まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

352名無し募集中。。。2018/11/29(木) 10:55:53.630

再会の日は間も無く訪れた。
その日ミーティングを終えた私が自分の席に着いた時
遠くフロアの出入り口から、ちらっと覗き込む人の姿があった。
少し怯えたようにフロアの中を見回し様子を窺っているのは
先日スマホを拾ってあげた派遣の子に間違いなかった。今日もグレーのカーディガンを着ている。
誰かを訪ねて来たんだろうか。
案内してやろうかと立ち上がりかけた時、入り口近くにいた男性社員が、彼女に「桃ちゃん」と声をかけた。
「どうしたの。こっち来るなんて珍しいね」
声をかけられた彼女が、ホッとしたように微笑んだのが見えた。
「あの、道重部長の席ってどこでしょうか」
「あっちにいるよ。お使いか。偉い偉い」
「もぉー。子供みたいに言わないでください」
案内された方に歩いて行く彼女の姿を私は自然と目で追っていた。
真っ直ぐ向かいながらも、知らない部署に緊張している様子で
彼女は私に気付かないまま道重部長の席の横に立った。
「お疲れ様です」
彼女が声をかけると、道重部長は顔を上げた。
「持って来てくれたの?ありがとうなの」
「はい。こちら高橋さんから言われた、かっちょ良いホールディングス様今期案件の見積書になります」
道重部長が受け取った書類を見て頷くと、彼女は頭を下げてその場を離れようとした。
「ん?これ君が作ったの?」
ビクっとして立ち止まった彼女は、恐る恐るといった風に振り返った。
「はい。そうです……けど、すみません、何か不備あったでしょうか」
「前期までの営業売の履歴もつけてくれたの?」
「ああ、そうです。資料としてあった方が良いかと思いまして」
「えーすごーい。わかりやすいの」
その声に、フロアの数人が振り返った。
「桃ちゃんはできる子だって聞いてたけど本当なんだね。これからもよろしくね」
私の方から見える後ろ姿の彼女は、恐縮した風にプルプルと首を振ると、深く頭を下げていた。
そそくさと出て行く彼女を、私は思わず追っていた。
廊下に出てから声をかけようとして一瞬悩む。
桃ちゃんと呼ばれていたけど、いきなりそんな馴れ馴れしく呼ぶわけにもいかないし
かといって私は彼女の苗字を知らない。
廊下を歩いていく彼女に追いつこうとしながら、私は「もーさん」と声をかけていた。

353名無し募集中。。。2018/11/29(木) 10:59:04.670

「あっ」
振り返ったもーさんは私の姿を見ると、ぱぁっと笑顔を浮かべた。
「この間はありがとうございました。そういえば、こちらの部署って言ってましたね」
「そう。どうしてるかなーって思ってたから、今見て思わず声かけちゃった」
本当は今日その姿を見るまで忘れかけていたのだが、私の口からは勝手にそんな言葉がこぼれ落ちていた。
「すみません」
何故かもーさんは謝ってきた。
「高橋さんのチームだったんだね」
「はい。すごく良くしていただいてます」
そう言いながら、彼女は眼鏡の奥で目を細め私の胸元に視線を向けた。名札を見ているのだ。
「あ、ごめん、もしかして私の名前?」
「お名前なんてお読みするんですか?」
「なつやき。みんなからはなっさんって呼ばれてる」
「つぐながです」と彼女は名乗った。
それから、くすっと笑った。
「さっきの、もーさんって何ですか」
「あはっ、いや、なんか、もーさんって感じだなーって思って」
「嫌いじゃないです」
人懐っこい笑みを浮かべる彼女を、私は好意的に見ていることに気付いた。
「良ければなっさんって呼んで。高橋さんのとこならうちのチームとも今後関わりあるかも」
「ああ、そうなんですね。よろしくお願いします」
「はい。ぜひぜひよろしくお願いします」
自分は今、すごく柔らかい笑顔になっていると思った。
私を見る彼女の目からも好意を感じるのは決して気のせいじゃないだろう。
まあ、言っても私は正直、こんな風に見られることには慣れている。
そんな起用な方じゃないけど、キャリアも積んできて人付き合いにはそこそこ自信があったし
同期からはワガママって言われたり上司には楯突くこともあるけど嫌われない程度は心得てるし
いつだって、下の者には優しいつもり。できてるかな。わかんないけど。
でも後輩からは信頼されてる。と、思う。
「ごめんね引き止めて」と言うと、もーさんは顔の前でささっと手を振り、頭を下げて
エレベーターの方へ歩いて行った。
頭のてっぺんの髪束がぴょんぴょんと跳ねている。
その後ろ姿を見ながら、もうちょっとおしゃれしてもいいのに。と私は思った。
うちの会社はそういうとこ、けっこう自由なのにね。

354名無し募集中。。。2018/11/29(木) 11:01:52.150

自分からそう呼んでねって言ったんだけど
次に会った時、すごく自然に「なっさん」と言われたことに、私は少し驚いた。
もちろん、全然良いし、嬉しいくらいなんだけど。
見た目とか、その挙動からしたらちょっと想像できないくらい、踏み込み方のスピードが早い。
これって何だろう。と私は少し考えた。
私たちは会社のラウンジにいた。
午前中から仕事が立て込み、遅いお昼になったところ
A館にある自販機でパンを買っていたら、ちょうどもーさんが通りかかったのだ。
「これからお昼ですかぁ?」ともーさんは言った。
「そうなの。こっちの自販機の方に食べたいパンがあって」
私が手にしているパンの袋を見て、もーさんはあぁと頷いた。
「それ美味しいですよね」
「やっぱ好き?」
「よく食べます。っていうか、私も今からお昼でそのパンにしようって思ってたところ」
「そうなんだ。一緒に食べる?」
そう言うと、もーさんは上を指差して小首を傾げ、ん?といった風に笑った。
上階に社員が自由に使えるラウンジがある。私がうんうんと頷くと
「買って行くので、先に行っててください」と彼女は言った。
カウンター席からは外が見渡せる。天気の良い日には気持ちのいい場所だった。
もーさんは隣でイチゴ牛乳を飲んでいた。
「仕事は順調?」
「今のところは」
「うちって融通効かないとこがあるでしょ」
そう言うと、もーさんはストローをくわえたまま首を振った。
「そうかなぁ」
「うん。そんなことない。派遣にもすごい気を配ってもらえるし」
「そう思ってもらえてるならいいけど」
「なっさん優しい」
ストレートに言われて、私は少し照れた。そんな私を見てもーさんも照れたように笑った。
「なんて言うかな、なっさんてほら、ぱっと見、隙がなくてオシャレでできる女ーって感じ?
私みたいな冴えない派遣なんか相手する必要ないのに、すごい気遣ってくれて」
私は笑った。冴えない派遣って。謙遜がお上手。
「もーさんの社内での評判すごいよ?こっちまで聞こえてくるもん」
「いやいやそんなことは」
目を細めて笑う彼女の横顔からは、自信が仄見えた。なんかな、この感じ。
「私もーさん好き」
思ったままに言葉をこぼすと、もーさんは真顔で私を見た。
「私も、なっさん好き」そう言って、薄く微笑んだ。

355名無し募集中。。。2018/11/29(木) 11:04:28.280

階段を駆け下りていると、途中階から声がかかった。
「おう、いつも急いでんな」
私は数段降りたところで立ち止まって、声の方を振り返る。
隣部署の松浦くんだった。機嫌の良さそうな笑みを浮かべてこっちを見ている。
背もそんなに高くなくて笑ってると可愛い印象だけど
仕事はぐいぐい進めるし、切れ者と社内ではほんのり恐れられている。
「別に急いでない」と私が笑うと「今夜行くか」と片手で飲みの仕草をした。
「今夜かぁ」
「無理にとは言わねーよ」
「遅めでもいい?」
「じゃ8時くらいからいつもの店にいるわ」
「わかった。なんかいいことでもあった?」
「バカ言うな。例の社長んとこ行ったら無茶苦茶言われてよ」
「愚痴ならおごりな」
「ちげーよ」とだけ言って、松浦くんはさっと消えて行った。
いつもの店。とは会社と駅の間、横道を入って10分くらい行ったところにある隠れ家的な飲み屋だった。
私と松浦くんは、たまーにここで飲む。私たちはそれをふざけてフリンと呼んでいた。
何故なら、松浦くんは一昨年結婚したからだ。
とはいえ、いわゆるそういう関係ではない。時折数時間を共有する飲み友達。
社内で知っている人の多くもそう認識してくれているだろう。
遅れて着くと、松浦くんは既に一人で勝手に飲んでいた。
「そういやさ」ふと松浦くんは切り出した。
「なっさんのこと仕事終わりにあんまり引っ張り回すなって言われたよこの間」
「え、誰に」
「しみはむ」
「あっは。めっちゃ言いそう」
「あんたはいいかもしれないけどなっさんの婚期が遅れるとか言うからお前はどうなんだって言っといた」
私は笑いながら、テーブルの上に置かれている松浦くんの手の薬指を見た。
最初にその指輪を見た時は、なんて言うかな、それなりにショックはあった。
だけど、松浦くんが女の子でも、私は指輪してる姿に少しショックを受けただろうなと思う。
もーさんの話は、急に出た。「あの子やべぇな」と笑いながら松浦くんが言った。
「仕事できるってこと?」
「いや仕事は関わってないから知らないけど。この間営業寄ったらコピーのところにいたから
ちょっと喋ろうかと思ったら、すんげぇの。壁。すんげぇ壁作られた」
「しょうがない。松浦くんは悪い男だからねー」
軽口を叩きながら、そうだ。思い出した。
あの遅いお昼のラウンジで互いに「好き」と言いながら
私たちは同時に薄い膜を張った。これ以上は入らない、入らせないよっていう、薄い膜を
まったく同じタイミングで、確かに張ったのだ。

375名無し募集中。。。2018/11/29(木) 23:11:22.590

「それだと……私の方が学年でいっこ上ですねぇ」
もーさんはにやにやしながらそう言った。
「まじか」
なんとなく、というかまるで疑いもなく勝手に年下だと思っていたもーさんの顔を
私はあらためてまじまじと見た。
どうしてそんな話になったかと言えば、今やっている大学向けの企画のネタに
なるべく若い子から話を聞こうと「もーさんとか卒業して何年?」と水を向けてみたからで
こんなことがなければ、ずーっと年下と思い続けていたんだろうなーと私は思った。
幼く見えるのは化粧っ気がないからか。まあ、あと服装か。
「いつも紺のパンツだよね」となにげなく聞いたら「この間のと違います」と即答された。
いやそれは知ってるけどね。
「まあ歳の話はもうやめましょう。お互いつらくなりますよ?」
そんなことを言いながら、もーさんは引き出しからボールペンや付箋やテープなどを取り出し
手元のメモを見ながら数を数えている。
倉庫に備品を取りに行ったらばったり遭遇したのだ。
「最近空き時間が多いんでなるべくみんなの雑用引き受けるようにしてるんです」とのことだった。
私は棚のガラス戸を開けると、箱から新品のCDを数枚引き抜いた。
こんなの、滅多に使わないのに、たまーにどうしても必要になるんだよね。
それこそ誰かに頼めないかと思ったんだけどね。
そういう時に限ってついでに頼めそうな人も見当たらず、珍しく自分で来たんだよね。
「そういえば、なっさんにお礼を言いたくて」唐突にもーさんが切り出した。
「なんかしたっけ」
「私が社内で評判とかなんとか、教えてくれたじゃないですか」
「それがどうしたの」
「動き過ぎないように控えることにしたんです」
私は口をぽかんと開けてもーさんを見た。視線に気付いたもーさんが顔を上げてこっちを見る。
「え、なにそれどういうこと?」
「実力以上に思われるのも良くないかなと思って」
私は思わず笑った。笑い声には少し苛ついた響きが混じったかもしれない。
「やれることやんなよ。評価されたら喜べばいいだけじゃん」
もーさんは苦笑すると視線を逸らし「まあ以前いろいろあったんですよね」と言った。
「なに。それって前職で?」
私が聞くと、もーさんはまるで何も聞こえなかったかのように背を向けた。
「さて。じゃ、私行きますね」
文具をまとめて手に持ち、ごく軽い口調でそう言うと、
それきりもーさんはこちらを見もしないで倉庫から出て行った。

その時私の中に湧いた感情を、どう説明すればいいんだろう。
無視された。とか、そういうことじゃなくて。どうして?も何も考えたら単純なことだ。
訊かれたくないことだったから。言うつもりのないことだったから。
彼女が答えたくない質問に対して、はぐらかすでもなく、いなすでも誤魔化すでもなくて
シンプルに一切反応しないという態度を取ったことに、私は不思議な心地良さを感じていた。
いちおう念押ししておくけど、私は断じてマゾではない。

376名無し募集中。。。2018/11/29(木) 23:14:00.910

明日は朝から打ち合わせに出かけることになっていた。
私は向かいの席にいるスッぺちゃんに「前回の書類用意しといて」と言った。
スッぺちゃんとは彼女の渾名だ。フルで言うとスッペシャルジェネレ〜ションというのだが
長いので略している。
スッぺちゃんが「捨てました」と言うか言わないかの間に私は立ち上がった。
速やかに彼女の席のすぐ横に回る。
「何回目だこれ」
スッぺちゃんは涼しい顔をして黙っている。
「あれは捨てたらダメだって、私何回言ったっけ?」
ごく小さい声で言っているつもりなのに、周囲の空気が凍りついていくのを感じる。
「言ったよね。あれは何度も使うから、捨てないでねって」
スッぺちゃんはゆるーく、小首を傾げた。
「何回言ったら通じるの。2〜3回どころじゃないよ」
ようやくスッぺちゃんが口を開いた。
「機密書類は決められた期間が過ぎたらシュレッダーかけて捨てなきゃいけないって」
「それも言った。最初から言ってる。あれは機密書類だけど更新して使うものだから、扱いが違うって、言ったよね。最初に言ったよね。なんで捨てるの。ねえ。なんでまた捨ててんだよ」
不安げにこっちを見ているくまいちゃんと目が合った。まずい。声が大きくなっている。
「答えて。なんで捨てたの」
「……期間が過ぎたから、捨てなきゃと思って」
「わかった。もうあんたには任せない。これからは私が管理するからもう一切触んないで」
私は目を閉じると眉間にシワを寄せた。
ああ、言ってしまった。くまいちゃんの視線が痛い。
わかってる。わかってるってば。
はい。私は自分で抱え込まないで周りに任せなきゃダメってずっと言われてます。
これで自分の仕事増やして、これまた上司から怒られるパターンだ。
スッぺちゃんを見ると、俯いて震えている。
私は静かに息を吐くと
「もういいよ。あとは定時になったら上がりな」とスッぺちゃんに言った。
やっとか細い声で「すいません」という言葉が聞こえてきた。
10分後、くまいちゃんが横に来て「スッぺがトイレで泣いてるって」と言った。は?
私が拳を震わせながら立ち上がり、トイレに向かおうとすると
目の前に立ちはだかった人物がいた。しみはむだった。
「なっさん。ここは私に任せな」
しみはむはそう言うと、フロアを出て行く。
しみはむが行ったなら大丈夫だ。しみはむがなんとかしてくれるから大丈夫だね。
フロアの空気が緩んだ。
私は椅子にへたりこむと、デスクの上に突っ伏した。
くまいちゃんが私の頭を撫でてどこかへ行った気配のあと、すぐに定時のチャイムが鳴るのが聞こえた。

377名無し募集中。。。2018/11/29(木) 23:17:25.050

私は突っ伏したまま、もーさんに『なっさん優しい』と言われたことを思い出した。
私、全然優しくない。トイレで新人が泣いてるってさ。
けど今、全然悪いことしたなんて思ってない。
あれ以上、私にどうしろって言うわけ。そんな風にしか思えない。
まあいい。放っておいても後はしみはむがなんとかしてくれる。ほんと頼りにしてる。
だから私は気を取り直して、スッぺが捨てちゃった書類を一から作り直せばいいだけ。
何時間かかるんだろ。さっきチャイム鳴ったよね。残業だね。
別に残業なんていつもしてるからいいんだけどね。
絶対、フロアの人から見られてるよ。今、突っ伏してるとこ。
大の大人が。めっちゃ恥ずかしい。いつ起き上がろう。
このままだと息が苦しいし、早くささっと起き上がりたいんだけど
ハナ啜ったら音出るからヤバイ。けどなんか出てきそう。
それよりなにより困ってるのは、既に睫毛んとこがぐちゃぐちゃな感じがすること。
目瞑ってると頰になんかポロポロ落ちてくんの何。ヤバーイ。
めちゃくちゃダサい。くまいちゃん助けて、私ダサい。
起きなきゃいけないのに、これじゃ、1mmも動けないじゃん。
迂闊に息したらしゃくりあげてしまいそうで、私は微動だにせず感情が収まるのを待つことにした。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。おーちーつー
「すみません」
急に後ろから声がかかったから、私は飛び上がりそうなほどびっくりした。
「企画部のなつやきさんのとこで止まってる回覧を、回収して来てって言われたんですけど」
「……なんらっけ」
突っ伏したまま私は言った。袖で潰れた鼻声になった。
「展示会の資料らしいです」
「あー、あったねそんなの」
営業の人が持ってて、ちょっと貸してって言ったきり忘れてたのあった気がする。あれ回覧だったのか。
「どこにありますか」
「たぶん、袖机の、引き出し、いちばんしたの」
傍で屈む気配を感じた。カラカラと音を立てて、引き出しが開けられる。
「これかな?これですかね」
知らんがな。いや多分それだから早く持っていってくれ。
「ちょっと見てもらえません?」
デスクの上の両腕はそのまま、体を後ろに引いて目を開けると、自分の膝が見えた。
左側、袖机の前に、もーさんが低くしゃがんでいる。
引き出しは閉められ、抱えているのは確かに営業から借りた資料だろう。
もーさんは、ハンカチを持った右手を伸ばして、そっと下から私の目元をぽんぽんと撫でた。

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