登場キャラクター:
玉藻
「弟!鈴に何をした!」
「陰陽師からもらった清めの札を鈴に張り付けてやっただけですよ。それでこんなに苦しんでいるのです」
「何!?」
苦しい
何とか変化が解けないようにはしているが札はとても強力なものだ
痛みと苦しみに耐えることができない
「皆、清めの札で苦しんでいるということはわかるであろう?鈴は妖怪であるのだ!兄に取り入りこの家を破滅させようとしている妖狐なのだ!」
「何を言っている!鈴がそのようなことをするわけがなかろう!」
「なら今ここで苦しんでいる妖狐を兄上は信じるというのですか!それで家を破滅させるおつもりですか!」
「妖狐だろうが何だろうが関係ない!私は鈴を愛しているのだ!それ以外に何がある!」
その言葉がどれほどうれしかっただろうか
だがその喜びは激痛で顔に出すことさえできない
「やはり兄上はすでに妖狐に篭絡されているようだ。この妖怪はさっさと消すのが家のためだ!」
「なんだと!?」
「皆!これよりこの家に仇なす妖狐を成敗せしめよう!」
「………!弟よ!いくら血を分けた兄弟といえどもそれ以上は………!くっ!何をする!離せ!」
「妖狐よ、せめて最後に一言だけ許そう。何か言い残すことはあるか?」
その言葉には答えない
自分は妖狐などではない、今は殿に愛される人間「鈴」なのだから
「………ふん、まあよい。では私自らが成敗してくれる!」
「や、やめろ!」
「覚悟!」
刃が振り下ろされる
その刃が首に届く前に私は殿のほうを見た
せめてあなたへの思いを伝えようと
できうる限りの笑顔を見せた
見せれたかどうか確認できる前に
私の命は消え去った
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憎い
私の命と殿の命を奪った弟が憎い
無関係の社まで壊した弟の手の物が憎い
今まで慕っていたのに妖狐だと分かった途端批判し始めた者たちが憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎いから
殺そう
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「まさかここまでうまくいくとはな」
弟は自分の屋敷でほくそ笑んだ。
鈴を切り殺してから数か月がたっていた。
あれ以来、そのことに気を病んだ兄は再び重病にかかってそのまま亡くなってしまった。
本来ならもう少し手を尽くして兄を跡継ぎの座から引き下ろそうと考えていたのだがその手間が省けたのだ。
これでは笑いが止まらないのも当然であろう。
「これでこの家は俺のものだ。ふふふふふふ……………はははははは!!!」
弟はしばらく笑い続けた。
「しかしここまでうまくいったのも鈴の奴のおかげだな。あやつには感謝しておくか。社も破壊したから魂すら残っておるかもあやしいがな」
「その感謝を伝えたいというのは儂か?」
背後から声がした。
もういないはずの者の声が。
おぞましいまでの殺気がこもった声が。
弟は恐る恐る振り返る。
そこには、まさに妖狐、といった出で立ちの鈴がいた。
「!?!?!?!?!?す、鈴!何故貴様が!?」
「あれだけのことをされて許されるとでも思っておったのか?おめでたい奴じゃ」
「ま、待ってくれ!殺さないでくれ!あ、謝る!おまえにしたことは謝るから!」
「謝って許されるとでも?」
「………そ、そうだ!陰陽師だ!俺は陰陽師にそそのかされたんだ!全部あいつが悪いんだ!だ、だから俺は関係な………」
「ああ、陰陽師なら既に殺したぞ?」
「な、なんだと!?」
「当り前じゃ。あれだけ儂を苦しませたのは第一におまえ、第二にあやつじゃったからな。安心せい、すぐにあやつには会えるぞ」
「ひっ!待ってくれ!な、なかったことに!なかったことにするから………うわっ!離せ!」
「もう何をしようとて無駄じゃ。おぬしを殺さぬことには成仏できぬからのう」
「ま、待って!許して!し、死にたくない!死にたく………」
「死ね」
「ぎゃあああああああ!熱い!熱い!燃える!いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「無様な奴じゃ。せめて死に姿だけは見ずにおいてやろう。どうせこの屋敷ごと燃えてなくなるのじゃからな」
「い、いや、まっ、助け、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
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突然、弟の屋敷が燃えた数日後、今度は陰陽師を弟に紹介した商人が焼け死んだ
次の日は唯一難を逃れた弟の家臣が顔だけが炭になるまで焼けた状態で見つかった
次の日は鈴が妖怪だと広めた浮浪者が首の骨を複雑に折られて焼け死んでいるのが見つかった
鈴を貶めるのに協力した者たちは次は自分ではないかと恐れて家に閉じこもった
その者たちは家ごと燃やし殺された
あるものは家に魔よけの札を張って閉じこもった
その者はむしろ他の家よりも激しく焼かれた
人々は恐れおののいた
やがて鈴の事を悪く言っていた普通の住人の家まで燃やされ始めた
少しでも鈴の事を悪く言っていた者たちは我先にと村から出て行った
その者たちは二度と人々の前に姿を見せることはなかった
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ああ満足した。
これで自分と殿を傷つけた者たちは燃えてなくなった。
もう思い残すことはない。
この世からさっさと消え去ろう。
そうすれば、きっとあの人が待ってくれて……………
「………?」
おかしい、なぜ成仏できない?
あの憎き弟と陰陽師は殺した。
それに協力したものも。
それにのっかって自分たちを貶めたものも。
すべて燃やし尽くした。
「人間」を
「あ………………………」
そうだ
私が
今まで私が燃やしたのは
私の大好きな
「あ……………あああ……………」
人間だ
「わ、儂は…………わしは……………私は……………………」
その日、人々を恐れさせた大妖怪ーーー鈴孤は、姿を消した
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「…………………」
玉藻は、img街にある昔の村の跡地に来ていた。
そこには「狐火の塚」と書かれた塚が建てられていた。
そこにはこう刻まれている。
大妖怪の怒りを鎮め
その火の犠牲になりしものたちを弔う
まこと自分本位の塚なれど
心優しき鈴様にお許し願えることを望みて
「…………許してほしいのは儂のほうじゃったがの…………」
どこか遠い目をして玉藻はつぶやく。
今も玉藻はーーー鈴孤はあの頃の事を忘れたことはない。
自分の罪を刻み付け、二度とこのようなことが起きぬように。
「………この塚が建ってから何年たったのかのう?数百年は間違いないが」
だから、玉藻はたまにこの場所を訪れる。
自分の罪を懺悔するために。
「ま、よいか。どうせこれからも付き合っていくしな。壊れそうなら儂が直すしのう」
そして
「……………だから、もう少し待っていてください、殿」
その近くにぽつんと建てられた殿と鈴の墓に挨拶するために。
「私もいつかは、必ず会いに行きますから……………」
そこにいるのは玉藻ではなく、「人間の鈴」だった。
「………………さて、また面白いこと探しにでもでかけるかのう」
そして玉藻は、今日も気ままに面白いこと探しをする。
何事もなかったかのような妖しい笑みで。