まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

306名無し募集中。。。2019/01/15(火) 01:54:44.400

次の日、雛子ちゃんからLINEが来たのは仕事がちょうど終わる頃だった。
時間通りつきそうです、だって。
みやは地下鉄の階段を降りながら、了解って返事をした。
やっぱりしっかりした子だよねって思う。
いつも一緒に仕事してる後輩ちゃん達もしっかりはしてるよ?
でもさ、ああいう子たちはこういう業界にいるから大人びちゃうわけでさ。
雛子ちゃんは普通の中学生でしょって、やっぱちょっと気になっちゃうんだよね。

地下鉄やJRをいくつか経て、みやは少し早めに待ち合わせの駅に着いた。
雛子ちゃんらしき人影はまだいない、と。
待ってる間、スマホでクッキーのレシピをいくつか調べてみる。
懐かしいなー、この感じ。
バレンタインとか、イベントあるごとにお菓子作ってみんなに配ってたっけ。
スマホから顔を上げたら、遠目に雛子ちゃんの姿が見えた。
ひょいって手を上げる。あ、自然にできた。
今日のみや、前より緊張してない。

買い物は、みやんちの近所にあるスーパーに行くことにした。
いつもはよーちゃんに任せっきりだから、自分でスーパー来るのはホント久しぶり。
隣に並ぶ雛子ちゃんは学校帰りで、通学鞄を手に提げていた。
紺のダッフルコートから覗くのは、たぶん制服のブレザー。
リアルJCなんだーって実感する。

「何味にしたい?」
「うーん……プレーンとチョコチップかなあって思うんですけど」

でも、他の材料も見てみたいです、だって。
いいねー、研究熱心で。
基本的な材料の他に、ドライフルーツにナッツ、アザラシ――じゃなくてアラザンもカゴに入れた。

307名無し募集中。。。2019/01/15(火) 01:55:17.040

「お料理は結構するの?」
「はい。ママが遅い日は私が晩ご飯作ったりします」
「遅い日? お仕事とか?」
「そうです。ママ、夜間保育の先生なんで」
「やかん、ほいく?」

頭の中で、シューッて湯気を噴くヤカンが浮かぶ。いやいや、たぶん違う。

「夜にやってる保育園があって、そこの先生で」
「じゃあ夜に働いてんの?」

はい、と雛子ちゃんが頷く。
当たり前みたいにあっさり頷くけど、みやはちょっぴり意外な気持ちだった。
もものことだから、普通に平日のお昼の仕事やってるもんだと思ってた。
昔から早寝だったくせに、大変じゃないのかな。
ももの今の生活が、全然想像できない。

「だから、そういう日は私が作ります」
「……そっか」

雛子ちゃんの口ぶりは、それが何でもないことなんだって言うみたい。
あーやば。なんかすっごいぐるぐるしてきた。
話題変えよ、話題。

「雛子ちゃんは、得意料理とかあるの?」
「あんまりないんですけど、この前作った肉じゃがは褒めてくれました」
「えー肉じゃが! すごいじゃん」

えへへ、って照れたようにはにかむ雛子ちゃん。
白い歯をのぞかせて、鼻のあたりをくしゃーってしながら笑うの、誰かさんみたい。
ママに肉じゃが褒められたときも、こんな風に笑ったのかな。

308名無し募集中。。。2019/01/15(火) 01:56:30.820

「お料理、好き?」
「はい」
「じゃあ将来はコックさんとかー、パティシエとか?」
「うーん」

あらら、考え込んじゃった。
まあ、まだこのくらいの年齢なら分かんなくても当然かー。
なんてみやが考えてたら、質問がくるんと回ってこっちに向けられた。

「みやびさんは、何になりたかったんですか?」
「うち? うちねえ……」

意外とこれ、答えんのムズくない?
しゅーっと記憶を巻き戻していって、行き着くのはオーディションに受かったあの日。

「みやはもう、小学生の時には芸能界に入ってたから」
「えっ! そんな前からですか?」
「そうそう。だから、ずーっと好きなこと続けてるって感じかも」

歌が好き、ダンスが好き、目立つのも好き。
ファッションも、メイクも、やりたいことは全部やらせてもらってきたと思う。
考えてみたら、めっちゃ恵まれてるわ、みや。

「ママも……?」
「じゃない? 歌は好きだっただろうし、今のお仕事も好きで選んだんだと思うし」

そう信じてていいよね? もも。
よかったーってホッとしたように、雛子ちゃんの顔が和らぐ。

「あ、これも買っていいですか?」

雛子ちゃんが、天使の羽根みたいなクッキー型を手に取る。
天使の羽根をイメージした〜なんてお得意のセリフが頭に浮かぶ。
ううん、きっと偶然。
いいんじゃん、可愛いよってみやは笑った。

309名無し募集中。。。2019/01/15(火) 01:57:05.390


買い物リスト(雛子ちゃんが作ってきてくれていた)を見ながら、
全部買ったよねって雛子ちゃんと確認する。
レジを抜けた先の台に、カゴを挟んで雛子ちゃんと並ぶ。
帰宅ラッシュと被っちゃったせいか、周りは夕飯のお買い物する人ばかり。
お疲れ顔のサラリーマンに、OLさん。あとは主婦の皆様って感じ。

「本当にみやんちで良いの?」
「へっ?」

買った物を袋に詰めながら、ずっと気になってたことを聞いてみる。
少し間が空いて、そっと隣を見たら雛子ちゃんの瞳が揺れていた。
不自然にまばたきをして、唇がピクッと震える。

「あーごめん、みやの家がダメってわけじゃなくてさ」
「……はい」
「友達んちとかじゃなくていいのかなーって、気になっただけで」

みやの言葉に、雛子ちゃんは「あー」って口元を覆う。

「私、まだ友達いなくて……」
「えっ?!」
「ちがっ、違いますよ? まだ引っ越してきたばっかりで」

なんだ、びっくりした。
いじめとかそんなとこまで想像しそうになっちゃった。
このくらいの年の頃って、可愛いってだけでさ、ね。

「一緒に遊んだりはするんですけど、なかなかお家に行くのは」
「ん、ハードル高いよね」

そう言いつつ、みやんちには行けちゃうの面白い。
それだけ心を許してくれてるってことかな。だとしたら、ちょっと嬉しい。

310名無し募集中。。。2019/01/15(火) 01:57:28.250

「今日、晩ご飯は?」
「それまでには帰ろうと……あ」

ビニール袋の持ち手をまとめて、持ち上げた雛子ちゃんが急にピタッて止まる。
おや?って思って横を見たみやは、たぶん、同じように固まったんだと思う。

「ひなこ? こんなとこ、で……」

聞こえたその声に、背筋が一瞬ビリッと痺れた。
カチッと音がして、時間が止まる。本当に、こんなことってあるんだ。
雛子ちゃんが、「ママ」って呼んだのがすっごく遠くに聞こえた。
みやと、雛子ちゃんの前で棒立ちになってるその人。
ショートカットになってたって、マスクしてたって、グレーのピーコートを着てたって。
まん丸な瞳の見慣れた輪郭が、一気に時間を飛び越える。

「……も、も」

ももの少し余ってるコートの肩が、ぴくんと揺れた。
ぶらりと下がるビニール袋からは、ネギの先っぽがひょっこり飛び出てる。
数年ぶりの再会が、これって。

ほんと、笑っちゃう。

273名無し募集中。。。2019/01/29(火) 00:26:13.560


数年ぶりに再会した元カノって、最初に何を言うのが正解なんだろ。

耳の奥でザーッて音がする。
頭が真っ白になるって、たぶん今のみやのことだと思う。

「……よっす」

ぎこちない自分の声が、少し遅れて頭まで届いた。なんだそりゃ。自分でも思う。
軽いノリで右腕を持ち上げたつもりだったのに、肩の辺りがギシギシ鳴った。
やばくない? 今のみや、めちゃくちゃダサい。

「……おう」

ももは何度かまばたきしながら、ちょっと裏返ったような声で返事をした。
黒目がきょろきょろ彷徨ってる。どう見ても反応に困ってる。
みやのほっぺがパッと熱くなった気がした。言葉、会話、なんか続けなきゃ。

「元気?」
「ん、まあまあ」

そう、よかった――って違う違う。そんなこと言いたいんじゃなくって。
頭の中でカラカラって音がした。二人がかみ合わないどころか、一人でから回ってる。

「えっと……なんでここに?」
「私は仕事帰りに寄っただけだけど。むしろ、みやの方でしょ」
「いや、みやは、……あ」

そういえば、って思ってももから視線をずらしたら、みや達に挟まれた雛子ちゃんが目に入った。
ひゃって口に手を当てた雛子ちゃんは、いたずらが見つかった時の子どもみたいな顔。
雛子ちゃんの持ってるビニール袋がガサガサと音を立てる。
言ってもいいかな?って雛子ちゃんに目配せすると、雛子ちゃんが仕方ないかって感じで肩を下げた。

274名無し募集中。。。2019/01/29(火) 00:28:14.040

「雛子ちゃんと約束があってさ」
「え?」
「あのねママ、今日友達んち行くって言ったのね、うそなの」
「うそ?」
「友達んちっていうかみやんち?」
「はい?」
「そう。本当はみやびさんのお家に行く予定だったの」
「ちょうど移動するとこだったんだけど」
「でもママに会うなんて思わなくて」
「ちょっとまて」

ももが、両手を広げてみや達をストップさせる。
みやを見て、雛子ちゃんを見て、またみやを見て、雛子ちゃんを見て。
それから、ももは「は?」ってガチトーンの低めの声を漏らした。本格的に怒る前触れみたいな感じ。
雛子ちゃんの体が、それを聞いてキュッて小さくなったのが分かった。やばい、みやまで緊張してきた。
そりゃ嘘は良くなかったかもしれないけど、雛子ちゃんの気持ちも分かるんだよね。
だって、ママの友達と遊んでくるねーなんて言えなくない?
クッキーの練習するのだって秘密だっただろうし。
あれ? そしたら、雛子ちゃんに嘘言わせちゃったのってみやなんじゃないの?

「あのさ、半分以上はみやのせいっていうか」
「違っ、私がいきなり誘っちゃったから、」
「そういう、話じゃなくて」

うーって唸りながら、ももが頭の後ろをカリカリと掻く。
斜め上あたりを眺めてたももの目が、ぎゅっと閉じて、ゆっくりと開いた。

「ちょっと、どっか移動しよ」

いいでしょ?ってももが軽く頭を傾ける。そりゃ、もちろんいいけども。
「じゃ、行こっか」って言うももの声は柔らかかった。
その声を聞いて、雛子ちゃんの背中が緩む。
ももって本当に雛子ちゃんのママなんだ。不意にそう実感した。
くるんって向きを変えるももの横に、雛子ちゃんが駆け寄る。
並んだ二人の後ろ姿を目にして、同じくらいの身長なんだってそこで初めて気がついた。
なんなら雛子ちゃんの方がちょっと高いかも。
ももが首だけひねって振り返った。ついて来いってことらしい。

275名無し募集中。。。2019/01/29(火) 00:32:01.140


ももが案内してくれたカフェのドアを、雛子ちゃんは慣れた様子でくぐっていった。
「よく来るの?」ってももに聞いたら、「ひなこのお気に入りなんだよね」だって。
最近の中学生ってやっぱ進んでるわー。

「何頼む?」

ももがメニューを逆さまに広げて見せてくれる。
羊皮紙っぽい感じの手書きのメニューには、コーヒーやケーキが色鉛筆で描かれていた。
全体的に柔らかくて、ちょっと懐かしい雰囲気のお店。
ヨーロッパの田舎に建ってるおばあちゃんちってこんな感じかもって思う。

「おすすめは?」
「だって? ひなこ」
「え、え、なんでも! なんでも美味しいです!」

雛子ちゃんの指先が忙しなく動く。
なんでも美味しいのは本当だろうな。店の中の匂い、全部美味しそうだもん。

「じゃ、雛子ちゃんは何頼む?」
「えっ? えっとぉ……」

ももがくるっと回したメニューを覗き込み、うーんって腕を組む雛子ちゃん。

「……ママ、いーい?」

隣に座るももをちらりと伺って、雛子ちゃんがふんわり甘えた声を出す。
ももが、ふふって笑ったのが聞こえた。

「ま、良いでしょ。今日は特別」
「やったぁ! じゃあ私レアチーズとコーヒー!」

弾けるようにバンザイして喜ぶ雛子ちゃんが微笑ましい。
ももと一緒だからかな。目の前の雛子ちゃんはずいぶん子どもっぽい。きっとこっちが本当の姿。
やっぱ、みやといる時はちょっと緊張してるのね。当たり前だけど。
みやも同じのにするって言ったら、雛子ちゃんはちょっぴり照れたようにはにかんだ。

276名無し募集中。。。2019/01/29(火) 00:34:52.660


レアチーズケーキは、可愛らしいチェックの制服の店員さんが持ってきてくれた。
一口食べて、みやの予想をはるかに超える美味しさにびっくりした。
食べた瞬間はまったりコクがある感じなのに、最後に香るレモンのおかげで後味はめちゃくちゃさっぱり爽やか。
蜂蜜をかけるのもおすすめだよって言われるがままに試したら、これもまた美味しくて驚きだった。

「はー、幸せ〜」
「やっぱり美味しいねえ」

フォークを握ったまま、雛子ちゃんがしみじみ言う。
みやも同感。美味しいものって本当に幸せだよね。
雛子ちゃんとおんなじ顔しながら、ももも満足そうに息を吐く。
そろそろ、良い頃かな。
雪みたいに真っ白なケーキを崩しながら、みやはそうっと口を開いた。

――といっても、本当のことを言うのはまずい気がしてかなり嘘も混ぜちゃったけど。
何度か雛子ちゃんと目が合って、そのたびにごめんってちょっぴり思いながら話を続けた。
仕方ないじゃない、フリンなんて言えないし。

「まさか、ひなこがみやの手帳を拾うとはねえ」
「みやもびっくりだったわー。しかも、ちっちゃい頃のももそっくりだし」
「やっぱりー?」

ももが少しだけ顎を持ち上げて、自慢げにふふんって鼻を鳴らす。
みや達の無言のやりとりには、気付いてはいないみたい。ちょうどいいや。

「ほんと可愛いよね」
「ありがと」
「ももじゃなくて雛子ちゃんの方ね?」
「えー?」
「あ……ありがとう、ございます」

耳の先っぽをほんのり赤くしながら、雛子ちゃんはカップを手に取った。
何かを誤魔化すように、ゆっくり傾くコーヒーカップ。
その横で、ママは余裕たっぷりにニコニコしてんのがなんだか可笑しい。
そういうところは似てないんだ。

「ちょっと、トイレ」

言うが早いか、雛子ちゃんはももを押しのけてぱっとトイレの方へ消えてしまった。
何あの照れ方。めっちゃ……かわいい。

「かわいーでしょ?」

みやの考えを見透かしたように言ったももは、なぜか得意げだった。
そりゃまあ、あなたの子ですし。可愛くないわけないんですけども。
してやったりみたいな顔してるももが何となく癪で、話題を切り替えてみる。

277名無し募集中。。。2019/01/29(火) 00:38:35.290

「で? 最近どうなの」
「どうって?」
「夜間保育だっけ? 仕事」
「ああ、まあそれなりに。それ、ひなこから聞いたの?」
「まーね。さっき買い物してるときに」
「もー、おしゃべりだなあ」
「そりゃまあ、ももちジュニアだし?」
「どういう意味よっ」

向かい側から伸びてくるももの手が、みやの頭を叩くフリ。
もーって言いながら、ちょっぴり嬉しそうなの。うわー、懐かしい。
ぽんぽん言葉が出てくる。ようやく、ちょっとほぐれてきたかも。

「そういうみやはどうなのよ?」
「みや? 楽しくやってるけど?」
「今何してんだっけ?」
「ハロの子たちのメイクしてあげたり、コスメのブランド立ち上げたり」
「ほー、すごい。一貫してるねえ」

ももが若干おじさんみたいな口調で言ったあたりで、雛子ちゃんがトイレから戻ってきた。
何の話?って言うみたいにママを見つめる雛子ちゃん。
今気付いたけど、横顔の形めっちゃ整ってるし睫毛がめっちゃ綺麗に上向いてる。若いってすごい。

「みやね、お化粧に使う道具のブランド作ったんだって」
「えっ! すごい!」

ブランドって言葉を聞いて、雛子ちゃんの視線が一気にキラキラし始めた。
「まだまだ小さいけどね」って付け足したけど、そんなことでキラキラが消えることはなかった。

「みやはね、昔からオシャレ好きだったからね」
「かっこいい……」
「すごいよねー。好きなこと、ちゃんと続けてるから」

278名無し募集中。。。2019/01/29(火) 00:39:58.980

自分のカップに視線を落としながら、ももがぽつんと言う。
雛子ちゃんの熱っぽい言葉とは反対に、ももの声はひんやりとしていた。
もももでしょ?って言おうとしたのに、引っかかって出てこない。
胸のあたりがなんでかちくんとした。
理由は分かんないけど、ももの返事を聞くのが怖い。
慌てて、他の言葉を引っ張り出す。

「今度、渋谷で限定ショップ出すから良かったら来てよ」

行きたい!って目を輝かせる雛子ちゃんの横で、一瞬だけ苦い物食べた時みたいにももの唇がすぼまった。
何さその顔。ま、予想はしてたけど。

「雛子ちゃんだけでもいいよ?」
「ママ、」
「ちゃんと私も行くってば」

おねだりの目をする雛子ちゃんを遮って、分かった分かったってももは頷いた。
とくとくって走り始めるみやの心臓。熱が全身に広がっていくのが分かる。

「来てくれんだ?」
「そりゃね」

もちろんって言いつつ、前髪の向こうに透けたももの眉がぴくんと震えた。

その後の会話は、正直あんまりちゃんと覚えてない。
あの時のみや、思ってたよりずっと浮かれてたんだろうな。
でも、解散する直前の会話だけはちゃんと覚えてる。

「じゃ、またね。雛子ちゃん……もも」
「はい、ありがとうございましたっ」

ももは、たぶん「うん」って言ったと思う。あんまりよく聞こえなかったけど。
みやがバイバイって手を振ると、雛子ちゃんは両手で振り返してくれる。
その横で、ももが小さく右手を上げたのがはっきりと見えた。

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