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3-2:K.N.C55年への時間跳躍〜忍耐篇〜

初公開:2015/05/05

【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

スリッパ「…つまり、アイムは新たな【制約】により、現代に戻れなくなった可能性が高いと?」

たけのこ軍 抹茶「多分、そうだと思います…」

たけのこ軍 オニロ「そんな…」

集計班の失踪に続き、アイムの実質的な喪失は、会議所に図りない衝撃を与えた。

きのこ軍 黒砂糖「【制約】の内容がわからない限り、我々に助ける術はない。寧ろ、明らかになったところで我々に何かできることはあるのか…?」

たけのこ軍 社長「時の流れは速い。ガムテープみたいにな。」

たけのこ軍 筍魂「…」

たけのこ軍 オニロ「アイム…」


【K.N.C55年 大戦場】

アイム「…」

アイムは深く葛藤していた。現代へと帰らなくてはいけない。しかし、帰るためにはおそらく歴史改変が必須。
自らの手で、もう一度歴史改変を行わなければいけない。あくまで可能性の一つにすぎないが、歴史改変はアイムの身に重大な重荷としてのしかかっていた。


― スリッパ『最小限の歴史改変に留めるべきだ』

K.N.C102年にタイムワープした際に、スリッパが放った言葉だ。
今回抹茶たち討伐隊が行った歴史改変は、“史実”には存在しないスクリプトの排除であり、書き換えられた歴史を元に戻すための正当手段だった。
その結果、スクリプトは排除され、今アイムがいる時間軸は、現代の大戦年表に記載されていた“史実”そのものである。
しかし、これより先にアイムが行う歴史改変は、完全な“歴史の塗り替え”であり、見方を変えればDB一味と同じ穴の狢になってしまうのだ。

史実との改変の“幅”が広がるほど、現代への歴史に多大な影響を与える可能性がある。
例えば、K.N.C55年の【大戦の勝敗結果】を改変することで、個々のきのこ軍兵士の士気が下がり連敗するようになり、結果として多くのきのこ軍兵士が大戦から姿を消す。
その時点での歴史の変化の振幅が、まるで波の波紋のように、時間の経過と共に増大していく。

『バタフライ効果』
スリッパはタイムパラドックスの整合性を理解した上で、周りに注意喚起を促したのである。

一向にどうするべきか決断できない自らの思い切りの悪さに、アイムは思わず顔を顰めた。
少し前の自分なら、躊躇なく周りの影響など鑑みずに歴史改変を行ったことだろう。

【大戦の勝敗結果】の変更は容易でないが、不可能ではない。K.N.C55年の最終結果は0:1でたけのこ軍の勝利に終わっている。
ギリギリの攻防だっただけに、アイム一人の加入できのこ軍が形勢を立て直し、逆転勝利となる可能性は高い。

だが、勝敗結果の改変により、現代へ多大な悪影響を及ぼす可能性は0ではない。それ程までに、改変の幅が大きいのだ。
現代で奮闘する兵士たち。自分の成長に力を貸してくれた兵士。その思いを踏みにじる行為だけはできなかった。

近くで轟音が鳴り響く。アイムがいる防空壕の周りでは、スクリプトが消えた後でも、引っ切り無しに銃撃音、怒号、悲鳴が響いていた。
防空壕の奥深くに隠れていたアイムは、自身と戦場で駆ける兵士とを対比させ、ますます身を縮こませた。

アイム「はぁ…いっそ、オレ一人がここで消えれば周りに迷惑かけないで済むんじゃねえか」

自嘲気味に笑う。今の自分は、歴史の潮流からすると邪魔者でしかない。この場で、綺麗さっぱり自身が“消滅”してしまえば、
この時点での戦場の兵士たちに、そして現代の会議所兵士たちに迷惑をかけないで済む。

アイム「ハハッ…」

少し前の自分なら、自滅の道を選ぶことなど、考えられなかった。仲間を盾にしてでも、独りで生き残る。


― 筍魂『“スタンドプレイ”か“チームプレイ”』

過去に、筍魂が語った言葉を思い出す。今のアイムは、仲間のために、戦友のために“死”を選ぼうとしている。
その行為の是非は置いとくにしても、今この時点で、間違いなく彼は会議所というチームのために行動しようとしている。
アイムは、大の字で横に寝転がった。戦場の各地から上がる硝煙がわき上がり、頭上の空は仄暗い。

アイム「それでは最期に、これまでの自分の短い人生でも振り返るかね…」

アイムの脳裏に、走馬灯のように過去の思い出が駆け巡る。
記憶を失って、大戦に流れ着いたこと。同じ境遇で流れ着いたオニロ他さまざまな兵士との出会い。オニロがいけ好かない野郎だったこと。
初めての大戦で、そのオニロに惨敗したこと。DB討伐騒動に巻き込まれもした。初めての時限の境界への突入。
そして、その後、筍魂へ弟子入りを志願し、オニロと突然の泊まり込みの鍛錬――

アイム「…ん?」

ほんの少しの違和感に、アイムは思わず眉を顰めた。なにか大事なことを忘れていないか。


―― “生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する。

―― 兵士個人の“正”や“負”の感情は、結果として大戦世界の変化の元になる“理”となる。それこそが『世界の理』であり、同時に『生命力の流れ』でもある

アイム「!!」

鍛錬の中で得た教えを頭のなかで反芻し、アイムは急いで身を起こした。
最後に、ドヤ顔で語っていた師・筍魂の言葉をよく思い出す。

―― 筍魂『私は世界そのものであり、世界は私そのものである。ありとあらゆる【全て】は同じ【一つ】の存在。それを思い出すことが【戦闘術魂】の基礎となる』

アイムは、筍魂の言葉を全て理解できたわけではない。3日間の鍛錬では、オニロと協力し与えられた課題を、きのたけの歴史に当てはめ、あくまでその意味を解明しただけに過ぎない。

アイム「オレの気分が暗くなったら、オレが見えている世界そのものまで暗くなっちまう。見えるモノも見えなくなり、終いには目の前に落ちているヒントでさえ消え去ってしまう。そういうことだろう?」

それでも、今のアイムにとって現状を改善するには十分だった。
この場に居ない師に向かって悪態をつくように。アイムは小悪党のように口角をつり上げ、拳を握る。

アイム「あのクソ師匠が…ちっとは役に立つこと言うじゃねえか」

負の感情に支配されていたアイムに、少しずつ活力が戻り始める。先程までとは打って変わって、アイムの顔には生気がみなぎっている。

アイム「よく考えろ。“思いだせ”…オレが得た情報で、この場を脱出するのに最も適したものはなにか」

記憶を辿る。現状を打破する打開策を、過去の記憶から呼び覚ます。

―― someone『あれが集計ツールと呼ばれるもので、今はあの機械が戦況を瞬時に把握しているようです』
現代と過去の違いを表す決定的な違い。だが、今回の脱出劇において役に立つだろうか?

―― きのこ軍¢部隊長 狙撃兵蹉秧焚就筺峅兇燭舛帰るときは、斃されバーボン送りになる時か敵陣地に我軍の旗を立てるときだけだッ!」
兵士は大戦中に斃れると、【バーボン墓場】に自動転送される。重要な情報だ。

―― 社長『まさか ソン・ウか!?』
うるせえ頭のなかに出てくるな、叩き斬るぞ。


さまざまな記憶を辿りながら、アイムは少しずつ必要な情報を整理していく。


―― オニロ「K.N.C55年。アイムはどんな年か知っておいたほうがいいんじゃない?」
―― アイム「…ハン。さっさとK.N.C55年についての情報とやらを教えろよ」


そして、遂に“核”となる情報を思い出した。


【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

アイムの行方について、参加者の各々は真剣な面持ちで話し合っている最中だった。

スリッパ「仮に、アイムが時限の境界の【新たなる制約】に触れ、現代へ戻れないとした場合…」

スリッパ「アイムには二通りの未来がある」

たけのこ軍 オニロ「二通り…?」

こくりと頷き、スリッパは、スリッパは、真っ白な模造紙をサラに用意させると、時系列の整理を始めた。

 K.N.C55年 −−−−−−−−−−− K.N.C180年(現代) [→年代 ↓時系列]
【歴史改変】−−−−−−−−−→× 『時空震』
【歴史改変】←−−−【ワープ】−−  ●第二次討伐隊
●抹茶たち −−−−【ワープ】−→ ●抹茶、斑虎、someone 
 ●アイム 
  ↓    −−−−−【経過】−−−→  ??
【新制約突破?】−−−−【ワープ】−−→ アイム

スリッパ「まず、K.N.C55年でDB一味により歴史改変が発生し、そのサインが時空震として現代の編纂室に伝わった」

スリッパ「アイムたち4人の討伐隊は時限の境界を経由し、K.N.C55年へとワープし、スクリプトを撃破し再度歴史改変を実施した」

スリッパ「その時点で抹茶、斑虎、someoneの三人は現代へ帰還した。ここまではいいな?」

その場にいる全員がスリッパの言葉に同意する。

スリッパ「アイムはこの時点でなおK.N.C55年に留まっている。もし、K.N.C50年に留まり続けるという選択をした場合…」

−−−−−【経過】−−−→ という部分の線を指さすスリッパ。

スリッパ「アイムはその後、K.N.C56年からK.N.C180年までを過ごし現在に至るということになる」

たけのこ軍 社長「百合の季節」

きのこ軍 ¢「アイム自身が『親殺しのパラドックス』を始めとした歴史改変の原因を引き起こさずにK.N.C180年まで過ごしていれば可能ということか」

たけのこ軍 791「当然、その間にアイム自身は誰にも正体を知られてはいけない…
なぜなら“今の”私たちが最初にアイムと出会ったのはK.N.C175年だという“記憶”があるから…」

時代の違う同一人物どうしがばったりと顔を合わせただけで予想の付かない歴史改変が発生する恐れがある。
また、K.N.C175年以前の会議所メンバーの誰かにでも“アイム”の存在を悟られれば、その時点で“歴史改変”が起こり、今までの歴史は無くなる。
K.N.C175年以前のアイムの登場は、即ち時間移動の存在を肯定するものである。

アイムの存在が会議所に伝わった時点で、今までひた隠しにしていた編纂室の存在意義も無くなり、誰も予測がつかない歴史改変が発生する。
アイムがK.N.C55年から大戦世界に留まり続けるためには自身の存在を誰にも知られてはいけないのである。

たけのこ軍 オニロ「それなら、アイムは今この時点で現代に居るということなんですか?
だって、今この時点でも激しい時空震を確認できてないですよね!アイムはうまく今の時代まで存在を隠し通せていることになる!」

たけのこ軍 社長「へぇーいいね!」

ぱあと顔を明るくするオニロに、スリッパは厳しい表情で首を横に振った。

スリッパ「それなら、なぜ今この場に“姿を現さない”?」

この時点で元々いたアイムがタイムワープにより、この時代から姿を消したことを一番知るのはアイム本人である。
アイム自身は既に姿を隠し続ける必要性はない。寧ろ、喫緊の騒動解決のために一刻も早く皆の前に姿を見せるのが道理である。
スリッパはそう指摘している。

きのこ軍 きのきの「た、確かに…」

スリッパ「姿を見せない原因は複数考えられるが…
1. 大戦世界に潜伏していたが某かの事情で、姿を見せられなくなった。
2. そもそもK.N.C55年の時点で大戦世界に留まり続けるという選択をしていない。
このいずれかじゃないかな」

たけのこ軍 オニロ「某かの事情…それはもしかしてアイム本人に不幸な出来事が起きているとでも…」

スリッパ「当然、その可能性も考慮するべきだ。およそ100年以上の時を過ごす中で、別の異変に巻き込まれることも考えられなくない」

オニロの顔が青ざめていく中、スリッパは淡々と説明する。残酷ともいえる宣告に、アイム以外の会議所メンバーの表情も皆一様に暗い。

しかし、一連の会話の中で、スリッパの背後に控えているサラの表情にも微妙な変化が生じていたことに、誰が気づいただろうか。
苦悶、逡巡、慈愛。
普段のサラはアンドロイドロボよろしく感情の起伏が無いに等しい。
しかし今のサラの表情はまるで万華鏡のように、見る者の判断でコロコロと変化する。サラの秘めたる思いに気がつけるのは主たるスリッパただ一人。
しかし、そのスリッパをもってしても、今回ばかりはサラの真意に触れることはできなかっただろう。
サラはいまこの瞬間も見えない何かによって束縛され続けている。

たけのこ軍 抹茶「僕たちが会議所に帰還してから幾ばくの時間が経過した今でも、アイム君がこの場に“いない”。
だから、アイム君がK.N.C55年に留まり続けているという可能性は低い、と。
なるほど、それではもう一つの選択肢というのは…?」

そこで初めて、スリッパはニヤリとした表情で人差し指を立てた。

スリッパ「もう一つの選択肢は…アイム自身が【見えざる制約】を破り、無事現代へと帰還することさ」


【K.N.C55年 大戦場】

アイム「さて、と。やりますか」

口と鼻を覆うように深緑のバンダナを巻きつけ、アイムは立ち上がった。
自身の、そして会議所にとっての“最善の選択”のために、しんしんと積もる雪の中、彼は行動を開始した。



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