雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - 〜みやもも奥様劇場〜
575名無し募集中。。。2018/01/28(日) 16:06:19.890

海に面した明るい公園だった。
休日で賑わう広い公園通りはまっすぐ伸びていて、ベンチでくつろぐ人や、駆け回る子供のはしゃぎ声が時折上がっていた。
雅はやわらかい日差しに目を細めると、腕時計を見た。
友人とランチの後別れた帰りだった。少し散歩しようと思ったのだが、寄り道をし過ぎたかもしれない。
夫は今日の帰りについて何か言っていただろうか。雅は素早く夕食の支度に考えを巡らせた。
再び腕時計を見る。このまま帰れば大きな問題はないだろう。
顔を上げると、目線の先、母娘連れがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
小さい女の子は三歳くらいだろうか、跳ねながら両手で母親の右手を握りしめて振り回し、母親はあやすように握られた手を揺らしながらゆっくり歩みを進めていた。
雅はまっすぐその母娘に近づいた。雅に気付いた母娘が足を止める。
「久し振り」と雅は声をかけた。
「……あ、わぁっ。ひさしぶり。やだ、びっくり」
桃子は娘の頭を抱くように自分に引き寄せた。見上げてきた小さい女の子に雅は微笑みかける。
「かわいい。お名前は?」
「ミヤ」
雅は目を丸くして桃子を見上げた。
桃子は娘の頭を撫でながら「はい。よく言えました」と言うと、笑いを堪えるように唇の端を上げ、雅を見た。

ーーー

25歳の時、雅は愛されて結婚した。夫の仕事の都合でそれまで勤めていた会社は辞めざるを得なくなった。
妻が働かずとも裕福な暮らしは確約されていた。雅はそのまま家庭に入った。
憧れていた幸せな結婚生活。もとより社交的な雅は義理の両親とも穏やかな関係を築き、すぐに新居周りに新しい友人もつくった。
うまく言葉にすることのできない、茫漠とした退屈を圧し殺している事に雅が気付いたのは、結婚して一年も経たないうちだった。
子供ができれば変わるだろう。そう考えてもいた。しかし自然に任せればいいという夫との間は平行線を辿った。

576名無し募集中。。。2018/01/28(日) 16:08:44.120

義理の母からの紹介で、茶道教室に通うようになったのはその頃だった。
朗らかなお茶の先生の人柄も気に入ったし、生徒さんとして来ている奥様方は雅より年上が多かったが皆一様に穏やかで、初めて覚えることの多いお稽古に雅はすぐ夢中になった。
ある日、雅が教室に入ると、着物の女性が先に座っていた。
雅より年下に見えた。雅も含め洋服も多い中、可愛らしい総柄の小紋を着こなし、それに合わせて髪を結っている若い女性は珍しく思えた。
「桃子ちゃんっていうの。たまに来るのよね。雅さんと同い年じゃなかったかしら」
先生がそう言い、雅が「こんにちは」と挨拶すると、すぐに人懐っこい微笑みを返された。
化粧気のない青白い肌の薄さと幼い表情は、まるで違う時代から運ばれてきた女の子のようだと雅は思った。
後片付けの水屋で並んで少し話をした。
「着物可愛いね」
「ありがとう。総柄だとちょっと汚しても目立たないしおすすめだよ」
「私も着てみたい。高いかな」
「すごいいいとこの奥様って聞いたけど。着物なんていくらでも」
「そんなことないない。そんな変わらない。働いてないしそんなに自由もないし」
「すごく自由に見えるよ。愛されてきたように見える」
「そうかな」
雅はそれきり口を閉ざした。桃子からの言葉は嬉しい気もしたし、悲しいような気もした。
「……まあ、いろいろあるよね。若いとか言われちゃうけどさ、それでもこれだけ生きてきたらいろいろある」
「ちっぽけな、笑われるような悩みかもしれないけど」
「うん?」
「結婚したらもう、恋ってできないんだね」
桃子が布巾を洗う手を止め見上げてきたので、雅は少し恥ずかしくなった。
「そんなことないよ。旦那さんに毎日恋しなよ」
そう言うと、桃子は肩で押してきた。
「恋、してる?」
「してるよ」
少し早口の囁くような言葉は、何故か雅の胸を小さく焦がした。
雅はようやく、桃子の左薬指の指輪に気が付いた。それまですっかり独身だと思い込んでいた。

595名無し募集中。。。2018/01/28(日) 19:28:07.130

茶道教室は先生の自宅で定期的に開かれ、雅は可能な限り通うことにしていた。
先生の言っていた通り、桃子は来ない日の方が多く
それでも会えば少しの時間に話を弾ませた。
やっぱり同世代で話が合うのね、と先生に言われ、二人顔を見合わせて笑ったこともあった。
その時に限らず、ちょっとした会話で二人はよく笑い合った。
私たちは笑い合う、その裏側でお互い潜むものを通じ合わせている。いつしか、そんな風に雅は感じていた。
教室の後は生徒同士誘い合ってどこかへお喋りに行くこともあったが
桃子だけは後片付けが終わるといつもまっすぐ家路についていた。
誘ってみたいと思わなくもなかったが気後れもした。連絡先も知らない。
家庭のことも、桃子はほとんど話さなかった。
それでも毎回、教室に行くたびに、雅は心ときめかせるようになっていた。
その日は後片付けの途中で、気が付くと桃子の姿がなかった。
先に帰ったのだろうか。そう思いながら手洗いに寄って戻るところで、雅はしんとした廊下に響く小さな声を拾った。
桃子の声だと思った。雅は何も考えずに声のする方へ足を進めていた。
庭に面している長い廊下に出た。
「お願いだから、そんなに怒らないで」
廊下の一番奥、雨戸の影に桃子はいた。両手でスマホを隠すように持ち、俯いて声を潜めていた。
表情はよくわからない。爪先を揃えた足袋の白さだけが浮き上がって見える。
「わかったから。お教室ももう辞めるから」
雅は息を呑んだ。思わず一歩踏み出し、板敷きの廊下がみしっと音を立てた。
桃子が弾かれたように顔を上げ、廊下の角にいる雅を見た。
「……じゃあ、今日はお義母さんのところに帰ればいいのね。うん。切るね」
雅はその場から動けなかった。
電話を切ると、桃子は雅の視線を避けるように目を伏せた。
雅に向かって軽く会釈し、その横を抜けていこうとする桃子の腕を雅は咄嗟に掴んでいた。
「教室やめるの?」
顔を上げた桃子の頬は青白く、瞬きした目が歪んだ。
「そう……いうことになるかも」
「そんなのだめ」
ねえ、そしたら、この私の気持ちはどうしたらいいの。
唐突に膨れ上がった想いが弾けるのと同時に雅は桃子の体を抱き締めていた。

597名無し募集中。。。2018/01/28(日) 19:31:03.430

酷く身勝手なことを言ってしまったと雅は思った。それでも止められぬまま抱く手に力を籠めると、腕の中で桃子が息を吸うのがわかった。
「……私たちどうして、出会ったんだと思う?」
耳に届いた桃子の声は震えていた。
「わかんない」
雅の声も泣きそうになっていた。
少し体を離すと、雅は恐る恐る桃子の頬を両手で挟み、上向かせた。桃子はされるがままになっていた。
間近にその顔を見るとズキッとするような痛みが雅の胸を打った。
だって、はじめから、惹かれ合ってたよね。それからずっと、お互い。
鼻先を寄せると、桃子は眩しそうに目を細め瞬いた。睫毛の奥の視線は外を向いていた。
「こっち、見て」
桃子の瞳が揺れながら動く。互いの視線を確かめ合うと雅は目を閉じた。そのまま口づけていた。

桃子はそれきり二度と教室に姿を見せることはなかった。
少しして、桃子に子供ができたと教室の人伝に聞いた。
直感的に、あの時の子だ。と雅は思った。そしてその想像のあまりの荒唐無稽さに苦笑した。
たった一回の、口づけだけで。
それでも、その想像は何度でも雅の心を震わせ、ずっと胸の奥に留まり続けていた。

ーーー

「ね、みて、この子の顔」
桃子に抱き上げられたミヤがきゃぁと声を上げた。
「みやに似てる」
雅は心臓をひと掴みにされたような気がして、その場に棒立ちになった。
「まず目の形が似てるでしょう?それから、笑った時の顔もそっくり」
しがみつかれるまま、桃子は優しくミヤの髪を撫でた。それからいたずらっぽい目をして雅の顔を覗き込んできた。
そう、やっぱり、この子はあの時の子供なんだ。
雅が頬を緩ませると、桃子もまた笑った。
「いい?このことは、誰にも言っちゃダメ」
「誰にも、誰にも言わない。死ぬまで」
桃子に抱かれたミヤが雅の方に手を伸ばしてきた。
「ミヤもミヤなの?」
「そうだよ」
まだ幼い子の冷たくて小さな指先が雅の頬に触れた。
ミヤを揺するように抱き直し、こちらを見てきた桃子の目はゾクっとするほど色っぽかった。

〜みやもも奥様劇場〜おわり