安斎都の探偵調書

私たちのサイン会に来てくださって、ありがとうございます。
あ、その缶バッジ……私の、ですよね。嬉しいです、とても……。
これからもどうか、応援をよろしくお願いします。

どうぞ！都のサインを受け取ってください。……おやおやぁ〜？
その顔は……ズバリ、緊張していますね！名探偵を前にして緊張するのは分りますが、無実なら堂々としていましょう！

サイン会、お疲れさまでした……。
確か、帰りの時間までは余裕がありましたよね？

はい。
そう離れていないところに美術館があるんです……。
行ってきてもいいでしょうか？

それなら是非、私もご一緒させてください！
名探偵たるもの、芸術への理解も深めなければいけませんから。

はい、プロデューサーさん。
では行きましょうか、都ちゃん。

はい！
芸術の謎を求めて、いざ美術館へ……！

こちらは、神話の一場面を描いたものですね……。
青色の表現が豊かということで、一部ではこの画家を『青の魔術師』とも呼んでいるんですよ。

な、なるほどぉ〜！
確かに青色が、その……すごくいい感じですよね！
それに、なんと言いますか……神話って感じです！

…………。

…………うぅ、すみません、頼子さん。
つい、見栄を張ってしまいました……。
いい絵だということはわかる……気がするのですけど。

ふふっ、無理をしないでいいんですよ、都ちゃん。
私は好きで絵の解説をしているだけですし、都ちゃんと美術館に来られただけで嬉しいですから……。
それに、少しでもその良さをわかってもらえたなら、絵も喜んでいます。

そう、でしょうか？

えぇ、きっと。

そっか……それならよかったです！

鑑賞の仕方は人それぞれ。
都ちゃんなりの楽しみ方を見つけていければいいと思います。

頼子さん……。
はい、自分なりの鑑賞で楽しんでみます！

……いやぁ〜、それにしても、本当にいろんな絵がありますね。
詳しいことは何もわかりませんが、すごく楽しいです！
……おや？

どうかしましたか？

あ、はい。
こっちの絵とそっちの絵、同じ画家さんなのに、ずいぶんと絵の感じがちがうなぁと思いまして。
一報は、鮮やかな色で幻想的な風景が描かれている……。
もう一方は風景画であるが、暗い色合いで、見る人を陰鬱とさせるものだった……

なんだか、推理小説の挿絵を見てる気分です。
最初の挿絵を見てから、次の挿絵を見たら、想像もしていなかった絵が出てくることが多いので。

なるほど……。
画家と小説という違いはありますが、ひとつのものから全く違うふたつのものが出たという意味では、その通りかもしれません。

面白いものですね。
描いた人は同じでも、描いてある中身が全然違うなんて。

そうですね……。
全く違う絵ではありますけど、この絵は……。

頼子さん？
どうかしましたか？

……いえ、なんでもありませんよ。
都ちゃん。都ちゃんは、このふたつの絵の間に、画家は何を考え、何があったのだと思います？

むむっ、ここで私の推理力を試そうというわけですか？
……いいでしょう。
この名探偵アイドルに解けない謎はありません！
描かれたのが古いのは、幻想的なほうですか……。
そうですねぇ、私の推理が正しければ、この画家さんはふたつ目の絵を描く前に結婚をしたはずです。

結婚を？
それはどうして、そういう風に推理したんですか？

簡単な推理です。
それまでは自分の為に、自由に発想で絵を描けていた。
ですが、それからは、描く目的が変わってしまった……。
伴侶の為、子どものために絵を描き続ける画家さん……。
幸せな日々ではありましたが、踏み込んだものは描けなくなった。
そして、思ったのです。

「世の中はどうしてこうもかがらみが多いのだろう」と。
その中でも幸せを願う気持ちと、社会への風刺……
それがこもったものが、この絵なのです！

なるほど……。
都ちゃん、素晴らしいです。

いやぁ、それほどでも！
ふっふっふ……。

（正解からは遠い答え……。
しかし、そこにある自由な発想は、キラキラ輝いている。
芸術を鑑賞するとは……こういうことでしたね。）
都ちゃんを見習って、私ももっと、自由に考えてみようと思います。
書物に書かれていることが全てではありませんから。

むむ……頼子さんがすごく嬉しそう……。
ずっと一緒にいたのに、謎が生まれてしまいましたが……楽しそうなので、まぁいいでしょう！

はい、とても楽しいです。
都ちゃんと一緒に美術品を見て回るのが。
本当に……。
作品はまだまだありますよ、都ちゃん。
芸術という謎を、もっと探求しに行きましょう。