まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

111名無し募集中。。。2018/07/30(月) 21:54:10.010

雅が目を覚ました時、桃子は隣にいなかった。
お手洗いだろうかと思いながら伸びをしていると、バスタオルを首にかけて入ってきた。
まだ髪が少し濡れている。シャワーを浴びていたようだ。

「今日、興味あるとこの研究室を訪問させてもらうことになってて、ちょっと出かけるね」
「へー、わかった」
“ケンキュウシツ”なんて聞くと雅の脳内では白衣を着た人たちが色とりどりの煙を上げたフラスコを回し始める。
ただ桃子は文系だからそういうもんではない、らしい。

「ちょっと寝坊しちゃった」
「間に合うの?」
「たぶん。でもギリギリ」
慌てながらブラウスとストッキングを取り出す桃子。
ゆっくり朝食をとっていく時間はないだろう。
買ったばかりのミキサーを思い出した雅はベッドから抜け出た。

バナナとほうれん草、氷を放り込んでスイッチを押す。
「す、すごい音だね…」
スーツに身を包んだ桃子が耳を塞ぎながら出てくる。
「ミキサー買ったの」
はい、グリーンスムージーと愛を込めながら出したのに盛大に顔をしかめられた。
確かに見た目は緑色のドロドロした液体だが、レシピは定番だし味も悪くない。
「飲みな。おいしいよ」
まだ渋っている。
「これ7万したんだよ」
「げっ」
桃子は恐る恐る口を近づけたものの、やっぱりおいじぐないーと緑に染まった舌を出した。
腕時計を見て、やばいやばいと焦って歯磨きに向かう。
行ってきまーすという背中にひらひらと手を振り、桃子が残したコップに口をつけた。

「普通においしくない?」
雅は首をかしげた。

113名無し募集中。。。2018/07/30(月) 21:57:49.650

季節は梅雨を迎えていた。
仕事から帰った雅はまず洗濯機を回し、風呂に入り、出た後にちょうど脱水が終わった分をハンガーにかけていく。
乾燥機の調子が悪い。昼であればコインランドリーに行ってもいいのだが。
雅は仕事があったし、桃子も忙しそうで頼めなかった。

一通り終えて振り返ると、閉まったままの部屋の扉が目に入る。
ふぅと息を吐いてから、雅は戸棚から缶を取り出し鍋に火をかけた。


ノックすると眼鏡をかけた桃子が振り返った。
「ココア入れたよ、ちょっと休憩しな」
「ありがとう」
マグカップを受け取る小さくて白い手。
左手の爪が少し荒れているように見えた。
何か言いたげな雅に気づいたのか、さっと手が引っ込められる。

「もう少しやるから先寝てて」
「でも、」
「明日早いんでしょう?」
牽制するように桃子は笑って言った。

「みやもお仕事頑張ってるでしょ。だから、ももも頑張りたい」
訴えかけるようなひたむきな眼差しが雅を見据えた。
「自分で決めたことだから」
「………わかった。でもあと一時間くらいしたら寝なよ?」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」



しかしその夜、雅は数年ぶりに桃子の唸り声に起こされることになった。

そして梅雨を境に桃子はまた時々うなされるようになった。
大丈夫だと繰り返す桃子に対し、雅も気にしていないように振舞おうと決めた。
桃子には桃子の、桃子だけが抱える誰であろうと立ち入れないものがあるのだろうと思ったからだ。

…それは臆病ゆえの気づかないふりに過ぎなかったのだろうか?
それとも想い合うために必要な距離だったのだろうか?
果たして。

114名無し募集中。。。2018/07/30(月) 22:00:36.580

蝉が鳴き出し、濃い青空にもくもくと入道雲が見えるようになった頃。
雅はキャンペーンにイベント、ツアーの準備といよいよ忙しい日々を送っていた。
そんな中、移動中に携帯を見ていると、桃子からメールが届いている。
【今日何時に帰ってくる?】
暗に早く帰ってきて欲しいということなのか。
仕事中に桃子から連絡が来ることなどほとんどない。
打ち合わせを少し調整してもらい、夕飯までには帰宅するとメールした。
束縛されるような感覚に一抹の嬉しさを覚えながらも、どこか胸がざわついた。
とにかく今日は早く帰ろう、そう考えながら携帯を閉じた。


日が暮れても少し歩くだけで汗が噴き出すような暑さだ。
玄関を開けるとひんやりとした空気が出迎えてくれて、ほっと一息つく。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
桃子はエプロンをつけて夕食を作ってくれていた。
料理に関しては壊滅的なイメージがあったが、お料理教室の甲斐あってか、元々習ったことは練習してきちんと身につけていく努力家だからか。
今では人並み以上の腕前になっていた。
茄子の揚げ浸しに冷しゃぶ、そしてご飯とお味噌汁。
二人でゆっくりと食事をするのは久しぶりだった。
いただきますと手を合わせる。

しかし食べ進めていくうち違和感を覚えた。
揚げ浸しはほとんど味がないし、味噌汁はあまりの濃さにむせてしまった。
こちらの顔色を伺っているような気配の桃子はほとんど箸が進んでいない。

桃子が何かを口にしているところを最近見ただろうか。
蒼白い顔。
少しこけた頬。
はた、とある可能性に思い当たる。

「もも、もしかして味、わからないの?」

桃子がぎこちなく端正な顔を歪ませ、首肯するのを、雅は愕然たる思いで見つめるしかなかった。

115名無し募集中。。。2018/07/30(月) 22:01:48.320

「いつから?」
「この1ヶ月くらい。病院で薬は一応」
「あまり効いてないの?」
「…もう少し様子見ましょうって」
「そっか」
手を重ねるように包み込み、ギザギザになった爪をなぞる。
どうしてもっと早く言ってくれなかったのかという問いはきっと無意味なのだろう。
桃子が悩んでいる訳を聞きたい気持ちと、黙ってそばにいてやりたい気持ちと。
優しさってなんなんだろう。
「最近もも、みやに心配ばっかりかけてる」
「そんなことない」
「あるよ。優しくされると、嬉しいのに、自分が弱くなってくみたいで怖い。自分が決めたこと、見失わないようにしなきゃって思うのに本当は迷う時もある。みやに寄りかかってる、自分がやになってくる…」
溜め込んでいた桃子の胸の内。

ベッドに入り、背中を向けていた彼女を後ろから抱きしめた。

「…ねぇもも?」
自分の声は思ったよりかすれて聞こえた。
「みやはずっとそばにいるよ」
桃子が鼻をすする音がした。

「“ずっと”ってやめて」
「どうして?」
「さみしくなる」
「さみしくないよ」

「ずっとなんて無理だよ」
泣きそうな声がぽかりと浮かんで、受け止めきれずに闇に沈んだ。

やはり無理なのか?
こんなにずっと一緒にいるのに。
近づけば近づくほどに受け止めきれないものに阻まれる。
雅は唇を噛みしめ、ぼんやりと暗い天井を見つめていた。


目覚めたとき、腕の中に桃子はいなかった。

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