雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - ブランケット・シンドローム
279 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/12(金) 18:03:19.68 0

眠れない。

そう桃子に相談されたのは、いつのことだっただろう。
彫刻のように整った桃子の横顔を盗み見ながら、、雅は思った。
それが今となっては、どうだろう。
当の本人は雅に体重を預け、お手本のような寝息を立てていた。


「膝枕でもしてあげよーか?」

そんな提案は、八割以上が冗談だった。
いつもからかってくる桃子に対する、ちょっとした仕返しのつもりだった。

「えっ、あの……ほんと、に?」

それなのに、桃子は思った以上に真剣で、それでいて呆けたような表情で確かめるようにそう言った。
桃子の表情に目を奪われ、言葉を失ったのはほんの一瞬。
その間に、冗談だからと笑い飛ばせるタイミングは過ぎ去っていた。

「べ、別に。たまにならいいんじゃないの」

ぱちぱち、とせわしなく瞬きをしながら、桃子の唇が小さく開いては閉じてを繰り返す。

「なんか、言ってよ」
「や、ごめん……ちょっとびっくりしすぎて」

まだ驚きの余韻を引きずっている様子で、桃子はしみじみとつぶやいた。
その指先が頬を摘み、いてて、とささやかな独り言が耳に届く。
そんなに意外な提案だったろうか、と胸がざわついた。

「たまにって、今からでも良いの?」
「好きに、すれば」

そんなことがあって、雅はしばしば楽屋で桃子に肩を貸してやるようになった。
膝でなく肩になったのは、気軽に借りづらいと桃子が言ったからだ。
「たまに」と言ったはずが「いつも」に変わるのに、それほど時間はかからなかった。
仕事の合間にふとできる、些細なすきま時間。
桃子は、それがさも自然なことであるかのように雅の隣へとやってくる。
雅もまた、なんでもない顔をしてそれを受け入れた。
最初の頃こそ、不思議そうなメンバーの視線を感じることもあった。
だが、時が経つにつれてその視線も薄れていき、やがて桃子が雅の隣で寝ているのは楽屋の日常になった。

280 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/12(金) 18:03:55.33 0

ソファの上で膝を抱え込み、丸まって眠る桃子をブランケットが包む。
少し上の角度からその様子を眺めていると、出会ったばかりの幼い桃子が浮かんだ気がした。

「ももーっ! つ、ぎ……あ、寝てる?」

楽屋のドアが開くのと、千奈美の大声が耳に飛び込んできたのはほぼ同時だった。
少し遅れて雅の隣に桃子がいることに気づいたらしく、語尾が尻すぼみに消えていく。

「お疲れ。どうせ起こすし大丈夫でしょ」
「あーそっか! ジュース買いに行きたいから起こしといて!」
「はいはい、いってらっしゃい」

言いたいことだけを詰め込むと、じゃあね!と千奈美は慌ただしくいなくなった。
全く、と雅が苦笑する横で、丸まっていた桃子が身動ぐ。

「ちぃ、ちゃん……?」
「もも、次だって」
「へ? あ、そっか」

もぞもぞとブランケットから抜け出し、桃子は小さく伸びをした。

「よく寝れた?」
「ん、おかげさまで」

じゃあ行ってくるね、と立ち上がりかけた桃子が、不意に振り返る。
どうした、と雅が尋ねるより先に、ふわりとしたものが手に触れた。

「これ、使っててもいーよ」

にやりとした表情を残し、桃子はくるりと向きを変えて行ってしまった。
手元に残されたブランケットは、さらさらと指によく馴染む。
桃子を真似てそれにくるまると、ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐった。
理由は分からないが、その香りにとくんと心臓が跳ねた気がした。
すう、と瞼を閉じたのは無意識で、すとんと雅の意識は落ちていった。

みーやんと呼ぶ声が、浅瀬にいた意識をぐいと引っ張り上げる。

「うー……?」
「みーやん、起きて。撮影、次だって」
「……え? あ、もう?」
「うん」

壁に備え付けられた時計は、確かにさっきよりも針を進めていた。
寝ようと意識した記憶はないのに、ぽっかりと時間だけが抜け落ちている。

「そんなに気持ち良かった? これ」
「あー、うん。ありがと」

差し出された手に促されてブランケットを渡すと、雅はゆらりと立ち上がった。
頑張って、と間延びした桃子の声にひらりと手を振ると、部屋を後にする。
ひんやりとした廊下に出て初めて、まだ掌に残るブランケットの温もりに気がついた。

281 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/12(金) 18:04:37.07 0


そんな「いつも」に違和感を覚えたのは、それから少し経ってからのことだった。
ぼんやりと書き物をしながら、ふと最近桃子が寄ってこないことに気がついた。
雅が隣にいなくとも、眠れるようになったのか。
それならば喜ばしいことだと思う一方で、肩のあたりが肌寒く感じたのはなぜだろう。

「みやー、もも知らない?」
「さあ? またどっか行ってんじゃないの?」

もう、と佐紀が少し不満げに息を吐く。
最近ももが楽屋にいないから探すのが面倒臭い、なんてぼやきが聞こえる。
些細な言葉だったが、不意に脳みその奥の方を引っかかれた気がした。
かつては「いつも」だった光景が、「たまに」に変わっていたはずが、また逆戻りしている。

「……ちょっと、出てくる」
「え? でもみやそろそろ」
「すぐ戻る」

佐紀の唇が震え、何か言おうとしているのを予感する。
それに気づかなかった顔をして、雅は部屋を飛び出した。

282 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/12(金) 18:04:52.48 0


脳内で事務所の地図を広げ、桃子のいそうな場所を絞り込む。
3ヶ所目で桃子を発見できたのは、運が良いのやら悪いのやら。
自販機の横のソファで俯いている桃子は、眠っているようにも何か考え込んでいるようにも映った。

「……もも?」

しばし逡巡した後、そっと名前を呼んでみる。
びくりと派手に体が跳ね、弾かれたようにその顔が持ち上がった。
まさに寝起きといった様子でうろついていた視線が、やがて雅にぴたりと定められた。
それと同時に丸く開かれた瞳を見るに、雅がいることが心底意外であるといった様子。

「どしたの、昼寝?」
「あ、うん、ちょっと」

そう言うわりに、お決まりのブランケットは見当たらない。

「寝られるようになったんだ?」
「ま、まあ……うん」

よかったね、と吐き出した声は、どこか遠い場所で響いた。
ぎゅ、と肋骨のあたりが軋んだ気がした。

「キャプテンが探してた」
「げっ、なんだろ」
「さあ。楽屋、まだいると思うよ」
「ありがと」

雅の脇をすり抜ける桃子を、よっぽど呼び止めようかと思って押しとどめる。
ぱたぱたと遠くなる足音を聞きながら、雅は重力に任せてぐらりとソファへ体重を落とした。
胸の中でもやもやとしたものが渦巻いていたが、それが何なのかさっぱり分からない。

「……なんで?」

経験のない感情への戸惑いは、独り言になって転がり落ちる。
ぐっと拳を握ると、手のひらに爪が突き刺さった。
数日前に触れたはずのブランケットの熱は、すっかり消えてしまっていた。


おわり

283 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/12(金) 18:08:32.35 0

みやびちゃんに貸したブランケットの残り香にドキドキしちゃったももちは自分の気持ちをそこで自覚したらいいなという妄想でした
みやびちゃんはこの後何やかんやあって自分の気持ちに気づいた後に告白したらいいと思います