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2-4:原因究明編

初公開:2014/07/12

【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

歴史改変が決定的となったいま、会議所兵士たちは目の前の出来事を一つずつ分析していくことにした。

参謀「改変された年表記述には決まって『スクリプト』が登場しているんやな」

参謀の言うとおり、歴史が改変された年には決まってスクリプトが大戦に登場している。
― スクリプト。
異型なる存在であるスクリプトが最初に大戦に姿を現したのは、正史によるとK.N.C86年の大戦中である。
ある一人の兵士が『ばかでかい小蝿』と表現したように、スクリプトはか細くかつ不快な奇声を発しながら
大戦場を飛び回っていた。

全身をガラクタのような機械で覆い、羽音と奇声が入り混じったような超音波を発し続けるそれに、
多くの兵士は不快の色を示したが、ほとんどは気にすることなく戦い続けた。
会議所の開発した集計ツールの一種かなにかだと勘違いされたからだ。
遡ることK.N.C42年頃に加古川が公開した集計ツール(仮)は、
目の前を飛び回るスクリプトと引けをとらないぐらいに不格好なものだった。
兵士たちはその前例を引き合いに出し、どうせまた会議所がわけわからんモノを作ったんだろう、
という会議所にとっては不名誉な結論に落ち着いた。

スクリプトが大戦に牙を剥いたのは、それからほどなくのこと。
時が来たとばかりに、スクリプトは広大な大戦場に響き渡る大きさで叫び始めた。
あまりの不快な音波に、思わず兵士は耳をふさぐ。
言葉にならない言葉を叫びながら、兵士の戦意を削ぐには十分すぎるほどの勢いで
スクリプトは大戦場を飛び回り続ける。可聴域ギリギリの周波数帯での大音響攻撃は、
兵士たちの精神を絶え間なく攻撃し続けた。

台本を読み上げるように、朗々とスクリプトは解読不能な言葉を叫び通す。
一定周期ごとに叫び終えたら、もう一度最初から。
繰り返し決まった言葉を叫び続けることから、後にその小蝿は“スクリプト”と名付けられた。
小賢しく動き回るスクリプトを尻目に、何もできないまま兵士たちは大戦場を後にした。
大戦の初めての敗北だった。

アイム「はぁ、なるほど。それからスクリプトはどうなったんだ?」

集計班「K.N.C89年に再度現れましてね。今度は対処策を取っていたので、
責任をもって我々の手でスクリプトを捕まえましたよ」

まあ、歴史改変の影響でこのあたりの認識が皆さんと私とで違うとおもいますが。
そう断った上で、集計班はスクリプトに関して話を続ける。

集計班「スクリプトは結局ただの愉快犯だったんです。人々の苦痛の表情を見て、それを餌に活動していたようで。
大戦を狙ったのも、ただ兵士が多く集まっていてより多くの苦しみを得られそうというしょうもない理由からです」

オニロ「実際にスクリプトがそう話したんですか?」

参謀「あくまで推測や。断片的にしか喋らんから、理解するのに苦労したわ」

集計班「まあそんなことが判明した後に、私たちはスクリプトを幽閉することにしたんです」

アイム「幽閉?どうしてその場で破壊しなかったんだよ?」

山本「あれ?俺たちにも当時はスクリプトを破壊したって言ってませんでしたっけ?」


集計班「この部屋の存在をみなさんに黙っていたことを一つ目の秘密だとすれば、
スクリプト幽閉は二つ目の秘密ですね」

肩をすくめる集計班。その態度に、さして罪悪感を感じているようには見えない。

参謀「スクリプトは『自我をもった機械』だったんや。スクリプトを解析すれば、
当時未完成だった集計ツールの進展に繋がると思うたんや。
みんなに秘密にしてたのは騒ぎを広めないため」

このことは『きのこ三古参』とツール開発師の抹茶しか知らん。
三古参たる参謀、¢、集計班と抹茶はお互いに顔を見合わせた。

791「それで、成果はどうだったの?」

抹茶「正直、あまり参考にはなりませんでした。そもそもバラして中身見ようとしても暴れるし」

791「あらら。それじゃあ捕まえた意味はなかったんだ」

アイム「…なあ。そのスクリプトって今も捕らえられたままなのか?」

参謀「ああ、そのはずやが…アイム、お前まさか」

アイム「…閉じ込めていた檻から動物が逃げ出すってのは、ありえることなんじゃないのか?」

【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

スクリプトを確認しにいった¢は、最悪の知らせとともに、
ものの数分で編纂室に帰ってきた。

¢「…スクリプトがいない。脱走したんだ」

多くの兵士が天を仰いだ。

参謀「ということは、脱走したスクリプトが、過去の大戦のアチコチに現れて歴史を改変しているってことか?」

ビギナー「スクリプトに時をかけることが可能だと?」

参謀「わからん。なにせ、スクリプト自体が常人じゃ理解できないほどの複雑な機構で作られているらしいんや。
仮に、そんなことができたとしても不思議やない。」

¢「…」

¢は、青ざめた顔で呆然と周りの話を聞いている。


オニロ「¢さん、どうしたんですか。顔面がブルーですよ」

社長「青天の霹靂だぜ。」

¢「…」

なおも押し黙る¢。その顔色は冴えない。

集計班「¢さん。なにか他にも話があるようですね」

社長「俺の名前は前田停学……」

集計班に促され、¢はゆっくりと話し始める。今起きている出来事を自分自身であらためて確認するように。

¢「…俺はスクリプトが幽閉されている檻を見に行った」

アイム「それは知ってるよ。スクリプトはいなかったんだろ」

筍魂「アイムはせっかち」

¢「スクリプトはいなかった。飼っている檻から動物が逃げ出したんよ」

アイム「それも聞いた。いったいなにが言いたいんだ」

眉をひそめるアイム。

¢「…会議所がスクリプトという“猛獣”を飼っていたとするなら、
会議所はもう一匹“怪物”を飼っていた」

参謀「…まさかッ!」

参謀が何かに気づいたかのように声を荒げる。

参謀「嘘やろ¢ッ!」

アイム「は?檻はスクリプトを閉じ込めるだけ。一つだけじゃなかったのかよ」

スティーブ「檻は二つあったってことかよッ!」

¢「猛獣は逃げ出した。そして、隣の檻の…“怪物”も逃げ出していた」

怪物、という響きに兵士たちがざわめく。


加古川「檻が二つとも、壊されていたということなのか…!!」

オニロ「そ、その“怪物”とはいったいなんなんですか?」

恐る恐るオニロが訊く。
¢からの答えは単純明快。わずか一言だった。
しかし、その一言は人々を恐怖のどん底に叩き落とすには十分すぎる威力を持っていた。


¢「DB<ダイヴォー>」

アイム「え…」

¢の口から出たその単語は、まるで魔術を含んだように、部屋の空気を一瞬で凍らせた。


社長「…DB」

参謀「なんてことや…」


¢「堅牢な檻から獰猛な動物が二匹解き離れた。
1匹目は愉快犯 スクリプト、
そしてもう1匹は…邪悪の権化 DB<ダイヴォー>」


DB<ダイヴォー>
きのこたけのこ大戦の負の象徴として君臨し続ける、きのこたけのこ大戦史上最凶の兵器である。
その姿を見る者、声を聞く者全てに不快感と嘔吐感を与える恐怖の大王は、
K.N.C28年に何の前触れもなく、兵士たちの前に姿を現した。
語ることすら憚れるような歪で醜穢な外見、鼻がひん曲がるような体臭。ひとたび口を開ければ、
まるで毎日生ゴミしか口にしていないんじゃないかと疑うほどの悪臭。

DBはきのこ軍・たけのこ軍兵士たちにとって正に「不幸」そのものだった。
DBの侵略を食い止めるべく、お互いを憎悪していた両軍が一時同盟を締結し、討伐戦を行い見事撃退したほどだ。
その後DBは度々大戦の合間を狙っては兵士たちの前に現れ、その度に討伐戦が発生し、
きのたけ連合軍に撃退されるようになった。

たけのこ軍 埼玉「DBが逃げ出したということは大変な事態たま」

たけのこ軍 椿「最後のDB討伐戦が行われたのはいつでしたっけ」

たけのこ軍 オニロ「年表ではK.N.C132年に最新のDB討伐戦が行われて、それ以後DBに関する記述はありません」

きのこ軍 黒砂糖「…DBはその討伐戦の時に、会議所が捕まえた。そして、スクリプトと同じように地下に幽閉したんだ」

たけのこ軍 加古川「しかしスクリプトとDBが同時に逃げ出したということは、両者が手を組んでいるということは十分に考えられるな」

たけのこ軍 社長「DB君どこですか〜^^」

ただでさえ近年は大戦の関心度・士気が下がっている中で、DBが人里に出現したとなれば、
人々の不安は煽られ、より一層の大戦離れが起こりかねない。
それだけは大戦を運営する会議所からしたら、なんとしても避けたい事態だった。
すぐに、人里にDB捜索隊&救援隊を派遣する。
参謀はいの一番にそう主張し、ほとんどの兵士が賛同したが、ただ一人集計班だけはその案に異を唱えた。

きのこ軍 集計班「…連絡は少し待ったほうがいいとおもいます」

きのこ軍 アイム「…」

たけのこ軍 社長「アイム君 誰でもいい!!はいってくれ!!」

きのこ軍 参謀「なんでや。DBとスクリプトが逃げ出したていうんは、会議所や大戦にとって非常事態を指す。
早急に対処しないと大変なことになるで」

きのこ軍 集計班「我々会議所兵士の役目は“大戦の遂行”。
いま兵士の皆さんたちに事の次第を説明すれば、無用な混乱を招くだけでしょう」

きのこ軍 参謀「つまり周りには黙って、ワイらだけで事態の対処に当たるちゅうことか?それはおかしいでシューさん」

きのこ軍 アイム「…」

たけのこ軍「アイム!わかっているのか!おい!」

それまで呆然としていたアイムは社長の言葉に驚き咄嗟に立ち上がってしまった。全員の視線がアイムに集中する。
アイムは頭をフル回転させ、最適な言い訳を考えた。

きのこ軍 アイム「…ちょっと新種のスクワットを試そうと思って」

たけのこ軍 筍魂「おっ、そうだな」

赤面しながらおずおずと席に座るアイム。
もちろん、元凶となった社長を睨むのは忘れない。
しかし、バグった顔の社長にはそもそもどこに眼や鼻がついているのかもわからない。
仕方なくアイムは社長の眼がついていると思わしき顔の中央部、とりわけモザイクが多くかかった箇所を睨み続けた。

DB<ダイヴォー>という言葉を耳にした瞬間、アイムはまるで金縛りのように硬直したまま動けなくなってしまった。
DBという存在自体を今初めて知った。そんな単語すら聞いたこともない。
アイムは自らの記憶を探り、そう結論付ける。しかし、身体は“覚えている”。

今の自分が知りえなくても、過去の自分は覚えている。
自分の心と身体が相反している状況に、アイムは背筋が寒くなった。
咄嗟に同じ記憶喪失仲間のオニロを見やる。
オニロはアイムのように金縛りにあったりはしていないようだったが、
いつもの柔和な笑顔はなりを潜め、目を細めて思案しているようだった。

アイムの奇行で、場の雰囲気が乱れてしまい長い沈黙となって襲いかかる。
誰も喋り出せずにいるこの状況に罪悪感を覚えたのかはたまた耐え切れなくなったのか、
アイムが自分で会議を再開することにした。

きのこ軍 アイム「…DBとスクリプトってのが手を組んでるとして、オレたちだけで対処可能な敵なのかそれは?」

きのこ軍 集計班「可能です」

たけのこ軍 社長「ちなみにまあ嘘だけどね^^」

社長の言葉をいつも通り無視して集計班は語り始めた。
DB討伐複数小隊の結成。
詰まるところ、集計班の主張はこうだった。
きのこの山、たけのこの里、大戦世界に広がる未開の地、そして会議所。
この4方面にそれぞれDB討伐隊を派遣して、DB・スクリプトの捜索及び捕獲を行うというのだ。
そして、この作戦は会議に集まっている会議所兵士だけで行われるべきで、
一般兵士に無用な心配をかけさせないための配慮だというのだ。

きのこ軍 参謀「シューさんの考えは分かったが…隊を無駄に分けすぎちゃうんか?
確かに捜索には多方面同時進行作戦が一番やと思うが」
腑に落ちないでいる参謀を始めとした兵士たち。

きのこ軍 集計班「結局、会議所に駐留する以外の小隊については、
DB・スクリプトが見つかるまでの斥候と思っていただければ幸いです。
目標を捉えた時点で、残りの部隊も合流して叩けばいいのです」

たけのこ軍 ビギナー「DBを捕獲する、と言っていたけど斃さないの?」

きのこ軍 集計班「DBは狡猾で逃げ足がとにかく早い。幾度となくヤツと対峙しましたが、
瀕死の重傷を負わせることは出来れども、あと一歩のところでとどめを刺そうとすると逃げてしまう。
そんなヤツなのです」

DBのしぶとさは過去の歴史が既に証明している。討伐戦全てで、会議所側はDBに勝利し撃退こそすれど
討伐は叶わなかったのだ。
最後の討伐戦でようやく捕獲した時も、会議所側が想定していたよりも酷く時間がかかった。
捕獲こそ可能であれど、討伐にはさらなる時間と人員を要する。
そのような手間は欠けられないと集計班は暗に語っているのである。

たけのこ軍 加古川「だが、捉えたとしても今みたいにまた逃げ出してしまうリスクが有るんじゃないのか。
ならば、もういっそ討伐してしまったほうが…」

加古川の意見ももっともである。結局、DBやスクリプトが脱走した原因は未だに突き止められていない。
そのような状況下で捕獲して幽閉したとしても、再び脱走するだけではないか。
加古川の言葉に多くの兵士が賛同しようとしたその時――

きのこ軍 ¢「いや、捕獲するべきだ」

それまで終始黙っていた¢が静かにそう告げると、部屋はシンと静まり返った。
¢の言葉には、常人には表現できないような使命感とそれをも上回る焦燥感が入り交じっていた。
そしてその言葉に込められたいずれの思いも、他の兵士には理解できないものだった。
あるいは数人は彼の思いを理解していたのかもしれない。その一人が集計班だった。

集計班がチラと¢に目配りをする。二人の視線が一瞬交差する。
アイムは二人のなんでもない所作が気になった。

きのこ軍 集計班「DBは討伐せずに捕獲するようにしましょうか。余裕があれば討伐ということで。
まあまずは発見が先ですがね。いったいどこにいるのやら…」



緊急会議はその場で一時閉会した。
DB討伐隊は参謀指揮の下、すぐさま各小隊が編成され出発した。
アイムも、きのこの山方面部隊の一員として加わっていた。
一方、オニロは会議所部隊として大戦年表編纂室の「留守番」を言いつけられた。

きのこ軍 参謀『誰かが必ず編纂室に残っていなきゃいかんやろ。
全員がこの部屋を出払ったら、誰が歴史の改変を認識できるねん』

参謀はオニロにそう言い残し、部屋を去っていった。
オニロと集計班以外の会議所兵士は編纂室から続く階段を上がり、地上に戻っていった。

地上の彼らは、何者かによって行われている歴史改変を知る由もなく動き回る。
唯一その改変を知りえるのは、編纂室でじっとしている地下部隊だけ。
そして、編纂室で開かれる会議で地下部隊が、前回の会議から今回までに発生した
歴史改変の事実を伝えることで、初めて全員で情報を共有し合えるのである。

つまり地下部隊は、「歴史の生き証人」「一連の事件の監視者」として重要なポジションを担っているのだ。
思いの外重要な役職についてしまったとオニロが気づいた時には、
既にほぼ全員が地上に戻ってしまった後のことだった。

たけのこ軍 オニロ「もしかして…すごく重要な役職を任されてしまったんでしょうか?」

きのこ軍 集計班「まあ押し付けられたともいいますね」

集計班とオニロは苦笑して、これから幾度も味わうであろう脳シェイクに辟易とした。


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