概要
自殺した女性について、三人の証言。
公開日カテゴリ字数
2014/05/06声劇1512字 2000字未満
人数場所
女性3指定無し
演者役柄
・A
見切りをつけた女性。
・B
背負いきれなかった女性。
・C
望まれなかった女性。


一人目、Aの証言。

メール?
私に? 誰から? え?
えーと、今葬式してる子?

あーあーあー、はい。はい。なるほど。
昔アドレス交換してたかも。
ちょっと待ってね。

あー、これかなぁ。
メールってあまり見ないんだよねぇ。
仲良い子とはLINEあるし。

えーと

「今なにしてる?」
「ちょっと時間ない?」

あー。あははっ。
思い出したわー。

こういうメール、一番返信に困るんだよねぇ。
用件ないなら返す必要ないでしょ?
この子のメールいつもこんなんだから返信しにくくって、そのうち中も見なくなっちゃった。

前にも「ちょっと時間ない?」って言われて、
ちょっとだけならってファミレスで会ったら、ずーっと自分の話ばっかり。
全然帰してくれなくってさぁ。

たまにこっちにも話振ってくるんだけど。
え? 私等まだそんな親しくないよね? みたいな。
図々しいって言うか、いきなり突っ込んだ事聞いてきて。
家族の話はあんまりしたくないって言ったんだけど。
次に会った時にはまた思い出したように聞いてくんの。
本当はこっちの話なんて興味ないんだろうね。要するに。

で? なんだっけ?
この子がどうかしたの?

あーあーあー。はい。はい。
死んだんだっけ。
あーそうだった。


二人目、Bの証言。


はい。気付いていました。
電話が鳴ってましたからね。
何度も。何度も。執拗に。

ほら、着信履歴。
上から下までその子でしょ。
ちょっとね。ぞっとしますよ。

こういうの、初めてじゃないんです。

普通寝てるような真夜中でも、構わずかけてきて。
時間だとか相手の都合にはあまり関心がないようでした。

当然文句の一つも言いたくなるんですけど。
出るまで鳴らし続けますから、渋々出るんです。
そうすると、

「さっき薬飲んだ、眠くなってきた」
「声響いてる? 今お風呂にいるの。また切っちゃった」

なんて、始まる訳ですよ。
こっちだって怒ってますけど、そんな話されたら、電話を切って寝直す事もできないじゃないですか。

一番腹が立ったのは、あの子がまず彼氏に……
あ、彼氏とは違うのかな。
する事はしてたみたいで、そういう話も何度か聞かされましたけど。

薬飲んでから彼に電話したのに、その彼が電話に出なかったとかで。こっちに電話してきて。
彼女からしたら、私じゃなく彼に駆けつけてほしかったんでしょうね。
でももう飲んじゃった後だったから。

分かってるんです。
彼女の「死にたい」は、そのままの意味じゃない。
「助けて」とか、「こっちを向いて」とか、「もっと貴方と親しくなりたい」っていう、彼女なりのコミュニケーションだって。
彼女の「死にたい」は、死に方じゃなく生き方なんです。

でもね。それも毎回続くと、こっちも疲れてきちゃって。
私の方もちょっと、上手くいかない日が続いて。自分の事だけで精一杯で。
万が一って可能性がない訳じゃない。気付いていたのに。
私、私は……

どうしてあのタイミングだったんだろう。
どうして電話をとってあげなかったんだろう。

どうして……


三人目、Cの証言。


あの日、私は電話に出ませんでした。
あの子からの着信に気付いていて、気付いたから出ませんでした。

あと三回着信が来たら出よう。
あと二回着信が来たら出よう。
あと一回。
ううん、もう一度だけ呼び出し音が鳴ったらもう出てしまおうか。
何度もそんな葛藤を繰り返しながら、出ませんでした。

分かってほしかった。
あの子をいつも気にかけているのは私だって。
あの子を一番心配しているのは私だって。
あの子が頼れるのは私だけだって。

私に見捨てられたらどうなるか、
少しで良い。
私があの子の事を考えている時間の、十分の一でもいい。
気付いてほしかった。

ふっ……ふふ、
馬鹿みたい。
見捨てられたのは私の方。

あの子にとって、私は、未練にもなれなかったんです。

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