雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - ベルとコンスタンス
677名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/10(日) 20:47:39.520

派手に開かれたドアの音に、私のお昼寝は邪魔された。
柔らかな日差しの中で、小鳥たちが鳴いていて。こんな素敵なお休みの日に、何事だっていうの?文句の一つも言ってやらなくちゃ。
顔を上げた私は、目の前に立つ人影に文字通り目を丸くした。

「コ、コココ、コ、コ……?!」
「はあい、ベル。もう朝一番の鳥はとっくに鳴いちゃったわよ」
「コンスタンス! あなた、いつの間に……?」
「今朝一番の便で帰ってきたの」

久しぶり、とウインクをしたのは紛うことなくコンスタンスだった。私の幼馴染で、ルームメイト。
服飾の修行だとかで、数ヶ月前に旅に出ていってしまった。そんな彼女が、今私の前で動いている。
自己紹介がまだだったわ。私の名前はベル・アングラード。職業は小説家、って言いたいところだけど――って、ちょっと!

「あらごめんなさい、勝手に触っちゃだめだった?」
「だ、だめではないけれど……」

コンスタンスの手には、床に散らばっていた紙が綺麗に揃えられていた。
どうせ裏紙に使うんでしょう。コンスタンスの言うことは間違ってないわ。でも、でもでも。

「じ、自分でやるから」

コンスタンスの手にある紙束は、私の失敗原稿なんだもの。
慌てて奪い取ったら、全部察してるわって様子でコンスタンスに笑われてしまった。

「その分だと、まだ書いてるのね。よかった」
「そうよ。相変わらずヒット作には恵まれないけれどね」

何がよかったのやらさっぱり分からないけれど、コンスタンスは満足そうに息を吐く。
そのまま彼女は私のソファに体を寛がせた。私のソファに。

「今は? どんなものを書いてるの?」
「新作の構想を練っていたところ」
「そう! どんななの?」
「ま、まだあんまり定まってないの」

もうおしまいにしましょ、と少し無理矢理に会話を終わらせる。
お察しの通り、行き詰まってたところだもの。これ以上は何も出てこないわ。

678名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/10(日) 20:49:05.460

「ベルは変わらないわね。安心したわ」

コンスタンスは……彼女は、すごく変わったと思う。背もちょっぴり伸びたみたいだし、服のセンスも前より大人っぽくなって。
でも、台所も綺麗なままね、ってからかってくるところは全然変わってないみたい。

「私がいなくて心配だったけど、それなりに生きてたのね」
「失礼ね……私だって、食事くらいはちゃんと摂ってるわよ」
「パン屋が近くて助かったわね」

どうしてそこまで見透かされちゃうわけ?
ええそうよ、コンスタンスの言う通り。ほとんど毎日、いつものパン屋にお世話になってるわ。
いいじゃない、日替わりのサンドイッチは美味しいし、食べながら筆を執ることもできるんだもの。

「お掃除も相変わらず苦手なまま」
「そ、それは……今からやろうと思ってたの!」
「嘘は良くないわ」
「う、嘘じゃないもの」

今は本当じゃないだけで、いずれ本当になることだもの。
でもそんな言い分は、コンスタンスによってあっさり受け流された。

「午後は忙しくなりそう」

そう言うわりに、コンスタンスの声は何かとても楽しいことでもあったみたいに弾んでいた。
ぴょこん、とソファから立ち上がると、コンスタンスは私の両手を取る。

「ひとまず、ご飯でも食べに行きましょ? お腹が空いてちゃ良いアイデアも浮かばないわ!」

その両手にリードされて、ダンスを踊るかのようにくるりと一回転。私、そんなにダンスは得意ではないのに。

「待ってよ、コンスタンス!」

コンスタンスに導かれて、私達は町の外へと繰り出した。

917名無し募集中。。。2018/02/28(水) 20:53:28.440

私達のお気に入りのパン屋さんは、私の家から1ブロック離れた場所にある。
ちょうど角に面していて、少しだけど座れる場所もあって。
天気が良い日なんかは、テラス席でおいしいパンを食べながら素敵な本と時間を過ごすのが私の密かな贅沢。

「良い昼食は空腹から始まるってね」
「うちのパンは空腹でなくても美味いけどな」

コンスタンスのジョークに、パン屋のマスターが口髭を震わせながら豪快に笑う。
マスターの言葉通り、ここのパンはどれもきちんと正しく美味しいの。
特にバゲットを使ったサンドイッチは最高で、それこそ毎日食べたって飽きないくらい。
カリッとした外の皮に守られて、野菜は活き活きとしている。
一口噛んだ瞬間の小麦の香りと、鮮度の高い野菜の歯応え。
それに、マスター特製のドレッシングの相性は抜群。
今日は、たっぷりの野菜と自家製のベーコンにチーズの組み合わせ。
美味しそう、ってコンスタンスと微笑みあった時、マスターの声が辺りに響いた。

「あっ! こらぁっ!」

普段は耳にしないマスターの怒号に、私達――通りを行く人たちも――は一斉に振り返る。
灰色の塊が2つ、転がるように石畳の道を駆けていく。と思った時、私の隣でガタリと椅子が音を立てる。
駆け出したコンスタンスの背中が、ずんずんと小さくなった。
思い立ったらすぐに体が動いちゃうところ、全然変わってないのね。

918名無し募集中。。。2018/02/28(水) 20:54:42.900


コンスタンスの分のサンドイッチも抱えて、私は後を追いかけた。
こっちの方だったからしら。
曲がった先は袋小路で、コンスタンスの姿はそこにあった。
両手に、二つの人影を掴んで。

「くそっ! 離せっ」
「馬鹿力おばさん!」

彼女の両腕に捕らわれて、ジタバタと暴れるのはどうやら子どもみたい。
一人は手足がひょろりと長くって、日に焼けた肌。
もう一人は小柄だけれど、しなやかな動きでコンスタンスに抵抗していた。
声の高さや容姿からして二人は——。

「女の子……?」
「みたいね。身寄りもないようだし」

コンスタンスは、二人を引きずるようにして来た道を戻る。
角を曲がると、私たちの後から追いかけてきたマスターがのろのろと走ってくるところだった。

「ああ、ありがとうコンスタンス。今日という今日は許さんからな」

腰に手を当てて、肩をいからせて、いつもは下がっている目は三角に。
マスターの全身から、怒りの感情が湯気になって立ち上っているみたい。

「よくもまあ、毎日毎日うちのパンを盗んでくれたもんだ」
「毎日だったの?」
「そうだよ。おかげで商売あがったりだ」

オーバーな動作でため息をつくと、マスターは腕を組み直した。
繊細なパンを生み出すマスターの二の腕が、ふっくらと盛り上がる。

「……てめえら、うちのパンは好きか?」
「……?」
「好きかどうか聞いてんだよ。答えは『はい』か『いいえ』のどっちかだ」

ぽっかりと口を開けて、間の抜けた顔で少女たちは顔を見合わせた。
どういうことかしら、と私が思っていると、コンスタンスが口を開いた。
なんだかとっても、柔らかい声で。

「マスターのパン、好き?」
「……すき、だけど」
「だったらなにさ!」

威嚇する子犬のように、きゃんきゃんと甲高い声で少女たちが叫ぶ。
それを聞いたマスターは、満足そうに三角の目をまん丸くした。

「はっは! だったら、まずはその薄汚れた体をどうにかしねえとなあ」

にかっと笑うマスターの口元で、髭の影から真っ白な歯が覗く。
マスター、それってつまり?

「覚悟しときな。一生こき使ってやらあ」

コンスタンスからマスターへ、少女たちの体が逞しい腕に引き渡される。
その様子を見ていて、二人の少女たちはきっと良いパン屋になると思ったわ。
そんな予感がしたの。

920名無し募集中。。。2018/02/28(水) 20:55:28.590

お店まで戻ると、マスターはクロワッサンを二つ包んでくれた。

「コンスタンス、これ持ってってくれ」
「もらえないって」
「いいから、もらっといてくれ」

気持ちだから、と茶色い紙袋がコンスタンスの手に押し付けられる。
でも、と食い下がろうとしたコンスタンスだけど、マスターの顔があんまりにも真剣だから受け取ることにしたみたい。
まったく、コンスタンスったら不思議なところで真面目なの。
私だったら素直にもらっちゃうところよ。

「びっくりした、あんなこともあるのね」

さっきまで座っていた場所に戻って、私たちは食事を再開した。

「この後どうするの?」
「本でも借りに行こうかと思っているの」
「あら、それいいわね」

コンスタンス、あなた本なんて読んだかしら。
昔は、私が本を読んでいたって退屈そうな顔をしていたじゃないの。

「私だって、本くらい読むようになったの」

片目を瞑って、コンスタンスは歌うように言った。