73名無し募集中。。。2020/11/25(水) 21:07:48.520
「ももぉー、まだぁー?」
「はぁーい、今行きますぅー」
朝。平日。出勤準備。
家を出るまであと20分。
パジャマから着替えて、彼女のもとへ。
こちらの姿を認めたみやは、私を鏡台の前に座らせ、メイクブラシを片手にいたずらっぽく笑った。
「さぁてお客さん、今日はどんな感じにいたします?」
「うーん、ここはスッペシャルなスタイリストの雅様にお任せ…と言いたいところですがぁ」
「ですがー?」
「今日は結構真面目にしなきゃなんない日だから、できるだけ普通な感じで」
「えー、つまんなーい」
「つまんなくないの。もものお仕事的にはね、TPOって大事なんだから」
「なに?TKG?」
「T・P・O!」
「はいはいわかりました、ナチュラルな感じねー」
お店屋さんごっこのような茶番を一通り終えた後、鏡越しの彼女の表情が真面目モードに切り替わった。
みやがうちに泊まった日の翌朝に、恒例となった行事。
仕事に向かう私のメイクや髪を、みやが完璧に整えて送り出してくれる。
最初は私の寝癖を直す程度だったのが、だんだん私をプロデュースするのが面白くなってきたらしく、
最近はフルメイクとヘアセットまでしてくれるようになった。
そのうえネイルまで塗らせろという要求にまで発展したが、仕事柄それは無理だとお断りしておいた。
74名無し募集中。。。2020/11/25(水) 21:10:08.740
「ハーフアップにしとこっか」
「おねがいしまぁす」
「編みこんでもいい?」
「いいけど、あんまり複雑なやつだと後で一人でほどけないしなぁ…」
「ももってば、いっつもそうやってめんどくさがるんだからー」
おしゃれは我慢って言うじゃん、と不満げな彼女の言葉を聞き流しながら、鏡の前に置かれたメイク道具の数々に目を向ける。
リップにチーク、マスカラにファンデ。色とりどりのパレットが並ぶ。
その半分以上はみやがうちに持ち込んだもの。
でなければ、20色もずらりと並んだアイシャドウなんて、うちにあるはずもない。
どうせみやも使うし、なんて言い訳めいたことを言いながら、泊まるたびに何かを置いていく。
普段一人で朝の支度をするとき、彼女が残した足跡を眺めながら、ちょっと嬉しくなっているのは内緒。
気分を上げたい日には、こっそり使わせてもらっているのも、また内緒。
「はい、髪おわり。メイクするよー」
鏡越しだった彼女の顔が、正面に現れる。
慣れた手つきでパレットを手に取り、時には色を混ぜたりしながら、私の肌を色づけていく。
普段とは違う真剣な眼差しは、何度見てもどぎまぎしてしまう。
「あ、こないだ買った限定のリップ試させてよ。発色がめっちゃ良いって話題なんだよね」
「いいけど、これちょっと明るすぎない?」
「だいじょーぶ、ももの肌だと多分ちょうどいいくらいだから」
うきうきとした顔で私の口元に紅を引く彼女。
はみ出たリップを指で軽く拭い、満足げに私の顔を眺めた後、ほら、と鏡の中を指さした。
自分で買うことはきっとないであろうその色は、びっくりするほど私の肌色に馴染んでいた。
75名無し募集中。。。2020/11/25(水) 21:12:21.290
「はい、これで全部完成でーす」
「今日もありがと。やっぱりスーパーカリスマスタイリストのみやびちゃんはさすがですねぇ」
「でっしょ?みや天才じゃない?」
わざとらしいヨイショにも全く謙遜しないのが、逆にみやの良いところ。
「いやー、こんなに可愛いと、ももちゃんみんなの視線を独り占めしちゃうなー、参ったなー」
「ハイハイ、それはよかったね」
「でもそしたらみやびちゃん拗ねちゃうかなぁ、『みやだけのももなのに!』ってー」
「そうはならないから安心しな」
「なんでよ、なってよ」
「ならないよ」
ふーんだ、とほっぺを膨らませてみせると、彼女は私の両頬に手を当てて、ぶしゅりと空気を押し出す。
押し潰された私の顔を見て、けらけらと楽しげに笑ってみせた。
「他の人がもものこと好きになっちゃってもいいわけ?」
「いーよ、別に」
「なんで」
「だってさ」
さっきみたいに、私の両頬が彼女の手に包まれる。
また変顔でもさせられるのか、と目を瞑って身構える。
彼女の両手に力が込められることはなく、代わりにとびきり優しいキスが降ってきた。
「みんなの視線を独り占めにしちゃうような子が、みやのものとか、最高じゃん?」
にやりと笑う彼女の唇に、私のと同じ色が乗る。
あぁ、このリップ、ほんとに発色良いんだな、と、ぼんやり思った。
朝。平日。家から出発。
電車が来るまであと10分。
駅へ向かう足取りはいつもより軽く、パンプスのかかとが楽しげに鳴る。
彼女がかけてくれた魔法が、今日も私の背中を押していく。
「ももぉー、まだぁー?」
「はぁーい、今行きますぅー」
朝。平日。出勤準備。
家を出るまであと20分。
パジャマから着替えて、彼女のもとへ。
こちらの姿を認めたみやは、私を鏡台の前に座らせ、メイクブラシを片手にいたずらっぽく笑った。
「さぁてお客さん、今日はどんな感じにいたします?」
「うーん、ここはスッペシャルなスタイリストの雅様にお任せ…と言いたいところですがぁ」
「ですがー?」
「今日は結構真面目にしなきゃなんない日だから、できるだけ普通な感じで」
「えー、つまんなーい」
「つまんなくないの。もものお仕事的にはね、TPOって大事なんだから」
「なに?TKG?」
「T・P・O!」
「はいはいわかりました、ナチュラルな感じねー」
お店屋さんごっこのような茶番を一通り終えた後、鏡越しの彼女の表情が真面目モードに切り替わった。
みやがうちに泊まった日の翌朝に、恒例となった行事。
仕事に向かう私のメイクや髪を、みやが完璧に整えて送り出してくれる。
最初は私の寝癖を直す程度だったのが、だんだん私をプロデュースするのが面白くなってきたらしく、
最近はフルメイクとヘアセットまでしてくれるようになった。
そのうえネイルまで塗らせろという要求にまで発展したが、仕事柄それは無理だとお断りしておいた。
74名無し募集中。。。2020/11/25(水) 21:10:08.740
「ハーフアップにしとこっか」
「おねがいしまぁす」
「編みこんでもいい?」
「いいけど、あんまり複雑なやつだと後で一人でほどけないしなぁ…」
「ももってば、いっつもそうやってめんどくさがるんだからー」
おしゃれは我慢って言うじゃん、と不満げな彼女の言葉を聞き流しながら、鏡の前に置かれたメイク道具の数々に目を向ける。
リップにチーク、マスカラにファンデ。色とりどりのパレットが並ぶ。
その半分以上はみやがうちに持ち込んだもの。
でなければ、20色もずらりと並んだアイシャドウなんて、うちにあるはずもない。
どうせみやも使うし、なんて言い訳めいたことを言いながら、泊まるたびに何かを置いていく。
普段一人で朝の支度をするとき、彼女が残した足跡を眺めながら、ちょっと嬉しくなっているのは内緒。
気分を上げたい日には、こっそり使わせてもらっているのも、また内緒。
「はい、髪おわり。メイクするよー」
鏡越しだった彼女の顔が、正面に現れる。
慣れた手つきでパレットを手に取り、時には色を混ぜたりしながら、私の肌を色づけていく。
普段とは違う真剣な眼差しは、何度見てもどぎまぎしてしまう。
「あ、こないだ買った限定のリップ試させてよ。発色がめっちゃ良いって話題なんだよね」
「いいけど、これちょっと明るすぎない?」
「だいじょーぶ、ももの肌だと多分ちょうどいいくらいだから」
うきうきとした顔で私の口元に紅を引く彼女。
はみ出たリップを指で軽く拭い、満足げに私の顔を眺めた後、ほら、と鏡の中を指さした。
自分で買うことはきっとないであろうその色は、びっくりするほど私の肌色に馴染んでいた。
75名無し募集中。。。2020/11/25(水) 21:12:21.290
「はい、これで全部完成でーす」
「今日もありがと。やっぱりスーパーカリスマスタイリストのみやびちゃんはさすがですねぇ」
「でっしょ?みや天才じゃない?」
わざとらしいヨイショにも全く謙遜しないのが、逆にみやの良いところ。
「いやー、こんなに可愛いと、ももちゃんみんなの視線を独り占めしちゃうなー、参ったなー」
「ハイハイ、それはよかったね」
「でもそしたらみやびちゃん拗ねちゃうかなぁ、『みやだけのももなのに!』ってー」
「そうはならないから安心しな」
「なんでよ、なってよ」
「ならないよ」
ふーんだ、とほっぺを膨らませてみせると、彼女は私の両頬に手を当てて、ぶしゅりと空気を押し出す。
押し潰された私の顔を見て、けらけらと楽しげに笑ってみせた。
「他の人がもものこと好きになっちゃってもいいわけ?」
「いーよ、別に」
「なんで」
「だってさ」
さっきみたいに、私の両頬が彼女の手に包まれる。
また変顔でもさせられるのか、と目を瞑って身構える。
彼女の両手に力が込められることはなく、代わりにとびきり優しいキスが降ってきた。
「みんなの視線を独り占めにしちゃうような子が、みやのものとか、最高じゃん?」
にやりと笑う彼女の唇に、私のと同じ色が乗る。
あぁ、このリップ、ほんとに発色良いんだな、と、ぼんやり思った。
朝。平日。家から出発。
電車が来るまであと10分。
駅へ向かう足取りはいつもより軽く、パンプスのかかとが楽しげに鳴る。
彼女がかけてくれた魔法が、今日も私の背中を押していく。
コメントをかく