まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

109 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 02:49:33.36 0

ハウスキーパー雅ちゃん〈2〉

遠くから聞こえたピピッという電子音に、雅は天井を見上げ、耳をすました。読みかけの漫画を閉じ、テーブルにそっと置く。ドアを開ける音、続いて床を踏むミシッという音が、微かながら階下に響いてきた。
「……モモ」
初めて感じるリアルな気配だった。やっと会える。雅は立ち上がり、書庫からそっと廊下へ出た。
派手な音を立てたら逃げられてしまうような気がして、逸る気持ちを抑え足音を殺しながら、一階への階段を上がる。上からパタンと足音が聞こえた。
二階の廊下にいる。そう思った。玄関ホールまで上がってくると、聞こえてくる足音はより一層大きくなった。
中央の階段まで行こうとして、ホールに掛けてある姿見に映る自分がチラリと目の端を掠め、雅は立ち止まった。
一人暮らしのような自由さで、まるで身なりに構わなくなっていた。雅は髪を括っていたゴムを解くと、鏡に向かって慌てて手櫛で髪を梳いた。

その時、息を呑むような気配を感じて、雅はビクっとし、振り返った。

生成りのワンピースを着た女性が、階段を降りてくるところだった。胸あたりまでの長い黒髪は、寝癖なのか毛先があちこちに跳ねていた。肌が病的な程白い。

雅と目が合うと、モモは無表情のまま階段の途中で立ち止まった。
こちらを見ているモモの面差しは端正で大人びていて、少し怯えたように雅を値踏みする目の動きは随分と理知的に見えた。
そういえば、いつしかすっかり、かくれんぼでもしている幼い女の子かのように思い込んでいた。雅と同年代だということは、最初に聞いていたのに。
雅は意外だったモモの風貌に、棒立ちのまま声も出せなかった。

「みーやん」モモはそう言うと、階段の途中に座り込んで雅を手招きした。
みーやん!?それは自分の事なのか。雅の眉根が寄った。再びモモに手招きされる。
「あっ……は、はい」雅は慌てて返事すると、足早に階段の下へと近付いた。
「そんな怖がんないでよ」モモは軽く口を尖らせて、雅を見下ろしている。
「あの、ずっとご挨拶しなきゃとは、思ってたんですけど」
「いいよ私が出てこなかったのが悪いんでしょ」
まったくその通りだと思ったが、口には出せない。モモは自分の座っている段の横を手で叩き、隣に座るように雅を促した。
「とりあえず、挨拶がてら、お話でもしよう」
それは、雅にとって願ってもない話だった。

111 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 02:54:19.24 0

「お掃除とお洗濯ありがとう」とまずモモは言った。一応仕事はしていると見做されているようで、雅は安堵した。
「聞きたいんですけど、どうして、外と連絡取れないんですか」
「それ、まあさに聞かなかったの?」「まあさって」「須藤」
須藤にも尋ねたことだった。しかしモモを前にしてもう一度聞いてみたくなったのだ。雅は聞いていないと嘘を吐いた。
「機密保持だよ。それを呑んでもらうための報酬も充分だと思うけど」
同じことを言われてしまえば、もうそれ以上は聞ける気がしない。外部と繋がることについては、やはり諦めるしかないようだった。

「みーやんはここ来るまで何か仕事してたの?」
「一ヶ月前まではアパレル関係の」
「へー、そうなんだ」
自分から聞いて来たくせに、続けようとする言葉を遮るように、モモはまるで興味なさげな相槌を打った。
「服とかは興味なさそうですね」
そう言い返してやると、モモは嬉しそうな顔をして、雅の顔を覗き込んできた。
「おしゃれじゃないって言いたいんだ」
「まあ、まあ言ったらそうですけど」
「服は全部まあさの趣味だよ、戻ってきたら伝えとくね」
雅は慌てた。「そのワンピースは似合ってると思う」
モモは、初めて笑顔を見せた。笑うと子どものようだった。
「みーやん可愛いねえ」

人と話すこと自体が酷く久し振りのような気がした。雅は心が解けているのを感じて、今日までの数日がどれだけストレスだったか、改めて思い知る。

「モモさんが嫌じゃなかったら、毎日ちょっとでもいいからこうやって話したい」
「さん付けやめて。ももって呼んでいいし敬語も一切要らない」
「じゃあ、もも」
敬称を省いただけなのに、口にしてみると、それはとても柔らかい響きだった。
「はい、よく出来ました」
モモに頭を撫でられて、雅は顔が熱くなった。

「あの、もう一つ聞きたいことが」
モモが頷くのを見て、丁寧に言葉を選ぶつもりだったが、口にしてみたらどうにもストレートになってしまった。
「どうして、こんな場所で暮らしてるの」
条件の諸々を飲み込んでしまったら、今最も気になる謎だった。
モモは少しの間考え込み、やがて立ち上がると、見上げる雅に視線を落とした。
「みーやんに開けて欲しい部屋があるの」

112 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 02:58:50.20 0

地下に降りるとモモは一番手前の角を曲がり、奥にある黒い木のドアを指差した。それは須藤には案内されなかった一角だった。
雅はドキドキしながら、その部屋の前に立つ。電子音は鳴らなかった。
「駄目か」とモモはがっかりしたように言った。雅は申し訳ない気持ちになった。
「ここは、そもそも案内されてなかったから」
「そっか、そうなんだ」
考えてみればおかしな話だった。家の主が入れない部屋がある?須藤には開けられるのだろうか。彼女がただのハウスキーパーでないことは明らかだった。
「まあさから何聞いてる?」
「何って……えっと、何も。家事の他は普通に暮らしていいってことだけ」
「……なるほど」
「この部屋に、何が?」
モモはドアに両手を当て、耳を寄せると目を閉じた。
「奪われた記憶。これを質に取られてるんだよね」
やけに謎めいた言い回しをされたと思った。雅は少しの間考えた。
「それって、今、記憶喪失ってこと?」
「そう。ここに来る前までが、すっぽり」
モモという、意味深な存在。何かある。そう感じ続けてきた一つが、繋がったような気がした。

「奪われるって意味がわかんないんだけど。誰かに取られたってこと?」
「さあ」
記憶がないってどんなだろう、と雅は思い巡らせる。過去を追えば、途切れなく続く記憶。印象深いものを飛び飛びに、三才の出来事まで辿ったところで、雅の記憶は途切れた。大切な思い出たち。
「要は、思い出の品がこの部屋にあるってこと?」
「そう……そんな感じ」
須藤はモモの何を握っているんだろう。モモの様子を見たら、自分が居るうちに何か役に立ってあげたいと思った。
「思い出の物を見て記憶を取り戻せるなら、開けてあげたいけど……」
モモは目を開いた。
「優しい子なんだね。安心した。あなたが普通で、ううん、違う、普通じゃなくて」
雅は鼻白む。これまで、普通じゃないなどと言われたことはなかった。
「別に、私は全然普通だと思う」
「この環境をあっさり受け容れてるって普通じゃないよ」
モモは壁に背をつけ、雅に向かって微笑んだ。そう言われると返しようがない。
「すぐに逃げ出していくかと思ったから様子見てたけど、拍子抜けした」
「無理でしょ。逃げようもないし」
「みーやんのそういうところ、すごくイイと思うよ」

〈3〉へ続く

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