セーフセックスに対する意識の増加に伴い、水性の潤滑液の利用、特にKYジェリーの利用は高波のように急激に盛んになった。というのは、それらの製品がコンドームのゴムを侵襲しないからである。膣への挿入であっても、潤滑済みコンドームに予め塗布されている潤滑液が充分であることは滅多にないし、ちょっと動いただけですぐ乾ききってしまう。故に、KYは買い物かごに入っていても比較的受け入れられやすいような地位にまで登りつめたのだった。
大半の水性の潤滑液と同様に、KYジェリーはグリセリンがベースになっている。グリセリンはヒトに無害であると一般的に受け止められ、口にしたり肌に塗ったりする製品に含まれている一方で、驚くべき数の人々がグリセリンや、少なくともKYジェリーに対して不都合な反応を示してしまう。しかしそれでも、KYジェリーは世界で最も多く消費される身体用潤滑液である。結果として、不都合な反応を示してしまう体質の人は、それでも辛抱してKYジェリーを使い続け、無分別にも不快感をアナル活動のせいにしてしまうのだ。大半の場合、不都合な反応とはただ単に軟らかい組織や粘膜が軽くヒリヒリする程度であるが、しかし誰がホットな性交の最中やその直後にそのような症状を望むだろうか? アナルセックスにはそんな感覚はもちろん必要ない。肛門や直腸がちょっとチリチリするだけで、トイレに駆け込みたくなってしまうだろう。
高踏派セックス・コミュニティーAlt Sex Communityの住人から高い評価を得ている水性の潤滑液は、Jルーブである。Jルーブは獣医の医療器具にも広く用いられ、グリセリンをベースとしていない。それは粉末状の形態であてがわれ、そこから欲しい濃さや粘っこさを確保するための「味付け」として、水を加えるのが基本的な用法になっている(訳註:日本で売ってる「ローションの素」のもっと即座に溶けやすいバージョンみたいな)。そして、Jルーブはチリほど安い。しかしながら、一度水を加えるとそれは長持ちしない。もし冷蔵庫に入れたとしても、数日も持たないであろう。
水性の潤滑液のもっともがっかりな特性は、数分のうちに乾ききってネバネバになってしまうことである。それ故に、行為の最中の再注入や、水を加えるとか唾を垂らすとかいった工夫が一般的に必要となってくる。通常の蒸発に加えて、結腸は水分を吸収してしまうため(それが一番の仕事だし)、水性の潤滑液から水分を尽きさせてしまう。
結局のところ、多くの人はKYジェリーとJルーブが役に立つと信じている。水性の潤滑液は後片付けが簡単という明確な利点があるが、Jルーブはそう簡単には綺麗に片付かない。