雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - もも色☆ふらっしゅ!(ハロウィン編)
175名無し募集中。。。2017/10/12(木) 20:40:14.340

呼び鈴が鳴った。

玄関に向かい、そっと覗き窓を確認してからドアを開くと
可愛らしい顔立ちをした2人の女の子が、色違いの双子コーデで手を繋ぎ、並んで立っていた。

真っ黒なエプロンとヘッドドレスのメイド服。
左に立っている子のドレスは鮮やかなブルー、右の子はシャーベットオレンジ。
足下を見れば黒いレースのついたソックスに黒い靴を履いていた。

「めっちゃカワイイ」
挨拶もそこそこ、みやの口からはそんな言葉が零れ落ちた。

近所にこんな可愛い子いたっけ。お菓子を用意しておいて良かった。
みやはウズウズしながら、この愛らしい2人から発されるだろう『トリック オア トリート』の言葉を待った。

「……ん?どしたの」
見つめると、オレンジの子は上目遣いにフフっとはにかんでから目を伏せた。
さらさらしたセミロングの髪が頬に落ちる。
ボブの先を外はねにした活発そうなブルーの子は、少し身を乗り出し
猫のような瞳でみやを見上げた。それから、真剣な顔でこう言った。

「あの、お母さんを返してください」

みやは固まった。
おかあさん?

「そんなストレートに言っちゃうんだ」オレンジの子がクスクス笑い
ブルーの子は慌てたように「だって他に何て言うの」と声を潜めた。
「や、わかんないけど!なんか理由つくって呼び出すとか」

「あのー、お母さん探してるの?いなくなっちゃったの?」
みやがそう言うと、ブルーの子がニコーっと笑い、みやの肩越しに家の中を指差した。
オレンジの子が中に向かってひらひらと手を振る。
はっとして振り返った。
しかし、玄関の隙間から見えているだろう、居間へと続く廊下には、誰もいない。

177名無し募集中。。。2017/10/12(木) 20:44:37.010

その隙をついてか、オレンジの子がするりと脇を抜け玄関に入り込もうとしたので
みやは慌てて頭を押さえ込んだ。
このやろ。
首をホールドすると「やぁんっ!」と声を上げ、じたばたともがく。
ぐいっと服を引っ張られた。見るとブルーの子が「離せ!離せ!」と言いながら
みやのカーディガンを両手で掴んでいる。引っ張るなや伸びるやんけ!
オレンジの首根っこを抱き込んだまま、片足をさっと伸ばした。
爪先を回して膝の裏を引っ掛けると、転びそうになったブルーの子が悲鳴を上げる。
振り返ろうとしたオレンジの子の頭をぐいっと外に押し出しながら、足をさっと引き
わたわたとよろける2人を外に残したまま

ドアを閉めた。

途端に静かになる。
ノブにくっつけてある銀のフォークに触れる。3回叩くように触って確認した。
よし。
しっかりと鍵をかける。

ももは居間のソファの上で、ブランケットを頭まで被り、すうすうと寝息を立てていた。
今に始まったことではないが、ふてぇ。玄関先であれだけ騒いでいたのにぐっすりか。
横を向いて丸まっている脇腹の上にどすっと座り込むと「ぐぇ」と声がして、ブランケットからももが顔を覗かせた。
「……なんなの、もぉー。寝てるの!」
「知ってるわ。だから起こしたんでしょうが。ちょっと聞きたいことあるんだけど」
ももの上にどっかり座り込んだまま、腕組みをしてソファの背凭れに体を預けた。
「なに」
「ももって夢魔だよね。これまでに、悪魔何匹産んだの」

「え?……覚えてないよぉそんなの」ももの耳の端が赤くなった。
「その、親子関係とかになったりするわけ」
ふ、と吐息が漏れる音。
「……んなもんなるかよ」ももはみやを見上げ、小馬鹿にしたように笑う。
「ねえ、生まれた子ってみんな夢魔になるの?」
「さあ、いろいろじゃないの。後のことなんて知らないってば」
あの子たちが夢魔でないならいいけど。と、みやは思った。
「外に、なんか2匹いるんだけど。あれなに」

178名無し募集中。。。2017/10/12(木) 20:49:10.720

ももは目をぱちくりとさせた。「し……しらん」
「お母さんを返せって言ってんだけど」
ももは視線を逸らし、自分の爪を見た。
「……返すの」
「なんでよ」
「じゃあ、ミヤビヒルドでさくっと退治してきたらいいじゃんか」
ももは再びブランケットを頭まで被った。

「何それ……」みやは震えた。
「仮にもお母さんでしょ、あんな可愛い子どもたちに求められてよくそんな酷いこと言えるよね信じられない」
「そんなん言われても」
ブランケットの下から聞こえてくるももの声は籠って小さく聞こえる。
「おっ……お腹痛めて産んだ子でしょ」
みやのお尻の下で、ももの体がもぞ、と動いた。
「そーいう、人間みたいな情を期待されても困る」
「理解できない」
ももが顔を出す。
「スタビちゃんさぁ、そこは渡りに船っていうんだよ?」

言葉に詰まった。そりゃ確かに、みやの立場を考えたら、祓うべき対象なのは明らかなんだけど。

『お母さんを返して』

思い返すとぎゅっと胸が締め付けられた。そんな言葉を吐いた可愛らしい二匹の幼気な悪魔の子。
消せるの?みや。
「ちょっと、考える」
「考えるの?それこそ理解できない。まあ、みやの好きにすれば」
「言われなくてもいつだってそうしてるし」

肘をぐっと引っ張られて、ももの顔の方へ倒れ込んだ。
間近にももの瞳が輝く。
「みやが男ならよかったのにな」
「……悪魔なんか孕ませたらみやの自我崩壊だから」
片手を伸ばしてももの顎を掴み、ぐらぐらと揺らしてやる。

ふと気配を感じて目線だけを上げると、その先、庭に面した窓から
二つの頭が背伸びするように覗き込んでいるのが見えた。
「待った」
ももの顔にばふっとブランケットを被せる。テーブルに置いていた包みを手に取り、窓へ向かった。
掛け金をはずし、外に向かって少し押し開くと
それに合わせて2匹の悪魔はちょっと後ずさった。

180名無し募集中。。。2017/10/12(木) 20:55:16.700

「これ、お菓子あげるから、おうちに帰りな」
差し出すと、おずおずと手を伸ばしてきた。それぞれの手に小さい包みを落としてやる。
探るように見上げてくる目。みやはため息をついてから口を開いた。
「いつまでもお庭にいると、悪魔バスターが来て捕まえられちゃうよ」

二匹の悪魔は顔を見合わせると、きゃーきゃー言いながら手を繋いで逃げていく。
背中に黒くて小さな羽。鞭のような尻尾が揺れるのが見えた。

その羽も尻尾も、お母さんにはもうないんだよ。みやが毟り取ってしまったから。
残ってるのは痕だけ。
みやはため息をひとつ吐くと、窓の掛け金をしっかりとかけ、カーテンを閉めた。

頭を掻きながら振り返ると、ももがソファに寝転がったまま手を伸ばしテーブルの上の包みを取ろうとしていたので
窓辺に置いてあったカボチャのぬいぐるみを投げつけた。
ひゃっとももの手が引っ込む。
「みやのいじわる!お菓子ならそう言ってよ!」
「ももにあげるお菓子じゃないから」
「なんでよぉ。一コくらいいいじゃんね?」拾い上げたぬいぐるみに話しかけるももを横目にテーブルの上を片付ける。
……考えるのはちょっと置いておこう。
今日はハロウィンパーティーに呼ばれてるし、夜になる前に支度しなきゃだし。

ももがふと顔を上げる。
「みや」
放られたぬいぐるみを受け止めると、呼び鈴が鳴った。

玄関の外にはにへとひかるが立っていて、みやはほっと息をつく。それから笑みをつくった。
「えっと、早くない?現地集合じゃなかったっけ?」

「みやちゃん、これ」
にへが差し出してきたケースを見て、あっと思う。メイクボックス。
「この間、舞台メイク道具借りてくって言って忘れてましたよね。私もさっき気がついて、持ってきちゃいました」
「まじ忘れてた」
「ね、来て良かったよね」ひかるがにへの肩を小突いた。
「別になきゃないでいいかとも思ったんですけど」言いかけたにへの顔が途中でほんの少し引きつった。
振り返る間もなく、背中にどんっという衝撃。
後ろから抱きついてきたももは、みやのお腹に両手を回し
「こんにちは。にへちゃん、この間はごめんね?」と、言った。
「……いえ、こちらこそ」
にへの口許がひくっと動く。ももが右側から顔を出しているのはわかったが、どんな顔をしているのかはわからなかった。
いや、ニヤニヤしているのに違いなかった。

181名無し募集中。。。2017/10/12(木) 21:00:44.890

みやはぱんっと大きな音を立てて両手を合わせた。
「ほんとありがとー!まーまー2人ともさ、中入んなよ。お茶くらいいれるし、そしたらあれだよねうちで支度してくでしょ?」
言いながら片手を下ろし、ももの腕をはずそうとしたが、動かない。
「もも」
小声でたしなめてみたが、両手はみやのお腹の前でがっちりと組まれたままだった。

「そっちの子は初めてだね」
ももの方をじっと見ていたひかるは
「あっ、あの、初めまして。ひかるです」と、背筋を伸ばした。
「やっぱり悪魔バスターなの?」
「はい♡」
「見習い?」
「うーん……もうけっこういけてると思うんですけど」

「できる子でなきゃみやの傍にはおかないから」
みやがそう言うと、ひかるは顔をくしゃっとさせ、隣のにへに寄りかかった。

「へぇー。そうなんだ。そしたらさ、ひかる」
ひかるは一瞬ぴくんと肩を震わせ、小さく瞬く。
「いま屋根の上でね、悪魔が二匹でお菓子食べてるから、捕まえて連れてきて」

「えっ」
思わず振り返ったみやの顔をにやりと見上げ、ももは力をゆるめる。
「消したら駄目だよ、生かしたまま連れてくるんだよ?」
そこまで言うとするりと腕を解き、3人を玄関に残したまま
ももはパタパタとスリッパの音を立てて居間へと戻っていった。

271名無し募集中。。。2017/10/13(金) 20:34:35.770

「えっと、じゃ、お庭回って捕まえてきます」
ひかるはそう言うと、手にしていた荷物を玄関先に置き、さっとドアを開けた。
声をかける間もなく、するりとひかるは外へ出て行ってしまい、ドアは閉まった。にへと顔を見合わせる。
「い、いいんですか」
「うっ……うん。いい」
「……ほんとに、屋根の上にいるんですか」
「いるんじゃない。わかんないけど」
ももが何を考えているかさっぱりわからなかったし、みやは考えるのも面倒になった。

「ひかる1人で大丈夫かな」
「あ、それは、大丈夫だと思う。害をなす感じじゃなかったし」
「みやちゃん知ってるんですか」
「……ま、とりあえず入んなよ」
ひかるが置いていったバッグを手に取る。着替えが入っているのか、バッグはぱんぱんだった。

にへと一緒に居間に入ると、ほぼ定位置になっているソファの上にももの姿はなく
見回すと、部屋の隅っこで体育座りをしている。
「いいよ、座って」
にへにそう言ってから反対側のソファにバッグを置き、ももに近づく。
「どういうつもり」
見下ろしながら言うと、ももは顔を上げた。
「どういうって、家の周りに居着かれてもみや困るでしょ」
「お友達の悪魔かなんかってことですか」
その場に立ったままのにへの言葉に、ももは目を輝かせた。
「なんだと思う?」

「そういうのいいから。あのね、もものこと、お母さんって呼んでる女の子の姿してる悪魔2匹が」
「おっおかあさんですか!?」
にへにとっても悪魔の親子など想定外だっただろう。眉間に皺を寄せ、指先を口許にやって考え込んだ。
みやの横やりに、つまらなそうな顔をして、ももが口を開く。
「とっととミヤビヒルドで片付けてくればって、言ったんだけど」
「あのね」
「何しに来たんですか」
「お母さんを返してって言ってきたから、お菓子あげて追い返した……つもりだったんだけどね」
「……いくら悪魔でも現状何もしてないんじゃ祓えないですね」
「そうなんだよねー」

そのとき、玄関の方から複数の足音がして、居間のドアが開いた。
「連れてきました」
「はやっ」
ひかるの後ろに立っている2匹は、わくわくした顔で部屋の中を覗き込む。
その場所からだと、ももは大きなソファに遮られて見えないだろうと思った。

273名無し募集中。。。2017/10/13(金) 20:38:37.280

「どうやって捕まえたの」にへが聞く。
「捕まえたっていうか、お庭から屋根見上げたら見えたんで『いっしょにドーナツ食べない?』って誘っただけです」
チラと見下ろすと、ももは笑いを噛み殺していた。

2匹を見ていたにへが「……この子たちが悪魔だっていうの」と呟くように言うと
「バカにしないでください!」とオレンジの子が熱り立ち、両手を腰に当てて胸を張った。
「いたずらしちゃいますよ!」とブルーの子が言ったので
「お菓子あげたでしょ」と思わず声をかけると
「あ、すっごく美味しかったです!ごちそうさまでした」と言い、ぺこりと頭を下げる。
「ふたりとも名前なんていうの?」ひかるが無邪気に問いかけると
2匹は顔を見合わせ「どっちから?どっちから言うの」などと言い合っている。

「しょーがないなぁ、じゃあまいから言うね。っていうかもう今言っちゃいましたけど、まいっていいます」
ブルーの子が言うと、それをじっと満足げに見ていたオレンジの子は照れたように笑ってから部屋を見渡し
「ちぃちゃんですっ。あの、ちぃちゃんって呼んでください」と若干噛みながら言った。
その姿は、ただただ初々しい可愛さに包まれていて、どうしたものかとみやは途方に暮れる。

「……まったくもっていただけないなぁ」

立ち上がったももを見て、2匹は目を丸くし「「おかあさん!!」」と叫んだ。
にへが顔を微かに顰めた。
わかる。感動の親子の対面みたいなの悪魔にやられても……困るよね。困るんだけど。

「気安くお母さんとか呼ばないでよね」ももが言うと、2匹は気圧されたようにその場に棒立ちになった。
「なんなの。子ども可愛さに呼んであげたんじゃないわけ」と言ってやると
「バカ言うな」
ももはその場で壁に寄りかかり、その場を睨め付けた。

「あんたたち自分のこと何だと思ってんの。悪魔としてこれまで何かした?
ただ好き勝手遊んできただけみたいに見えるけど
そんなだからどーせ何したらいいのかもわかんなくって、安直に頼ろうと思って来たのかもしんないけど
そもそもそっからおかしいからね。なにつるんじゃってんの
悪魔なんてスタンドアローンでやれよ。
言っちゃなんだけど悪魔同士でお互いにいくら相談したとこで、やれることなんて見つからないからね」

みやたちは、どこから突っ込めばいいのかをいっとき見失い、その場がしーんとなった。

277名無し募集中。。。2017/10/13(金) 20:43:57.740

まいが俯く。
「だって……ほかに頼れるものが何も思いつかなくて」
「でもでも!私たちだって一生懸命考えてるんです!」ちぃは訴えるように声を張った。
「……言っとくけど、ここにいるおねーさんたち全員、悪魔バスターだから」
ももが片頬で笑うと、2匹は目を見開いた。両手を取り合って体を寄せ、怯えた表情でみやたちを見回す。

「いや、現状でうちらがこの子たちをどうこうするわけにもいかないし」
みやがそう言うと
「別にどうこうしちゃいけないなんて法はないでしょ。好きにしていいんだけど」とももは目を細めた。
「えー、でも、なんにもできない子たちならなおさら、祓うことないじゃないですか?」
ひかるが言った。
それを聞き、子どもたちが涙目になったのを見て、今度はひかるが挙動不審になる。

「人の気持ちとか……まだよくわかんないんですよね」まいがポツリと言った。
ちぃが小首を傾げながら続ける。
「人の心につけ、つけいる?とか、うまくできないし、人間が何考えてるのかとか知りたいんですけど」
「やっぱさ、人間のこと知るには、もっと人間に関わったりしないといけないのかも」
「ダメ!まいはちぃのことだけ見てればいいの!」

にへがももを見た。
「なんていうか……お母さんも大変ですね」
ももは唇を尖らせる。
「……やめてよお母さん呼ばわりすんの!」
ひかるがバッグからドーナツを取り出して差し出したが、2匹はもはやそれにも手を出せないほど落ち込んでいるようだった。

「とりあえず、そんな考えなしでもものとこ来たってなーんにも教えてあげたりしないから。みや」
「えっ」
「えじゃないよ。この子たちがもううろちょろしないように説得して帰すようにするから……支度してくれば」
時計を見ると、もういい時間だった。

沈もうとする夕陽が照らすオレンジの雲。迫りくる夜の紫が、見上げる空一面をハロウィンの背景にしていた。
3人の悪魔バスターは魔女コスでパーティーに向かう。
「ちょっとしたアイロニーですよ」とにへは言ったが
いざ出かけようとする3人を見たももは、気の抜けた顔で笑ったのだった。

279名無し募集中。。。2017/10/13(金) 20:47:53.560

「悪魔だけで置いてきちゃって大丈夫ですかね」とひかるが言った。
「大丈夫。あのおうち、一回入っちゃったら悪魔はもう出られませんもんね」
「そ。ある意味結界みたいなもんだからね」
「だったらいっそ、3匹まとめて幽閉しといたらいいじゃないですか」
ひかるの言葉に、にへがみやの顔を見た。
それから「いやさすがに、それはみやちゃんが疲弊しちゃうんじゃないかと思う」さらりと言った。

「そっか……そうですよね」
ひかるの言葉に対して、なんと言えばいいのか正直わからなかった。
あの子どもたちが今日まで何もしていなかったとしても、放ってしまったらいつ何をするかはわからない。
少し大股に前へ歩み出たにへが、振り返ってこっちを見る。
「そこまで負ってたら、やってられないですよ」

みやたちお気に入りのカフェ兼バーのオーナーが、誘ってくれたパーティーだった。
何人もの顔見知りが声をかけてきた。知らない顔もいた。
ひかるが人波を縫って、お皿を運んでくる。
カボチャやコウモリのモチーフで飾られたサラダやピザ、オードブルに刺さっているオバケのピック。
そこここにハロウィンらしい趣向が凝らされ、色とりどりのお皿を見ているだけで気分が上がる。
さっきからにへは窓ガラスのステンシルを見て回り、スマホを構えていた。
壁際にある大きいフェイクのケーキにたくさんのフォトプロップスが刺さっていて
みやはその一つを手に取った。横からひょこっとひかるが顔を出し、口ヒゲを手に取って顔に当てる。

「ふつーふつー」
「みやちゃんにはー……これっ。このコウモリのメガネ絶対似合いますよ」
「あー、まあね、こういうのは得意だから」
ひかるは笑いながら会場を見回す。「ふふ、悪魔みたいな人がいっぱい」
「ホンモノが紛れてたりして」
にへが、みやの前にグラスを差し出した。きれいな紫色のカクテルには三日月に見立てたレモンの皮が刺さっている。
「みやちゃん、オレンジ色のカクテルは気をつけた方がいいですよ」
「なんで」
「ニンジンだって」
「あっ……おっけー」
「そうだ、ひかる、あっちにハロウィンのおせんべいいろいろあったの。選べなくって」にへが指差す。
「えっっ……行ってくる」
「どんなんだろ、みやにも持ってきてー」
後ろ姿に声をかけると、ひかるはひらひらと手を振った。

282名無し募集中。。。2017/10/13(金) 20:51:27.700

残されたにへと壁際のカウンターに寄りかかって、無言のまま、賑やかな店内を眺めていた。
楽しげで明るい、場の喧騒が心地よかった。

「……なんか、ずっと言いたくて、言えなかったんですけど、言っちゃいますね」
にへはそう言ってから、一度黙った。
「なに」
軽く返したものの、ドキドキする。どういうことを言いたいのか
前から知っていたような気もする。

もものこと。そうでしょ。

「みやちゃん、もし」
にへは考え考え、言葉を選んでいるように見えた。
「もし、どうしても選択できないことがあったら……どうか、私のこと、頼ってください」

すぐには返事ができなかった。
「にへの、気持ちは嬉しい」
言葉を絞り出すと、にへは顔を上げ、少し笑った。「酔ってないですからね」

選択できないこと。それはきっと、ももを抑えきれなくなった、そう思ったときに
その決断ができるかどうかということで。
生殺与奪を握っているのはみやなのに、むしろまるで刃を突きつけられているようだった。

ううん、にへにさせるなら、みやが……この手で。
そこまで考えたとき、急に耳の下あたりから気持ち悪さが広がった。吐き気がする。
「ちょっと、メイク直してくる」
自分の唇を指先で軽く叩き、にへにそう言うと、みやはグラスをカウンターに置いて急ぎ足でフロアを出た。

だって、違う。
悪魔を閉じ込めている。そんなの言い訳で。
今後ひどい目に遭うかもしれない人を救うためじゃない。
ほんとは管理したいわけじゃない。
そのために、一緒に暮らしているんじゃない。

とびきり華やかなメイクをしてきたつもりだったのに、洗面所の鏡に映る顔はひどく、情けなく見えた。

287名無し募集中。。。2017/10/13(金) 20:56:10.950

化粧室を出ようとして、人にぶつかりそうになる。
「あっ……ごめんね」
見ると、女の子が一人立っていた。
「あ、あの、すいません、さっきは、ありがとうございました」
「え?」「入り口のとこで」
「……あー」
顔はよく見ていなかった。
この子がお店の手前で、なんかチャラいのに絡まれていたので
にへひかと一緒に連れのフリしてさっと手を引き、パーティー会場に入れてやった。それだけのことだ。

「気にしないで」
そう言って離れようとすると、腕を掴まれた。
「あのっ、すみませんごめんなさい」
「な、なに」
「おねーさんを見込んで、ひとつお願いが、なんとか、聞くだけ聞いてもらえないでしょうか」
「えっと……どうしたの。ちょっとだけなら」
みやがそう言うと、女の子の泣きそうだった顔がホッとしたようにゆるんだ。「ありがとうございます!」
聞く前からなんとなく、なんてことない話のような気がした。
聞いてあげるだけで、この子が救われるなら。

腕を取られ、引かれるままに、化粧室の前の廊下を裏の方へ進む。
「ちょっ、ちょっとどこいくの」
「人に聞かれたくない話で、ごめんなさいっ」
「いやいや、そんな謝らなくってもいいから」

みやがそう言ったとき、不意に、背後から風が吹いたような気がした。

それが何だったか思い出す前に、後ろから伸びてきた手の平が、女の子の背中をどんっと突き飛ばす。
仰け反った喉から絞り出すような悲鳴が高く伸びた。
みやの腕を掴んでいた手の力がゆるみ
女の子はゆっくりとその場に崩れ落ちた。

みやは震えながら、呆然とその手の平の主を振り返る。

「そいつの目ぇ見らんやった?完全に悪魔憑きやん」
「し、師匠……」
「ハロウィンやけん小悪魔コス♡似合うっちゃろ?」
グリッターをキラキラさせたツノにツインテール。れいなは得意げな顔でみやを見上げた。

522名無し募集中。。。2017/10/15(日) 00:08:01.350

床に倒れている女の子はぴくりとも動かない。
「この子は」
「取り憑いてるのは今れーなが背中突いて祓ったし、放っておいたらそのうち起きる」
みやはしゃがんでその子の上半身を抱き上げると、壁に凭せ掛けた。

「かっこ悪いな。すみません、情けない弟子で」
「それ言ったら、いまこっちには悪魔バスターの癖に引きこもってる闇の住人とかおるけん」
れいなは壁に寄りかかって腕組みをし、思い出し笑いを浮かべた。
それから、みやの方へ視線を投げる。
「なんで着いていったと」
「……なんだろ、ちょっと、弱気になってたかも」

「人っていうのは基本弱いから」
と、れいなは言った。
「……いま、一緒に住んでる悪魔になんにもできないのも、きっとみやの、弱さで」
「それは違う。れーなそうは思っとらんけん」
みやは顔を上げてれいなを見た。
「え、どう思ってるんですか」

「んんーーなんかいな、れーな思うっちゃけど、悪魔を本当に愛する。なんてことができたとする。
みんなそれができるなら、世の中に悪魔祓いなんていらなくなるやん」
「……それって、どういう」
「なんで悪魔が生まれたかって、結局ニンゲンの弱さってゆーか
でも、強くなって対抗するとか退治するとかじゃなくて、自分の弱さをちゃんと見れるからつけこまれたりしない
そういう関係になれるならもう、多分、祓わなくてよくなる。
何が絶対に正しいなんて、ないし。
れーな、みやびのことについてはそう見よったっちゃけど」

みやは首を左右に振った。
「……そんなこと、そんなの考えたことなかった」
「れーなは面倒だからやらん。みやびはそういう善とか悪とか関係ない世界を作れるんじゃない」
れいなの視線を受けて、みやは深く深く深呼吸をした。
「あーやめて。なんかめっちゃ語って恥ずかしい」れいなは顔を顰めた。

にへとひかるに断って、お店を出た。
逸る気持ちを、抑えきれなかった。

そんなことができるなら、それは自分の気持ちひとつだ。
みやの気持ち。
関係をどうすべきなのか、そればかりに気を取られて
これまでちゃんとは考えてこなかった気がする。

ももの顔を見て、考えたい。一回考えてみたい。

527名無し募集中。。。2017/10/15(日) 00:12:19.300

居間のドアを開けると、みやは一瞬あっけに取られた。
中央にあったテーブルが退けられ、絨毯の真ん中にブランケットの膨らみ。
仰向けに寝ているももの両脇にしがみつくようにして、2匹の小悪魔も眠っていた。
「寝るのが仕事か」

みやは3匹の頭の方に回ると、屈んで両腕をついた。上からももの顔を覗き込む。
寝顔可愛いって思うの。つけこまれてるだろうか。
つけこまれて、みやのことなんてどうとでも誤魔化して、いいようにできるとか
そんな風に思われているなら
それはみやの弱さかもしれないけど。

髪を耳にかけ、静かに顔を寄せた。両脇の子どもたち、まだ起きないでね。
みやの唇が、ももの上唇に触れた。少し顔を動かして軽くついばむ。
さかさまにキスすんの、初めてだ。
ふ、とみやの吐息が漏れると、ももの唇が動いた。
そっとつついてきた舌先が、みやの全身に熱を回す。
唇を被せて舌を絡め、ももの吐息を、吸った。

これだけのことで、どうして、こんなに、幸せを感じるんだろう。

急に、弱いとか強いとか、みやの中でどうでもよくなった。
これって、超えた世界じゃないの。わかんないけど、錯覚だとしても。
それでもいい。

「うっそ」
右側から吐息混じりにちぃの声がして、みやはバッと顔を上げた。
両脇の2匹がまんまるな目でじっとみやを見上げている。
「まいも……みちゃった」
「きゃー」
ちぃは小さな声で言うと顔を覆った。
ももはと言えば、まるで知らないといった風に仰向けのまま明後日の方向を見ている。
と、思ったら、小さな舌先が見えて、すぐに引っ込んだ。

ちぃが起き上がる。
「ちぃも……まいとちゅーしたい」
「「えっ」」
みやと、まいから同時に声が漏れた。
「だ、だめ……ここじゃ」半身を起こしたまいが目を伏せた。

その幼い仕草に、みやは思わず頬がゆるむのを抑えられなかった。
たとえスタンドアローンがおかーさんの本懐だとしても
この仲良しの2匹を引き裂くことなど、できないんじゃないだろうか。

いいの。何が絶対に正しいなんて、ないし。

530名無し募集中。。。2017/10/15(日) 00:17:17.290

「みや、そこの窓開けてやってよ。帰るって」ももがこっちを見上げて言った。
「うん。帰ろう」「帰ろう」2匹は言い合い、立ち上がる。
ももは寝転がったまま、呆れたように細いため息をついた。
だけどその顔はどこか満ち足りて、微かに微笑んでいるようにも見えた。

「夜になったね」
「そうだね」
窓のへりに手をかけ、夜空を見上げる2匹の背中の羽は
2度3度羽ばたいたかと思うと、わっとその黒い面積を広げ、バサバサと大きな音を立てた。
室内が一瞬薄暗くなったかと錯覚するほどだった。
2匹はおでこを合わせるようにして、少し名残惜しそうに室内を振り返ってから、窓枠を蹴り、空に飛び立つ。
風が巻いた。
煽られた髪が頬を撫でるのを感じながら、みやは何かを失ったような気がしていた。
そして、何かを手に入れたような気もしていた。

「窓閉めれば」
そう、ももに言われるまで、みやは2匹が去っていった夜空を無心に眺め続けていた。

「なんでテーブル動かしてど真ん中で寝てんの」
「床暖房って最高だよね。みや、ここに寝たことないでしょ」
「ないけど」
「寝っ転がってみなよ、世界変わるよ」
「……なにそれ」
顔を顰めると、ももは自分の隣を叩いた。「早く」
言われるままももの隣にごろりと仰向けになる。
「あーあったかい」
「でしょ?」
「でもここは寝る場所じゃないから」
言いかけると、起き上がったももが覆いかぶさってきた。

腰に腕を回す。やわらかいスウェットの中に手を入れると直に背中に触れた。
指先が羽の痕を辿ると、ももがふっと息を吐く。
「そこに触ってるときの、みやの顔が好き」
軽く爪を立てると、ももは目を閉じた。

「さっき、なんでキスしたの」
「みやからお菓子欲しかったんでしょ?」

ももは目を開き、いたずらっ子みたいに笑った。