3-14:真相篇

初公開:2017/03/27

【K.N.C180年 会議所地下 大戦開発室】

身動きの取れないアイムたちに縄をくくりつけ、黒砂糖は大廊下の端からのびる階段で地下へと下り始めた。
アイムにはその薄汚れた階段の入り口に見覚えがあった。
会議所に来たばかりのアイムが、埼玉と抹茶に案内を受けていた際に見つけた隠し階段と同一のものだったのだ。

誰かに抱えられながらアイムたちは階段を下っていった。アイムたちは身体を動かすことができないため、知る由もない。
階段はすぐに途切れた。大戦年表編纂室のように構造自体に魔法が施されているわけでもなく、そこには純粋な地下室が用意されているようだった。

着くやいなや、アイムたちは部屋に投げ出された。打ち身を気にする暇もなく、アイムたちの鼻を腐敗臭が襲った。
生臭さとも刺激臭とも取れる独特の臭いに、アイムとオニロは覚えがあった。

オニロ「お前は…DBッ!」

DB「おや久しぶりだねェ“君ィ”」

まるで玉座と言わんばかりに目の前で椅子に座りふんぞり返るDBを、アイムとオニロたちは苦々しそうな表情で見上げた。

漆黒の司祭服を羽織った黒砂糖は、当然のようにDBの横に付いた。
その左右にもオニロたちの見知った会議所兵士たちが、DBに忠誠を誓うかのように整然と並んでいる。
先刻までオニロやアイムと額を寄せ合い話し合い、DB討伐のために立ち上がった兵士たちだ。
DBの異臭に気にも留めず皆一様に下品な笑みを浮かべる兵士たちの姿は、彼らがDBの魔の手に落ちたことを瞬時に確信させた。

アイム「おかしいな。オレたちはDB討伐に湧くK.N.C180年に戻ってきたはずだが、こいつはどういう理由かな」

スリッパ「抹茶、黒砂糖、山本。目を覚ませッ!目の前にDBがいるんだぞッ!」

つい先刻まで同胞だった会議所兵士たちが、明確な敵意を以て相対す姿はスリッパたちにとって混乱よりも寧ろ畏怖を招いた。

抹茶「スリッパさん。まだそんな馬鹿げた事を言っているんですかァ」

加古川「俺たちは間違っていた。DB様の素晴らしさに触れェ、DB様の支配を助けようと思い直したんだよォ」

山本「アイムゥ。はやくお前も“こっち”に来いよォ。さもなければ…な?」

焦点が合わず人形のように歯をカタカタと鳴らしながら喋る兵士たちに、思わずアイムは見ていられないとばかりに目を逸らした。

オニロ「強力な洗脳魔法がかけられている…歴戦の兵士でも逃れられない」

しかしオニロはその言葉とは裏腹に一つの希望を持っていた。オニロたちの前に並ぶ兵士たちの中に、師匠791の姿が無い。
791は今もまだ編纂室で健在か、もしくは人知れず交戦の機会を探っているのではないか。オニロは791の強さを誰よりも肌で感じ絶大な信頼感を持っていた。

DB「その通りィ。兵士の“希望-心の本-”を喰らい今の俺様はなんだってできる。洗脳、破壊、支配――そう、あの大魔法使いですら今の俺様にとっては敵ではない」

オニロ「ッ!!まさか、師匠をッ!」

DBは溜息を一つついたのち、オニロの様子を見て鼻で笑った。
足を挫いてもなお悪足掻きをする獲物に憐憫の情を抱く肉食動物のように、DBは落ち着いていた。

DB「大戦年表編纂室――貴様らも考えたものだなァ。道理で、俺様とスクリプトの動きが読まれるわけだ。お陰で俺様の考えは看破され壊滅一歩手前だったァ」

DB「お前の師匠、大魔法使い791といったか。かなりの強者だったァ、かつての討伐戦の後に来た人材でェ俺様もデータはなかった。
ナメてかかれば今ここには居なかっただろう…だが幸いなことに俺様には優秀な片腕がいてなァ」

黒砂糖「大魔法使い791が強力魔法を使うゆえ、魔力消費が他の兵士より早いことをお伝えしたのだ」

――魔力切れを誘発し、一先ず早く寝てもらったわ。

黒砂糖はDBの賞賛に感銘を受けたように深々と頭を下げた。

社長「黒ちゃん…あんたって人は」

オニロ「ふ、ふざけるなッ!!!師匠の優しさに漬け込み、あなたはッ!!!信じていたんだぞッ!それを、それを踏みにじるように…」

アイム「抑えろ。黒砂糖さんも洗脳されているだけだ。寧ろ、791さんがこの場に居ないことは救いだ。オレたちはまだ運に見放されたわけじゃない」

激昂しかかる社長とオニロをアイムは冷静に諭した。DBはその様子が気に食わなかった。

DB「今の状況を理解しているのかァ?お前たち以外の討伐隊員は全て俺様のォ支配下に入った。そしてお前たちはまな板の上の鯉だァ。
俺様が一度、ふっと口から息を吐けばァ洗脳されるんだぞォ」

アイム「見かけ上はそうかもしれない。ただ、オレたちを操り人形にできたとしても、それからどうだ?
いつ切れるかわからない洗脳を頼りに怯えながら砂上の楼閣の王として暮らすか?本当の兵士の心までをお前は掴めない」

オニロ「掴めるはずがないよ、お前はボクたちを使って人形遊びをしているだけだから。そんなまやかしの世界を手に入れて、お前は何が楽しいんだ?」

途端、DBは椅子を転がすほどに勢い良く立ち上がり激昂した。

DB「貴様らに何がわかるッ!!兵士の士気高揚のためだけに生み出され、討伐、そして幽閉。
たまに大戦への参加意欲が下がると外に出されまた討伐される。
俺様は貴様らの欲望の捌け口として生まれてきた、見世物小屋の動物みたいなものなのだ。
檻の中の動物が、唾を吐く見物人に牙を剥いて、何が悪いと言うのかッ!!!」

一気にまくし立てたDBは肩で呼吸をするように荒々しく息を吐いた。

アイム「それでお前は――」

オニロ「――【満足】できたのか?」


              ――それでお前は満足できるのかい?

DBの脳裏には、いつか誰かから発せられた同じ言葉が蘇った。

DB「【同じ】だ、あの時と…貴様らは、否。“貴様”はまたも俺様を愚弄するのか…」

アイムとオニロの一言に、DBはよろめきながらブツブツと独り言を呟いた。

DB「貴様は…そうして“希望”を振りまき…俺様をまた闇へと追いやろうと…」

部屋の奥にある巨大な空調機のような機械から出る忙しない光が、広々とした部屋を薄ぼんやりと照らしていた。

オニロ「ねえ社長。どうしてDBはあんな狼狽えているの?」

社長「…さあ、ワシにはさっぱり。」

未だ麻痺魔法で身動きの取れないオニロたちだったが、目の前のDBから放出される目に見えない“自信”は、オニロたちに希望を与えた。

DB「そうは…そうはさせるものか…そうだ、そのために俺様は…ふは、ゲハハハハハハハハッ!」

独り合点したのか、DBは臭い口臭を撒き散らしながら高笑いした。
思わぬ臭気にアイムたちは顔をしかめた。

DB「貴様ァ。ここがァどこかわかるか?」

アイム「さあな、初めて来た」

DB「嘘だァ、前にも俺様と一緒にここに来ただろうゥ?」

誰に向けられた話しなのかわからず、またDBの自信に満ちた返答に、一瞬アイムは困惑し言葉に詰まった。

アイム「気でも触れたか?オレとお前が一緒に行動なんてするわけないだろ」

DB「いやァ。確かに、“貴様”はあの時俺様とこうして対面していた」

アイムは違和感を覚えた。先程からDBと会話しているはずなのに、DBが自分に向けて話していると思いにくいのだ。
どこか会話がすれ違う。

アイム「だから違うと言っているだろッ遂に頭まで腐っちまったか」

DB「もう少し、足りない部分を使ってみれば“貴様”も思い出すはずだ」

アイムは困惑したようにオニロに助けの視線を送った。

オニロ「おい化物ッ。アイムは違うと言っているんだ、独りよがりはやめろ」

DB「“貴様”の答えをまだ完全に聞いていない。教えてくれ」

オニロ「ボクにきいているのか?それならば、アイムと同じだ。お前と一緒だったことなど無い」

アイムは違和感の正体に気がついた。DBは二人と話をする時に、決してアイムとオニロに視線を合わさないのだ。
必ず二人の間にある何もない空虚な空間を見て話す。ただ虚ろな視線を送っているのか。
あるいはDBにしか見えない人物に語りかけているようでもあった。

DB「ここは俺様が生み出された始まりの地でもあり、“貴様”の終わりの地でもあるゥ」

DBの背後で、¢の開発した【圧縮装置】から漏れ出した光がDBを照らしていた。

アイム「貴様、貴様とさっきからお前はオレとオニロのどちらに話しかけているんだ?」

いい加減にアイムは痺れを切らした。オニロも続いた。

オニロ「混乱させようとしてもそうはいかないぞッ」

DBは初めて口角を釣り上げ嘲笑した。

DB「何を言っているんだ。俺様は最初から“貴様”と会話していたぞォ」

アイム「だから、それがどちらだと――」

DB「思い出さないかァ?」

DBの一言に、アイムは口を開けたまま一瞬静止した。
オニロも何かを考え込むように、辺りを見回す。

先ほど見覚えのなかったはずの風景。

そこに。アイムとオニロの頭のなかに、同時に【例の夢】の光景が流れてきた。


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「…かった。…長年…ついに……やっと……」
―― 囁くような声を聞いて。ゆっくりと、夢の中で瞼を開ける ――

「…オー…結集……貴様を………掌握ッ………会議所を……」
―― 意識が定まらない、うすぼんやりとした感覚が身体を支配する ――

「貴様を……会議所の…全て断ち……」
―― どこか見覚えのある光景、覚醒しない脳を働かせようとする ――

「…ッここで………消える…」
―― 思い出すのは、暗い室内 ――

「………るく思うな…これも…全て……ため…歴史を……ため」
―― 思い出すのは、異様なまでに冷えた部屋の空気 ――

「覚悟……逃げること……………なッ!…自ら……馬鹿なッ…」
―― 思い出すのは、ふわふわ浮いているような不思議な心地良い感触と ――

「なぜだッ!!!なぜ!!!!なぜだーーーーーーーーッ!!」


          ―― 頭を鈍器で殴られたような酷く重たい感触 ――
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━━━━
━━



アイム「ッッッッ!!!」

オニロ「ああああああッ!!!」

片方は声にならない悲鳴を。もう片方は金切り声で必至に記憶からの痛みに耐えるべく叫んだ。
麻痺魔法で指さえ動かすことのできない二人は、悪夢を振り払うように辺りをのたうち回ったが寧ろ彼らの症状の深刻さは増すばかりだった。

スリッパ「ど、どうしたんだふたりともッ!」

社長「アイムッ!オニロッ!戻ってこいッ!!思い出してはDBの思う壺だッ!」

DB「もう遅い…」

二人の悲鳴を最良の馳走とばかりにDBは舌なめずりをして見ていた。

DB「思い出したなァ。そう俺様は“貴様”と以前に、ここで対面している。否、それではない。それよりも以前からずっと、ずっと――」

社長「もう止めろDBォ!!!止めてくれッ!!」

アイム「オレたちに何をしたッ!」

オニロ「ボクたちに何をしたんだッ!」

アイムとオニロは満身創痍の中、目の前の邪悪な怪物に精一杯の虚勢をもって問いかけた。
社長の静止はDBにも、そして二人にも届くことはない。
いまこの瞬間、預言に無い運命は暴走を始めたのだ。

玉座に座るDBは待ちわびたとばかりに愉悦気に答えたのだった。

DB「そうか、今はアイムとオニロという名前になっていたのか。

         “貴様ら”は互いに欠けたピースゥ。


              元は一つの形だったァ。


何をしたか?その問いに答えよう。


            俺様は“貴様”を手に掛けた。
          その結果、出来たのが“貴様ら”だ。


分からないか?俺様は創り出した。
               

               アイムとオニロ。“貴様ら”二人を。



ここに“貴様”を招いたのもこの俺様。

そして、そこで不意打ちに“貴様”を討ち取ったのもこの俺様。

元々一つの存在であった“貴様”の魂が二つに分かれたのもこの俺様のせい。

つまり、つまりィ。ゴミのように転がっている“貴様ら”二人の生みの親は、この俺様ってことだよォッ!!」



Chapter4.大戦に愛を へとつづく


Chapter4. 大戦に愛をへ。
Chapter3. 無秩序な追跡者たちへ戻る。

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