残された手記 - 錆に鳴く猫
1.はじめに
本シナリオは現代日本を舞台とした短編である。地域や季節は問わないが、比較的新興の、閑静な住宅街を想定している。プレイヤーの人数は1名から3名が適切だろう。
物語は、探索者達が友人である梶村徹也から、彼の娘についての相談を受ける、とうところから始まる。
従って探索者達はタフで冷徹な人物であるよりも、相談を受けて、それに協力してやろうと思うような、ある程度人情と優しさを持った人物であることが望まれる。
また本シナリオにはイス人が登場するが、現代日本で活動しているイス人とそれを支援する組織については、クトゥルフ・カルトナウにその詳細がある。
物語に直接関係するものではないが、参考にしてみてもいいだろう。

2.シナリオの背景
イスの偉大なる種族は非常に研究熱心な生き物であり、この現代日本にも多くが精神交換を利用して訪れている。
彼らは人間の手先によるサポートを受けながら、基本的には平和裏に自らの知識欲を満たしている。本シナリオに登場するプラチナと名乗る女性もその一人である。
しかしイス人が人間を利用し、研究するのと同じように、イス人の知識や技術を盗もうとした、名取(なとり)という人間がいた。
彼はイス人の精神交換に目を付け、技術の一端を習得したが、完全にコントロールするまでには至らなかった。
そして技術を盗んだことがイス人のグループに発覚し、名取は逃走を余儀なくされる。
はるかに進んだ技術を持つ追手から逃れるのは困難だったが、肉体を拘束される前、彼はなんとか自らの精神を別の肉体のものと交換することに成功する。
しかしその相手は人間でなく、若い雌猫であった。
さらに精神交換の技術が完全ではなかったため、名取の知性と精神は混濁し、著しく損なわれてしまった。
猫となった彼は追手から逃げつつしばらく彷徨っていたが、猫の身ではいつ処分されてしまってもおかしくない。
焦る名取が次に目を付けたのは、猫となった自分に無邪気な表情で近づく、一人の少女、梶村恵那だった。

3.NPC紹介
【梶村 徹也(かじむら てつや】34歳 男性
子煩悩な警察官
STR13 DEX8 INT12 アイデア60
CON13 APP10 POW9 幸運45
SIZ13 SAN45 EDU14 知識70
HP13 MP9 回避16 DB+1d4
信用:77% 目星:67% 心理学:66% 法律:65% 
組み付き:60% 応急手当:55% 図書館:52%
運転〈自動車〉:45% コンピューター:35% 拳銃:30%
マーシャルアーツ:20%   
武器 こぶし50% 1d3+1d4
   組み付き 特殊
高校を卒業後に警察官となり、地元警察署の地域課などで勤務していた。
25歳のときに涼葉(すずは)という幼馴染の女性と結婚し、翌年に恵那をもうけるが、その4年後に妻を病気で亡くしてしまう。
それ以降苦労しながら娘の恵那を育て、愛情を注いできた。
普段は真面目な警察官だが、娘のことになるとどこか自信がなさそうな態度を取ることが多い。
  
【梶村 恵那(かじむら えな)】8歳 女性
精神を交換された少女
STR5 DEX15 INT10 アイデア50
CON12 APP15 POW18 幸運90
SIZ7 SAN0 EDU18 知識90
HP10 MP18 回避30 DB-1d6
武器 こぶし50% 1d3-1d6
徹也の実娘。もともとは明朗快活で思いやりがあり、人見知りをせず、父親にもよく懐いていた。好きなものは猫をはじめとする動物とツナ缶。
しかしシナリオ開始時、彼女の肉体には名取という男の精神が入っていて、以前の彼女からは考えられないような振る舞いをする。
INT、POW、EDUは名取のものとなっている。

【ラスティ(らすてぃ)】1歳半 メス
少女の精神が入った猫
STR3 DEX20 INT15 アイデア75
CON9 APP- POW10 幸運50
SIZ2 SAN45 EDU2 知識10
HP6 MP10 回避40 DB-1d6
武器 引っ掻き50% 1d2
   噛みつき25% 1d3
特定の住処や縄張りを持たず、様々な場所を渡り歩いている猫。全身の体毛が錆に似た赤茶色をしている。
シナリオ開始時、彼女の肉体には恵那の精神が入っているため、INT、POW、EDUは恵那のものとなっている。また、栄養失調のためかなり痩せている。

【プラチナ(ぷらちな)】 女性
イスの偉大なる種族
STR6 DEX7 INT24 アイデア99
CON6 APP17 POW15 幸運75
SIZ11 SAN- EDU20 知識99
HP9 MP15 回避14 DB0
歴史:90% 人類学:85% 生物学:80% 電気修理:66%
機械修理:66% コンピューター:66% 電子工学:56%
オカルト:55% 医学:50% 天文学:50% 薬学:42%
武器 こぶし40% 1d3
   スタンガン40% スタン
精神交換によって現代へとやってきたイス人。人間の手先によるサポートを受けながら、日本において社会学分野の調査研究をおこなっている。
肉体は二十代の日本人女性だが、まだ身体に慣れきっていないため、動作が若干ぎこちない。

4.悩める警察官
探索者達はある週末の夜、友人である梶村徹也から誘いを受ける。なんでも彼は最近娘のことで悩んでおり、それについて相談したい、というのである。
徹也は地元の駅近くにある、静かなバー(レストランなどでも構わない)を指定する。
午後6時か7時の比較的早い約束の時間に探索者達がバーを訪れると、彼はボックス席で、普段はほとんど飲まない酒を飲んでいる。
同時に何か思いつめた様子でもあり、彼の悩み事がそれなりに深刻なのだ、と想像できるだろう。
徹也について、探索者達はプロフィールに書いてあるような程度のことは知っている。
恵那とは直接会ったことがあるかもしれないし、写真などで自慢されただけかもしれない。
徹也の悩みは、その恵那に関することである。彼が娘の異変を感じたのは一か月ほど前。
ある日を境に、娘の態度や様子が、今までとは全く変わってしまった、というのである。
かつては快活で好奇心旺盛、父親に対しても大いに尊敬と愛情を抱いていた恵那だったが、急に言葉数少なく、部屋にこもりがちになってしまった。
のみならず、心配する徹也に対して暴言を吐いたり、乱暴したりすることも一度や二度ではない。
半ば無理やり医師に見せたこともあったが、解離性同一性障害(いわゆる二重人格)かもしれない、といったあいまいな見立てが付くぐらいで、ほとんど役には立たなかった。
学校にも行かなくなり、今は食事こそ摂るものの、ほとんどの時間を部屋にこもって過ごしている。
こういったことを、徹也は心からの苦悩とともに語る。
徹也は娘の変貌について心当たりを尋ねられると、妻が死んでから苦労を掛けすぎたのかもしれない、自分の愛情が足りなかったのかもしれない、と涙を流す。
恵那が豹変した頃に変わったことはなかったか、と訊かれても、この時点では思いつかない、と答える。
徹也は探索者達に話を聞いてもらってほんの少しは気が休まった様子だが、もし可能ならば恵那の様子を直接見てもらって、アドバイスをくれないか、と持ち掛ける。
探索者達の都合が付けば明日の朝にでも来てほしいと頼み、彼は自宅へと戻っていく。

5.豹変した少女
徹也の自宅は、駅から歩いて15分ほどの住宅街にある一軒家である。彼は妻が死ぬ前に購入した、父娘だけで住むにはやや広すぎるこの住居で暮らしている。
妻が死んでからは職場に相談して残業を極力減らしてもらい、実家やヘルパーの助けも受けながら、娘を育ててきたのである。
家は二階建てで、白い外壁とオレンジ色の屋根を持ち、あまり手入れされていない生垣と小さな庭がついている。
インターホンを押せば徹也が探索者達を迎え、屋内へと招き入れるだろう。
このとき、〈目星〉〈聞き耳〉に成功した探索者は、近くで赤錆のような変わった色の痩せた猫が、様子を窺っていることに気付く。
しかし探索者達が何かしようとする前に、猫はどこかへ隠れてしまう。
もし直後、あるいは後になって徹也に猫のことを尋ねるならば、それはおそらく『ラスティ』だと答える。
さらに聞かれるならば、ラスティは二、三週間前に現れるようになった若い猫であり、恵那が猫好きだったこともあってなんとなく餌を与えるようになっているのだという。
しかし今の恵那がラスティを見つけると、暴力的な方法で追い払おうとするため、あまり自宅に上げることはしないのだ、と説明する。
ちなみにラスティという名前は、赤錆色の体毛から徹也が命名した。

恵那の部屋は自宅二階にあり、鍵はかかっていない。彼女は在室しているが、ノックをしても声を掛けても返答はない。
耳をすませばなにか独り言を言っているのが聞こえるが、内容を理解することはできない。そもそも意味のある言葉なのかも定かではないだろう。
恵那は部屋の奥にあるベッドの上にいて、膝を立てた状態で座っている。
全員が入室し、徹也が探索者達を紹介するとようやくその顔を上げるが、その目付きや瞳に宿る感情は、おおよそ8歳の少女とは思えない昏さと狂気を孕むものとなっている。
彼女の圧倒するような態度に対して、探索者達は0/1(恵那と面識がある場合は0/1d2)の正気度を喪失する。
恵那に対して〈医学〉の半分、〈精神医学〉の半分、あるいは〈医学〉と〈精神分析〉の組み合わせロールに成功した探索者は、
彼女の様子が既存の精神疾患とは異なるのではないか、という予感を得る。
〈クトゥルフ神話〉に成功した探索者は、彼女の精神が何か別の人間(あるいは人間以外の何か)のものになっているのではないか、という直感を得て、0/1d2の正気度を追加で失う。
探索者達に対する恵那の態度は、まったく取り付く島もないといった様子で、探索者達に来訪の目的を尋ねる以外に質問はせず、また質問にも意味のある回答をしない。
少しすれば苛立った様子で探索者達に退去を迫り、それでも食い下がれば罵倒や物品を投げつけるなどしてくる。
〈信用〉などを使ったところで、彼女が話し合いに応じることはないだろう。
徹也は恵那の言動を叱るが、それも多分に諦めを含んだ調子である。どのみち、探索者達は撤退を余儀なくされるだろう。

恵那の部屋から出た時点で、一階の方から猫の鳴き声が聞こえてくる。リビングに入ってみれば、そこにある庭に面した窓の付近にいるラスティが見える。
もし探索者達がまだラスティについて質問していないのならば、ここでそうするチャンスがある。
しかし徹也がラスティに餌をやろうとすると、二階にある恵那の部屋からモノが飛んできて、ラスティに命中しかける。ラスティは驚いて姿を消してしまうだろう。
どこか哀愁漂う様子の徹也は、用意しかけた餌を探索者達に手渡し、もし機会があればこれをラスティにやってくれないか、と頼む。
そして可能ならば、定期的にラスティの面倒を見て、気にかけてやってほしいと請う。
探索者達がラスティを探すなら、〈追跡〉で足跡を調べたり、近隣の住民に尋ねたり(〈信用〉〈APP*5〉〉するとよいだろう。
探索者が猫の言葉を解す場合には、あたりの飼い猫・野良猫に尋ねてもよい。どの方法を取ったにせよ、ラスティは近くの公園で見つかる。
もし探索者達が積極的にラスティを追おうとしないとき、あるいは技能に失敗してしまった場合は、次項で述べるプラチナとの接触が先になるだろう。
彼女は既にラスティを確保しているかもしれないし、確保に失敗して(引っ掛かれたりして)血を流しているところを探索者達に見つかるかもしれない。

6.錆色の猫と錆びない女
ラスティが明らかに人語を解しているのは、彼女とコミュニケーションを取ればすぐに判明することである。
それは人に長く飼われた猫が飼い主の心情を汲む、というレベルを明らかに超えている。
もし探索者達がなんらかの工夫(はい、いいえで答えられるような質問をするとか、文字盤を用意するとか)をすれば、かなりの意志疎通が可能となるはずだ。
探索者達がラスティの中身が梶村恵那だと確信するのは、時間の問題だろう。
しかし、恵那は自分に何が起こったかほとんど理解できていないため、それにまつわる詳細については答えることができない。

探索者達がラスティの中身について理解し始めたタイミングで、唐突な訪問者がある。
それはどこか浮世離れした美しさを漂わせる、プラチナと名乗る女性である。
彼女ははじめ柔和に、しかし単刀直入に、ここに錆色の猫がいないか、と尋ねる。
イス人のテクノロジーによってか、それ以外の調査によってか、プラチナはラスティ(厳密には、かつてその肉体を乗っ取っていた名取)の居場所を突き止めたのだ。
しかし自分やその仲間が大々的に動けば、少々厄介なことになる。イス人の存在や技術が世間に知られてはならない。
そこで彼女は、追跡対象の周辺にいる探索者達に接触し、協力を要請しようと考えたのだ。
プラチナは恵那に何が起こったかを知っているため、それをほのめかして探索者達と友好的な関係を築こうとする。
ここで探索者達がプラチナを突き放した場合、彼女と再度接触するのは物語の終盤となってしまうだろう。
自らの身分について、プラチナは可能な限り秘匿するし、それはあまり知るべきではない事柄だ、と探索者達にやんわり警告する。
彼女が名取の暴走によって恐れているのは、まさに自分たちの素性が知られることであり、それを探索者達に明かしてしまっては本末転倒なのだ。
プラチナは頃合いを見計らい、場所を変えて、探索者達と話し合いを持とうとする。

恵那に何が起こったかについて、プラチナは自身の秘密に抵触しないよう注意深く言葉を選びながら説明する。
精神交換という技術があること、名取という男がそれを悪用したこと、しかしその代償として理性と知性が損なわれていること、
このまま彼の暴走を許せば、プラチナにとっても社会にとっても望ましくない事態が起こるであろうこと、
彼の身柄、つまり恵那の肉体をしっかりと確保できれば、なんとか現在起こっている複雑な事態を収拾できる可能性が高いこと、などである。

「それはあなた達とその友人にとっても望ましいことのはず。違いますか?」

そしてプラチナは探索者達に、徹也を説得して彼女と恵那を引き合わせることを要請する。
ごくかいつまんだ説明ではあるが、イス人の技術やそれがもたらすものの一端に触れた探索者達は、0/1d3の正気度を喪失し、1%の〈クトゥルフ神話〉を獲得する。

7.錆びた精神の末路
プラチナの話が終わるか終わらないかのタイミングで、探索者の一人に徹也の携帯から電話がある。しかし探索者が電話に出ると、スピーカーからは恵那の声が聞こえてくる。

「僕だよ。徹也だ。よくわからないけど、なんだか大変なことになった」
「僕は今の所大丈夫だが、僕が大丈夫じゃないみたいなんだ。……警察呼んだ方がいいかな?」

徹也はかなり混乱しているが、実はこのとき、恵那の中に入っていた名取の精神が、徹也の精神と交換されてしまっている。
つまり探索者が通話している相手は、恵那の肉体を借りた徹也ということになる。
そして徹也の肉体には名取の精神が入っている。名取の精神はさらに損なわれ、凶暴性と攻撃性が増している。
尋常でない様子を感じた徹也は、急ぎ探索者達に連絡を取り、助けを求めてきたのだ。
こうなれば厄介な事態が起こるまでに猶予はない。探索者達はすぐに徹也の家へ向かう必要がある。

家に鍵はかかっていないので、探索者達が現場に到着することは容易である。
恵那は二階につながる階段のあたりに隠れているが、探索者達が入ってくるとそれを迎える。
父娘の再会にまつわるシーンはこのタイミングで挟んでもよいし、事態が落ち着いてからゆっくりやってもいいだろう。
徹也はリビングにいて、唸ったり、奇妙な声で笑ったり、手あたり次第に家具を叩き壊したりしている。
徹也が探索者達を見つければ、すぐさま襲い掛かってくる。
名取の精神が入った徹也は、その肉体的な能力を十分に発揮できる。マーシャルアーツは使用できないことにしてもよい。
プラチナは基本的に戦闘に参加せず、恵那とラスティの保護を請け負うが、キーパーがそうした方がいいと思うのであれば、戦闘に参加させてもいい。
少なくとも、怪我の治療くらいはしてくれるだろう。
徹也が死亡する(というのはかなりまずい事態だが)、ノックアウトされる、スタンする、押さえつけられる、などして行動不能になると、
彼の口から黒ずんだ錆のような色をした、煙のようななにかが出現する。
これは変質し歪んだ名取の精神が形をもって現れたものである。
キーパーは以下の文章を参考に描写し、戦闘処理を再開する。

【描写】
現れたのは鼻を突く臭気を伴った、虚ろな半実体だった。
錆色の煙か霧のような何かが渦巻き、意思を持って蠢いている。
それは変質し、混濁し、腐食した精神の末路であり、
狂気と凶暴性をあらわにした悪意の顕現そのものだ。
そして元の肉体を離れた半実体は、知性も思考も目的もないままに、
今度はあなた達の肉体を奪い、精神を侵そうと襲い掛かってくる!

この狂乱したエーテルの怪物と対峙した探索者達は、1/1d8の正気度を喪失する。

【錆びた精神の怪物】
DEX1 INT8 POW18 
武器 タッチ50% 特殊
装甲 物理的な攻撃は1ポイントのダメージしか与えない。
炎や電気、魔術や魔力のこもった攻撃は通常のダメージを与える。

錆びた精神の怪物はINTとPOW(とDEX)のみを持つ不定形の半実体である。クリーチャーの耐久力はPOWと完全に連動している。
POWが0以下になれば、このクリーチャーは消滅し、二度と復活しない。
タッチによる攻撃を受けたキャラクターは、このクリーチャーが持つ現在のPOWと自らのPOWで抵抗ロールをおこなう。
攻撃の対象者が抵抗ロールに敗北した場合は、1d8マジックポイントを失う。
対象者のマジックポイントが0以下になった場合は意識を失い、このクリーチャーに肉体のコントロールを奪われてしまう。
その場合、乗っ取られた探索者が死亡するか、スタンするか、再び気絶するまで、クリーチャーが再び外に出てくることはない。

クリーチャーとの戦闘においては、物理的・魔術的な方法でエーテルを攪拌して分散させるほか、精神的な干渉でダメージを与えることもできる。
この攻撃に技能ロールは必要ない。クリーチャーに精神的な干渉をおこなう場合、自らのPOWとクリーチャーの現在POW(=耐久力)で抵抗ロールをおこなう。
探索者が勝利した場合、クリーチャーのPOWを1d8ポイント減少させる。しかし探索者が敗北した場合、自らのマジックポイントを1d8失う。
これによって探索者のマジックポイントが0以下になってしまった場合は、クリーチャーに肉体のコントロールを奪われてしまう。

8.絆は錆びつかない
戦闘を経てクリーチャーが消滅すれば、そこには抜け殻状態になった徹也の肉体、徹也の精神が入った恵那、
そして(連れてきていれば)恵那の精神が入ったラスティがいるはずである。プラチナはその三者を一室に運び、自らもその中に入る。

「私がいいと言うまで、絶対に中を見ないように……」

中ではプラチナが順次精神交換をおこない、それぞれの徹也と恵那の精神をもとの肉体に戻す作業をおこなう。
数分後、抜け殻状態になったラスティを抱いたプラチナが出てくる。
徹也と恵那は部屋の中で、互いを確かめるように抱き合ったあと、探索者達に丁寧に礼を言うだろう。
ラスティはどうなるのか、と探索者達が尋ねると(あるいは恵那が気にするかもしれない)、
もし望むならば名取の肉体に入っているラスティの精神をもとの肉体に戻しておいてもいい、とプラチナは言う。
元の肉体を取り戻したラスティがどうするかについては、キーパーに任されている。探索者達が飼うことになるかもしれないし、恵那が引き取ることを望むかもしれない。
また放浪癖のある彼女は、知らぬうちにどこかへと姿を消してしまうかもしれない。

イス人の技術を悪用した人物による騒動を収拾した探索者達には、報酬として1d8正気度ポイントが与えられる。
しかし精神交換をはじめとする、イス人に関する情報を無暗に漏洩した場合、探索者達はプラチナやその背後にある組織と厄介な因縁を持つことになるだろう。