まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

元ネタ


137名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/26(火) 18:28:06.870

「季節外れすぎない?」

最初の感想はそれだった。
目の前には、今さっき開封した小箱の中身。
昨日、愛理からおみやげだってもらったんだけど……開けてみたら鮮やかな緑色のブタさんと目が合った。
ただのブタさんじゃなくて、漫画とかでよく見る、ブタさんの蚊取り線香。
やっぱり何度見ても、季節外れとしか言いようがなかった。
だってこっちはセーターまで着こんで、こたつに入ってるってのにさ。
愛理ってば一体どこに旅行に行ったんだろう。
まあ、よくよく見たら案外つぶらな目をしてるし、ぽっかり開いた口も合わさって味のある顔して可愛い。
次の夏まで飾っとくのも悪くないか。夏になったところで蚊取り線香を使うことはたぶんないけど。
つやつやとしたそいつの頭をそっと撫でてみる。

「呼ばれて飛び出てっ! じゃじゃじゃ、じゃ〜んっ」
「うああああっ?!」

ぼふんっ!と音がして、吹き出る白い煙。あと、バンザイをした何か。
ガタガタ、と机が揺れた。

「ん? あれぇ、外国人? はろー、はわゆ?」
「日本人、だけど」

反射的に否定したけど、それどころじゃない。
だんだんと薄れる煙の向こうから現れたのは、お姉さん座りをした浴衣姿の女の子。
女の子だ。どこからどう見ても。聞こえてきた声だって女の子。

「ああー、よかった! もも、さすがに英語はしゃべれないからさあ」

しかも、言葉が通じる。うそでしょ。
手を伸ばしたら、麻のざらついた感じが指にあたった。さ、触れちゃった。

138名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/26(火) 18:28:48.510

「……えっ、と」
「ん? あ、初めまして! 呼んでくれてありがとう!」
「……呼んでないんですけど」
「いやいや、呼んだってば」

だってほら、と"もも"とかいうソイツはブタさんを指差した。
そこから現れたって言いたいらしい。

「さて、ももを呼び出した幸運な……えっと、あなたお名前は?」
「……アイ?」

思わず素直に答えそうになったけど、ざわつく胸がうちの口から偽名を告げさせた。
知らないやつに本名を教えて、ろくなことにならない展開は漫画とかでよくあるし。

「アイちゃんね、うんうん良い名前。そんなアイちゃんに、プレゼント! ももが3つだけあなたの願いを叶えてあげまーす」
「間に合ってます」
「ちょっとぉ!」

甲高い声が耳に刺さる。
外見からしてもうちょっと大人しめな子かと思ったのに、一方的に喋り倒すしなんなの本当。

「えっ、無欲すぎない? なんで? さとり世代とかいうやつ?」
「ぎりぎりゆとり世代らしいけど関係ないし」

せっかくゆっくり一人の時間を楽しんでたのに、こんなのがいたんじゃ休めやしない。
ブタさんを引き寄せると、ももはなぜか期待に満ちた目で見てきた。悪いけどそんなんじゃないから。

「おかえりいただいて大丈夫です」

ブタさんの口を改めてももに向けると、ももは大げさにため息をつく。

「いやあ、そうもいかないんだよねえ。3つの願いを叶えるのは強制なの」
「はぁ?」

だから、アイちゃんの願いを叶えるまで帰れないの。
ももはそう言って、ふふん、と胸を張った。この状況でドヤ顔する理由が分からない。

139名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/26(火) 18:29:12.030

「何? びっくりして言葉もないって感じ?」
「というか……」

びっくり、というよりも呆れて何も言えないっていうか。
そんなことを思っている間にも、ももは寒くない?とか言い出して勝手にこたつに潜り込んできた。
わりと綺麗に着付けられていたはずの浴衣が崩れていくのが見てられない。
ていうか、それなら浴衣じゃないもの着れば良いのに。

「とりあえず」
「なーに?」
「こたつから出てもらえる? 1つ目のお願い」
「んー、いいけどぉ、それはお願いに入らないかな」
「は? なんで?」

こたつに潜り込んだ体勢はそのまま、ももはぴょこんと人差し指を立てる。
かいつまんで言えば、簡単すぎて魔法を使うまでもないようなお願い事はカウントされないんだって。
この見た目で魔法が使えるとか全くもって信じられないんだけど。

「さ、それを踏まえてお願い事をどーぞ?」
「……お金持ちになりたい?」
「ちょっと! 急にやらしいなー、びっくりしちゃったじゃん。はいはい待ってね、お金ももちね」

ぎゅっと目をつぶって、ももが「んー!」とかうなり始める。
そのほっぺたがうっすらと赤くなってきた頃、ぷはーっとももが息を吐いた。

「どう? お金ももちになった感じ?」
「それってわかるもの?」
「うーん、いつもならお部屋が金ピカになるとか目に見えて変わるんだけどなあ」

部屋を見渡しながら、ももがおかしいなあと頭を掻く。
うちが見る限り、部屋の様子は全く変わってない。

「ちょーっと今日は調子悪いみたい。他にお願いは?」

ももはしれっとした顔でそんなことを言って、得意げに両目をつぶった。

205名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/27(水) 02:41:19.760

他って言ったって、そんなにすぐ叶えたいことなんて浮かぶはずないじゃんか。
しかも適当なお願いじゃダメっていうんだから、めんどくさいことこの上ない。

「前に会った人はパパパーッて出てきたんだけどなあ」
「たとえばどんなの?」
「それは残念だけど言えないの」

守秘義務がどうこう、とももが適当な説明をしてくれたけど、半分も頭に入ってこなかった。
魔法が使えるくせに、そういうとこはやけにリアルで夢も希望もない感じ。

「うちはさっさとお帰りいただきたいんだけど」
「だーかーらぁ、それは無理なの。アイちゃんがさっさとお願い事考えてくれたら良いだけの話だよ?」

こたつに胸辺りまですっぽり包まった状態で言われるの、なんかちょっとムカつくんですけど。
ていうか、こいつ蚊取り線香の中にすら戻らないんだろうか。ああ、頭痛くなってきた。

「もう、寝る」
「え、もう? まあ早寝は良いことだよ。うんうん」

おやすみ、と呑気な声は受け流して、立ち上がろうとして。
うちの膝が、こたつの天板に勢い良くぶつかった。
がしゃんっと派手な音が響く。嫌な音。お腹の奥がきゅっと縮まった。
はっと目をやった先で、ブタさんはあっさりと、本当にあっさりと真っ二つに割れていた。
さっきまで調子よくコロコロ変わっていたももの表情が、ぴたりと固まる。

207名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/27(水) 02:43:12.580

「あ、あの、ごめん……」

少しの間を置いて、平坦な声が大丈夫って答えた。
うん、大丈夫だから。そんなに高いもんじゃないしさ。
そう言いながら、ももの頬がようやくぴくりと動いてくしゃりと表情が歪む。
それはたぶん笑顔ってやつなんだろうけど、うちには全然そう見えない。
大きなつららでぐっさりと胸を刺されたみたいだった。
いきなり現れたこんなやつに、同情する理由なんてないはずなのに。

「代わり……代わりの、見つけてくるからっ」
「え、あ、アイちゃん?!」

気づいたらうちは財布を掴んで外へと飛び出していた。
真冬の風が首のあたりを通り抜けて、全身に鳥肌が立つ。
でも今はそんなの全然関係なくて、うちはいつぶりだろうって思ってしまうくらい久しぶりに走った。

とはいっても、こんな時間に開いてる店って100均くらいしか心当たりはなくて。
しかも、この時期に蚊取り線香を置いてるような店舗なんてあるはずもない。
心当たりのあるお店を3軒くらい回ってみたけど、妥協に妥協を重ねた結果見つけられたのは植木鉢だった。
300円+税のそれは、よくあるテラコッタ製で上部が広がったもの。

「……まじ?」

レジでお財布を取り出したうちは、思わずそうつぶやいていた。
諭吉さんが、5人。おかしい。だって、今日帰る時にお金おろし忘れたなって思ったから。
つまり、諭吉さんなんて1人もうちのお財布にはいなかったはずなのに。
ぱちんと音を立てて記憶がつながる。これがあいつの魔法の結果ってこと、なんじゃなかろうか。
一切消え失せてしまった小銭の代わりに諭吉さんで鉢を購入すると、うちは帰路を急いだ。

209名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/27(水) 02:44:36.780

ただいま、とかけた声に返事はなかった。
もしかして寝たとか?なんて思ってたら、こたつの近くでごそごそとその塊がうごめいた。

「夏焼雅さん、25歳。職業は古着屋のバイヤー……合ってる?」

まっすぐな目が、こっちを見据える。
ももの手に、社員証と免許証が握られているのが目に入った。

「お前……っ」

買ってきた植木鉢なんてどうでもよくなって、カッと頭に上った熱のまま、ももに摑みかかる。
さすがにそれは、超えちゃいけないラインじゃん。

「た、タンマ! ごめんって! だってみやびちゃん、嘘つくんだもん!」
「何がよ」
「名前。アイちゃんなんて大嘘じゃんか」
「それは……悪かったけど」

ももの指摘はもっともで、指先の力が少し緩む。
でも、それにしたってやり方があるんじゃないの?
それこそ魔法使いなら、いくらだって。

「もも、自分のための魔法は使えないんだよね」
「そうなの?」
「そうなの。超不便でしょ? でもしょうがないの。なんかそういう設定で作られちゃったみたいだから」
「……そう」

分からない。分からないけど分かったことにしないと頭がパンクしそう。
そうだ、魔法といえばもう一つ確かめたいことがあったんだった。

「ねえ、財布のお金が増えてたんだけど」
「おっ、本当?」
「5万ってセコすぎない?」
「あー、そんなもんだったかあ」

なるほどね、と何を納得したのやら、ももはうんうんと頷く。

211名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/27(水) 02:45:31.720

「みやびちゃん、本当はお金にそこまで興味ないでしょ?」
「何が言いたいわけ?」
「ももの魔法はね、願った人の思いの強さで結果が決まるんだよね」

つまり、みやびちゃんが本当にお金持ちになりたいって思ってたら、もっとたくさんのお金が現れたはずなんだよね。
ももの言うことは、あながち間違ってない。

「で、みやびちゃんが本当に叶えたいことってなーに?」

さっきと同じように、まっすぐにうちを見つめるももの目。
何もかも見透かされてしまいそうな、不思議な目。
それが、ふっと緩んだ。

「何だっていいんだから、パッと考えちゃえばいいじゃん」
「それができたら苦労しないんだってば……」
「なりたいものとかやりたいこととか、いろいろあるでしょ?」

小学校の頃に聞かれて以来、みたいな質問。
でも、大人になってからは、そんな質問された覚えがない。
本当は、大人にこそ必要な問いなのにね。

「なりたいものは……ないわけじゃないけど」
「お? なになに?」

ももがひょいっと眉を持ち上げて、にっこりと微笑む。

「……言わない」
「えーっ、なんで? それを叶えれば、あと1つで済むんだよ?」

213名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/27(水) 02:45:52.320

確かに、ももに言ってそれを叶えてもらうのは簡単だけどさ。
でもやっぱ、それは違うなって思うわけで。

「夢は、頑張って叶えるから良いんじゃんか」
「ほーう?」
「結果だけ手に入れたって、何も嬉しくない」

自分で言いながら、それだよ!って膝を打ちたくなる。
よかった。ちゃんと言葉になってくれて。
うちの言葉を聞いたももはしばらく腕組みをして考えた後、よし!といきなり声を上げた。

「みやびちゃんが本当の願いを見つけるまで、ももはここに住むことにします!」
「おい何勝手に」
「あ、言い忘れてたんだけど」

自分のために魔法を使うことはできないので、衣食住の面倒はよろしく!
うちの言葉を遮った上に、飛び出てくるのは厚かましいにもほどがある要求。

「ただの押し売りじゃん!」
「ちっがーう! ちゃんとお願い事が見つかったら叶えてあげるって言ってるじゃん!」

そう言って、ももはまたぎゅっと両目をつぶった。
本人は「可愛いでしょ?」みたいな雰囲気を醸してるんだけど、どっちかというと面白い。

「失礼な! よく見てよ!」

どこからどう見てもウインクでしょ!と主張するももの表情は、どこからどう見ても梅干しとかレモンを食べた時の顔だった。
こんなド下手なウインク、なかなかお目にかかれないんじゃないかな。
そう思ったら、肩の力が抜けた。
しばらくこいつと暮らすのも、まあ悪くないかなって。

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