雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - Y(side 桃子)
232 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/17(月) 22:41:34.23 0

「これから違う世界に生きるみやとは、きっともう一緒に居られない。」


そう言って別れ話を始めたのは、私からだった。
みやがあんなに縋るような目をする人だったなんて知らなかった。
いつだってみやは慈愛に満ちた優しい眼差しか、情愛に溢れた熱い眼差しを私に投げかける人だった。

何度も頭の中でシュミレーションはしたけれど。
とんでもないことを今言っているのだと自覚したのは、まさにこの瞬間だった。

「何…言ってんの……?」

声を聞いただけで、みやが泣いてるとわかる。

うちのこと、嫌いになった?
他に好きな人ができた?

そんな訳、ない。

悪いところあったら言って、直すから。

そんなくだらない台詞を、言わせたい訳でもない。

「違うんだよ、みや。そうじゃない。」

私は、みやが大好きで。
こう話してるこの瞬間も。
自分以上に愛せる存在は、みやしか居ない。
それでもどうしても伝えなければならなかった。
身を切られる思いで、何回も練習した次の言葉を続ける。

「今までとは違うんだよ。これからは。
取り巻く環境も、生活スタイルも。
ももはみやの力になってあげられないし、みやの足手まといになる。」

234 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/17(月) 22:41:56.96 0

そう思い始めたのはいつからだろう。
卒業を決めたあの日からだろうか。
アイドル卒業とともに芸能界を去るつもりだと、最初に伝えたのはみやだった。

そっか、次何するの?
やっぱり幼稚園の先生?

みやはなんで?とか勿体無いとかそんな言葉を発することはなかった。

そんなまだ具体的じゃないんだけど。
子供の教育に関わる仕事がしたいんだ。

そう返せば、ももらしいね、応援するよと頭を撫でてくれた。
愛されてるんだなと幸せな気持ちになる一方で、みやを失う恐怖が芽生えた。

違う世界に行くということは。
今までずっと一緒だった仕事や環境がガラリと変わる。
共通の話題だってなくなっていく。
甘い言葉を囁く時間も好きだけど、仕事のことで話し合う時間も大好きだった。
私の提案をみやは素直に受け止めて、私はみやの鋭い指摘に納得して。
みやは私生活においても、仕事においても、本当に最高のパートナーだった。

だけど私が芸能界を引退してしまったらどうなのか。

今自分が居る世界が急に違ったものに見えてくる。
華やかで騒がしくて残酷な世界。
そんな世界から身を引いた自分は、みやの悩みに寄り添えるだろうか。
支えになれるだろうか。
みやは優しいから、きっと何でも受け止めてくれる。
噛み合わない話題も、曖昧な答えも。
でも。
何より自分が許せなくて。

卒業ライブ前日の夜。
緊張する私を心配したみやはただ寄り添って眠るためだけに会いに来てくれた。
私はただ抱きしめて、ぬくもりを感じながら考えていた。
いつだって、みやの最高のパートナーでいたい。
その思いが叶わないなら。
明日でお別れしよう。
覚悟を決めた夜だった。


静かに涙を流すみやは、ずっと黙ったまま。
ある意味、好都合だった。
なにかこれ以上言われてしまったら、決心が揺らいでしまいそうだったから。
ごめんね。
そう言って立ち去ることしかできなかった。

苦しくて息ができない。
みやを失うことは、こんなにも辛い。
でも、せめて自分の手で。
みやに無理をさせるその前に。
最高のパートナーのままで、終われてよかった。

その日初めて声を上げて泣いた。

294 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/18(火) 01:59:37.54 0

それからは。

喪失感を誤魔化すかのように、すぐに大学院に進むための勉強に取り組み始めた。
無事に入学を決めてからもしばらく外からの情報を遮断して、
まっさらな気持ちで新しい世界へと飛び込んでいった。
たまたま勉強しながら久しぶりにつけてみたラジオ。
そこから聞こえる懐かしい歌声に、思わず手を止める。
曲終わりに紹介されるアーティスト名に、動悸が早まる。
あの声を間違えるはずがなかった。
無意識に携帯を手にとって、検索エンジンに歌声の主の名前を入れた。

あの日から今まで。
1年も経っていないのに、すでに知らないことばかりで。
活動を嬉しく思う一方で世界の隔たりをとんでもなく感じた。

生きる世界が違うって、こういうことなんだ。

手帳型のカバーを閉じて、そっとラジオを消した。



あの日からどれだけの季節が巡っただろう。
それなりに恋をして、結婚することになった。
相手は私のことを何でも受け止めてくれて。
たまにちょっとウザがられて。
それでも目は優しく笑っていて。

まるで、みやみたいな人だった。

わかっている。
自分がいまだに未練がましくみやを追い求めてることも、彼にみやの影を重ねていることも。
罪悪感がないわけじゃない。
だけど、どうすることもできなかった。
この人とならまだ、やっていける。
そう思ったから結婚を受け入れることができた。

295 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/18(火) 02:00:08.19 0

結婚式の招待状にそれぞれの人に想いを馳せながら、昔馴染みの名前を書いていく。
みやの名前を書く番になって筆が止まった。
これで本当に、違う世界の住人になってしまうようで。
自分から終わりを告げたのに、私はまだ。
それ以上の感情に蓋をして、一気に名前を書き上げた。



結婚式当日。
バージンロードを歩くとき、目の端に写ったみやの姿。
ただ立っていただけなのに誰よりも目に留まって。
誰よりも気になった。
去り際に目元をハンカチで抑えるみやを見て、気が気じゃなかった。
披露宴が始まってもそれは変わらない。
こんなに着飾っているのに、みやの前に立った途端
心を丸裸にされるような、そんな感覚に陥った。

「もも、結婚おめでとう。」
「ありがとう…来てくれないかと思った。」
「何言ってんの。ちゃんと祝うに決まってるじゃん。」
「ほんと、ありがと。」

私、上手く笑えてるかな。
こんなとき、アイドルやってて良かったなって心底思う。

みやは変わらない。
あんな酷い一方的な別れ方をした私を、
付き合っていた頃と変わらない包み込むような優しい眼差しで見つめてくれる。

やっぱり、みやが好きだ。

けじめをつけようとしていた。
みやに直接会って、ちゃんと気持ちに区切りをつけようと考えていた。
でも、逆に想いが溢れてきて。
こんなに好きなのに傍にはいられない。
こんなに好きなのに。
もう、あの頃には戻れない。

ごめんね。

自然と出た言葉は、あの日と変わらなかった。

296 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/18(火) 02:00:25.58 0

幸せになってね。
そうじゃなきゃ、この気持ちを抑えられなくなる。
もものことなんて必要ないって、思わせるくらい活躍してよ。


生きる世界が違っても。
ちゃんと見てるから、みや。


人生二回目。
夏焼雅と検索をかける。
ブログを開いて、お気に入りに登録した。




おわり