雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - ナツキタルラシ
42名無し募集中。。。2018/08/13(月) 20:35:16.260

夏はあんまり好きじゃない。
まとわりつく熱風と灼けたアスファルト。
じりじりと照りつける日差しの暑さを加速させるような蝉の大合唱。
洋服は汗で肌に張りつくし、外に出るのはいつも以上に億劫になるし、
何より、「暑いから離れて」とだけ言い残し、みやが私に背を向けて寝る夜が増える。
そりゃ私だって暑いのは嫌だけど、いつもよりほんの少し離れた場所から寝息が聞こえるのは、やっぱり寂しい。
冬はさんざん湯たんぽ代わりにして重宝してたくせに。何この手のひら返し。



うだるような暑さに心まで夏バテ気味な私に気付く様子もなく、お仕事を終えたみやが上機嫌な顔して帰ってきた。
最近のお仕事も順調に進んでるらしく、素直によかったと思う気持ちと、ちょっとはこっちの不満にも気付いてほしいと思う気持ち。
うらはらな感情を抱えながら、ただいまの挨拶をしてくれたみやに曖昧な返事を返した瞬間、みやがまとっていた香りが鼻孔をくすぐった。
ふと、思うより先に言葉が口から零れていた。

「なんか、みやから夏の匂いがする」
「…は?」
「ちょっと失礼」
「え、ちょっと何して―」

咄嗟に引っ込められそうになった手を捕らえて、みやの左手首に鼻先を押し当てる。
彼女が香りをまとうとき、いつも決まってこの辺につけているのは知っていた。

「もも、くすぐったいんだけど」
「んー、いつもとなんか違うような…」
「だから離してってば」
「やーだー」

身をよじって抵抗するみやの手首をがっちりホールドし、すんすんと嗅いでみる。
砂糖菓子のような甘い香り。でもその中に確かに感じる清涼感。
普段のみやから感じるような、咲き誇る花のような鮮やかなものではなく、もっとほのかで優しい香り。

43名無し募集中。。。2018/08/13(月) 20:37:15.310

「ねぇ。ももが気になってるの、多分これじゃない?」

みやが自由な右手でポケットをまさぐり、取り出した小さな瓶を私の目の前に突き付けた。
視線の先、ラベルに書かれた小さな文字をそのまま読み上げる。

「…『ラムネ』?」
「の、香水」

そう言うとみやは瓶の蓋を開け、こちらの鼻先へ差し出してくる。
途端、瓶ラムネのビー玉を押し込んだ瞬間のような、甘さと爽やかさが鼻から脳天へと突き抜け、
目の前がしゅわしゅわと弾けるような感覚がよぎった。

「何これ、すごい…」
「ね、めっちゃラムネって感じしない?」
「する!みや、これ買ってきたの?」
「ううん、サンプル貰ってきただけー」

瓶の蓋を閉じ、中の透明な液体をくるくると回してみせる。
みやが普段使ってる香水とは明らかに方向性が違うものの、香水らしからぬ名前に興味を惹かれ、思わず手が伸びたらしい。

「いい匂い」
「うん。でもなんか、ミドルがちょっと甘すぎてさ、みやっぽくはないかなって」

普段使いにはちょっとなー、と言いながら、みやは自分の左手首に鼻先を近づけた。
香水をつけない私にはよくわからないんだけど、要するにみや曰く、
少し時間が経って香りが変化したときの甘い香りがみやっぽくないとのこと。
確かに、メイク髪型コーデとバッチリ決めた外出モードのみやの雰囲気とは、少し違う印象を与えるかもしれない。
でも、お家に帰ってゆったりモードの今のみやから漂う柔らかな甘さは、
こちらの疲れや悩みまで解いてくれそうな、そんな安心感を抱かせてくれる。

44名無し募集中。。。2018/08/13(月) 20:38:21.150

「ももはこの匂い、好きなんだけどな」
「そう?」
「うん」
「じゃあ、ももにもつけたげる」

そう言って香水をコットンに数滴染み込ませると、私の左の首筋をするりと撫でた。
ひやりとした感覚に思わず背筋が震える。
指先が私の首筋を何度か往復した後、ぼふ、と勢いよく私の肩口に顔を埋めてきた。
みやの鼻先が首に当たり、みやの前髪が耳元を擦り、みやの吐息が鎖骨に降りてくる。

「んっ、ちょ、くすぐったい…」
「もも、すっごい甘い匂いする…」
「わかった、わかったからほんと、そこで深呼吸しないで」
「なんか、すごく、」

おいしそう。
そう言いながら耳朶をかぷりと噛まれた。
ももは食べ物じゃないんだけど、なんてありきたりな突っ込みは、熱さでどこかへ溶けていった。



夏はやっぱり好きじゃない。
冷えた麦茶のグラスからテーブルに滴る水滴。
フル稼働するエアコンの唸り声に、彼女の掠れた囁きが遮られる。
薄手のカーペットから伝わるフローリングの堅さもおかまいなしに、私に覆い被さる彼女の体温と、熱を滲ませた瞳。
強引に事を始めようとする彼女に付き合ってあげる代わりに、今夜は何と言われようと、朝までくっついて離れないでいてやる。
そう覚悟を決めて、夏色の甘さに身を委ねながら、私はみやの細い首に両腕を回した。