まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

543名無し募集中。。。2018/11/22(木) 23:35:31.460

お祝いしたいな、二人で。
きっかけは、雅の一言だった。

ひゅう、と吹き抜けた秋の風の冷たさに、桃子は思わず首を竦めた。
今朝のテレビで今年一番の寒気到来と聞いていた通り、日が沈むと一気に気温が下がった。
昨日まではまだ初秋の気候だったのに、今ではすっかり冬模様。
家の玄関に放ってきたマフラーを思いながら、桃子は白い息を吐き出した。

「よっ、久しぶり。もも」
「お、佐紀ちゃん」

お待たせ、と近づいてくる佐紀はマスクをしていたが、隙間から覗く肌はほんのり赤い。
しっかりマフラーを巻いて現れた佐紀を見ながら、備えあれば憂いなしという言葉が浮かぶ。
暇つぶしに握っていたスマホはポケットへ。
くるりと向きを変えた桃子は、背後にあったドアのノブに手をかけた。

「先入ってよっか。みやまだ仕事かかるって」
「そうしよ、寒いし」

桃子がドアを開くと、軽やかな鈴の音が店内にこだました。
控えめに絞られた照明と、黒を基調とした店内の空気はしっとりとしていた。
出迎えてくれる店員は、真っ白なシャツを襟元まできっちりと整えている。

「予約していた夏焼です」

桃子が告げると、店員はにこやかに腰を折った。
"なつやき"と発する唇は、なぜだか少しむずむずする。

「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」

すっと背筋の伸びた店員は、二人をフロアから少し離れた席に案内してくれた。

「すっごーい……」
「そりゃやっぱ、夏焼様セレクトですから」

雰囲気に飲まれたように、佐紀がつぶやく。
初めてここを訪れた時は、桃子も同様の反応だった。
そんな中で平然と店員に話しかける雅が、ひどく大人に見えたものだった。

544名無し募集中。。。2018/11/22(木) 23:40:12.570

我らがキャプテン、清水佐紀の誕生日をお祝いしようと雅が言い出したのは数週間前のこと。
プレゼント選びという名目でのデートやら、会場の下見と称したディナーやらを経て、桃子は佐紀の前にいた。

「何か頼んどく?」
「うん。てか、佐紀ちゃんが主役なんだから好きなの頼みなよ」
「えー、いいのー?」
「いーからいーから、ほら」

桃子がメニューをひっくり返すと、佐紀が大袈裟に——どこか芝居めいた仕草で笑う。
飲み物と軽いつまみを頼むと、すっかり落ち着いた空気にぎこちなさが漂った。

「最近、どう?」
「んー? まあ、元気にしてるよ」
「だろうね」

表面をなぞるばかりの会話は、ぽつりぽつりと交わされるだけ。
頼んだばかりのオレンジジュースは、もう半分ほどに減っている。

「佐紀ちゃんは?」
「舞台とか、やってる」
「あー、なんかいっぱいやってるよね」
「ももは興味ないだろうけどね」
「ひどいなあ。佐紀ちゃんが頑張ってんのは知ってるよ」
「あ、そ。どーも」

ぽん、と放られた佐紀の言葉を、打ち返せないままに間が空く。
居心地の悪さを感じて左の薬指に触れた時、外しそびれたリングの存在に気がついた。
普段なら外出時にはしまうのだが、今日はすっかり頭から抜け落ちていた。

545名無し募集中。。。2018/11/22(木) 23:44:42.760

「みや、もうすぐ着きそうって」

いつの間にやら佐紀の手にはスマホがあって、さらりと画面を撫でるのが見えた。

「そっか。よかった」

返信を打っているらしい佐紀の指先が、目にも留まらぬ速さで動く。
その表情がふっと和らいだのを目にして、桃子はひっそりと机の下で手を組んだ。
佐紀ちゃんって、みやのこと好きだよね?
長年思っていることを、桃子は未だに尋ねられないでいる。
仮に、佐紀の気持ちを確かめたところで、できることなんて何もないのだけれど。

「みや、今日ダンスレッスンだったんだ」
「あー、頑張ってるみたいね」

他人の感情に聡い雅のことだから、佐紀の気持ちにも気がついているはずだと桃子は勝手に思っていた。
だから、今日の誕生日会にさほど乗り気でなかった。
佐紀には——他のメンバーにも——結局はっきり言わないまま、付き合っているという薄らとした後ろめたさもある。
二人でお祝いするなんて、見せつけてるみたいじゃない?
桃子はそう思っていたが、雅が嬉しそうにしていたから言う機会を逃してしまっていた。

「ごめーん、遅れたぁ」
「仕事だもん、仕方ない仕方ない」

ぱたぱたと現れた雅は、当然のように桃子の側で立ち止まる。
無言の目配せに雅の意図を察して体をずらすと、雅はするりと桃子の隣に滑り込んだ。

546名無し募集中。。。2018/11/22(木) 23:50:14.480

「じゃあ、佐紀ちゃんの誕生日を祝して、かんぱーい!」

新しく運ばれてきたサングリア、オレンジジュースと、ファジーネーブル。
三つのグラスが交差して、カランと軽い音を立てた。

「しみちゃんが27とか、ちょっと信じらんないんだけど」
「私だって信じられないよぉ」

ファジーネーブルを傾けながら、佐紀がはにかんで笑う。
雅が登場した途端、豹変した佐紀の様子に、桃子の腹の奥でどろっとしたものが落ちた。
佐紀は、こんなにも人によって態度を変えるような人間だっただろうか。

「ももも、あとちょっとじゃん」
「まだ4ヶ月くらいありますー」
「たかが4ヶ月じゃん」
「されど4ヶ月! みやだってあと……1,2,……9ヶ月くらいしたら年取るんだからね!」
「二人ともさー、私の前でそれ言う?」
「あは、ごめんごめん」

ぽんぽんと飛び交う軽口の中にいても、佐紀の内心が気になるばかり。
だが、桃子の気持ちなど置いてきぼりで、雅は呑気に会話を続ける。
佐紀が出演した舞台の話や、ディナーショーの話。
最近行ったカフェの話やアイスの話。
盛り上がる二人を横目に、桃子は通りがかった店員に烏龍茶を注文した。

「みや、髪の毛いい感じだね」
「でしょー? まあ、頭皮がお疲れでエクステつけたくてもつけらんないんだけど」
「えー、しばらくそれで良いよ。カッコいいし」
「あは、ありがと」

角張ったカットグラスに注がれた烏龍茶が、素早く桃子の前に置かれる。
照明の光が差し込んで、テーブルに切子の幾何学的な模様がゆらりと揺れた。

「——ね。聞いてる? もも」
「へ?」

耳に割り込む佐紀の声が、桃子の意識をぐいっと引っ張る。

「もう、聞いてなかったでしょ」
「あぁ、ごめん」

飲み物頼んでた、と言い訳をくっつけると、佐紀は仕方ないなあと息を零した。

547名無し募集中。。。2018/11/22(木) 23:53:58.790

「じゃ、改めて」
「な、なに」
「いーから、ほらグラス持って」

言われるままに、桃子はグラスに手を添えた。
佐紀は持っていたグラスを掲げ、大きく息を吸った。

「みやびちゃん、プロポーズ成功おめでとーっ!!」
「あーりがとーうっ!」

賑やかな音を立てて、二人のグラスが触れ合う。
それを見てもなお、桃子の思考は停止したままだった。
今、佐紀は何を口にした?

「もも? ほら、乾杯だってば」
「……いやっ、えっ?」

訳の分からぬまま、桃子が差し出したグラスに二人のグラスがぶつかった。

「はー、ほんっと長かったねえ」
「ほんとだよねー」
「ま、待って? ちょっと待って?」
「んー? どしたー? もも」

いつの間に酔っ払ったのやら、ふにゃふにゃになった雅の声がのんびりと響く。

「何、えっと、プロポーズって? どういうこと?」
「え、されたんでしょ? 去年」

頷くべきか、否定すべきか。
逡巡する桃子の隣で、「したじゃーん」と雅がケラケラ笑う。
どさくさに紛れて、雅の指が桃子の手に絡みついてくる。
ちらりと目にした佐紀の笑顔は、してやったりとでも言いたげだった。

「さ、佐紀ちゃん、知って……?」
「ん、まーね!」
「なななんでっ!?」
「そりゃ、キャプテンだし?」
「り、理由になってな、」

548名無し募集中。。。2018/11/22(木) 23:56:14.970

「ももぉ」と甘えた声が隣からして、ほんのりとした体温が桃子の肩に預けられた。
雅の吐息が肩口にあたって、桃子の体は容易く熱を持つ。

「もう、デレデレじゃん。みやびちゃん」
「えへへー、いいれしょー」

小さい子をあやすように、佐紀が「よかったねえ」と雅に笑いかける。
佐紀の言葉に満足したのか、桃子の肩にかかる重みがいっぺんに増した。

「えっ、みや? 寝ないでよ?」
「うん……ちょ、とだけ……」

途切れ途切れのセリフを最後に、雅の呼吸がすとんと深くなる。
どうやら、隣に座る恋人は本格的に寝入ってしまったらしかった。
その寝顔を眺めながら、「知ってる?」と佐紀が口を開いた。

「みやさあ、めっちゃいろいろ準備してたんだよ」
「なんでそんなこと分かんのさ」
「だって、相談されたし?」
「誰……え、みやに?」
「うん。あー、可愛かったなあ、あの時のみやびちゃん」

そりゃそうだ、と言いたいのをぐっと堪えた。
何をどう言ったところで嫉妬にしか聞こえない——事実嫉妬なのだが——から。
頬にふわふわ触れてくる雅の髪の毛を、桃子は左手で弄ぶ。
「その指輪、可愛い」と佐紀がしみじみ言ったので、桃子は静かに頷いた。

「本当、どっちが祝う側だか分かんないわ」
「なんか……ごめん?」
「いーよ、別に。そんな気してた」

そんなことを言いつつ、追加で注文されるデザートの数々。
やっぱりちょっと怒ってるんじゃ、と考える桃子の前には、白桃ゼリーが運ばれてくる。

「みや、泣かせたりしたら許さないからね」

洋梨のジェラートをすくいながら、佐紀がぼそっと言う。
そのセリフは、キャプテンとして? それとも、別の立場から?
そんなことは置いておいて。

「とーぜんでしょ」

きっぱりと言い返し、机の下で繋ぎっぱなしだった指に力を込める。
寝ているはずの雅の指先が、じんわりと握り返してくるのを感じた。

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