まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

903名無し募集中。。。2018/02/14(水) 23:03:33.800

真っ赤なトマト。キャベツや玉ねぎ、鶏肉にベーコン。
ちょっと奮発して購入した純白のモッツァレラチーズ。
そのほかこまごまとした材料を調理台に並べ、桃子は満足そうに頷いた。
朝一番で出かけた買い物の成果だ。リストアップした材料と照らし合わせ、買い漏らしがないかを確かめる。
よしよし問題ない。まだたっぷりと残っている時間を確認して、桃子はエプロンの紐をきゅっと締めた。
今日は、バレンタインデー。
ひと仕事終えて帰ってきたところだが、桃子にとってはむしろ今からが始まりだった。


佐紀から連絡があったのは、もう一週間ほど前のことになる。
いきなり電話をかけてきたかと思えば、「バレンタインどうすんの?」と尋ねられた。

「どう、って?」
「何か作る予定とか、あげる予定とか」

あるでしょう、いろいろと。そんな雰囲気を含ませて佐紀は言うが、桃子にはピンとこなかった。
後輩や仕事上で付き合いのある人には当然渡す予定がある。
4のつく日だから後輩たちにも心置きなく「食べていいよ」と笑ってあげられる。

「わかった、佐紀ちゃんももちのチョコ」
「違うから」

お仕事の話じゃなくてさあ、と佐紀の声が呆れたよう軽くなった。

「みやのこと」
「ああ! そっち?」

だったら最初からそう言ってくれれば良いのに、と桃子は思うが、佐紀にとってはそういった回り道が奥ゆかしさなのだろう。
で?と続きを促されて、桃子はうーんと思案する――ふりをした。

「みやばっか張り切らせんの?」
「いやっ、そんなつもりは」
「だって何も考えてないんでしょ、そのぶんじゃ」
「い、今から考えようと思ってて」

慌てて付け足した桃子の言葉は、電話の向こうの鼻息に吹き飛ばされる。

「私が言うのもあれだけど、みや結構期待してると思うわけ」
「あー……だろうね」

根っからのお祭り人間な雅は、年間を通してイベントと名のつくものにはいつでも全力である。
桃子などは忙しそうだなあ、と思ってしまうが、あれはあれで楽しそうにしているので苦ではないのだろう。
ハロウィンやクリスマスのみならず、盆暮れ正月バレンタインも。
つまり、来たるバレンタインもうきうきしながら待っているに違いない。

906名無し募集中。。。2018/02/14(水) 23:04:51.180

「……チョコレートくらいは買うつもりだったよ」
「ほかは?」
「ほか……」

それ以上、何を求めるというのか。
無策な桃子を見透かしていたように、やっぱりねえと嘆息される。

「たまにはさ、ももが晩ごはん作るとかどう?」
「ぅえっ?」
「何。いつもしてもらってんでしょ? バレンタインくらい頑張んなよ」
「そうだなあ」

佐紀の提案はよくわかる。雅が大喜びするであろうことも想像に難くない。
だが、そこで「いいね!」と即座に親指を立てられるほど料理に自信もないわけで。

「もも?」
「う……はい」

受話器の向こうから伝わってきた圧力に、桃子の背筋が勝手に伸びた。
今の佐紀は、きっと"キャプテン"の顔をしているだろう。

「簡単なものでいいと思うからさ」
「善処します」
「そこは『はい』って言うとこでしょ」
「はーい」

リビングで一人、片手を上げて返事をする。
その動作が、以前にも似たようなことがあったことを桃子に思い出させた。
普段は、いつも雅が料理をしてもらっていると話した桃子に対して、佐紀は渋い顔をした。
やらせてばかりではだめだ、いつ雅に愛想を尽かされるか分からない。
そんな風に忠告のような脅しのような言葉をかけられ、さすがの桃子も多少は焦った。
同じタイミングで母親が大量のサツマイモを買ってきたものだから、たまには一肌脱ぐかという気になったのだった。
桃子が作ったスイートポテトに対し、雅は確かに終始嬉しそうにしていた。

「あ、そうだ。スイートポテト」
「みやから聞いた」
「ああ、そう」
「あのみやが惚気てくるんだからよっぽど嬉しかったんだろうね」
「へっ? なにそれ初耳なんだけど」
「へー、そう」
「ちょ、ちょっと!」

桃子の制止はスルーされ、電話はぷつりと切断される。

「そんな話聞いたら、やらないわけにいかないじゃん……」

桃子しかいないリビングで、つぶやいた言葉はふわふわと宙を漂った。


そして迎えたバレンタイン当日。
雅は都合の良いことに遅くまで仕事で、桃子が仕事を終えた後でも十分時間がある。
そう踏んで、雅に連絡をした。
「うちおいでよ」というメッセージに、秒速で返事が返ってきたのには笑ってしまった。

30名無し募集中。。。2018/02/16(金) 01:24:22.060

メニューは「バレンタイン ディナー 簡単」で出てきたものをそのまま採用させてもらった。
凝ったものではないが、そこは許してもらうとしよう。
許してにゃん体操を鼻歌で歌いながら、桃子は野菜の下ごしらえに取り掛かった。
ベーコンと玉ねぎは薄切りに、キャベツはザクザクと食べやすい大きさに切る。

「あ、っと。忘れてた」

輪切りにした人参の周りを切り落としながら——というよりも半ば削りながら——ハートや星の形に仕上げていく。
煮た人参は雅の苦手とするところだが、きっと可愛く切ってあれば食べてくれるだろう。
そんな思惑も込めて、ハートや星型の人参が量産されていく。

「うんうん可愛い! やーっぱももち天才だわ」

切り終えた材料は、まとめて水を張った鍋へと放り込む。
サラサラとコンソメの素を入れ、あとは蓋をして弱火で放置。
忘れずに時計を確認。なかなか良いペースなんじゃない、と桃子はほくそ笑んだ。

次は、カプレーゼ作りに手を着ける。
トマトとモッツァレラチーズを輪切りにして、ここにも一工夫しようと決めていた。
いつだか購入したハートの形のクッキー型でチーズを抜き、ひっくり返してトマトと交互に重ねていく。
桃の形に見立てたチーズの白さと、ツヤツヤとしたトマトの赤のコントラストが眩しい。
桃の形だって、気づいてくれるだろうか。
ほんのりと期待を込めながら盛り付けを完成させると、ラップをかけて冷蔵庫に避難させる。
仕上げは雅が帰ってきてからするとしよう。

31名無し募集中。。。2018/02/16(金) 01:24:57.130

最後は、メインのグラタン作り。
といっても、グラタンの素にお世話になるのだから大した手間はかからない。
具材はオーソドックスに玉ねぎと鶏肉をチョイス。
フライパンに落としたバターは、ふつふつと泡立ちながらあっという間に溶けた。

「ああぁ、いいねえ」

湯気と一緒に上がってくるバターの匂いに、桃子の胃が小さく鳴いた。
まだ早いからね、とお腹を宥めながら、香りが十分に引き出されたバターの中へ玉ねぎと鶏肉を落とす。
火が通ったら、あとはグラタンの素と水と牛乳を混ぜ合わせてしばらく煮るだけ。
とろみがつき始めたグラタン(になる予定のもの)をかき混ぜながら、桃子が一息ついた時だった。
部屋全体を揺らすようなインターフォン。
時計が指す時刻は、雅から聞いていたものより随分と早い。
フリーズしかけた思考に割り込むノックの音に、反射的に「はあい」と返事をしていた。

「はっ、はやかった、ね」
「そりゃもう! だってみや頑張ったし」

玄関で雅が履いていた厚底のスニーカーを脱いで揃える。身長の割に、雅の足は小ぶりだな並べられた靴を見て思う。
早く来たくてさ、とはにかむ雅の表情は無邪気で、ああ好きだな、などと考えてしまってから違う違うと思い直した。
多少雅の訪問時間が前後するのは予想していたが、ここまで早いと想定外もいいところだ。
こちらはまだ、心の準備も料理の準備も整っていないのだから。

32名無し募集中。。。2018/02/16(金) 01:25:41.080

「なんかいい匂い……え?」

すん、と鼻を鳴らした後、雅の瞳がみるみるうちに丸くなる。

「うそまってももなにつくっ」
「のおおぉ!!」

勢いよくキッチンに駆け込んで行きそうになった雅を、桃子は全身で押しとどめた。

「なっ、なに、もも?」
「いやっ、あのね、もうちょっとかかる、から」

バレてしまったのなら仕方ない、帰ってきたら晩ご飯が!というサプライズは諦めよう。
ただ、メニューはまだ秘密。知られるわけにはいかない。

「ご飯、作ってくれてるの?」
「そうだけど」
「……めずらし」
「たまには、そういう気分のこともありますぅ」

口から出た声はやけに拗ねた色をしていて、きっと雅にも伝わっただろう。
こんなはずでは、と思った時、桃子の頬に鋭い痛みが走った。

「いふぁっ!?」
「触れる……」
「ももちの可愛いほっぺに何すんの!」
「いや、ちょっと夢かなって」
「だったら自分のほっぺつまんでよ!」
「ぃ、いいっ」

じんじんする頬をさすりながら、雅の頬も同じようにつまんでやった。
痛いでしょうが、と桃子は少し厳しい目をしたつもりだったのだが、雅の反応は薄い。
夢じゃない、と頬を蕩けさせた雅は完全に浮かれていた。

33名無し募集中。。。2018/02/16(金) 01:26:16.520

「とりあえずみやは座ってていーから」
「マジ? いいの?」
「い、い、の! ほらもうさっさと座った座った」

クッションの上に雅を押し込むと、テーブルの上に放置されていたタッパーを手に取る。
小腹が空いているだろうし、これで少しの間は我慢してもらおう。

「ラスク。配った残りだけど食べてて」
「ああ……ありがと」

タッパーを雅に押し付けると、桃子はばたばたとキッチンへ戻った。
フライパンの中の材料たちは、グラタンになるのを今か今かと待っている。
これまたいつ買ったかも思い出せない耐熱皿を取り出して、皿の中にフライパンの中身を注いだ。
気まぐれで別々に買ったものだから、皿の形が違うのはご愛嬌ということで。
溶けるチーズで表面を覆い、仕上げに粉チーズを振りかける。
これは桃子が小さい頃に見た、母親の真似だった。
なぜ粉チーズをかけるのかと桃子が問うと、魔法をかけているのよ、と母は答えた。
魔法なんて、と当時は思ったものだが、ささやかながら自分で料理をするようになってから少しだけ理解できるようになった。
おいしくなーれ、と心の中で唱えながら粉を振るのは確かに少しだけ魔法使いの気分になれる。
母親は、どんな言葉を唱えながら魔法をかけていたのだろう。

ふと、機械で合成されたシャッター音が響く。顔を上げると、雅の携帯のカメラがこちらを向いていた。

「ちょ、なに」
「ううん、なんでもない。いいからやってて」
「なにそれ」

いつもなら事務所を通せだのと軽口を叩くところだが、雅の声がなんだかやけに熱心で桃子は言いかけた言葉を引っ込めた。
今は料理に集中すべき時だろう。
耐熱皿をトースターに入れて、タイマーをかける。
ちょうどコンソメスープがいい具合に湯気を立てていたので火を止めた。

34名無し募集中。。。2018/02/16(金) 01:27:26.580

根気よくトースターとにらめっこすること約10分。ぷくぷくと表面が踊り出した辺りから、まろやかで香ばしいチーズの匂いが漂い始めた。

「いい匂い」
「もうちょっと待っててね」
「うん」

素直な返事は、聞き分けの良い幼子のようだった。
実際、いつの間にか化粧を落とし、髪の毛もまとめてしまった雅はやけに幼く映る。
子どもかあ、と何とはなしに思考が転がった。
こんな風に、空腹の中、夕飯ができるのを心待ちにしていた時期が桃子にもある。きっと雅にもあるだろう。
今日の献立は何かしらとワクワクしながら、料理をする母親を眺めていた記憶。
自分が眺められる立場になることを想像したのは初めてだった。
それもこれも、リビングから桃子を見つめる雅の視線がやけに子どもっぽいからだ。

「まだ? そろそろ?」
「そろそろいいかな」
「運ぶの手伝う?」
「座ってていいってば」

そわそわと落ち着かない雅のために、冷蔵庫で眠らせていたカプレーゼを取り出した。
塩と胡椒を散りばめて、オリーブオイルで細い線を描く。
おいしくなーれ、と大事に唱えながら。

「はいどーぞ」
「えっ、めっちゃかわいい!」

雅が飛び上がりそうな勢いで喜んでたからくれているのを背中に感じたが、今は相手をしている余裕がない。

35名無し募集中。。。2018/02/16(金) 01:28:07.620

グラタンは良い塩梅に狐色の焦げ目がついている。
そっと取り出そうとして、桃子は、あ、と固まった。
この家には鍋敷きが一つしかないのだった。雅にはそれを使ってもらうとして、自分はどうするか。
数秒思案して、分厚い本か何かの上に載せようと決めた。
おあつらえむきに、捨てそびれていたシラバスが本棚の端に眠っていたはずだ。

「……もも、今から勉強すんの?」
「なわけないでしょ」

突然シラバスを持ち出してきた桃子の行動を見て怪訝そうにしていた雅も、グラタンが出てきたところで察したらしい。
いわゆるインスタ映えとは無縁だが、こうする以外に方法がないのだから仕方ない。
最後にスープを運び、配膳は終了。並べてみると、それなりの夕食になったのではないかと桃子はひっそり自画自賛した。

「マジで美味しそう、なんだけど」
「あとね、これ」

スープにオリーブオイルを垂らすかどうかはお好みで。パセリもあるよ、と差し出すと雅は意外そうに「へえ」と言った。

「パセリなんてあったんだ」
「……今日買ったの」

ぷ、と小さく吹き出す音が正面から聞こえてくる。
もう、と桃子は抗議の声を上げようとしたが、雅がいそいそとパセリを手に取ったのでタイミングを逃してしまった。
だって今から、雅もきっと魔法をかけるのだ。

「パセリあるだけで全然違う」
「買っといて正解だったでしょ」
「うん。いいね」

36名無し募集中。。。2018/02/16(金) 01:29:31.510

ようやく整った夕食を前に、二人で一緒に手を合わせる。

「いただきま、」
「待った! 写真撮る」
「え? そんな?」
「そんなだよ」
「インスタとかには」
「上げないって。自分用」

その言葉通り、雅の写真の撮り方はどこか自然体だった。
ざっくりとしているが美味しい男の料理を目の前にしたような、そんな心地よい大ざっぱさ。
数枚撮ると満足したのか、雅の両手が再び合わさった。

「これ……もしかして、桃?」

最初に雅の箸が伸びたのはカプレーゼ。
トマトとチーズを器用につまみ上げて、桃子に見せてくれる。

「お。よく分かったね」
「だってももそういうの好きじゃん」
「可愛いでしょ?」
「うん。ももらしいし、良い」

カプレーゼを口に運ぶ雅に倣って、桃子も同じものを口にした。
塩と胡椒、オリーブオイルというシンプルな味付けは、チーズの風味とトマトの甘みにぴったりとはまる。

「あ、ハート入ってた!」

桃子がカプレーゼを味わっている間に、雅は箸をスプーンに持ち替えていた。
コンソメスープをゆるりとかき回し、人参を見つけて喜びと感動の混じったような声を上げる。

「えーめっちゃ凝ってる」
「……まあね」
「ん、美味しい」
「そりゃよかった」
「……ありがと、もも」

絶妙な間の後で聞こえてきた感謝の言葉と、無邪気な雅の微笑み。
桃子の頬は、勝手に熱くなった。

38名無し募集中。。。2018/02/16(金) 01:43:38.780


雅が突然「ケーキ!」と叫んだのは、食事も終盤に差し掛かった頃だった。

「え、ケーキ?」
「ケーキ、忘れてた」
「……なんでケーキ?」
「なんでってバレンタインじゃん、今日」
「ああ……そうね」

桃子はといえば、スプーンで掬ったグラタンがトロリと糸を引いたことに意識が向いていた。
表面はさっくりとしていて、噛みしめるほどにチーズの旨味が染み出してくる。
中は少し長めに炒めた玉ねぎの甘さと、鶏肉から出たダシが良いバランスで混ざり合う。

「あのね、もも」
「おいし、あ、なに?」
「みやもあげたいの」
「なにを?」
「だから、チョコレートケーキ」
「ああ、チョコレー……え、チョコレートケーキ?」
「うん」

雅が自慢げに持ってきたのは、保冷剤が側面に貼り付けられた大きめの箱だった。
シンプルな白い箱の外見からして、店のものではないだろうと予想がつく。

「ももに」
「これ、みやが?」
「うん。ザッハトルテ」

開けてみてよ、と急かす雅の態度が自信作なのだと伝えてくる。
開けてもいい?と確認してから開いた箱の中には、1/4サイズのザッハトルテが収められていた。
艶やかなチョコレートに覆われた、高級そうなケーキは手作りとは思えないほど堂々としている。

「ご飯のあとさ、」
「食べる!」

はいはい、と笑う雅はどこか安堵したようにも見えた。
雅が冷蔵庫へとケーキを運ぶ間に、机の上にあった桃子の携帯が震えた。
浮かび上がる佐紀からのメッセージは、「やるじゃん。おつかれ」という一言のみ。
早々に雅が何か言ったのだろうか。だとしたら、照れくさいことこの上ない。
弾む足取りで帰ってきた雅は上気していて、普段の三割増しくらいで可愛らしく映る。
どれだけ早く食事に戻りたかったというのだ。桃子の苦笑には気づいていないのか、雅は黙々と食事を進める。
こんな雅が見られるなら、たまには頑張ってみるのも悪くないな、と桃子は思った。

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