雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - Re: start
409 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/12(月) 01:47:46.94 0

かち、と時計の針がまた一つ進むのが見えた。
気づけば、さっきはてっぺんあたりにいた針先が、今や90度回転した場所にいる。
そんなに時間が経っていることに少し驚いたけれど、だからといって何かをしようという気持ちが起こるわけでもない。
この部屋に、みやが来るまで。あと、45分。


初めての時を、みやは覚えているんだろうか。
未だに、シーツに刻まれた皺まで鮮明に思い出せると言ったら、どんな顔をするんだろう。
過ぎ去ったことに触れないのは、私たちの間にいつのまにか存在していた約束。

なぐさめてあげよっか?

今日の晩御飯なんだろうね、とか。
明日は晴れるかなあ、とか。
みやの言葉はそんな何気ない空気を伴っていて、ついつい受け流してしまいそうになった。

さいきん、つかれてるみたいだから。

そう囁く声があまりにも柔らかくて、否定の言葉が喉につっかえる。
勉強と、実習と、お仕事と。
1日に3つ4つ予定が重なるような日々の中で、疲れているなんて考えたこともなかった。
ううん、きっと見ないようにしてただけ。
だって、自覚してしまったら、立っていられなくなっちゃうから。
でも、みやの言葉はあっさりとその蓋を取り去ってしまったみたいだった。
そうこうしているうちに、頭に触れるみやの手のひら。
ぴんと張っていた糸が、ぷつりと切れる音を聞いた。


頭を撫でる手のひらは、いつしか首筋をなぞるようになった。
布ごしの体温は、いつしか直接肌に触れるようになった。
どう名前をつけて良いか分からない関係は、熱くも冷たくもなくてちょうど良い。
MCとかではツンデレ全開でいじってくるくせに、みやはいつもひどく優しく触れてきた。
その指先やら、唇やらの余韻を、何度反芻したか分からない。
甘えてるなとも思うけれど、想像の中で頼るくらいは許してほしい。
だって私は、誰かに体重を支えてもらいたい派だから。

410 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/12(月) 01:50:37.37 0

10年以上続いたグループが活動停止を迎えることになっても、ゆるやかな関係性は細々と続いた。
ちょっと、意外だった。
てっきりみやからは、もうおしまいにしようって言われると思っていたから。

つぎ、いつあいてる?

未来の話をされて、とくとくと逸る心臓を抑えつけながら返信をした。
宙ぶらりんな関係を、どうせいつかは終わらせなきゃいけないことくらい痛いほど理解してる。
でも、それならいっそ、みやに切り離してほしいと思った。
ここでもやっぱり、私は甘えていたんだと思う。

それが行われるのは、みやの部屋や私の部屋、はたまたどこかのホテルの一室になった。
どこかに遊びに行くことはしないくせに、わざわざ数時間の空きを作って体を重ねる。
そんな私たちを、やっぱりどう呼んでいいかは分からないまま。
でも、みやに会える日が、すごく楽しみで。
それだけは、本当に本当のことだった。


ぬるい日々をいきなり壊したのは、みやから届いた一通のメールだった。
話がしたい、という一文に心臓をぎゅっと掴まれたみたいだった。
短いメールを眺めながら、一体みやがどんな顔でこれを打ったんだろうと不意に想像する。
もともとは、うちがみやを巻き込んでしまったようなもの。
みやには、いつだって終わらせる権利がある。
そう思ってしまったら、その先に訪れる未来を受け入れざるを得なかった。
約束は午後3時。ちょうどおやつの時間だなって場違いなことまで思考はころころ転がって。
ヒールの音が玄関のドアの向こうから聞こえてきて、私ははっと時計に目をやった。
そろそろ、またてっぺんに戻ってこようとしている長針。
きっと、あと数秒もしないうちにインターホンが鳴り響く。
ドアを開けたら、恐らくいつもよりちょっと豪華な手土産とか手に提げて、みやはお邪魔しますって言いながら笑うんだ。

ドアの向こうで、こつん、と足音が止まった気配がする。
想像通りにインターフォンは鳴り響き、私の中のスイッチをぱちりと切り替えさせた。

412 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/12(月) 01:55:17.00 0

*  *  *

インターフォンが部屋の中で響くのを聞きながら、この部屋に来るのは何回めだろう、とぼんやり思った。
右手に提げた手土産は、最近話題の店のプリン。生クリームとかのってるやつ。
わりと高かったんだけど、ももと一緒に食べることを想像したら何の躊躇いもなく購入していた。
たっぷり10は数えたあたりで、がちゃりと鍵の開く音がする。
そっと顔を覗かせたももはやけに青白い顔をしていて、少し心配になった。
ただ、くるりと向きを変えたももの後頭部で髪の毛がぴょこんと跳ねていたから、単に寝起きってだけかも。

「お邪魔しまーす。あ、冷蔵庫開けてもいい?」
「お好きにどうぞ」

いつだってももはそう言うけど、やっぱりうちは勝手にいじれないなって思う。
大体のことは頭に入ってるけど、それとこれとは別っていうか、ね。
ふと振り返ると、ももは当たり前みたいに寝室へと消えていこうとしていた。
まあ、話なんてどこでもできるか。
手早くプリンを冷蔵庫に収めると、うちはその背中を追いかけた。


うちとももがこんな関係になってから、もうゆうに数年が経ってしまった。

なぐさめてあげよっか?

あの日、そう口にしたのは、決して気まぐれなんかじゃなかった。
でも、多忙なスケジュールで疲れが見え始めたももに、何かしてあげたい……なんていうのは、半分以上建前で。
本当は、ただただうちが、ももに触れたかっただけだった。
もっとも、それに気がついたのはもうちょっと後になってからだったけど。
でも、ももがあまりに頼りなく目をうろつかせたから、あーこれ本格的にまずいやつだってことも察しがついたから。
無意識に、ももの頭へと手が伸びていた。
その時の行動には、下心とか全然なくて。ただただ、ももの疲れを和らげたいっていう純粋な気持ちだけだった。


二人の関係が深いものになるのに、たぶんそんなに時間はかからなかった。
うちが少しずつ縮める距離を、ももは何も言わずに受け入れてくれた。
弱っているところにつけ込んでいたのも分かっていたけれど、理性よりも感情が先に体を突き動かしていた。
ももに触れる時は、決まって指先が臆病になった。
少しでも間違えたら、全部がパーになってしまうような気がして。
そうやって、うちらは緩いつながりを保ったまま、グループは活動を停止した。

413 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/12(月) 01:56:22.76 0

終わりにしようとは言い出せるはずもなくて、気がつけばいつものようにお決まりの文面でメールを送っていた。
ももからは当たり前のように相変わらずの返事がきて、内心ではすごくほっとした。
このまま、細々とでもいいからこの繋がりが続いていけばいいのに。
でも、それが長くは続かないことも頭の片隅でちゃんと分かっていた。

そう遠くない未来、ももがアイドルを卒業してしまったら。
そしたら、うちらが会う名目は実質なくなってしまうし、きっとこの関係もおしまい。
いつだったか忘れたけれど、ふとその事実に行き着いてしまった。
よりにもよって、もものベッドの上で、ももが寝ているその横で。
本当は、体を重ね合わせなくたっていい。
こうやって息が触れ合いそうな距離で、一緒にいられるだけでいい。
自分の中に芽生えた穏やかな感情には、少し前から気がつき始めていた。
それを認めたところで、ももが同じ気持ちかどうかなんて、分かるはずがない。

でも、もう限界、かもね。

どっちにしろ、今の関係は続けてられそうにない。
直感が、頭の中でそう告げた。
隣では、ももがちょっと間抜けな顔で、すやすやと寝息を立てている。
お腹の奥から押し出された感情が、ぎゅっと喉を詰まらせた。
抱き寄せたももの体は小さくて、温かくて。
やっぱり好きなんだと、思わざるを得なかった。

414 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/12(月) 01:57:50.84 0


だから今日は、中途半端なこの関係を、終わらせるために来た。
電気のついていない寝室に入ると、ももはこの世の終わりみたいな顔をしていた。
ももが腰掛けるベッドの縁に並んで座ると、話って何、とももの方から切り出される。
想像以上に弱々しく掠れた声が、うちをどきりとさせた。

「なんだと思う?」
「言ってくれなきゃ、分かんない」
「知ってる」

ぽん、ぽん、と言葉のやりとりをしながら、自分の中で心を整える。
うちにだってタイミングってものがある。
それも、わりと一世一代って感じのことを今からやろうとしてるわけだから。
息を吐いて、吸って、新鮮な空気を体全体に行き渡らせる。

「……あのね、もも」

もうこういうこと、おわりにしようと思って。

昨夜何度も練習した通り、セリフはスムーズに形になった。
こういう時、お芝居に少しでも関わっといてよかったな、なんて思ったりして。
絞り出すように、うん、と低く唸るような声が返ってくる。
でも、ここからが、本題。

「だからさ……今から、ちゃんとっていうか……おつ、おつきあい、したいなって思って」

ももが、ゆっくりと2回まばたきをしたのが、薄暗い中でもしっかりと見えた。
これは、どういう反応だろう。
びっくりしてる? それとも、ドン引き? ……ないわーって感じ?

「あの、もも?」
「……ふぅっ、ぇ……っ」
「えっ、は?」

みるみるうちにももの顔がきゅっと歪むと、まばたきの度に溢れた雫が頬を伝うのが見えた。
嘘、え、泣いてる? もも、が?
予想外の反応すぎて、どうしていいか分からない。
昨日のシミュレーションには、全く含まれてなかったパターンなわけで。

「ちょ、もも? な、え、気持ち悪い? 何?」
「ちがっ、ちがう、よぅ」

ももの手のひらにぺしっと肩を叩かれたけれど、やっぱり戸惑いは消えなくて、むしろ大きくなったみたいだった。
違うって何が? どこか痛いところでもあるの?
ももが泣いていることにあたふたしまくっていたうちの手を、ももの手がぎゅっと捕まえる。

「う、うれしい、のっ! わかっ、てよっ……!」
「え、あ、うれしい……うれしい、の?」

それって、つまり、うちとももの気持ちが、一緒だったってことで、いいの、かな。
思わぬももの反応と、つないだ手の熱さ。
張りつめていた気持ちがぷつんと途切れて、代わりに心地よい温もりが指先から全身へと広がっていく。
どさりと後ろに倒れ込み、繋いだままの手を引くと、ももをぎゅっと抱きしめた。
まだ、ぐすぐすと鼻を鳴らしているのが聞こえる。
そんなももの背中をさすりながら、うちの体に満ちた温もりがももに伝わればいいのに、と思った。