まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

339 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/11(日) 15:32:42.18 0

「——っと、ちょっと」

かすかに届いた声と、あたしの体を揺さぶる掌。
心地よい夢を見ていた気がするのに、寝起きは最悪だった。
いやいや、まだ眠いんですけど。

「愛理! 愛理ってばぁ」

無視して眠り続けようとしたけれど、ぐらぐら揺れる世界は余計に激しさを増した。
ちょっとこれ……そろそろ酔いそう。
仕方ない、眠るのは諦めよう。

「うぅ……何?」

薄く開いた隙間から、ももの存在が伺えた。
まあ、そもそも使用人はあたしをこんな起こし方しないし。
“愛理"って呼び捨てにもしないし。
消去法で、ももだってことは分かってたんだけど。

「愛理ぃ、起きてよぅ」
「……起きた、起きたってば」

だから容赦なく揺らすのはやめてほしい。
仮にも妖怪でしょう、あなた。
力の加減くらい、考えてよね。

「どしたの、もも」

ちょっとだけ、不機嫌だぞって空気を匂わせながら体を起こす。
でも、今のももにはそんなことどーだっていいみたいで。

340 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/11(日) 15:33:00.64 0

「大変なの。あの、よく分かんないおばさんが」

誰?って首を傾げたら、ため息まじりに”みやが”、と言い直された。
ああ、あの吸血鬼。
昨夜は結局ももの部屋で寝てもらったんだっけ。
棺桶がないと落ち着かないっていうから、ももの部屋まであれも運んでもらって……て、大変?みやが?

「ちょっ、え? 何があったの」
「……ゃ、ばっか」
「何?」
「なんでもないっ」

え、なんでそこで不満そうに口を尖らせるの?
ていうか、朝から無理やり起こされて不機嫌なのはこっちなんですけど、桃子さん。

「お腹痛いんだって!」

とかなんとか思ってたら、吐き捨てるようにももからの言葉。
いや、え、お腹? って、あの、いわゆる腹痛?

「え、なんで?」
「それが分かんないから起こしに来たの!」

何かよく分かんない言語で喋ってるし聞き取れないし!って、ももは駄々っ子みたいに喚いた。
ももはももなりに、何とかしようとしてくれたのかな。

「すぐ行くから、先に戻ってそばにいてあげて?」
「……言われなくても」

言いながら、あたしの部屋を後にするももはやっぱりちょっと唇が尖っていた。

341 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/11(日) 15:33:42.70 0

「さて……」

しかし、吸血鬼の体調不良ってどうしたらいいんだろう。
体の構造って人間と同じなんだろうか。
腹痛の薬、効くのかなあ。
とりあえず、と薬を求めて部屋を出る。
縁側には夜の空気が充満していて、たぶんまだ日の出は遠い。
家の中も静まり返っていて、あたしの足音だけがひた、ひた、と空気を揺らした。
うちが薬問屋でよかった。
確か戸棚に、薬とか治療に必要な道具はそろっていたはず。
どれが何だかよく分からないけど、箱ごと全部持って行くことにした。

再び、足音を忍ばせながら離れまで向かう。
部屋の前まで来ると、障子越しでも呻き声が伝わってきた。
いや、これはかなりしんどそう。
あと、おろおろしつつも頑張って慰めてるような、ももの声も聞こえてきた。

「おまたせ」
「あ、愛理ぃ」

あたしを認めて、顔を上げたももは今にも泣き出しそうで、本当にお手上げ状態って感じ。
でも、そんなことより問題は、ももの隣で団子虫みたいに丸まっているみやの方。

「みやの調子は?」
「変わりないみたい……さっきからずっとこんな感じで」

見た感じ、人間の腹痛と変わりはなさそうだけど。
でも一応、この人も妖の類なわけで、同じだってことを前提にしちゃいけないよね。

「みや、聞こえる?」

小さく何度も頷くのが見えたから、聴覚的には問題無し、と。
でも、たしかにももの言う通り、みやの口から漏れ聞こえる音は意味になってくれない。
もしかしたら、みやの国の言葉なのかも。

「えーっと、薬持ってきたんだけど、飲める?」

これには首を振るみや。
えええ、薬がダメってなるとどうしたらいいんだろう。

「ど、どこが痛いの?」

傾げられる首。
どこが痛いのかは分からない、と。
本格的にどうしたらいいのか分からなくなってきて、ももと顔を見合わせ、ようとして。
ぐるん、と視界が回転した。

342 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/11(日) 15:34:57.46 0

「ぇ、ぅおっ?!」

ぽた、と頬にぶつかる水滴。
頭には畳の感触。目の前にはみやの顔。
痛みに耐えているせいか、額には脂汗が大量に浮かんでいるのが分かった。

「……みや?」
「ちょっと、ごめん」

何が?と聞く間もなく、みやの香りが濃くなって。
みやの柔らかな髪の毛が鼻先をくすぐって、と思った瞬間に、肩口へと生温かいものが触れるのを感じた。

「へ、ぁ……?」

分厚いゴムの向こう側から触れられているような感触。
ぐっと何か鋭いものがそれを突き破ってきて、ちゅう、と音がする。
知ってる、これ、あの……接吻ってやつ。
ぼやけた頭でなんとかそこまで認識して。
と思ったら、派手な音が耳に届いた。
ゆっくりと体を起こすと、ぐにゃりと歪む視界。
その中で何とか体をひねると、壁に打ち付けられたらしく別の意味でうめき声を上げているみやがいた。
つまり、吹っ飛ばしたのはももってことで。

「……愛理に、何すんの」

穏やかなももの声に、空気がびりびりとうねる。
あ、やばいやつだ、これ。
こんなもも、初めて見る。

「何って……ちょっと血、もらっただけだけど」

みやはといえば、ももの雰囲気なんて気にも留めていない様子で反論する。
そんなことより、吹っ飛ばされて怒り心頭、みたいな顔で。

「さっき、ももから吸ったでしょうが!」
「いや、なんか……あんたの血、変なのよ」
「なっ! 勝手に吸っといて変とか失礼すぎない?!」

ぎゃんぎゃんと言い合う妖怪たち。
どこか現実離れした光景に、なんかもう、ついていけなくて。
あたしは様子を見守ることしかできない。

「あんたの血、濃すぎるっていうか」
「はぁ? じゃあ水でも飲んでれば?」
「いや、それは」

ノーサンキュー、とひらひら揺れるみやの手。

「とにかく、あんたの血じゃ無理だわ。お腹壊す」
「だ、だからって!」

愛理には指一本触れさせないんだから、とももが両手を広げてあたしとみやの間に立つ。
おお、なんか久しぶりにももが頼りになってる……気がする。

343 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/11(日) 15:35:42.13 0

「じゃあ何? どうしたらいいわけ、うちは」
「そ、そんなの自分で考えてよ!」
「や、だってバレないように行動しろって」

じゃなかったらこの家の住人の前に現れてもいいんだけど、とみやが唇の端を釣り上げる。
ああ、綺麗だなあって、思っちゃって。
みやの瞳、水色で、透き通ってて。

「だめっ!」
「おおおぉわ?!」

ぐらぐらぐら、今日何度目かな、世界が振動するの。
ももに力強く揺すられて、はっと我に返った。

「愛理を誘惑すんのやめて」
「あ、気づいた?」
「座敷わらしナメないでよね」

ふふん、と鼻を鳴らしてポーズを決めるもも、なんだけど。
赤いちゃんちゃんこの子どもだと、なんか全然さまにならない。
……なんて言ったら拗ねちゃうんだろうけど。

「とにかく! 愛理はだめ、絶対だめ」
「じゃあどうしろっていうの? うち、餓死したくないんだけど」
「別にあんたがどうなろうが——」
「待って、もも」

ももの気持ちも嬉しいけど、手違いで日本に来ちゃった吸血鬼を餓死させるのも夢見が悪いじゃん。
ね、と目で訴えると、ももが言葉に詰まる。

「じゃあ、さっさと自分の国に帰りなよ」
「んー、それなんだけど」
「何?」

ももの言葉の棘なんて、素知らぬ顔で。
みやの真っ赤な唇から、深い吐息が漏れるのを聞いた。

「ケーヤク、しちゃったから」
「契約ぅ?!」
「そ、ケーヤク。そこの愛理と」

え、え、初耳なんですけど。
本当に、と振り向いてくるももの視線と、みやの妖艶な瞳。
どちらもがこっちに向けられていて、これはどうも、居心地が悪い。

「う、うそ、いつ?」
「だって愛理でしょ、うちの棺を開けたの」
「ぅえ?! ま、まあ……そう、だけど」

そういえば確かに、さっき”ご主人さま"とか呼ばれた気がする。
でも、でも、知らない間に結ばれる契約って、それ違法じゃない?
妖怪に人間の法なんて通用しないか、そうだよね、いやでもさ。

344 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/11(日) 15:36:20.16 0

「棺を開けられるのは、主人になれる人だけ」

ってことで、分かるでしょ?ってみやからのウインク。
それに撃ち抜かれたような気がして、あ、やばいって思っていると、今度はももがうちの体を揺すってきて、現実に引き戻されて。
このやり取り、何回やればいいのかな。

「愛理は、うちにとって運命の人みたいなものなの」
「わ、訳の分かんない理屈こねないでよ!」
「分かんない? これでもすっごく分かりやすく喋ってるつもりなんだけど」
「分かんない! ぜんっぜん分かんない!」

ももの剣幕を受け流して、仕方ないわね、とみやが口を開く。
みやの語ったことをまとめると、この棺は特別なもので、何かしらの願いを果たすために使われるものなのだという。
その中に吸血鬼のモト(詳しくは教えてくれなかった)と、叶えたい願いを書いた紙を突っ込んで、外に放置すれば準備は完了。
その棺はいろんな場所を転々としながら、最終的に引き寄せられた主人によって開封される。
その棺を開けられる者こそが、願いを叶える可能性を持っている者であり……って、つまり私がそれってこと?

「誰の願いだか知らないけど、それ、叶えたらたぶん帰れるからさ」
「じゃ、その願いをさっさと見せなさいよ!」
「あー、それがさぁ」

口ごもるみや。
こういう場合、聞かされるのは大体悪い知らせだよね。

「これ、なんだけど」

読める?と差し出された紙は、よれよれで黄ばんでいて、一体どのくらいの歳月を経てきたのかも分からない。
そしてその上には、ミミズののたくったような線。これが、文字ってこと?

「んー……もも、読める?」
「いや、もも座敷わらしだし」

いやいやいや、ナメんなよ、とか啖呵を切ったのはどこのどなたですか。
つまりこれを読み解かないと、みやは永遠に家にも帰れない、ということ?

「うちもさー、願いが分かればすぐにでも叶えたいんだけど」

そうもいかないじゃん?と微笑んだみやは子どもっぽくて、こんな表情もできるんだってちょっと関心というか、びっくりというか。

「と、いうことで、まだまだここにいなきゃいけないっぽいから。改めて、よろしく?」
「あ、う、うん」

345 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/11(日) 15:36:37.95 0

「ちょ、ちょっと待った!」

みやの言葉に乗せられて、差し出された手を取ろうとしたらももが割り込んでくる。
あれ、なんだっけ、まだ何か未解決な問題あったっけ。

「愛理の血はあげないからね!」
「えー、そうなの? 美味しいのに」
「なっ! ぜ、絶対あげない! だめ!」

そうだそうだ、あたしの血を巡って争ってたんだっけ。
いや、あたし自身はいいんだけど、ちょっとフラフラするくらいだし。
でも、ももにとっては重大なことらしくて、絶対だめって首を振る。
でも、そしたらみやが飢え死にしちゃうし……みやに願いを託した誰かも浮かばれないじゃん?

「じゃ、どうしてほしいの? 座敷わらしさん?」
「え、う……もものは」
「濃すぎ。却下」

う、と言葉に窮するもも。
いや、いいじゃん。あたしの血、あげるよ?

「だ、だってぇ……」
「何が気に入らないの? もも」

言いにくそうに小指同士をつんつんさせて、ももがゆっくりと口を開く。

「首は、その……ゃらしいから、だめ」

そんなこと?って思ったけど、ももは顔を真っ赤にしてるし、これ以上つっこんだらちょっと可哀想に思えたので何も言わないでおいた。

「いや、首からってフツーだし」
「あんたの国じゃ普通でも、こっちじゃ普通じゃないんだから!」

まあ、分からないでもない、ももの言い分も。
って、ももってば何を想像——。

「と、とにかく! 首はだめ!」
「そ? じゃあ手首とか?」
「あれ、それでもいいの?」
「んー、まあ、首の方が柔らかくて吸いやすいけど」

別にどこでも大丈夫、と言いながら、みやの白い八重歯が光るのが見えた。

「だって、もも」
「……ぅー」

まだちょっとだけ不満そうだったけど、だめ!って言葉は飛び出て来なかったから妥協点ってところかな。

「じゃ、解決? よろしくってことでいい?」
「かな?」

みやと二人で、ももを見やる。
ぷく、と頬を膨らませて俯いたまま、ももが小さく好きにすれば、と言ったのが分かった。


コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます