「『ゴジラは無敵ではない。戦いを諦めた人類にこそ非があった』……というのが彼(
ビルサルド)の主張だ」
「だがその為にはタニ曹長を見捨てるという選択が必要だった。それこそ君もまた、怪獣に成り果てていただろう。肉体ではなく、心の在り方として」
「知性ある者は迷う。怒る。悲しむ。我々の戦いは、その果ての物でなければならない。だが
ビルサルドは、そうした魂の本質を軽視している……」
「本質としては邪悪なる物……、怪獣と変わらない。それを崇拝する
ビルサルドにも危惧を覚える。彼らの考え方はあまりにも無機質だ。……だが、それは本当に知性と呼べるのだろうか」
「多くの星の文明が、進歩の果てに怪獣を生み出してきたと、以前にも話した事があったな。
ビルサルドもまた、今になって同じ轍を歩もうとしているのかもしれない」
「数多の世界で栄華を極めた文明が、いずれは辿り着く禁断の領域。その扉を押し開いた時、怪獣は産声をあげる」
「“ゴジラ”を産み出すに至った文明は、その岐路を踏み越えた時点で、破滅を運命付けられているのだ。後はその滅びを、どう甘受するか。最期まで毅然と、誇り高くあるべきだとは、思わないか……?」
「アレは、傲れる者への裁きの鉄槌。自らを万物の霊長とまで僭称した種族には、必ずや摂理の復讐者が訪れる。故にヤツは……」
「君もリーランド大佐も、まだまだ肝心なところでアレの本質を理解していない。……ヤツは決して人類を見逃さない」
「死せる定めの儚き者が身の程を忘れ栄華を謳うとき、祖は天を揺るがし地を砕き、摂理の怒りを知らしむる。必定たる、滅びの具現」
「漸くのお出ましか。こちらでは20年。そちらでは2万年ぶりの再会だ……」
「━━━久しいな。破壊の王よ」
「隆盛を極め、未来すら見通す科学を手に入れた我々の先祖は、時を越えて、永遠不変の真理を探し求めた。エクシフの歴史の、最も傲慢なる時期だ」
「そして時の果ての未来を計算し、結論に至ってしまったのだ。永遠等存在しないのだと」
「かつて我等エクシフの文明は、究極の真理の探求の末自らを供物と成し、神との合一を遂げて完結した」
「そしてこの祝福を遍く宇宙に広げる為、我等一握りの神官のみが残された……」
「全ては、運命なのです」
「10万年も昔、我々の母なる星もまた怪獣に滅ぼされ、我々は宇宙放浪者になりました。そこでエクシフは自分達の使命を悟ったのです」
「即ち、同じ試練に晒された他種族に導きを示す伝導の道を」
「極度に発展した科学は魔法と区別がつかない……というのは、人間の科学者の言葉だったね。ならばこう考えたことはないか、神の存在をオカルトや迷信の類と同列に語るのは、そもそも君達の科学が神を理解できる程成熟していないからだと」
「我々にとって神の存在は数学的帰結だ。未だ君達の到らないゲマトリア演算のテクノロジーが、我々に高次元存在との接触を実現させたのだ」
「君の熱意には興味があってね。誰もが忘却に沈めたい禁断の記憶を、そこまで躍起になって掘り起こすのは……何故だ?」
「ゴジラと対峙する英雄には君こそが相応しい。いずれ、それが証明される時が来るだろう」
「戦いの中で恐怖に呑まれそうになった時思い出せ。この宇宙には、より絶対的な破壊の力が潜んでいる。それに比べれば、ゴジラなど恐るるに足らないと……」
「ギドラだ」
「……記憶の片隅に置いておきたまえ。ただし、決して人前で口にしてはならない」
「我々は遠い昔から、君達地球人を監視してきた。ゴジラが現れるより以前、その文明の曙にまで遡り、我等は連綿と、地球人に介入し続けてきた。それ程君達は、興味深い観察対象だったのだ」
「故に我等は人類について、君達自身が知るより多くを知っている。君達が本質に於いて群体であることも、“自由意思”と呼びうる自立性が、実際には稀有であることも」
『地球人や
ビルサルドに関しては、わざわざ思念を読むまでもない。テレパスを知らない種族は、心の秘匿に無頓着だからね。声や表情、立ち振舞い全てに思考と感情が剥き出しだ。ただ眺めているだけで、何もかも見通せる』
「闇など恐れるに足りません。心の灯火を以て照らすのです。信仰が指し示す道は、目を閉じていても進めます。恐れず、迷わず、ただ祈るのです」
「安らぎは其処にある」 エンダルフ 声 山路和弘
『そうとも。繁栄を求める飽くなき向上は、人の性。そしてまた、再び収穫の季節は巡り来る。時は、我等の味方だ。我々は焦らず、ただ待つだけでいい……』
「御覧の通り、鍋は空になりました。しかし、中にあったスープは、ただ消えてなくなったわけではない。皆さんの血肉となり、一体となった。滅びでもなく、死でもなく、ただ“鍋の中のスープ”という在り方を捨てただけのことです」
「より偉大なる物と合一し、新たなる存在へと転化する。これこそが即ち、“献身”です。ただし我々はスープと違い、何者に対してその身を捧げるのかを自ら選ぶ事が出来る。後は、思索あるのみです」
「その通り。ゴジラをも凌駕して強大なる者。至高の存在たる神。これに献身し一体となるより外に、勝利への道筋は有り得ません」
『迷える者達に導きを。救済と祝福を』
「迷うのもまた、知性ある者ゆえ。されど迷いしまま神の門に到る者は、それをくぐること能わず」
「しかれども、ここに集いし知性ある者は、大いなる合一のもと、神の恩寵を知るであろう。神を讃えよ。全ては献身の道へと続く。ガルビトリウムの導きが、君たちと共に在らんことを」 エンダルフ - エクシフ 声 山路和弘
『辰星の並びは啓示の通り。だが予想外の企ても多う御座いました。僭越ながら、余計な回り道もあったのでは?』 エンダルフ - エクシフ 声 山路和弘
『いいや。供物を完璧な形に仕上げる為には、さらにもう一手を詰める必要がある』 メトフィエス - エクシフ 声 櫻井孝宏
「真の栄光へと至る道は、献身のみによって拓かれる。それは我等エクシフの教義だ。人間の中でそれを体現する者は数少ない。そんな稀有な例外が、君だ」
「最も古い記憶ですら君は、恐怖と絶望の虜だった」
「……不思議な物だな。若い連中と違って、君もまた、災厄を直接に体験した世代だろうに。……なのに君は、まるでもう一度ヤツに逢いたがっているかのようだ」
『それは君の本心かね?より正確な言葉で聞かせてもらいたい。君はゴジラを倒す手段がないのか、それともゴジラを倒す覚悟を見失ったのか』
「ハルオ、見失ってはいけない。今日まで君を突き動かしてきた物を!」
「もし仮に、この星から全ての人類が消え失せたとして、後に残されたゴジラは、果たしてゴジラ足り得るだろうか?」
「ゴジラをゴジラ足らしめる物、それは、君の憎しみなんだ」
「今君の胸を焦がすその怒り、ゴジラに向けて募らせたその憎しみはいつか、祈りとなって神の元に届くだろう。故に私は待っている。君の中で、神を疑う思いよりも尚、ゴジラを憎む思いが勝る、その時を」
「怪獣を怪獣足らしめるのは恐怖、人を英雄足らしめるのは憎悪、そして、神を神足らしめるのは英雄による祈りだ」
「神の言葉は決して人には届かない。人には人の言葉のみしか通じない。ならば、人の身にありながら、その口を介して神の導きを語る者が必要だ」
「故に君達は英雄を求める。地位でもなく、理性でもなく、信念と行動によって時代の精神を担う者。人はその統率に心酔し、その言葉の中に真理を探し、その眼差しの先に、神を見出だす」
「全ての人を神の門へと至らしめる必要はない。ただ一人の英雄が道の在処を示すなら、君達の行列は、その後に続くだろう」
「私は探していた。待っていた。人の歴史を総括し、最後の導きを示す者」
「そう、君を待ちわびていたんだよ」
「ハルオ……」
「新たなゴジラに成り変わるのではなく、あくまで人としてゴジラに抗い、ゴジラを呪い続けた君にこそ、我等が神を讃えてほしい。その声で神を呼び招いてほしいのだ。君という英雄が魂を捧げることで、遂にギドラの神性は、この世界に於いても確固たる物となる」
「多くの人間が、ゴジラに挑み命を散らした。その系譜の最後にいるのが君だ、ハルオ。彼らの声に応え、決着をつけるべきときなんだ」
「最も気高く、誇り高く、人としての在り方を信じて疑わないのが君だ!だからこそ私は君を見出だした。真にゴジラを憎む者として、神の前に立つべき英雄。前にもそう言っただろう、ハルオ」
「君達の長い旅路は、滅びと向き合う為の巡礼だった。ゴジラとは、飽くなき繁栄を求めた傲慢への、“罰”。それを乗り越える為には、より大いなる物への献身を以て、人という種の魂を浄化するしかない」
「だからこそ霊長の精神は死を超えたさらに果て……滅びの向こう側の領域を探求せねばならないんだよ」
「星という種から命が芽吹き、人という花が文明を咲き誇らせる。その果てに実る果実がゴジラだ。我々エクシフは数多の星で、そのサイクルを見届けてきた。そして最後に果実を摘み取り喰らう者。それこそが我等が神」
「悠久の時を超えて受け継がれる我が使命が、今まさに果たされんとしている」
「……この時を待っていた。君達との邂逅も、長きに亘る虚空の旅も、全てはこの、収穫の日の為に」
「王たるギドラ。黄金の終焉。この宇宙の森羅万象が、かの御方への捧げ物としてのみ存在し、価値を持つ」
「讃えよ、終焉の翼を。唱えよ、金色の御名を。そして求めよ、勝利と祝福を…!」
「さあ、伏して拝むがいい。黄金の終焉を」
「苦痛の為の命など、我々は認めない……。滅びへの道は、安らかであるべきだ」
『それは欺瞞だハルオ。命とは恐怖の連続。そこからの解放と永遠の安息は、全ての理性の宿願だ』
『悲しみも、苦しみも……、生きとし生ける全てに課せられる、“呪い”だよ……。 故にハルオ……、命有る限り、ギドラはお前を、見て、いるぞ……!』
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