雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - ひとくちふたくち(かき氷編)
638名無し募集中。。。2020/06/10(水) 23:25:42.070

「みやー、大丈夫?」
「…大丈夫に、みえるのっ、坂きつすぎ」

さっきからひっきりなしに汗が背中を流れているのがわかる。
気持ち悪いからシャワーを浴びたいけれど、それは多分一向に叶いそうにはない。

太陽がちりちりとアスファルトを照らしているその上を、必死に自転車でこいでいる。
普段自転車で通学しているけど、誰かを後ろに乗せてサドルに跨るのは久しぶりだった。

自分のものではないその自転車はやけに小さくて、余裕で地面に足がつく。
少し壊れかけているのか時折変な音がするけれど気にしている余裕もない。
目の前の傾斜のきつい坂を登りきるのに必死だ。


きっかけは些細な一言だった。
自慢じゃないが、暑さには弱い方だから、連日の真夏日にうんざりしてとにかく冷たさを求めていた。
レッスンの休憩中にドリンクを飲みながら、ふとかき氷が食べたいなとぼんやり思ったことを何も考えずに口に出してみたら、偶々隣にいた桃子が、

「もぉの家かき氷機あるよ! 家庭用の!」

と反応を返してきたものだから。
そこから何となく流れで桃子の家に行くことになった。
かき氷への誘惑と、何より行ったことも見たこともない桃子の家への興味で、行く以外の選択肢はなかった。


午前中までだったレッスンを終えて、いつもとは違う電車に桃子と一緒に乗った。
駅に到着してからは、自転車が置いてあるから二人乗りをしようと言われて荷台に促された。
サドルに跨っていたのは勿論桃子だった。

639名無し募集中。。。2020/06/10(水) 23:28:55.450


桃子に漕がせて自分は荷台に乗っておく。
一生懸命ペダルを踏む背中を眺めては、数分。
ちょっと格好がつかないじゃんか、なんて自分の中でぐるぐると考えて、一つ提案をした。
――みやが漕いであげるから、桃は後ろに乗って。

「だから無理しないでって言ったのに」
「無理じゃない、きついだけ」

桃子の家路は中々に険しい道のりだった。
道なき道をたくさん通っていくからちゃんとした道路の方が少ない。
細い道だったりけもの道のようだったり、中でもこの坂は駄目だ。
普段短距離でしか自転車に乗っていない人間にはきつすぎる。

ペダルを踏むのがとても重くて、ひと漕ぎに時間がかかる。
大きく息を吸って吐いて、一生懸命進んでやっと半分だ。
後ろで桃子が笑っている。

「交代する?」
「しない」
「こんなにきつそうなみや見るの、デビュー前の合宿以来かも」
「うるさいな、ちゃんとつかまってよ」

きっと毎日この道を使っている桃子にしたら慣れたもので、そんなに苦じゃないのかもしれない。
雅よりもすいすいと漕いで行くのだろう。
でも交代なんかしたくなかった。

こんな小さなことにだって、桃子に対しては変な意地とプライドがあって、譲れない部分がある。
少しでも桃子より余裕でありたいし、自分が主導権を握っていたい。

けれどそう頑張ってみても、桃子は簡単にそれを引っくり返すときがあるから、いつだって雅は気が抜けない。
手を握られたらこっちから握り返してやるし、突然引っぱられたらお見舞いに押してやる。
やられっぱなしは性に合わないから。


風に揺れるTシャツをめいっぱい掴まれる。
ようやく長い坂を登りきって、立ち漕ぎをやめると今度はお腹にぎゅうぎゅうと腕を回された。
平坦な道になったからもう掴まらなくても大丈夫なのだけれど、そのままにしておく。

暑いくせに桃子にくっつかれるのは嫌じゃない。
けして口にはしないけれど。

640名無し募集中。。。2020/06/10(水) 23:31:42.940


大きく息切れしながら、桃子の家についた頃にはもう体力なんか底をつきていた。
家族は買い物にでかけているらしく、家の中はとても静かだった。

リビングに通されて、ちょっと待ってて、と桃子が部屋を出ていった。
誰も見てなかったらいいだろう、とソファーの上にぱたりと仰向けに倒れ込んだ。

ここに来るまで体力を使いすぎた。
加えてこの暑さだ。
一度寝そべったら起き上がる気にはなれない。

人の家でこんな姿を見せるのはちょっとはばかられるけど、今桃子の家には桃子以外いないから気が緩んだ。
桃子がつけていった扇風機のぬるい風が定期的に吹き付ける。

部屋の窓につけられた風鈴の鈴がちりんと控えめに鳴る。
あまり大きく鳴らないのは、その風鈴がガラスではなく紙のものだからだろうか。
水玉模様が描かれた少し歪な丸い風鈴は、和紙か何かを重ねて作られているのか分厚くてどっしりとしている。
糸で小さな鈴と向日葵が描かれた小さい短冊のようなものが括りつけられている。
年の離れた弟がいると聞いていたから、夏休みの工作か何かかもしれない。

「お待たせー! って、みや死んでる!?」
「死んでない」
「だってソファーにへばりついてる感じだからさ」

ドアが開いたかと思えば、桃子が色々抱え込んで戻ってきた。

643名無し募集中。。。2020/06/10(水) 23:35:44.580


コップとジャグに入った麦茶、ボールにたくさんの氷、ガラスの器と銀色のスプーン、パックのカルピス。
それからキャラクターが描かれた小さなかき氷機。
桃子は大きなお盆に器用に全て乗せて、よろけながら大きな机の上に置いた。

「シロップさ、カルピスくらしかなかった」
「まぁそれもおいしいよね」
「だよね。もぉもカルピスかき氷好き!」

ん、と出された麦茶を、起き上がって一気に飲み干す。
干からびて死にそうだった。
空になったコップを机に置いて、再びソファーの上に体を落とす。

「ちょっとみや、何寝てんの」
「体力回復中」
「かき氷作りに来たんでしょ」
「かき氷は食べたい」
「だったら起きてよ」

確かにかき氷を食べに来た。
家庭用のかき氷機ということは自動では出てこないから、一生懸命削らないといけない。

けれど今体は重力には抗えなさそうだ。
暑いのと疲れるのは好きじゃない。
ダブルでこられると、とてもじゃないが太刀打ちできやしないのだ。

「起きないともぉが全部食べちゃうからね」

ゴリゴリと鈍い音が聞こえる。
麦茶に口をつけてから早速かき氷機に氷をたくさんいれて、ハンドルを回し始めた桃子はどうしてこんなに元気なのだろう。
毎日あの道を通勤に使って、よく朝のレッスンからかっ飛ばせる。
冗談ではなく底なし体力なのかもしれない。

645名無し募集中。。。2020/06/10(水) 23:38:24.950

「中々たまんないなー」

絶え間なく氷が削れる音がするけれど、中々お店や屋台のようにすぐにはたまらないらしい。
汗をかきながら一生懸命氷を削っている桃子を、寝転びながら見る。
唇をつんとさせて、前のめりになりながら、氷の山を作ることに熱心だ。

(小学生みたい)

桃子はおおよそ高校生らしくない。
自分より顔は幼いし、言動も幼いし、行動も気の向くままだ。

以前の自分だったらそんな人間傍に置いておくわけないのに。
なのに今こんな距離で、こんな関係で。
その上氷を真剣に削る桃子を、可愛い、なんて思ったなんて。

(……気の迷いがすぎる)

自分の思考にうんざりとしてしまう。
気の迷いがすぎるし、正直不本意だけど、最近そう思う瞬間が多々あるようになったから困る。
どこがなんて言われたら困る。
桃子を見ていると何だか知らないうちにじわりと胸に温かいものが滲んで、周りをうろちょろするこのちょっとうっとうしい人を愛おしく思ってしまう。

「やっとたまったぁ」

桃子が笑顔になった。
少しずつ削られた氷は体積を重ね、ようやっと小さな山になっていた。
いそいそとカルピスの原液をかければ少しなくなってしまったけれど、結局しゃくしゃくと混ぜてしまうから意味はない。

真っ白に染まったかき氷を崩して、期待に込めた瞳でスプーンに乗せた氷を見つめていた。
この小さな器いっぱいのかき氷を作る労力を考えただけでも、この一口はさぞかしうまいだろう。
口を開けてスプーンを迎え入れる準備はばっちりだった。

「ねぇ、桃」

起き上がって桃子の名前を呼ぶ。
一瞬雅に気を取られた桃子を良いことに、彼女のスプーンを持った右手を掴んで、そのまま自分の口元に運んだ。

647名無し募集中。。。2020/06/10(水) 23:41:17.050


ぱくり
桃子が頑張って削ったかき氷を横取りして食べてやる。

口の中に爽やかな甘味と冷たさが広がって、何だか生き返ったような気がした。
やっぱり暑い日は冷たいものが格別においしい。

「ん〜〜おいしい」

呆気にとられていた桃子が、雅の言葉を聞いてようやく気付いたように大声を上げる。

「あー!!? ちょっとみや!! 何食べてんの! もぉが頑張って削ったやつ!!」
「いただきまーす」
「みや寝てただけでしょ! 働くもの食うべからずなんだよ!」
「はいはい、ほら、あーん」

悔しそうに声を上げて駄々を捏ねる桃子の手からスプーンを取って、甘い氷を一掬いして口元に持っていってやる。
楽しくて仕方がない。
恨めしそうにじとりと見る桃子の唇をスプーンでつついてやれば、ゆっくりと口を開けて氷を食べた。

「おいしい?」
「……うん」
「良かったね」

そう言って、桃子が作ったかき氷をしれっと口に運んでいく。
桃子は「もぉにもちょうだい!」とぷりぷり怒っているけれど、本気で雅からスプーンを取り上げようとはしなかった。
ぐちぐちと文句をたれるように、雅のTシャツを引っ張っている。

そんなことを言いながらも、実は桃子が、案外雅に甘いせいで大概のことは許してしまうことを、雅は知っているのだ。

二口に一度桃子の口にもスプーンを運んでやると、桃子は遠慮なくスプーンに齧りつく。
それだけでご満悦という顔をする桃子に、おかしくなって雅も笑った。