まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

585 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/13(火) 06:24:13.67 0

遠くで、鳥のさえずりが聞こえたようだった。
柔らかく差し込む日差しが、まぶたの向こうで夜明けを告げる。
全然睡眠時間は足りてなかったけど、障子は無情にもからりと開いた。

「お嬢様、いつまで寝てらっしゃるんですか?」

そこから凛と響く声が聞こえて、思わず跳ね起きる。

「ま、舞美……」

毎朝毎朝、律儀にあたしを起こしにくる使用人——舞美は、あたしが小さい頃からずっと一緒。
だからもう、あたしにとっては幼馴染みっていうかそういう立ち位置。
でも、舞美自身は、あたしの前に現れたその日から頑なな態度を崩さない。
ちょっと真面目すぎるくらい真面目で、まあきっとそこが良いところなんだと思う。

「早くしないと、学校に遅刻しますよ」
「あー、そうだねえ」

昨夜からドタバタといろんなことがあったせいで、学校とか正直どうでもいい。
……なんて事情はお堅い舞美に通じるはずもなくて、話したところで信じてくれるはずもなくて、あたしは仕方なく朝の支度を始めた。
ていうか、あの人たち——人って言って良いのか微妙だけど——あたしがいない間、大丈夫なのかな。
ちょこっと心配になったけど、それも早く早くと急かす舞美の言葉に掻き消された。
その時は、吸血鬼って昼間は寝てるらしいし、心配いらないかって勝手に思っちゃったのもあるけれど。
まあ、そういう楽観的なこと考えちゃう時って、大体よくないことが起こるよね。
そういうことは、どうして学校では教えてくれないんだろう。

586 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/13(火) 06:25:20.63 0

集中できない学校の授業だったけど、出席だけはきちんとしたことを褒めてほしい。
内容が頭に残っているかどうかは、この際置いておこう。
そんなあたしを待っていたのは、これ以上ないほどに散らかされた離れだった。

「……何が、あったの」

極力、軽い感じにならないように頑張って声を作る。
そんなことしなくても、目の前の二人はしょんぼりと反省していたようだったけど、まあ一応ね、一応。
部屋の畳はいろんな方向に散らばっていて、壁には無数の引っかき傷、障子はベリベリに破れていて。
事情を知らなければ、本当に空き巣か何かが入ったのではないかと疑うレベル。
いや、空き巣だってこんなに派手に部屋を散らかしはしないはず。

「……みやがいけないんだからねっ」
「は? 元はと言えばももが——」
「はいはーい、ちょっと待って」

なんで放っておくとすぐ喧嘩するかな。
そんなに相性悪いの?吸血鬼と座敷わらしって。
今って喧嘩する時間じゃないよね、と正座する二人を睨みつける。
あたしの視線を受け止めて、二人が気まずそうに視線を交わすのが分かった。

「……で、何があったの?」
「だから、みやが」
「違う、ももが」
「ねえ、もう一回言うよ?」

もう、質問に答えてよ。
軽い目眩を覚えながら、ゆっくりと繰り返す。
気が長いことで有名なあたしも、そろそろ雷落としそうなんだけど。

「分かった。ももから話して。みやは口挟んじゃだめだからね」
「……いいけど」

後でちゃんとみやの言い分も聞くから、と付け足しておく。
みやは渋々ながらも、ももに言葉を譲ったようだった。

「で、何が起きたの? 桃子さん」
「もも、悪くないの。今日は天気が良かったから、ちょーっと障子を開けただけなの」
「……ほう」

なんとなーくその後の展開は予想ついたけど、ここはももの口から聞くのが大事だよね。

「そしたら、みやが、すごい形相でやめろって言うから……ちょっと、その、取っ組み合いになったっていうか」

妖が二人、ここで本気の喧嘩をしたと。
それでこの程度で済んだのを、喜ぶべきなのかどうかあたしには分からない。

「で、その後は?」
「なんか、気づいたら、みやが弱ってて」

まあ、そうだよね。吸血鬼だもんね、みや。
何か言いたげにみやの眉が顰められるのが見えたけど、ちゃんと言いつけを守って口は出してこない。
吸血鬼って、案外真面目なんだね。

587 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/13(火) 06:25:52.78 0

「ぐったりしてたから、その、ももの飲む?って聞いたの」

もものってことは血ですよね、当たり前ながら。
まあ、その時点でみやは大分辛い状態だっただろうし、飲んじゃったんだろうな、うん。

「で、でも! お腹痛くなるといけないから、お水も持ってきて……そのぅ」

そこで、ももが一段と身を縮める。
それで?と促すと、聞き取れるかどうかギリギリの声で、こぼしちゃって、と言うのが聞き取れた。
あー、こぼしちゃったかあ、畳に。
つまりこの部屋に、水が流れちゃったわけだよね。

「そしたらなんかもう、みやが、暴れ出しちゃって」

みやがうずうずと拳を握って、開いて、と繰り返しているのが見える。
分かる、分かるよ、みや。
今回はももが悪いよ、なんかもう、全面的に。

「も、ももだって大変だったの! 結局血は吸われるし、その後はまたお腹痛いって言い出すし……」

まあ、ももからしたらね、いろいろ理不尽だったんだと思うけどね。

「……って言ってますけど、みや視点だと? っていうか、吸血鬼的には?」
「全部サイアク」

短く吐き捨てられた、みやの一言には本当に全部が凝縮されていた。
ももが反論しようとして口を開くのを、掌で制する。

「あのね、もも。一生懸命やってくれたのは分かるけど、今回は割とももが悪い」
「えー! なんで!」
「んー、説明すると長くなるから後で?」

納得いかない、と頬を膨らませるももはちょっと後回しで。
心配なのは、今日1日でいろいろと災難だったみやの方。

「お腹の方は?」
「たぶん、大丈夫。なんかこう、漲ってる感じするけど」
「漲ってる?」
「なんだろ、あり余ってる感じ?」

ももの血って、本当にどれだけ効果があるんだろう。
腹痛さえ起こさないなら、ももの血の方が体にいいんじゃないかなって思う。
でも、みや曰く、そうでもないらしい。
ももの血はマムシとかニンニクとかそういう感じなんだとか。
うーん、ちょっと想像できるような、したくないような。
もうちょっと可愛いもので例えてよ!って叫びが聞こえた。
けどね、もも。たぶんみやの言いたいことを表すには、可愛いものにはなり得ない気がする。

「あり余ったら、どうなるの?」
「さあ……とりあえず、いろいろいつもより感じやすい?」

匂いとか、音とか。

588 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/13(火) 06:26:30.95 0

これとか、って言いながら、みやはあの紙を取り出してあたしにほいっと渡した。
あの紙、つまり、みやと一緒に棺に入れられてたあれ。

「ほんの少しだけど、匂いが残ってる」
「……え?」

待って待って、それって結構大事な手がかりじゃない?
言った本人も、遅れてそのことに気づいたようだった。

「その匂いって、他に心当たりは?」
「さあ……分かんない。うち、ここに来るまではほとんどこの中にいたから」

みやが棺を指し示すのを見て、そうだった、と思い直す。
でも、この情報自体はどこかで役に立ちそう。
そう思って、頭の片隅に書き留める。
ほとぼりも冷めたところだし、さて、と改めてももに向き直る。
事態は大体把握できたし、今はとりあえず諸々の喧嘩を収束させないと。

「桃子さんは、まず吸血鬼の生態からお勉強しよっか」
「みやは? みやは悪くないの?」
「ちゃんと説明してあげるから。でも今回は、ももから謝って?」

あたしの言葉に、ぶーたれるもも。
本当、今の状態だけ見てたらただの子どもだよね。

「……ごめん、なさい」

言い方もどこかいじけていて、素直じゃないなあって思うけど。
みやもみやで、もういいよって感じでそれを受け止めたようだった。

「あのね、みや。ももはももで、一生懸命頑張ったんだと思う」
「……それは、分かってるし」

589 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/13(火) 06:26:48.98 0

あれ、分かってるんだ。
みやの言葉が聞こえたのか、拗ねたももの視線がこっちをちらりと伺う。
みやも、ちらっとももの方を向いたように見えて。
あーもう、って言いながら、みやはガシガシと自分の頭を掻いた。

「そんな顔しないでよ! ももがいろいろ考えてくれてたのは知ってるから!」

考えた結果、全部裏目に出てたけど——っていうのは今言うべきじゃなさそう。
だって、みやの言葉にももの顔がぱっと輝いたのが見えたから。

「ほ、本当?」
「あーもう、分かったから、ちょっ、離れろっ」

ぺったりとみやに引っ付くもも。
みやも満更でもなさそうで、口では離れろとか言ってるけど大した抵抗はしてないみたい。
いつの間にそんなに仲良くなってるんですか、お二人さん。
あたしだけ置いてきぼりにされたようで、なんかすごく……つまらない。

「あ、ここの障子、さっさと張り替えといてね」
「えー! 愛理は手伝ってくれないの?」
「いや、あたしは破いてないし」
「みや、やり方分かんないけど」
「それはももが教えてくれるから」

揃いも揃って同じような声音で、えーって不満を漏らす二人。
ふんだ、仲良く後片付けすればいいんだ。
ちょっともやもやした気持ちから逃れるように、あたしは部屋のふすまをぴしゃりと閉めた。

726 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/15(木) 05:16:55.39 0

妖怪二匹に部屋の片付けを任せている間、あたしはあたしで勝手に行動してやることに決めた。
みやから、なし崩し的に預かった紙。
匂いは手がかりになり得るだろうけれど、もっと他の手がかりが欲しい。
そこでまずはこの紙自体を、もっと観察してみようと思いついたってわけ。
……と言っても、何かあてがあるわけじゃないんだけどね。
さて、どうしようかなあ。
自分の部屋に戻って作戦を練ろうと思っていたら、軽やかに玄関のベルが鳴ったのが聞こえた。
ほどなくして、障子の向こうに人影が映る。
背格好からして、舞美だろうと想像がついた。

「お嬢様、梨沙子様がお見えです」
「え、梨沙子?」

珍しい、梨沙子がうちを訪ねてくるなんて。
どうぞ、と促すと、軽やかに開いた障子の向こうで梨沙子がひょい、と手を挙げた。

「どしたの、急だねえ」
「近くを通りかかったから」

梨沙子は相変わらず、薄い色の髪の毛を不思議な形にまとめていた。
今日のこれはなんだろう……羊、かなあ。
着物も紫と黒に金糸の装飾が施してあって、今日も個性的な風貌だった。
でもそれを着こなしちゃうのが、梨沙子のすごいところだと思う。
彼女の仕事は占い師だし、それを思えば多少は目立ってなんぼって感じなのかもしれないけれど。

「あとは、なんとなく予感がして」

くい、とまん丸な眼鏡を押し上げる梨沙子。
予感?ってオウム返しに答えると、梨沙子はゆるりと頷いた。

「愛理、今何か困ってない?」

なんかそんな気がして寄ってみたんだけど。
丸い硝子の向こう側、梨沙子の透き通った瞳に全部を見透かされているような気になった。
いつもそうだ、梨沙子に向き合う時はいつも落ち着かない。
それを誤魔化すように、えーっと、と考えている風を装う。
梨沙子の言う、”困りごと"ってなんだろう。
いや、困ってることならいっぱいあるけど。
今まさに、部屋の後片付けをしている某妖怪たちとか……って、まさか梨沙子にそんなことを言うわけにはいかない。

「困ってるっていうか……これ、なんだけど」

でも、何も困ってないよってはぐらかすには、梨沙子の視線は強すぎた。
だから、手近にあったあの紙を取り出してお茶を濁そう、そう思っただけ、なんだけど。

「何?」

あたしからそれを受け取った梨沙子の顔色が、さっと変わっていくのが目に入る。
あれ、何これ、そんなに大層な物?

727 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/15(木) 05:17:44.41 0

「愛理、これ……どうしたの」
「あ、えーっと……詳しくは、ちょっと」

自分から話を振っといて何だけど、梨沙子にはまだ話せないっていうか。
話しても、信じてもらえなさそうというか。

「これ、懐紙だね」
「懐紙?」
「しかも、かなり古いもの……」
「かなりって、どのくらい?」

ちら、と梨沙子を伺うと、知りたい?って唇が緩むのが見えた。
梨沙子の唇は、みやのとはまた違う紅で、けれどドキドキすることに変わりはない。
縫い留められたようにそこから目が離せなくなって、首を縦に振るのがやっとだった。

「数百年は前のものじゃないかな」
「え? 数、百年?」

聞き間違いじゃなかった、梨沙子の唇は確かに数百年と動いたようだった。
数百年って、そんな。まさか。

「ち、ちなみに、何が書いてあるか分かる?」

みやの言葉が本当なら、これは何かしらの文字のはず。
梨沙子なら、もしかしたら。
そんな期待を持って、子どもの落書きみたいな線を指し示す。
梨沙子はしばらくそれを見つめていたけれど、ふとその口から笑みが漏れた。
ってことは、何か意味がつかめたんだろうか。
尋ねてみると、さあ、と梨沙子は肩をすくめてみせた。
じゃあ、どうして笑ったりなんかしたの?

「すごく、強い念を感じる筆跡だから」
「強い、念……」
「よっぽどひどく恨んでいたか、もしくはその逆?」

残念ながら、梨沙子にもそれ以上のことは分からないらしい。
それでも、思いがけない収穫であることに間違いはない。
礼を述べると、じゃあもう行かなきゃと梨沙子がゆらりと立ち上がった。

728 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/15(木) 05:18:07.21 0

「え、何か用があったんじゃ」
「愛理の困りごとが、気になっただけだから」
「そ、そう……」

他にも何か、用事があったんじゃないの?
尋ねようとした言葉は、梨沙子に攫われる。

「あ、愛理」
「何?」
「気をつけなね」

梨沙子の煌めく瞳に吸い込まれそうで、どきりとした。
何に?とか聞ける雰囲気じゃなくて、あたしはただただ頷くことしかできなくて。
それが梨沙子にどう映ったのかは分からないけれど、じゃあね、と梨沙子が小さく手を振るのが見えた。
と思った次の瞬間、梨沙子はふわりと姿を消したようで。
はっと外に視線を移すと、軽やかな足取りで去っていく梨沙子の後ろ姿。
それをゆっくりと見送って、あたしは一つ、息を吐いた。

「数百年前の願い事、かあ」

このことを、あの二人になんて言ったらいいだろう。
そもそも、あの二人に伝えるべきなのかも自信がもてない。
だって、それはつまり。
この願いを書いた人はもう——この世にはいないってことだから。
そう思うと、何だか鼻の奥がツンとした。

どうしようかな、自問しながら離れまで戻ってみると障子は綺麗に貼り直されていた。
よかったよかった、座敷わらしも障子の貼り方くらいは知ってたらしい。
でも、なんだかやけに静か。
あの二人のことだから、また何かしら喧嘩してるだろうなあって思ったのに。
そんなことを考えながら障子を開けてみて、そこにあった光景で大体のことを察した。

「疲れて寝ちゃうって……子どもかって」

きちんとはめ込まれた畳の上で、二人は仲良く寄り添っている。
まあね、今日は疲れたよね、二人とも。
願い事のことはまた考えよう。
ひとまず、今はおやすみ。
心の中で二人にそっとつぶやいて、あたしは障子をそっと元に戻した。

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