公務員試験のための教養 - 名望政党から大衆政党へ
 政党の組織形態は、社会における利害の対立のあり方によって変わってくる。制限選挙制の下では、政治に参加することを認められていた市民の間にかなりの程度の同質性が存在したから、政党が政策に基づいて対立することは少なかった。そこでは、さまざまな形での人間関係が政党を分立させる主要な原因であった。しかも、選挙権を有する市民の中には、家柄・教養・財産などに恵まれた名望家が含まれており、こうした名望家がそれぞれの地方の有権者の投票を左右することができたし、また議員やその他の候補者もだいたいにおいてこれら名望家の中から現れた。名望家の影響力が政党の地方組織を凌駕していたのである。そのため、この時期の名望家主体の政党は名望家政党と呼ばれているのが一般的である(名望家政党と議会)。  こうした政党の性格は普通選挙制の採用とともに大きく変化する。それは何よりもまず政党の地方組織の必要性という形で現れてくる。というのも、政党の地方組織は十分には確立されていなかったため、名望家が当該地方に対し影響力を残していた。しかし、普通選挙制の成立によって新たに有権者となった人々は、従来のいわゆる市民とは異なって、必ずしも名望家によって掌握されていなかったので、これらの人々の支持を確保するためには、なんらかの形で彼らを組織する必要に迫られたからである。こうして、地方組織の確立とその全国的組織化が進むことになるが、それとともに、政党と政策との結びつきも従来以上の確固としたものに変わってくる。有権者の間に異質な利害が存在する以上、政党はそれらの利害相互間の対立を無視することはできない。各政党はいかにして利害の対立を調整するか、またそれによってそれぞれの利害をどの程度まで満足させうるかについて、一定の見通しを示さなければならない。こうして、政策の大綱すなわち政網を提示することは、選挙に際しての政党の重要な任務となったのである。この場合、もし政党がより広範な支持を得ようとすれば、政網の作成に当たってもより多数の利害を考慮に入れざるを得なくなり、その結果それらの利害を共存させるためのプログラムを準備することによって、社会の統合に際して一つの見通しが提示されることになると考えられる。政党が公的機能を持つとされているのは、こうした過程が重視されざるをえなくなったからにほかならない。(政党の性格による分類
 一方、政党の全国的組織化が進められるとともに、政党の中央機構を確立する必要が生じる。膨大な全国的組織を指導して、政党の集団としての一体性を確保するためには、中央機構を整備して党務の能率的運営を図ることが必要とされるからである。こうして、政党機構の官僚化が進む。それとともに、党員に対する統制も強くなり、議員も党の決定に服従することが要求される。また、政党と政策との結びつきが強くなっているために、議員は容易に所属政党を変更しえない。議員は選挙に際して自らの掲げた公約を実現する義務を負っているものとみなされているので、所属政党の変更は、相当の理由がない限りは、選挙民に対する約束違反とみなされることになり、議員としての地位を維持しにくくなるからである。普通選挙制への移行に伴うこうした変化は、いずれも新たに登場してきた大衆の組織化の必要に関連したものであるから、こうした転換は、名望家政党から大衆政党への転換と呼ぶことができる。大衆政党の成立は、異質な諸利害を組織しつつ政府と社会を結びつける役割を果たす今日の政党の出発点にほかならないのである。