中世・近世ヨーロッパ歴史研究考証wiki

戦術的思考と生存率、ということですが戦術的思考とは、ここでは特にある一定の戦術に基づいた駆け引きのパターン、打ち手のバリエーションなどの戦術の幅のことを主に指しています。対して生存率とはここでは攻撃的ではなく主に戦闘における部隊の保全、戦線の維持、バランスを維持して戦うための戦術的思考、及びそれを用いて戦った際の実際の兵力などの減損率、あるいは生存率などを指しています。何が言いたいか、というと戦術的思考に基づいて戦いにおける戦術を判断する場合に、兵力の生存率をひとつ基準に考えるとほぼどんなケースでも万全に戦えますよ、ということなのです。分かりやすくいうと、まともに戦うのなら兵力や軍勢の生存率をまず第一に考えると戦争の戦闘における生存率および生きて故郷に帰れる確率が飛躍的に高まりますよ、ということなのです。現代の戦闘ではそもそも軍勢や兵力としての単位で物事を考える場合に、はっきりいって一個単位の部隊やあるいは一個の軍勢としての戦術的にはどうのこうの、と考えるとそもそも個人の戦闘力が飛躍的に高まったのもあり、大変カオスの要素が大きく分かりづらいのでここで戦術、戦闘というときは主に中世、近世の歩兵などによる白兵戦術からマスケット銃などを使った陸上の戦いの要素である、というふうに考えてください。細かい戦闘の要素をいちいち説明すると、なかなか手間なので、それは自分で学んでもらうとして基本的に、中世それから近世の中ごろにかけての歩兵戦術は、基本的にほとんどが白兵戦です。中世の場合は接近戦に先立ちある程度の距離から弓を射かけあう、というフェーズがありますが基本的に中世の歩兵は兵種にもよりますが、甲冑などを着込んで比較的重装備で防御力が高く反面動きが鈍い傾向にあります。そこにさらに遠距離から矢が雨のように降ってくるわけですから、当然前進後退突撃防御という動きのあるだけの壁のような存在なのです。なのでそれを動かして勝ちに導くのはまずもってして難しい話で、そもそも戦線を維持するためにラインを調整するぐらいしか機動させる余地はありません。対して弓弩などの飛び道具部隊は遠距離から矢を射かけられるものの接近戦には至って弱いといえます。剣を抜いて戦うことも考えられますが、そもそも遠距離射撃中心の部隊なのでさほど強いとはいえません。しかも弓弩を扱いやすいように鎧は比較的軽装備の場合が多いです。逆茂木や馬防柵をあらかじめ陣地として用意しておいて、それに守られるかたちで矢を射かければ少なくとも騎馬突撃は防げますし、五分か優勢の状態で敵歩兵に突撃される、ということもまず考えにくいです。弓弩兵の役割は主に前線歩兵部隊の掩護にあって、敵の歩兵や弓弩兵、石砲などの砲兵を狙うのでそもそもそれだけで戦線を左右するとは考えにくいです。加えて歩兵や騎兵の突撃には弱いので主に歩兵の掩護をする弓弩部隊は脇役、といったところでしょうか。ちなみに弓弩で戦況を決定付けた戦いとしては英仏百年戦争のクレシーの戦いが有名ですが、あれはもともと丘陵地帯に陣取った英軍側が事前に馬防柵や逆茂木などを結っており仏軍側の騎馬突撃を完全に未然に封殺していたので仏側の騎士部隊が英側の長弓部隊の餌食になった、というお話です。事前に丘陵地帯に陣取ったり馬防柵や逆茂木を結っておいたりして騎馬や歩兵の突撃に対して十分対策を練っておけば、遠距離掩護射撃部隊としても近接射撃部隊としても十分に効力を発揮できる、ということは言えますが、そもそも軽装で遠距離射撃に特化した弓弩の部隊はそれだけではとてもとても中世の歩兵戦闘の主力部隊とは呼びづらいものです。対して騎兵などの騎馬部隊はどうか、というと中世における戦術などの項でも書いたと思いますがそもそも動きの軽快な騎兵のフランキング（翼包囲）は戦闘の決着を左右する重要な要素なのでもうお分かりかと思いますがいくら弓弩の射撃やパイクやハルバート（長柄斧槍）のパイク攻撃（待ち構え）に極端に弱いから、といって接近してしまえば少なくとも比較的軽装備の歩兵部隊は存分に牛耳れることを考えると、騎兵のフランキング（翼包囲）は他のとは違って十分に戦闘の決着を左右し得る要素だともいえます。ちなみに、フランキングについて簡単に説明しておくと、フランキングとは英語で「flanking」とも書きますがflank、とは翼のことです。鶴が羽を広げるみたいに、歩兵が中央を地道に前進するのに対して騎兵などの軽快な部隊が両翼を回り込むように進軍して、敵騎兵部隊とぶつかるあるいは敵軍の側面を突くやり方、のことです。敵の遠距離射撃を回避して戦力を温存したまま素早く敵軍の側面に有効に接近できるほか、敵歩兵の正面を回避して進むのでパイク部隊やハルバートなどのパイク攻撃にも遭いにくいなどの利点があります。この他にも敵の弓弩部隊を直接潰したり敵司令部隊を直接叩いたりできるので騎兵以上に動きの速い兵力が存在しなかった中世、近世までの戦場ではともあれ騎兵部隊によるフランキングが一応は一番効果的だったのです。騎兵によるフランキングの優位性はマスケット銃が戦場の主流になった後の時代でもしばらく続くことになりますが、とにかく騎兵のフランキングはひとつの決まり手だった、といっていいでしょう。ということから考えると中世や近世においての（追記しておくが、中世から近世では歩兵の白兵装備がマスケット銃にとって代わっただけ。それでも斬り込みによる接近戦での決着は常にひとつの戦術だった）陸上戦闘では常に消耗を避けることが第一で、無駄な動きはできないし、余計な矢玉を使うこともできない、加えて白兵戦主体となると歩兵の体力消耗も激しいので、トータルすると最小限の戦闘機会で最大限の戦果を挙げることが、中世や近世にかけての戦いにおいてはまず絶対必要なことだった、ということは十分言えると思います。ちなみに18世紀や19世紀にかけての近世の後半になるとマスケット銃による歩兵戦術もある程度は進化してきて、より戦術的な動きでより早く決着の付くような動きも見られるようになりますが、そもそも歩兵は人間であって生命体としての体力を著しく消耗していることと、それ以外の移動手段といったら馬しかないので結果的には生命体としての貴重な体力を消耗しながら戦っていることにはさして変わりはありません。となると、最小限の戦闘機会、動きで最大限の戦果を発揮することが中世や近世における戦いではまず第一で（これは現代においても生命体が武器を以て戦う以上さして変わらないかと思いますが）、そうなると戦術的に打てる手はゲーム的にはまず一個か二個ある程度なのです。逆に、一個か二個しか打つ手がない、ということは兵力を動かすのにもそれぞれ体力の消耗を伴う、ということを考えても最小限の最大効率の手さえ打っておけば、そもそも一番兵力などの損耗も少ないし無駄な司令も出さずに済む、加えてそれらのことから結果的に兵力あるいは軍勢全体の生存率も、上がるということなのです。もちろん兵力や軍勢の運用にはそもそも戦場の地勢やその他政治情勢などの周囲の状況にも常に気を配っておく必要がありますが、それでも最小限の最大効率の手数だけ打っておけば、そもそも兵力の損耗は最小限で済みますし、そうなると結果的に高い確率で勝てる、ということにもつながるのです。ということをまとめると、つまりは兵力や軍勢をどう運用するか、の「戦術的思考」は結果的に兵力などの「生存率」につながっていることになり、それらが二つで一個のもの、あるいはひとつの物事の両面を見ているのだ、ということは容易にお分かりいただけると思います。人間やあるいは馬という生命体の貴重な生命時間あるいは命をかけて戦う以上、できるだけ戦争の戦闘において兵力の消耗というのは避けなければならない要素である、というのはいえると思います。時間の消耗ということも考えられますがそもそも戦場の戦闘においては逆にある程度の時間の余裕を持ってやるからこそ相手を適度にいなし損耗を避けつつ戦うことができる、ということもいえるのですが、ともかくさっきいったとおり最小限の最大効率の手数だけ打っておけばそもそも時間の浪費も大いに避けられるであろう、ということは覚えておいていただいて損ではないか、と思います。戦場の戦闘における戦術的思考がそもそも兵力や軍勢の生存率につながっている、ということ、それから兵力の生存率そのものがその戦場での戦果を大きく左右することは、お分かりいただけたかと思います。戦場の戦闘での戦果を求めるのなら、そもそもまず損耗を最小限に抑えて戦う、つまりはまず戦場においての生存率を第一に考えて動く、ということが重要である、ということです。生存することがまず「勝ち」につながるともいえるのです。ひいては、戦場において「勝ち」よりも大きくて重要な生きて故郷に帰ること、にもつながることになるのです。