んでいくとまた無数の道に分岐、進んだらまた分岐…と言った具合に正に天然の迷路となっている』

きのこ軍 アイム「それがどうしたってんだ」

たけのこ軍 筍魂「アイムはせっかち」

たけのこ軍 オニロ「続き、読みますね」

『さて、入ったら二度と出て来られないと言われる彷徨いの森だが、
先祖代々森の近くに住んでいるご老人から伺った話によると、どうやらある法則に従って分岐される道を進んでいくと森の【出口】に辿り着くというのだ。

その法則に従って最後の道を進んでいくと、木々で覆われていた森を抜けて、突然開けた場所に出る。
その場所には、今まで聞こえなかった小鳥のさえずりも、今まで森に隠されていたお日様をいっぱいに浴びて花を咲かせる草木も茂る、楽園のような場所だ。
さらにその楽園を奥に進んでいくと、大量の鳥居が我々冒険者を出迎える。
鳥居はまるで道案内のように綺麗に立ち並び、冒険者を【宝の山】まで案内する。』

『鳥居に導かれて、目の前にある扉を開けると、
そこには過去と現在を自由に行き来することができる
タイムマシンフロア――宝の山――が広がってるというのだ。』

きのこ軍 参謀「!!タイムマシン、やと…!」

たけのこ軍 抹茶「なんと…」

たけのこ軍 オニロ「
『宝の山とはタイムマシンのことだ。
なぜ、このような場所にタイムマシンが存在するのかはわからないが。
タイムマシンで現在と過去を自由に行き来できるということは、つまり過去の歴史を好き勝手に弄れるということだ。
私には過去改変による歴史の整合性や、倫理観などには専門家のようにとうとうと意見を述べることはできないが、
単純にタイムマシン自体には冒険家としての興味を惹かれる。

タイムマシンフロアがあるという話は、聞く者にとってはただの法螺話に聞こえるかもしれないが、私はご老人の語った内容を信じたい。
いつか、彷徨いの森を抜けて宝の山を見つけ出すことが私の夢であり冒険家としての終着点でもある。

タイムマシンフロアといちいち呼称するのは、どうも夢がない。
この際、この場を借りて、私自身がこの宝の山の名称を決めたいと思う。

私が夢を追い求める時間は限られている。その限られた時間の中で私は必ずや探しだしてみせる。


―――― 【時限の境界】


自身の決意を込める意味で、
魔法のタイムマシンフロアを以後こう呼びたいと思う。』


【K.N.C 180年 北方方面『未開の地』】

きのこ軍 アイム「ここが誰も足を踏み入れたことのない場所か…」

数時間かけて辿り着いた鬱蒼とした山林地帯を前にして、アイムは止めどなく流れだす汗を腕で拭い取った。

きのこ軍 参謀「『きのたけ見聞録』によると、この森を北方方面にさらに数時間進むと、
件の『彷徨いの森』があるらしい」

手元にある見聞録を大事そうに眺めながら、参謀は森のなかを指さした。

アイム「森のなかにさらに森があるのかよ…」

たけのこ軍 ジン「そこに、『時限の境界』だったっけ?があるんすよね?」

きのこ軍 ¢「疲れたんよ。こんなに歩いたのは久しぶりなんよ。お家が恋しいんよ」

新生DB討伐部隊は、未開の地突入を前に小休止を取っていた。
DB討伐部隊の設立には、少し時間を遡る必要がある。

━━━━
━━

【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

きのこ軍 参謀「一連の不可解な歴史改変、示し合わせたかのようなDBとスクリプトの逃亡、そしてタイムマシンフロアを言われる『時限の境界』の存在。
これは、DBたちが『時限の境界』を見つけて、そこで歴史改変を行っているということに他ならないちゅーことやないか?」

たけのこ軍 791「でも、『時限の境界』が存在する保証なんてあるの?」

たけのこ軍 社長「ゴクウの とほほほほ」

きのこ軍 アイム「この本には『重大な欠陥』がある。シューさんはそう言った。
つまり、まるでお伽話のような眉唾ものの『時限の境界』を、さも存在するかのように語ってしまっていることで、
この本の歴史的書物としての価値は著しく下がっているってことだろう?つまり、少なくとも当時の兵士たちは『時限の境界』なんて信じてなかったってことさ」

きのこ軍 集計班「アイム君の言うとおりです。事実、この本の発表当時から識者の間では物議を醸し、結果として著者は表舞台から姿を消しています」

たけのこ軍 社長「時の流れは速い。ガムテープみたいにな」

たけのこ軍 オニロ「あるかもわからないタイムマシンフロア目指して、命がけで探す覚悟があるか…」

社長を除いて、編纂室は再び長く重い沈黙に包まれた。

きのこ軍 参謀「どちらにしろ!」

参謀は立ち上がり、気落ち気味の周りを見回す。

きのこ軍 参謀「会議所は何者からの攻撃を受けている!そして封印したはずのDBとスクリプトがその直前で逃亡している!
偶然と考えるにしても出来過ぎや!」

拳を振り上げて、周りを鼓舞するように参謀は力説する。

きのこ軍 参謀「ワイらの目的は『会議所の平穏を脅かす脅威を取り除くこと』!
そのために、DB・スクリプトを始め、ありとあらゆる敵対勢力を対峙する必要があるんや!
そして、この手で必ず脅威を抹殺する!!」

全員「うおおおおお!」

参謀の演説に共感した多くの兵士が、同じように拳を振り上げ、敵と立ち向かう覚悟を決めた。
ここに、新生“DB討伐部隊”の設立が宣言されたのだ。

━━
━━━━

【K.N.C 180年 北方方面『未開の地』】

そしていま、未開の地へ足を踏み入れて数時間、
DB討伐部隊は早速森のなかを彷徨っていた。

¢「うぅ…僕らはもうここで死ぬんよ」

アイム「なに弱気なこと言ってるんだ。いくらあんたとはいえ怒るぞ」

¢「びえええええええええええええええええええん」

第一次DB討伐部隊は合計4名の兵士から構成されている。
隊長格のきのこ軍 参謀、会議所古参筆頭のきのこ軍 ¢、たけのこ軍 ジンそしてきのこ軍 アイムである。
きのこ軍3名、たけのこ軍1名。一見すると、その人選には偏りがあるように見えてならないが、パーティバランスは図られている。

前衛として『突撃兵タイプ』の¢とアイム、後衛には『防衛兵タイプ』の参謀と『衛生兵タイプ(魔法)』のジン。
前衛二人が火力を集中させ、後衛のビギナーが支援魔法で援護する。
防衛兵の参謀は随所に前衛と後衛をサポートする役割に徹するという布陣だ。
PT選考に関しては、本人の意思を最大限尊重し、志願者の中から参謀が選考した。

ジン「薄暗くてジメジメした編纂室に居るよりも、まだ体を動かせている今のほうが絶対にいいすよ」

力強い言葉とは裏腹に、その声色は弱々しい。彷徨いの森の到着以前に、既に森のなかを彷徨っている現状を鑑みると、不安になるのは当然だ。

参謀「編纂室はシューさんとオニロが頑張って守っているんや。ワイらも頑張ろう」

アイム「けッ…」

相変わらずアイムはオニロのことが気に入らない。
それは元々の二人の性格の違いが、水と油のように相反して交わらないことも関係するが、
オニロがヌクヌクと編纂室で自分の帰りを待っている現状にも、アイムは気に入らない。

『わあすごいね、アイム!討伐隊に選出されるなんて!頑張ってきてね!』

PTメンバーが発表された際、オニロは諸手を上げてアイムのPT選出を喜んだが、アイムは馴れ馴れしく近寄るオニロにいらだちを募らせていた。

『ありがとよ。そちらも編纂室での“お留守番”、ガンバレヨ』

アイムは吐き捨てるようにオニロに言葉を投げかけた。
アイムを含む地上の討伐部隊は命を賭して、DB・スクリプトであろう敵と対峙する。
一方で、オニロを含む地下の編纂室部隊は、多少の脳シェイクを耐えながらただ歴史改変の観測に徹するだけ。

―――地上部隊と地下部隊では背負っている“責任”が違う。

たかが地下部隊風情が、地上部隊と同じ目線で言葉を投げかけてくることを許せない。
地下部隊としてのオニロの激励の言葉が、アイムの気に触ったのだ。

『うん、わかった頑張るね!ありがとうアイムッ!』

しかし、天真爛漫さを地で行くようなオニロの前ではアイムの皮肉も無効化されてしまった。
笑顔で返答するオニロに、アイムは怒鳴り散らしたい思いをぐっとこらえ、口をヘの字に曲げて応対するだけだった。

討伐部隊が未開の地に突入してから、数時間が経過した。
空は既に夕暮れ。未だ彷徨いの森どころか方角も見失った面々は、
目の前の樹海が刻一刻と漆黒の色を帯びてきていることに、焦りを感じていた。

¢「夜の行軍は非常に危険だ。どこか野宿できるような場所を探して、明日に備えたほうがいい」

参謀「せやな。では、ここをキャンプ地とする!」

アイム「おい…あれはなんだ?」

アイムが指をさす遠くの方向に、微かではあるが一点の光が闇の中で浮かび上がっていた。

ジン「あれは…家かな?もしかして」

参謀「敵の罠かもしれん。慎重にいくで」

歩いて行った先には、一軒の民家が、煌々と明かりを放ちながら、ぽつねんと暗い森のなかでその存在を主張していた。

参謀「こんなところに人が住んでるんか?」

アイム「人がいるなんて、『未開』でもなんでもねえじゃねえか」

¢「調査され尽くしてないという意味では未開だろ」

ジン「煙突から煙が出続けている。誰かが生活しているんだ」

と、家の扉が唐突に開け放たれる。4人は思わず臨戦態勢を取り、
扉を開けた目の前の人物に目を凝らした。


??「家の前がうるさいと思ったら、いったい誰だ…ん?」

家主はDBでもスクリプトでもなかった。
顔に刻まれたしわは、家内からの明かりに当たり濃淡を作り、よりくっきりと見えた。
男は年齢以上に年老いて見えた。怪訝な顔をして討伐隊を見回す男だったが、参謀と¢の姿を視界に捉えると、一瞬眉間にしわを寄せ、すぐに目を丸くした。

??「もしかして、参謀と¢か…?」

声をかけられた二人は、眩い光に目を背けつつも男の顔を捉えると、同様に目を丸くした。

¢「まさか…こんなところで会えるなんて」

参謀「ひっさしぶりやなあ。これを奇跡というんか…いやまあ必然ちゅうべきやな」

??「俺からすると、お二人に会えたのが正に奇跡さ」

3人でワイワイと盛り上がる中、
ジンとアイムは目の前の出来事をただ見つめることしかできなかった。

アイム「お、おい。あんたら知り合いなのか?」

参謀「ん?ああ、勝手にワイらだけで盛り上がっとったな。この人は…」

??「おや、その本は…また随分と懐かしいな」

アイムが手に持つ『きのたけ見聞録』を見て、男は感慨深げにそう呟いた。

??「そんな本をまだ持っている人がいるなんて、作者として冥利に尽きるな」

アイム「…まさか、あんたは」

参謀「そうや。この人こそ、『きのたけ見聞録』の著者であり、冒険家でもある…」


??「元・たけのこ軍兵士のスリッパだ。どうぞよろしく」

冒険家スリッパは落ち着き払った様子で静かに手を差し出した。

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