さて、それでは何が耐えがたい便意を引き起こすのだろう? 直腸の内部には特有の神経束が走行していて、それらは
腸管神経系を形成している。
直腸壁にあるこれらの神経受容器は圧力と伸展に対して反応する。これらの受容器は脊髄に接続されているが、しかしそのシグナルは脳まで伝達されないため、直腸壁で感知された伸展刺激や圧刺激に脳は気付かない(つまり、あなたも気付かないということだ)。その代わり、これらの腸内受容器は内肛門括約筋を直接弛緩させる引き金となる。あなたの「脳」が感じることができるのはこの内肛門括約筋の弛緩であり、「便意」とは出口を何かが開いているということにあなたの意識が気づくことだ。
内肛門括約筋を閉じるための遠心性繊維(訳註:運動神経)と脳との間には接続がないため、意識的に内肛門括約筋を閉じることはできない。内肛門括約筋を随意的に制御することは不可能であり、直腸の神経が(正常な状態で)刺激されていることを脳が「感じる」ことはないが、内肛門括約筋の弛緩や腹部の運動movement in your bowelsを感じることができる(訳註:「腹部の運動」というのは「お通じ」bowel movementという意味かも)。これが意識下で心が「排泄の必要あり」と判断を下す要件である。
通常、排泄の必要を感じたら、意識のある頭脳は即座に反応し外肛門括約筋を引き締め、トイレにたどり着くまで後門back doorを閉ざしておこうとする。正常な状態であれば、排泄の欲求がないとき内肛門括約筋は肛門の閉塞力の85%を占める。大半の場合、意識的に力の限り肛門を閉じても(つまり外肛門括約筋を引き締めても)、それは内肛門括約筋の閉塞力には遠く及ばない。