まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

174名無し募集中。。。2018/08/01(水) 07:55:50.740

雨が窓を叩く音が耳に粘りついて苛ついた。
追いかけなきゃと頭のどこかで考えているのに体に力が入らない。


桃子は距離感のつかみにくい子どもだった。
ふざけていたかと思えばわざと突っかかるようなことを言ってきたり。
どこまで押し入ったら怒るのかまるで試しているみたいに。
そのくせ本気で腹を立てるとしゅんとして離れていく。
それがこの人なりの一種の甘え方、心の許し方なのだということをいつしか学んだ。
幼い頃はそれが分からずに喧嘩になった。
人のテリトリーにずかずか入り込んでくるくせに、一人でもまるで平気みたいに見える。
臆病なのにとても強くて、かまってちゃんで意地っ張りで強情で、寂しがりやでそして優しい。
そんな桃子を放っておけなくなったのはいつからだったろうか。

それなのに数年前、深い関係になりかけたのを拒んだのは桃子の方だった。

「みやのことは好きだけど、付き合ったりするのは普通には考えられない」
すっと避けられ空いた距離。
今以上に若かった心は傷つき、そしてその傷痕は奥深くに潜んだ。
けれど誰かを好きになるという真理は、その人をどうしても嫌いになれなくなるということなのかもしれない。
少しだけ大人になった雅は桃子に引き寄せられ、そして再び均衡は破られてしまった。

幼馴染でありながら単なる仕事の同僚で、家族以上に同じ時間を過ごしてきた、友達とは似て非なる存在。
雅は今まで、自分は人との距離感をはかるのが上手い方だと思ってきた。
家族や友人であろうと必要以上の干渉はしないし、自らにも立ち入らせない自分だけの世界がある。
気の強い方だったから喧嘩をしたりぶつかったことはたくさんあるが、適当に切り抜けてきた。
自分は自分、他人は他人。
人付き合いで己を見失うほど感情を振り乱したことなんてほとんどなかった気がする。

それなのに。
それなのに自分は今どうにかなってしまいそうだ。
何故か?
好きだからだ。
どうしようもないほど、桃子を想ってしまったからだ。
今何をしているだろう?誰といる?一人だろうか?体調は?食事は?睡眠は?


冗談じゃない、と叫びだしたくなる。
置いて行かれないように、拒まれないように、嫌われないように、ずっと怯えていたのは自分の方だ。
傷は癒えてなどいなかった。
雅の心には静かな怒りと失望だけが湧いていた。
それが己に対してか、彼女に対してか、はたまた何に対するものなのかさえ釈然としなかった。

175名無し募集中。。。2018/08/01(水) 07:58:13.110

結局桃子と会うことも話すこともないまま、一ヶ月弱が過ぎようとしていた。
電話は繋がらず、実家にも戻っていないことを確認した。
合鍵は持って行ったのだ。いつか帰ってくるのを待つしかなかった。
二人暮らしに慣れてしまった家では一人でいる空虚を持て余す。
友人たちと遊んだり、仕事に邁進していればなんとか気を紛らわせた。


夕暮れどき、浴衣の女性とすれ違った。
白地に桃と紫の朝顔の柄。白い肌と黒い髪に映えて涼しげだ。
祭りにでも行くのだろうか。夕陽に照らされた横顔に面影を見る。
もも、と思わず口に出たその名は、蜩の響きの中にかき消されていった。


それから帰宅するなり雅は違和感を覚えた。
朝出かけた時となにか違う気配。見下ろすと靴がある。
ハッとして蹴飛ばすように中へ急ぐと、リビングの方からひょっこりと顔が覗いた。

「…おかえりなさい」
桃子だった。

「た、ただいま!」
鞄を放り出して駆け寄る。
「どこ行ってたの!」
ほとんど突進するように抱きついた。
「どんだけ、心配したと、思ってんだ、ばか!」
怒っているのか喜んでいるのか訳がわからないままに、おどおどと瞳を泳がせ口を真一文字に結んだ桃子の肩を揺さぶる。

「…ごめんなさい」
「そこ言わんのかい」
頭に軽くチョップすると、頰が少しだけ緩んだ。
「…ただいま、みや」
懐かしい声が耳をくすぐる。
「おかえり、もも」
もうどこにも行かないでほしい、そう祈りながら、抱きしめたときの温もりを、香りを、重みをたしかめた。

それから二人は、会わない間にどう過ごしていたかを訥々と話した。
なんでも桃子はこの1ヶ月ほどマンスリーマンションに缶詰になっていたらしい。
「院試、とりあえず今日終わったの」
そばにいて支えてあげたかったのにとは思う。
でも、頑張っている姿を見せるのが苦手なところも相変わらずなのだろう。
そしてそんな不器用さを愛おしいと思ってしまう自分もいる。
少し頰の線が鋭くなった桃子は大人びて見えた。

買ってきていたアイスを取り出しスプーンで口に運んでやる。
「どう?」
首を横に振られる。
「…冷たいのは、分かるんだけど」
眉を下げて言う桃子。
「まぁ、もう少し待ってみようよ」
離れていた間に雅は考えたことがあった。
自分が桃子にしてあげられるのは、何があっても大丈夫だよと笑い飛ばすことだ。
どうせ難しい話も湿っぽい雰囲気も苦手なのだ。
そうだね、と柔らかい表情で頷いた桃子の髪を撫でる。

176名無し募集中。。。2018/08/01(水) 07:59:22.610

その時、窓の外が光った気がした。
遅れてドドーンと腹に響くような音。
見れば、夜空に鮮やかな光の輪が広がっている。

「今日、花火大会だったんだ」
二人は顔を見合わせた。



ベランダに並んでぼーっと遠くの夜空を眺める。
冷蔵庫から取り出したビールのプルタブに指をかけると、隣から物欲しそうな視線。
「ビール苦手じゃんか」
飲むの?と手渡してやると、小さな両手で缶を掴んで「苦いのは割と分かるって気づいたんだよねぇ」とニヤッとしてから呷り出す。
グビグビと喉を鳴らす桃子を見て一瞬唖然とした後、雅は笑いが止まらなかった。
「ももが酒豪になったら困るねぇ」

二人は黙って花火を見続けた。
そうしてしばらく惚けたように眺めていると桃子が呟いた。

「…花火したい」

「いや、今」
「ううん、小さいやつ」
「あー」
「手持ちのやつがやりたい」

「じゃ今度買っておくね」
うーん、と桃子は唸る。

「どした?」
「…今したい」
「今?」
「そう、今やりたいの」
まるで子どものような無垢な瞳で見上げられる。
「だめ?」
ため息が出るほど可愛いな、と思ってしまうから仕方ない。
「…だめなわけないじゃん」

「近所のスーパーにあった気がする。残ってるかなー」
立ち上がった雅に後ろから抱きついてきた桃子はやっぱり子どもみたいだった。

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