僕がユリと会いたいということを伝えたら、
春奈はすぐに話してくれて、ユリと会うことになった。

今回は、いままでのハメ撮りとは違う。

何度も念をおされたのは、絶対にセックスは無しという事だった。
そういうのは本当に求めてないから、絶対ダメだと。

ユリが求めているのは、セックスではない。
純粋な暴力。

それは僕にとっても未知の領域で、
「女を本気で殴る」ということが、イメージできなかった。

女に対しての「本気の暴力」が成立するのか?
と思った。

手加減せずに女を殴るなんて、できるんだろうか?
1発殴ったら、それで終わらないか?

やるなら、準備が必要だ、と思った。

ネットで色々と見ながら考えて、
「フィンガーグローブ」と「ヘッドギア」と「ボディプロテクター」を購入することにした。

男が、素手で無抵抗の女を本気で殴るのは、たぶん成立しない。
死んでしまうと思う。

しかし、手加減をしたくない。
茶番になってしまったら、そんな暴力には何の価値もなくなってしまう気がした。

それだと、何も得るものはないぞ、と思った。

グローブや防具をつけたらリアルな暴力から離れてしまわないか?
とも思ったけど、本気で殴れるイメージができた。

やるなら、本気でやりたい。
いくところまでいって、今まで味わったことのない体験をしたいと思った。

道具はすぐに届いた。
ボディプロテクターが2センチくらいしか厚みがなくて、思ったよりも薄かった。

当日。
待ち合わせ場所には春奈も一緒に来てくれることになった。めちゃ助かる。

女も緊張してるだろうけど、僕だってはじめて会うときは緊張する。
春奈がいてくれたら顔合わせがスムーズにすすむ。

ユリを見て、最初に目についたのは、スッピンだったこと。
待ち合わせたのは天王寺で、けっこうな人がいる街。

24の女がそんなところに完全にスッピンで来た。

髪はセミロングで、黒のジップアップパーカーを来ていて、肌の露出はほぼゼロ。

いわゆる「色気」みたいなのはゼロだったけど、
僕にはそんなのは必要なかった。

一般的に言われる色気と、
僕の思う色気は違う。

これでいい、と思った。

スッピンのわりには、顔立ちは整ってるな、と思った。
ブスってことはなかった。

肌はガサガサしていた。

化粧したらかなり可愛くなるんじゃないかとも思ったけど、
今回は顔はわりとどうでもよかった。

僕が気に入ったのは、ガリガリだったこと。
摂食障害っぽい感じに見えた。

このほっといても倒れそうな女を、
思いっきり殴りまくれるのかと、興奮していた。

と同時に、不安もずっと消えなかった。

本当に大丈夫なのか?と。

「本気で殴って、相手が死んでしまうとか、ないのか?」
ということを、ずっと考えていた。

同意のうえとはいえ、殺人は殺人だろう。

相手を殺したり、大怪我をさせたりした場合、
僕が無罪になるとは思えなかった。

そんなことが起こっても不思議ではないくらいに本気でやらなければ意味がない、
とも思っていた。

とにかく、熱くなっていた。

初めて女に本気で暴力を振るう日。
童貞を捨てるときみたいな心境だった。

不安と興奮が入り混じった、なんとも言えない高揚感。

ホテルの前までは、春奈もついて来てくれたから、
気まずくなることもなかった。

ホテル前に着くと、「がんばってね」とユリに声をかけて、
春奈は行ってしまった。

「じゃ、入ろっか」と言ってホテルに入った。

ここまで、僕とユリのあいだでほとんど会話もしていない。

ユリは想像してた通りの根暗でコミュ障まるだしの女だったので、
自分から会話をふってきたりもしないし、特に質問をしてくることもなかった。

こんな初対面のふたりが、今からホテルで、狂った事をする。

部屋に入ってから、はじめてユリから会話をふってきた。

「セックスはしないよ?」

「うん、春奈から何回も釘をさされてるから、大丈夫だよ」

僕は、契約違反はしないと決めている。

倒錯した変態行為を求め続けているからこそ、
「契約」を守ることは徹底してる。
そこを踏み越えてしまったら、長くは続かなくなるから。

その日も、あわよくばセックスに持ち込んでやろうなんて事は、いっさい考えてなかった。

相手が明確にNOと言ってるのなら、しない。

ただ純粋に、本気で暴力をふるえることを、楽しもうと思った。

まずはリュックから、グローブと防具を取り出して床に置いた。

ユリは「こういうの使うんだ・・」とボソボソ言っていた。

あとから聞いた話だけど、ユリは僕が暴力をふるうプレイに慣れていると思っていたらしい。

僕はフィンガーグローブをつけて、ユリにはヘッドギアとボディプロテクターをわたした。
ユリがボディプロテクターを装着したのをみて、「やっぱりこのプロテクター薄いな」と思った。

もう少し厚めのものを買ったほうがよかったかな。
でもしっかりしすぎていたら、暴力の意味がなくなるしなあ。

そんな感じで、ふたりとも道具を装着して、
なにかの試合前みたいなストイックな空気のままで装着感を整えていた。

ユリはシャツの上からプロテクターを装着していたので、色気とかもまったくない。

ハメ撮りをするときと同じで、
「ギブアップ」と言えば、いかなる場合でもプレイは中止するという約束をしたあと、

「じゃ、ボチボチはじめてみよっか?」
「うん」

そんな感じで、向き合った。

漠然とだけど、最初はかるいボディーブローからはじめようとか思ってた。

このくらいでいい?
まだいける?

みたいな会話をしながら。

まだ相手とは自己紹介が終わったばかりみたいな空気感だった。
徐々に体を動かしながら、お互いに調子を合わせていこうか、みたいな。

でも、
向かい合って、プロテクターにグローブをグッと密着させたときに、
ふっと、気が変わった。

「あ。1発目から、本気でいこう」

そう思った。

今まで、ハメ撮りでは、しょっぱなに強いビンタを食らわせてからスタートしてきた。

そうすることで、それまでのゆるい空気感を激変させて、本気の凌辱プレイにスイッチさせてきた。

1発目から本気でやることが大切だと思った。

最初の一発が、その日のルールを決める。
そのルールに耐えられないなら、それで終わりになるだろう。

それでもいい。
こんな特別な日を、茶番で終わらせたくなかった。

無抵抗の人間を本気で殴ったことなんて無い。
本気で殴るというのは、怖い。
大丈夫なのかと不安が募る。

でも、グローブとプロテクターがあるのだから大丈夫だと思うことにした。

(よし・・・)

僕は、勢いをつけた拳を、
ユリの装着してるボディープロテクターに思いっきりめり込ませた。

「ぎっ!!?」

と、うめき声のような短い音を発して、

ユリの足から完全に力がなくなって、
モノみたいに床に崩れ落ちた。

顔から落ちた。

「殴った!」と思った。

プロテクターごしだったけど、完全に「本気で殴った」という感触があった。

どんどん鼓動が早くなっていった。
何が起きるのかがわからなくなっていった。

僕は立ったまま、床に顔をすりつけているユリの目をみた。

ユリも僕の目を見ていた。

いきなり一発目から本気で殴られるなんて想定していなかったらしい。
衝撃を受けている顔をしていた。

怯えるような目に見えた。

でも、「ギブアップ」をいう気配はなかった。

あ。続けてもいいんだ、と思った。

(つづく)

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