まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

113名無し募集中。。。2018/12/24(月) 02:17:23.880

見上げた広場の時計台は、11時になる5分前を差していた。
日曜だし、定番の待ち合わせ場所だしで、結構人の行き来が激しい。
今日は雛子ちゃんとの約束の日。待ち合わせは11時。
あと5分が永遠に感じるほど、体中がそわそわと騒がしい。
ふーっと吐いた息がもわもわと白くなって宙に溶けた。
いやいや、中学生相手に何緊張してんの、夏焼雅。

「みやびさーんっ!」

首をぷるぷる振ってたら、少し遠くから雛子ちゃんの声がした。
人の波の中で、見覚えのあるアラレちゃんメガネが目に入る。いたいた。
みやが手を上げると、雛子ちゃんもぶんぶんと手を振ってきた。
ネイビーのダッフルコートのフードを跳ねさせて、雛子ちゃんが駆け寄ってくるのが見えた。
前は思わなかったけど、こうして見ると雛子ちゃんの仕草ってアニメっぽい。
こういうところ、ママ譲りなのかな。
ってことはあのぷりぷりした動作は生まれつき?
嗣永家ってもしかしてみんな……あんま深く考えんのはやめとこ。

「よし、行こっか」
「はいっ」

今時の中学生がどこに遊びに行くのか、みやには全然想像がつかなかった。
もしかしたら、みやが中学生の頃とは全然違うかもしれないじゃん?
てか、そもそもみやの中学生時代ってほぼベリーズの活動で消えたしね。
というわけで、事務所の後輩ちゃんにそれとなく聞いてみたわけ。
スペイン坂に、竹下通り。
古着屋、ゲーセン、カラオケ。懐かしい単語がぽんぽん出てくる。
結局、あんまり目立つのもねって思って、ちょっと外れのショッピングモールにしちゃったんだけどさ。

114名無し募集中。。。2018/12/24(月) 02:19:04.340


お昼ご飯は、雛子ちゃんの希望でオムライス屋に入った。
オムライスってチョイスが中学生っぽくてみやはほっとした。
雛子ちゃんって、年のわりに大人びた感じがするからさ。
食事の時間は、雛子ちゃんのことをいろいろ聞くことができた。
調理部に入ってることとか、最近作ったのはプリンだとか。

「クリスマスは、ママに何か作りたいんです」

言いながら、照れたように笑った雛子ちゃんはめっちゃくちゃ可愛かった。
服装も地味だし、髪の毛もただ下ろしただけで、前髪も重ためでさ。
それなのに可愛いって説得力があるって、すごい。
でも、この年頃だとおしゃれに興味あってもおかしくないんじゃない?
そう思ったら、みやの体がうずうずし始めた。
これはもう、ショクギョウビョー、かも。

「この後、どうしよっか。服屋さんとか……興味ある?」

雛子ちゃんがちっちゃく頷いた。
なんか、反応鈍いかも。外しちゃった?

「カフェ入ってのんびりお話してもいーしさ、雑貨見たりとか」

言葉を繋ぎながら、雛子ちゃんの表情をそっと観察する。
どれにもピンとこないって顔だなーどうしよ。
みやが迷ってたら、雛子ちゃんが「ふく……」って静かに言った。

「ふく、みる?」
「見たいです」

もう一回、確かめるつもりで雛子ちゃんの目を見つめる。
少なくとも、無理はしてないっぽいって思った。

115名無し募集中。。。2018/12/24(月) 02:20:10.270


休日のショッピングモールって来るのいつぶりだろ。
通り過ぎていく家族連れ、カップル、友達。
みんなウキウキした顔してて、クリスマス近いんだなって実感する。
その中で、雛子ちゃんと一緒に歩いてるのが不思議だった。
だってみや達、ちょっと前まで他人同士だったのにさ。
今、こうして幸せいっぱいのショッピングモールを歩いてんだもん。

「あそことかどう?」

みやのおすすめに、雛子ちゃんの横顔が輝いた気がした。
背伸びしたい年頃の子にぴったりな、プチプラブランド。
渋めのカラーも多いけど、甘めのシルエットがキュートなの。

「どうせだから、全身コーデしちゃお」
「えっ、でも私よく分からな、」
「だいじょーぶ、好きだなって思ったら着てみれば良いから」

みやも、似合ってるか見てあげる。
そう付け加えたら、雛子ちゃんは生き生きと店内を回り始めた。
ももは全然こういうの興味なかったのになーって思うと面白い。
あの人はあの人で、多少ダサいのでも着こなしちゃうのがすごいと思うけど。

「これ……どうでしょう」

雛子ちゃんがカーディガンを広げて見せてくれた。
襟がちょっと凝った形してるの、いいね。
他も見ておいでって言ったら、雛子ちゃんはにこにこしながら服の波へ消えていった。
雛子ちゃんを待つ間、やることもないから店内をぶらぶら歩いた。
姿見で自分を見てみて、年取ったなーって改めて思った。
今日は雛子ちゃんと一緒だからか、余計にそう感じるのかも。
年齢に逆らうつもりは全然ないんだけどさ。
カッコいいおばちゃんやおばあちゃんになりたいなって、いつも考えてる。
つんく♂さんも言ってたじゃん、おばあちゃんでもルージュひくわって。

「みやびさん、これも着てみたいですっ!」

雛子ちゃんの弾んだ声が、みやを振り向かせる。
みやと雛子ちゃんは他の人から見たらどう見えてるんだろう、って不意に思った。

116名無し募集中。。。2018/12/24(月) 02:21:07.460

シンプルな服を着ていたわりに、雛子ちゃんのセンスは悪くなかった。
自然とパステルカラーで揃えちゃう色彩感覚。
上が凝ってるやつなら下はシンプルなものを選ぶバランス感覚。

「こうやって服選んだことある?」
「あんまりないです。いつもはママが買ってきてくれます」

試着室のカーテンの向こうから、雛子ちゃんが返事をする。
中学生だったらそんなもんか。
1年前は小学生だったわけだしね。

「どうでしょう?」

カーテンを開く音がして、振り返ると雛子ちゃんがもじもじしながら立っていた。
まってよ。それだけで可愛いって反則だと思うんだけど。
オフホワイトのニットに桃色のロングスカートっていうのも似合いすぎてるし。

「みやびさん……?」
「すっごく、良い」
「ホントですか? うれしい」

くるっと一回転した雛子ちゃんの膝元で、スカートの裾がふわっと開く。
うん、買おう。みやは即決した。

「他にも着てみな? ほら、キャメルのやつとか」
「……キャラメル?」

ぶっ、なんて音させて吹いたのいつぶりだろ。
だって、キャラメルって、そんな純粋な目で。

「キャメル。そこの茶色のやつ」
「あ! 着てみます」

ジャッと音がして、再びカーテンは閉じられた。
でもまだみやの頭には、さっき見た雛子ちゃんが焼き付いていた。
服装が違うだけで全然印象が違う。
少し垢抜けるだけで、めちゃくちゃ可愛く見えた。
あの雛子ちゃんなら、道行く人がみんな振り返ったっておかしくない。


……あ。

117名無し募集中。。。2018/12/24(月) 02:23:42.720


「みやびさん、着てみました」

スカートだけを履き替えた雛子ちゃんが、みやを呼ぶ。
その鼻に乗っかる、赤縁のアラレちゃんメガネが目についた。
気づいたら、メガネに指を引っかけていた。
するすると外してしまうと、雛子ちゃんが不安そうにぱちぱちとまばたきをする。

「目、悪いの?」
「へっ?」
「いや、いっつもかけてるからさ……」
「この前の視力検査ではBでした。でも、ママがかけとけって言うの、で」

雛子ちゃんの言葉通り、そんなに度は強くなかった。
やっぱ、視力だけのせいじゃ、ない。
そう思った瞬間、ある想像がガツンッて頭を打った。
地味な服装も、目立つメガネなのも、厚めの前髪も、全部。

118名無し募集中。。。2018/12/24(月) 02:29:34.930

「その服、気に入った?」
「はい、とっても!」
「そっかー。じゃあ、みやにプレゼントさせてくれる?」
「えぇっ?」
「ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントってことでさ。そのニットと、キャラメルのスカート」

119名無し募集中。。。2018/12/24(月) 02:30:02.890

本当は、桃色の方が似合ってると思う。
だけど、みやの考えが正解なら、無責任にプレゼントなんてできない。

「い、いいんですか?」
「いーの。ママにはお小遣いで買ったって言っときなね」
「……ありがとう、ございます……!」

閉じたカーテンの襞を眺めながら、みやの頭はぐるぐるしていた。
自分がアイドルを始めた頃、なるべく目立たない格好をしろって言われてた時期がある。
帽子を被ったり、黒っぽい服を選んだりすること。
何もかも、みや達の身を守るためだった。
もしも、ももが同じことを考えたとしたら?

「みやびさん、終わりました」

すっかり元通りの服装になった雛子ちゃんから、カゴを受け取る。
レジに向かう間に、ネイビーのニット帽もカゴに突っ込んだ。

210名無し募集中。。。2018/12/26(水) 21:17:35.690

みやが適当に買ったネイビーのニット帽。
でも、雛子ちゃんに被せてみたら案外フィットしてた。
てっぺんにポンポンみたいなのがついてんの。可愛くない?
雛子ちゃんは遠慮してたけど、良いから良いからとみやは押し切った。
きれいな黒髪が隠れちゃうのは、ちょっと寂しいけど。

「どっか入ろっか。歩き疲れたでしょ」

雛子ちゃんが頷く。ポンポンもゆらんってする。
なんか、ゆるキャラみたいで可愛いんですけど。

「あっち、行ってみても良い?」
「はい」

お昼を探す時、ちらっとチェックしといたカフェを思い浮かべる。
コーヒー以外も充実してそうなとこが良いよね、きっと。

通路を歩いているだけなのに、肩がぶつかりそうになる。
さっきより人増えたかも。
人の間を抜けようとすると、今度は雛子ちゃんを置いて行っちゃいそう。
よし、って気合いを入れた。
今日、実はずっと思ってたけど言えなかったこと。

「嫌、じゃなかったらさ、手、繋いどこうか」

言葉が、喉の奥で変に引っかかる。
そうっと伸ばしたみやの手に、雛子ちゃんの手が重なった。
ぶわーっと全身に熱が広がる。
一気に体温が戻ってきたみたいだった。
みやより一回りちっちゃい手の先は、ひんやりしていた。

211名無し募集中。。。2018/12/26(水) 21:18:48.470


みやが選んだのは、ハワイアンカフェだった。
ビールとかコーヒーが有名だけど、ジュースやスイーツもありそうじゃない?
メニューに並ぶトロピカル系のジュースやパンケーキ。
よかったー、予想通りで。

「ポキ?」

みやが飲み物を選んでいると、向かい側で雛子ちゃんがぼそっと言う。

「えーっとね、ハワイの海鮮丼みたいなやつ」

あれでしょ? マグロとかアボカドがのってるやつでしょ?
急いでスマホのグーグル先生を呼び出す。
ここ、メニューが文字だけだから分かりづらいよね。
あーそうそう。これよこれ。想像通りのビジュアルでほっとする。
みやのスマホを見せてあげたら、雛子ちゃんがへーって顔をした。
なんだか新鮮な反応かも。

「みやびさん、ハワイ行ったことあるんですか?」
「あるよー。雛子ちゃんのママも」
「……え?」

一瞬、雛子ちゃんの体がぴたって停止した。
え、何? みや、なんかまずいこと言った?
なんだか知らないけど、雛子ちゃんの薄い唇が小さく震えてる。

「ママと……他に、どこか」
「え? ……パリ、とか」
「パリ……ッ?!」

雛子ちゃんの椅子が苦しそうに軋んだ。
予想外の反応すぎて、みやの心臓も勝手に速くなる。
やっばい。みやの手めっちゃ冷たい。

212名無し募集中。。。2018/12/26(水) 21:19:14.110

「だってママ、ひこーき嫌いだって……」
「あれは仕事だったし」
「えっ?! パリでお仕事?!」
「え? うん。ライブ」
「ライブ……?!」
「ステージの上で歌ったり踊ったり」
「……ママが、ですか?」

ありえないって言うように雛子ちゃんの目がまん丸になる。
うそうそ、嘘でしょ? まって。マジで?

「……雛子ちゃん、ママの昔のお仕事知ってる?」
「分かんないです。……公務員?」

そんなわけ!って叫びたかったけど、店員さんが注文取りに来たから一時中断。
雛子ちゃんがパインジュースを選んだから、みやも同じのにしてもらった。
正直、味なんて分かる気しない。
だってこんなことある?
もう20年くらい前の話だけど、
(って言ってて自分でちょっとショックなんだけど、)
実の、娘がさ、


……ももちのこと知らないって? 

213名無し募集中。。。2018/12/26(水) 21:20:02.440


「――みやび、さん?」

気づいたら、雛子ちゃんが不安そうにみやを見ていた。
ごめんね。全然、雛子ちゃんが悪いわけじゃないのにね。
ももにはももなりの考えがあるんでしょ。
分かるけど、でも。そんなことあって良いわけ?
10年以上も連絡してないとか、そういうの関係ないわ。
今すぐにでも電話して、問いただしたい。
やんないけど。

「あー……どっから話そっか」

今から言うこと、ママには秘密にしといてねって小指を立てる。
そこに、雛子ちゃんの小指がおずおずと絡まった。

215名無し募集中。。。2018/12/26(水) 21:21:43.920


雛子ちゃんがあんまりショック受けてたら止めようって決めてた。

雛子ちゃんのママは、アイドルなの。
ももちって呼ばれてんだけど。知らない? 知らないかあ。
Berryz工房ってアイドルグループで活動してた。みやも、そこにいた。
ああ、みや、昔話あんまり得意じゃないわ。

「信じられないです」って何度も言いながら、雛子ちゃんが目をくるくるさせる。
でも、YouTubeでライブ動画を見せてあげたら、雛子ちゃんは一瞬で納得したみたいだった。
さすがにももち結びは刺激が強すぎるかなって思って。
サイドに編み込みしてる時のやつ。みやのお気に入り。
動画の中のももは、ころころ表情を変えて、ぴょこぴょこダンスをする。
えっ、もも、こんな可愛かったか。

「ママ、こんなかっこよかったんですね」

スマホの小さな画面を見つめながら、雛子ちゃんがぽつりと言った。
「かっこよかった」だって。
それ、ママに聞かせてあげたいね。
絶対照れ隠しで変なにやにや笑いすると思う。

「ママが言わなかったのはなんか理由があるかもしれないから」
「はい。黙っときます」

真面目な顔で言った後、雛子ちゃんが「よかったあ」ってふにゃっと笑う。
「よかった?」って聞き返したら、雛子ちゃんは気まずそうにもぞもぞした。

217名無し募集中。。。2018/12/26(水) 21:22:29.980

「私、本当は……みやびさんのこと、う……たがってて」
「……へ?」
「この前のも今日も調査? っていうかなんていうか」

吸い込んだばっかのジュースが、喉をちくちくって刺激する。
疑ってたって、みやのことを?
そう言われて、初めて会った日のことを思い出してみる。
なんだっけ、「何者ですか?」って言われたんだったっけ。
あれは、ママとどういう関係なんだよって聞きたかったんだと思う。たぶん。

「ごめんなさい。私、みやびさんが悪い人かもって思っちゃって……」

しょんぼりした雛子ちゃんの体が、どんどんちっちゃくなっていく。
そんな謝らなくてもいいのに。
みや、今日楽しかったしさ。それでいいじゃん、ね。
店員さんを呼び止めて、温かいココアを二つ頼む。

「答えなくなかったら良いんだけど……なんでそう思ったの?」

問い詰める感じにならないように、できるだけ優しい声を出す。

「ママが……寝てる時に言ってたんです。……"みや"って」
「えっ」

今度は、みやがびっくりする番だった。
聞き間違いじゃないの?
って思ったけど、雛子ちゃんは「何回も聞いたんです」って力強く言う。
ももが、って思ったら、かーって胸のあたりが熱くなった。まじかー。

「友達にそのこと言ったら、『フリンじゃね?』って言われて」
「それで事務所まで来ちゃったの?!」
「はい……」

日常会話で"フリン"って出てくるのもだし、事務所まで来ちゃうのもだし、
最近の中学生ってどうなってんの?

「でも、今日一緒にいて違うって分かりました! ありがとうございます」
「あーうん……こちらこそ」

さっぱりした顔の雛子ちゃんに、みやは頑張って笑い返した。
絶対ほっぺ引きつってる自信ある。
運ばれてきたココアの上で、湯気が呑気にゆらゆら揺れた。

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