まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

23名無し募集中。。。2018/06/03(日) 18:03:21.360

「ねえ、あの子気になる」
「うそ、どの子?」
「ほらあそこの、今パン屋さんの前通ろうとしてる」
「え?!どれ?青い服の子?」
「違うそっちじゃなくってパン屋さんだってば」
「待って、あの看板すごくない?」

雑居ビルの屋上から、肩を寄せ合い身を乗り出す、2匹の悪魔の姿があった。
あらぬ方向を見下ろし肩を竦めて笑い出した片方の腕をもう片方が掴んで揺すった。

「ちぃ、やる気ある?まい真剣なんだけど」
「ごめん、ふふ、わかってるってば。あー見えた!あの子……か」
「あの背中に背負ってるケースなんだろ」
「楽器っぽい。楽器じゃない?わかんないけど」
「気になんない?」
「うん。……なんか、なんだろ」
「ちょっと俯いてトボトボ歩いてたりして、悩んでそうっていうか、取り憑きやすそうな感じするし」
「あの子にしてみる?」
「うん」
「じゃあ、まず調べてみよっか。梨沙ちゃんが、ターゲットの情報は集めるだけ集めておいて損はないって」
「あ、そっか。そしたら、後つけよう」
「いいよ」
2匹は顔を見合わせて頷き合うと、それまで寄りかかっていた桟によじ上った。

ワンピースの長いスカートが風に煽られて大きく膨らむ。
2匹が手を繋いだまま軽やかに桟を蹴ると、その背中でそれぞれに風を受けた黒い羽が傘を開くように勢いよく伸びた。
悪魔は音もなく、空を悠々と渡っていく。
地上を歩く人々は誰も気付かない。
夜の帳が降りようとしていた。

24名無し募集中。。2018/06/03(日) 18:07:55.870

洗い物の途中だった。
スマホが鳴り出し、首だけ捻って画面を見る。にへの名前がそこにあった。
みやは急いで手を拭き、スマホを取った。

「あの、モツヤクのストックってまだありますか」
開口一番、にへは切り出した。
「えーと、あったと思う」
「いつも行ってる薬局で仕入れなくなっちゃったんですよ」
「あ、そうなんだ、あそこ近くて便利だったのにね」
「みやちゃんに教えてもらった通販サイトもなくなっちゃってて」
「え!まじで」
「今からちょっと行ってもいいですかね」
「あー、いいよ全然大丈夫。分けてあげる」
「ついでにつくっていってもいいですかね」
「もちろん」
「ケーキ買っていきますー」と、横から割り込むひかるの声が聞こえた。

通話を切ると、みやはキッチンのカウンター下を開けた。
茶色い袋を引っ張り出し、中を覗き込む。
乾いた土のような樹脂がずっしり詰まったビニール袋をカウンターの上に置いた。
このモツヤクは、聖油の材料のひとつだった。
聖油は悪魔祓いの必須アイテムである。れいなに教えてもらった配合を守って、手作りしている。
にへとひかるは、常にこの聖油を携帯して悪魔祓いに当たっているのだ。
みやは再びスマホを手に取ると、半年前にアクセスしたきりのお店に繋いでみた。サイトのページを繰る。
モツヤクの項目は『SOLD OUT 入荷未定』となっていた。

みやは、リビングでテレビを見ているももに声をかけた。
「今からにへひかが来るよー」
部屋を覗き込むと、ソファに体育座りをしていたももは顔だけこちらを見た。
「何しに」
「あー……えーと、その、聖油作りに」
そこまで聞いて、ももはビクッとした。
ソファから降りると、テレビはそのままにそそくさとリビングを出て行く。
頭の上で跳ねる、黒いフードのうさみみを見送りながら、みやは、これで良かったんだろうかとあらためて考えた。
悪魔らしいスタイリング。について、みやはずっと考えている。
梨華が言った言葉だ。なんともそそるワードだった。
しかし部屋着をスタイリッシュに、というのはなかなか難しい相談だった。
下着屋でうさみみフード付、黒い上下の部屋着を見つけたときは、これだ!と思ったのだが
裏パイルのさらっとした肌触りも、ももは気に入っているようだったが
今、その後ろ姿を見て、悪魔らしい。とはまるで思えないのだった。

26名無し募集中。。。2018/06/03(日) 18:11:16.810

みやが玄関の扉を開けると、にへとひかるが並んで立っていた。
「オイルとか、他の材料は持ってきました」ひかるがニコニコしながら言う。
「モツヤクまだいっぱいあったよ」
「これケーキです」
「わ、ありがと。まあ入って。準備してあるから」

ダイニングテーブルを囲み3人は作業に入った。
にへがビロードの袋からシルバーの聖油入れを取り出し、テーブルの中央に置いた。
ひかるは材料を選り分け、分量を計っていく。
みやも自分の聖油入れを取り出した。手のひらに収まるほどのサイズだ。
有史悪魔祓いによって受け継がれてきたこれら銀のボトルも、れいなから譲り受けた。
「テレビ点いてんの珍しいですね」とひかるが言った。
「あ、そう、ももが見てて、消そうと思ったんだけどちょうどファッションショーのニュースやってて」
午後のニュースワイドはだいぶ前から別の話題に移っていた。
3人はしばらく、移り変わる話題にとりとめなく口を挟みながら作業を続けた。

「あ、この子この間雑誌でも見ましたよ」
にへの言葉にみやは手元から顔を上げた。
華奢で儚げな女の子がヴァイオリンを手にしている。
「なんかの世界コンクールで一位取ってから話題なんですよね」
「すごい可愛い子」みやはテレビを見ながら呟いた。
「まだ大学生なんだ。すごい。でもこれだけ可愛くて才能あったら話題にもなりますよねー」
「新進気鋭」とにへが言う。みやはテロップを目で追った。
「佳林ちゃんっていうんだ」
演奏している姿が映った。色白の肌、吸い付くように体に纏う白のドレスは可憐だったが
弦を操る力強い腕の動きと、ストイックな表情には気迫がみなぎっていた。
「活躍して欲しいなぁ」
ひかるがそう言ったところで、玄関の呼び鈴が鳴った。

扉を開け、みやは目を丸くして固まった。
いま、テレビに映ってた子じゃん。
白いワンピースを着て、黒いケースを背負った色白の女の子は
まさに今しがた話題にしていた、シンシンキエイのヴァイオリニストだった。
みやが口を開こうとすると、追いつめられたような表情で佳林は身をぐいと乗り出した。
「あの、聞いたんですけど、ここで悪魔祓いをしてもらえるとか」
「え、あ、うん」
「私に、取り憑いてる悪魔を、祓ってもらえませんか」
圧し殺した声で、佳林は言った。今にも泣き出しそうな顔だった。

どこから聞きつけるのか、こういう客人も、めずらしくはない。
自分に憑いた悪魔を祓って欲しいという人もいれば
我が子に悪魔が取り憑いていると子を伴って現れる者もあった。
見れば取り憑かれているのは親の方だった、なんてこともある。

リビングに招き入れた佳林を見て、にへひかは手を止め、息を呑んだ。
「みんな悪魔バスターだから」とみやが言うと、体を固くしていた佳林はぺこりと頭を下げた。
みやはテレビを消し、リビングのソファに佳林を座らせると、にへひかを手招きした。
「とりあえず、話聞こうか」

388名無し募集中。。。2018/06/10(日) 22:50:48.470

「それ、ヴァイオリン?」
ソファに掛けた佳林が傍らに置く、黒いケースを見てみやは言った。
「そうです」
「ヴァイオリンって見たことない。見たい」
ひかるが言うと、佳林はチラっとこちらを見てからケースを開いた。
蓋の裏側に何本もの弓が留められている。佳林はいくつかのクッションを退け、その下からヴァイオリンを取り出した。
「すごい、ツヤツヤしてる。きれいだなぁ」
「こう、芸術的なフォルムの楽器ですよね」
口々に言うにへひかを置いて、すぐさま楽器とクッションを元通りにしながら佳林は言った。
「まあ、言ってもただのヴァイオリンですけど。すぐ見せてとか言われるけど見せたからなんだって感じ」
一瞬間ができた。こっちをチラと見たにへと目が合う。
「ありがとう。今ちょうど、テレビで見てたの」
みやが言うと「ああ」と佳林は納得したようにケースの金具を閉じた。
その指先が震えているのを見て、みやは本題を思い出した。

「まず、なんで悪魔に取り憑かれてるって思ったの」
「私の周囲で私のものじゃない力を感じるからです」
即座に佳林は答えた。

佳林は3歳からヴァイオリンを習い始めた。
一流のソリストになれるように、というのが亡くなった両親、特に母親の願いだったという。
今は母の実家に身を寄せ、大学に通いながら時には海外へもレッスンに赴いていると佳林は言った。
「なんかおかしいってハッキリ思い始めたのは最近で。違和感を感じるというか
これまでにないことが、次々と起きてるような気がして」
「なにか、この時に取り憑かれたかもって思ったときありますか?」
にへが訊くと、佳林は少し考え込んだ。

「もともとなんか人と、あの、うまくいかないことがあったりとかしたんですけど
馴れ合うのとかそんな好きでもないし、あんまり気にはしてなかったっていうか。
でも最近、特に回りの人たちから悪意を感じるようになって
いろんな妨害が入ったり私が何か言っても取り合ってもらえなかったりとか、それから
あの、ごめんなさい、ハッキリこの時っていうのは、わかんないんですけど」
そこまで早口で言って、佳林は一旦口を噤んだ。
「いいよ。ゆっくり話して」
みやが紅茶をすすめると、佳林は会釈し、ようやく目の前のカップを手に取った。

389名無し募集中。。。2018/06/10(日) 22:55:19.400

弓が勝手に動くのだ。と佳林は言った。
「こんなオカルトチックなこと、誰にも言えないし、気のせいだって思い込もうとしたんですけど」
「演奏の、邪魔されるってことなのかな」
佳林は頷くと、両手で自分の体をぎゅっと抱いた。
「そのうち、夜中うなされるようになったんです。夢に毎晩、悪魔が出てきて、言うんです。
お前の望みはなんだ。お前の願いを、何でも叶えてやるって」
再びにへがアイコンタクトを送ってくる。みやは応えるように小さく頷いた。
この子に、悪魔が憑いてるような気配は感じないんだけど。

「聖油で祓うことはできますよ。わたしたちそれが仕事で」
ひかるが言うと、佳林は身を乗り出した。
「それを、それをお願いしたかったんです」
両手がかたく握りしめられている。
みやが立ち上がると、佳林は縋るような視線を送ってきた。
「とりあえず、やってみよっか」
安心させるように微笑むと、佳林は瞬きし、コクリと頷いた。

みやはその顔をじっと見つめた。
悪魔憑きは人の顔つきも変えるものだ。大きく見開かれた黒目を覗き込む。
その真剣な眼差しに、邪悪さなどはまるで感じなかった。
今注目を集めているヴァイオリニスト。テレビで見た姿から感じた、鬼気迫る張りつめたような緊張感。
ストレスが、この子にそんな妄想を抱かせているのかもしれない。
気休めに、聖油をつけてあげることくらいしかできないけれど。

みやは聖油入れを手にすると、佳林の背後に回った。
「首の後ろにつけるから」
そう言うと、佳林は俯く。白いうなじは神々しいほどで
みやは少し躊躇ってから、聖油を指につけた。
俯いた姿勢のまま佳林は言った。
「痛いですか?」
「ちょっと、ショックはあるかも。ほんとに悪魔が取り憑いてるなら」
みやは指に取った聖油を佳林の首の付け根に塗り広げる。
やはり、指先からは何も感じなかった。

向かい側から息を詰めて見つめていたひかるが「どう?」と呟く。
佳林は「なんか、不思議な香りがしますね。いい匂い」と言い、何かを確かめるようにゆっくりと首を持ち上げた。

390名無し募集中。。。2018/06/10(日) 22:57:58.650

「ありがとうございました。ケーキまでご馳走になってしまって」
玄関先で、佳林はぺこりと頭を下げた。
「テーブル広げっぱなしですみません」とにへが言う。
「そんなの全然いいよ、それより駅までちゃんと送ってってあげて」
「いやほんとに、私一人で大丈夫なんで」
佳林の言葉をひかるが遮る。
「何もないと思うけど、様子みながら送ってきます」
「もうちょっとお喋りもしてみたいんですよね。ミーハーですみません」
にへの言葉に、佳林は「いや別にそれは全然いいんですけど」と口ごもった。
「もし、まだ何かあるようならいつでも来ていいから」
「あ、はい」
「来なくて済むに越したことはないですけどね」
にへが扉に手をかけると、佳林はその手元に目をやった。
「何ですか?このフォーク」
「おまじない」
振り返ってこちらを見た佳林に向かって、みやはウインクした。

3人を見送り、廊下を戻ろうとすると
階段を降りてくるももと目が合った。
「ずいぶんと騒がしかったね」
「そう、ごめん、急な来客もあったりして」
「別にいいんだけど。みやの大事なお仕事でしょ」
黒いフード。頭の両側にうさみみが垂れ下がっている。
「……やっぱり、その上下あんまりかな」
「勝手に着せといて駄目出しって意味わかんない」
かふっとあくびを噛み殺しながら、みやの横を通り過ぎようとするももの体を掴まえた。
もがく腕を押さえつけるように背中から抱き締める。
でもやっぱコットンの部屋着いいんだよね。抱き心地最高。
「みや。ねー、聖油ついた手ちゃんと洗った?」
「きれいに洗ったし。そういうのは気をつけてるし」
手探りで回した指先で頬に触れると、すぐさま噛み付かれた。
「ん」
そのまま、中指の先を好きに噛ませてやる。
「みやが、お客さんの相手ばっかしてて寂しかった?」
わざと訊いてやると、指に立てられた歯に力が籠った。
「ぃった!」
咄嗟に引き抜こうとした手首を両手で掴まれ、指と指の間をももの舌先が這う。
みやはもう片方の手でもものパーカーの裾をたくし上げ、その中に滑り込ませた。

もう訪れることはないだろう。
そう思っていた佳林が再びみやの家の呼び鈴を押したのは、そのわずか3日後だった。

452名無し募集中。。。2018/06/12(火) 01:13:24.120

玄関の扉を開けて、みやは立ち竦んだ。
そこに立つ佳林の顔は酷くやつれて見えた。真っ白な肌にはまるで血の気が感じられなかった。
ふらりと倒れ掛ってくる佳林の体を、みやは慌てて受け止めた。
「だ、大丈夫?ねえ」
「……んです」
「え?」
「夢の中で、悪魔が……言うんです」
みやはヴァイオリンケースごと佳林の背中を抱えた。細い体は今にも崩れ落ちそうだった。
「これまでの賞賛は、全部私のものだ、その力を、私に返せって」
「……大丈夫。そんなわけない」
そんなわけがない。悪魔が取り憑いているわけがないのだ。
みやはパニックになりそうなのを必死に堪えた。
「私、わたし……ヴァイオリンを捨てなきゃだめですか?」
「ううん、ううん待って」
聖油はこの間つけてやった。聖剣で何とかできるだろうか。いや、感じられない悪魔を祓うなど、やったこともない。
この子にはもう、気休めなど一切通じないだろう。

「あの、もっとすごい人が、私のお師匠さんがいるから、そこに行こう」
みやがそう言うと、佳林は顔を上げた。
夢の中の悪魔が何なのか、あの人ならもしかして、わかるかもしれない。
「少し休んでから、行こう」
「いえ、いえ……大丈夫、歩けます。今すぐ、連れていってください」
佳林はみやの体にしがみついたまま、大きく息を吐いた。

れいなの部屋は、都会にある古いマンションの一室だった。
みやは佳林の背を抱えながら、コンクリートの長くて狭い階段を上がった。
訪ねるのは久し振りのことだった。

「とりあえず、はいり」
れいなは2人を招き入れると、ケットがかかったソファに佳林を座らせた。
みやが事情を説明する間、れいなは対面でぐったりとソファに座り込んでいる佳林の姿をじっと見ていた。

「みやび。この子、うちら悪魔バスターじゃ扱い切れん」
「え」
思わぬ言葉に、みやは傍らの佳林を見た。佳林は何か覚悟したような静かな眼差しで、れいなを見上げた。
「でもそれって、私のこの症状に、心当たりがあるってことですよね」
れいなは頷くと、少しの間黙った。
「何かわかっているなら、教えてもらえませんか。何を聞いても驚かないって、約束します」
佳林の言葉に、それでもれいなは暫く躊躇ったあと、ようやく口を開いた。
「じゃ、よーく覚悟して聞いて。あんたは、悪魔憑きじゃなくて
……夢魔が人間に生ませた子だと思う」

454名無し募集中。。。2018/06/12(火) 01:19:42.760

れいなの言葉に、みやは頭の後ろがビリッと痺れたような気がした。
夢魔の、子ども。人間に生ませた子。
「……取り憑かれてるわけじゃなくて、悪魔そのものだって、ことですか」
佳林の言葉は、か細く震えた。みやは気付かぬうちに自分の両手を握りしめていた。

れいなは手を振った。
「悪魔ではないよ。悪魔の因子が特別な能力を開かせるけんハイブリッドってある意味チョー優秀。
だけんその能力が周りの人間もちくちく刺激しようけんね、あんたへの妬み、悪意を芽吹かせようとしようし。
勝手に手が動くだけっちゃない、悪魔の目的はどっちかいうとそっちの方かもしれん」

佳林は瞬きもせず、れいなの言葉を聞いていた。
「それって、わかっててどうにもならないのかな。せっかく、ここを頼って来てくれたのに」
れいなはみやの顔を見た。

「んー……モノによるっちゃけどこの子の場合、能力が悪い方には行ってないやん?それは救いかも。
悪事がなにより得意な奴、最悪シリアルキラーとか、ハイブリッドにはいくらでもおるけん」
「うん。それはそう確かに、悪い方じゃないとは思う。イヤな気配とか全然感じなかったし。最初っから」
「ほんとですか?」
佳林の言葉に、みやは頷いてやった。
「ほんと」
「そしたら例えば、私の中の、その、悪魔の因子をやっつけることとか、できますか?」
「うーん……」
考え込むれいなに、佳林は畳み掛けた。
「私、ヴァイオリンしかやってこなかったんです。これを、悪魔に取り上げられたら」
そこまで聞くと、れいなは「いや、そっか」と佳林の言葉を遮った。

「ヴァイオリンで注目されてるのは悪魔の力とは違うっちゃない。
それは、佳林のこれまでの積み重ねに決まっとーやん」
れいなに見据えられ、佳林は力強く頷いた。
「だけん、なん言いとかいな、祓うばっかが悪魔を倒す方法とは限らんし、そーいう
あんたを今一番苦しめとう力も全部取り込んで
自分のモノにする。逆に利用してやる。それができれば……こっちの勝ちってことになるやん」
そこまで言うと、れいなは得心したようにニヤリと笑った。
「みやびの目指してる世界ってそれやんね?」
佳林は目を丸くした。
「簡単じゃないよ努力はいるよ」とれいなは付け加えた。

「そんなこと、ほんとにできるって言いきれますか。このまま、悪魔に取り込まれて、悪魔になっちゃったりとか」
「佳林。……これさわってみ」
れいなが取り出したのは、聖油入れに違いなかった。佳林はおずおずと手を伸ばし、その銀のボトルを受け取ると、握りしめた。
「それ持てるっていうのは、悪魔じゃないってこと。佳林は悪魔にはなれん」

れいなの言葉に、みやは静かに息をついた。
「聖油が入ってるのそれ」
みやが言うと、佳林は顔を上げた。蓋を開けると、香りを嗅いだ。
「そういえばそのアロマ好きって言ってたよね。寝る前にちょっとつけるとかいいかも。
ヘンな夢を見たり、しなくなる、きっと」
「うっそぉ。れーなそれ絶対好きになれん。漢方みたいな匂いするし」
「……体に良さそう」
佳林はそう言って、初めて笑った。みやはその眼差しに力が宿るのを見た。

456名無し募集中。。。2018/06/12(火) 01:24:36.750

2匹の悪魔が電車の高架に腰掛けていた。
すぐ下の道を通り過ぎて行く、2人を見ていた。
片方は2匹が良く知る悪魔バスターだった。もうひとりは背中にヴァイオリンケースを背負っていた。
「もう、これ駄目じゃない?」
「あーあ。せっかくまいが目を付けたのに、なんで速攻悪魔バスターのとことか行っちゃうのかなぁ」
ちぃはくすんと笑い、前屈みに頬杖をつくまいの背中をぽんぽんと叩く。
「そういうときもあるって」
「やっと初めて、ニンゲンに取り憑こうと思ったのに」
「ニンゲンなんて、いいーーーっぱいいるよ」
「あの子、なんか気になったんだよなぁ」
「そうなんだ。ふふ。そうだね、私も」
「やっぱそう?」
「けど、最初はもっとさ、簡単そうなとこからいこうよ」
「簡単じゃないって思った?」
「……うん。そうだね。あの子は、ちょっとね」
2匹は寄り添ったまま、遠くなっていく人影を見送った。
まいはその後ろ姿に向かって小さく手を振った。
「サヨナラ。まいの最初の獲物さん」
ちぃが勢いよく立ち上がり「よしっ」と言った。
見上げるまいに笑いかける。
「今度こそ、初仕事を成功させよう!」
「うん。ゴメン、いっぱい付き合ってもらったのに無駄にしちゃった」
「バカ」
ちぃはまいの手を取って立ち上がらせる。
「まいちゃんだけの獲物じゃないよ。私たちの仕事じゃん?」

佳林を駅まで送り届け、帰ってきた時にはすっかり日も暮れていた。
れいなが佳林に持たせてやった銀の聖油入れは、みやもこれまで見たことがない繊細な意匠が施されていた。
一体、師匠はいくつの聖油入れをコレクションしているんだろう。気になる。
みやは靴を脱いで玄関を上がりながらそれを思いだした。
いや、もっと、もっと気になることがある。

寝室の扉を開けると、予想通りももはタオルケットに包まって眠っていた。
みやはベッドに体を寄せると、壁を向いているその肩を掴んで揺すった。

「もも、起きて」
「ぃやー」
タオルケットを巻き込むように一層背中を丸め、ももは寝ぼけた声を上げた。
「いいから!ちょっと起きて」
「やぁーーーーーーーーーーーだ」
みやがタオルケットの端を掴んで引っ張るほどに、その体はかたくかたく丸まっていく。
ダンゴムシか。
「そうじゃなくて、ちょっと聞きたいこと、いいから、ちょっと起きて」
フードのうさみみを掴んで頭を出すと、ももはようやく少しだけこちらに顔を向けた。
「なに」

みやはベッドに上がると、ももの傍らに座り込んだ。
「ももって、子ども生ませたことはあるわけ?」

「へ?なぁーんなの急に今じゃなくてもいいじゃん」
再びフードを被ろうとするももの指先を掴む。
「だって気になっちゃったんだもん」

458名無し募集中。。。2018/06/12(火) 01:28:40.170

「……インキュバスは、あんま、得意じゃない」
ももは壁を向いたままぼそぼそと言った。
「え、得意じゃないってことは、あるんじゃん」
「それが、なにか、問題でも?」
みやはコクリと息を飲み込んだ。
「お、お……男になるってことでしょ」
掴んだももの指先は力なく丸まっている。
「そうだよ場合に応じて……いいじゃんもぉーぅ、今は何もしてないんだし」
手の力を緩めると、指先はするりと抜けた。
「どっどんな感じになるの」
「え?」

ももは訝しげな顔で振り返る。その顔をみやは覗き込んだ。
「どういう男の子になるの」
「そりゃ……もう、超美少年だよ決まってんじゃん」
「まじ。見てみたい」
細めた目で睨まれる。
「……何言ってんのみや」
「見たーい」
「んーわかった今度」
「ねーもも、ダメ、やばい、まじで気になる」
「寝かして」
「ちょっとくらいいいじゃん」
「あのさ」
「うん」
「なに?……ももの子どもが欲しいの?」
上からももの顔を覗き込んだまま固まる。
「そぅ、そういうわけじゃない」
「違うね、そういうことだよ」
素早く伸びてきた手が、手探りにみやの二の腕を掴んだ。
不意に引っ張られ、みやの体はももの上半身を乗り越える。気付けば顔が間近にあった。

「も……ももってさ」
「あ?」
「たまに、そういう顔するよね」
「どういう?」
「してる時とか、あの、スイッチ入ったのかなーっていう時、そういう、怖い真顔」
「怖い顔なんかしてないよ」
「ううん、して、してる。そういう時、なんか」
「うん、何?」
「オトコみたい」
「……なるほど」
「いやでもちょっとだけ、ほんと、一瞬、そう思うときがあるかなーって」
ももがむくっと起き上がった。みやの体を壁際に押し付けるようにしてひっくり返し
太腿を挟むと上から伸し掛かってくる。
見上げると、ももの唇の先だけが小さく動いた。
「……いいよ、シテ、あげる」
「ちがくて」
両肩を押しつぶすように組敷かれる。
「ミヤビ」
名前を呼ばれて、みやの全身は凍り付いた。
「ヘンタイ」
フードに隠れて目が見えない。
ももはフードを被ったまま、片手だけを自分の首もとに持っていくと、パーカーの襟に手をかけた。
みやは震えながら、その指がジッパーを下ろしていくのを見ていた。

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