話者 | 台詞 |
---|
撮影後 |
千秋 | …………。 |
久美子 | …………。 |
| 滝が流れる音や、歌うような鳥の声が響いている…… |
久美子 | ……いい音色。 普段は人が奏でる音ばかり聴いてるけど、 ひとつの音楽なのよね……こういう、自然の音色も。 |
千秋 | お互い黙り込んでしまったけど、同じことを考えていたのね。 水の流れ、風で木の葉が擦れる音、鳥のさえずり……。 そして光の、四重奏というところかしら。 |
久美子 | あら、光はどうして? |
千秋 | 水面を見て。それに周りも……。 淡く揺れる、木漏れ日があるでしょう? |
千秋 | 聴覚で感じるものだけでも、 素晴らしい音色を奏でているけれど…… それをさらに美しくするのは、視覚だと思うの。 |
千秋 | 軽やかな鳥の声と眩しい光が合わされば、それは朝の音色になる。 夜の音色は、淡い月光と虫のさざめき……あるいは、動物の声。 自然の中はまるで、時間とともに奏者の変わる音楽会ね……。 |
久美子 | 朝の音色に太陽の光があるように、 舞台にスポットライトがあるように、 LIVEにサインライトの花々が咲くように……。 |
久美子 | なるほどね……確かにそうかも。 私たちにとっても、光は欠かせない存在だものね。 千秋ちゃんに気付かされることは多いなぁ。 |
千秋 | 久美子さんも、いろいろ教えてくださいね。 せっかく、一緒のお仕事をしてるんですもの。 もっとたくさん、お話しましょう? |
久美子 | ええ! |
神戸 |
久美子 | 新幹線の時間まで、まだ余裕があるわね。 少しこのあたりを歩いてみない? |
千秋 | そうね、普段訪れない土地を散策しておきたいわ。 知らないことを知れるチャンスだもの。 |
久美子 | 東京だと、汽笛の音もなかなか聞けないもんね。 ん……ふふっ、人の雑踏と汽笛の音も、いい感じ♪ |
千秋 | ……あら? ねえ、久美子さん。あれはなにかしら? ピアノが置いてあるようだけれど……? |
久美子 | あぁ……ストリートピアノってやつじゃないかしら? テレビとか、動画サイトとかで見たことあるわよ! こんなところにも置いてあるのね〜。 |
千秋 | 『ご自由にお弾きください』……。 誰でもグランドピアノに触れられて……さまざまな人が 奏でる音色を、好きなように聴くことができるのね。 |
久美子 | ピアノとかクラシックは、 難しいものだって思われがちなのよね。 だからこうやって…… |
久美子 | 気軽に音楽に触れられれば、 好きへの近道になるかもね♪ |
千秋 | ……そうだわ。 久美子さんの奏でる音色、聴かせてもらえないかしら。 |
久美子 | えっ、千秋ちゃんに、私の生演奏を!? な、なんか緊張するわね……。 でも……ま、いいでしょう! |
久美子 | じゃあ、しっかり聴いててちょうだい! 千秋ちゃんがあっと驚くような音色を奏でてみせるから♪ |
| 久美子はピアノを弾きはじめた…… |
千秋 | ……この曲。 |
女性 | あ、この曲聴いたことある! 確か、映画の主題歌じゃなかった? |
女の子 | あたしが発表会で弾いた曲だ〜! |
千秋 | (自然の演奏に、光が射すように……。 自らが奏でる音色で人々の笑顔を咲かせて…… この空間を、より美しいものにしようとしているわ。) |
千秋 | (あんなに意気込んでいたから、 もっと難しい曲を選ぶのかと思っていたけれど…… 久美子さんのこと、また少し、知れた気がするわ。) |
久美子 | 千秋ちゃんっ! |
千秋 | ……! ええ、手拍子が欲しいのね? |
久美子 | さっすが、わかってるー♪ 一緒に楽しんじゃいましょうっ! |
千秋 | ふふっ……そうね! |
| 千秋が手拍子を始めると、 ギャラリーたちもつられるように手拍子をはじめた…… |
演奏後 |
久美子 | ありがとうございましたー!! |
男性 | いい演奏だったね。 みんなで手拍子するのも楽しかったし。 |
女性 | 一緒に演奏しているみたいで楽しかった〜! 私もピアノ、習っちゃおうかな? |
千秋 | ……久美子さん、お疲れさま。 とても良かったわ。 |
久美子 | 本当?よかったぁ〜……。 千秋ちゃんは、もしかしたら苦手かなーって思ったんだけど。 見ている人たちを煽ったりするの。 |
千秋 | ふふっ、お高くとまっているように見られていたのかしら。 だとしたら、それは勘違いよ。……久美子さんの演奏、 ヴィヴァーチェで、音を大事にしていることがよくわかったわ。 |
千秋 | ピアノの音、汽車の音、 みんなの手拍子がハーモニーとなって……。 そして……誰もが楽しそうな笑みを浮かべていたわ。 |
千秋 | とても美しい景色だった……。 まるで、LIVEのように酔いしれてしまったわ。 思わず歌いたくなったほどよ。 |
久美子 | ふふっ、ありがと! さすがに千秋ちゃんが歌いだしたら、LIVEそのものに なっちゃってたわね……。まぁ、それはそれで楽しそうだけど♪ |
千秋 | ふふっ。 ……あら、このノートは何かしら? |
久美子 | 『ご自由にお書きください』……。 このピアノを弾いた人や、聴いた人が感想を書いてるみたいね。 |
千秋 | そう……じゃあ、書いておきましょうか。 |
久美子 | さっきの千秋ちゃんのコメントを残すの? 嬉しいわね♪写真撮っちゃおうかな。 |
千秋 | ふふっ……あなたも書くのよ、久美子さん。 |
数分後 |
久美子 | ……いつもの癖で、サインも書いちゃった。 でも……このままでいいや。 このページを見た人、びっくりするかしら? |
千秋 | するかもしれないわ。それでその人が、 音楽をもっと好きになってくれたら、とても素敵よね。 ……さぁ、そろそろ行きましょうか。 |
久美子 | あっ、もうこんな時間!? 急ぎましょ、千秋ちゃん! |
| ふたりの想いを綴ったノートは、慌ただしく閉じられた…… |